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【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
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第十四話 重槍・1

第十四話 重槍・1


 ホワイトスワンは街道を北に進む。ロイ達の町を出発してから数日は経ったが、その間は魔物の襲撃やトラブルもなかった。お陰で予定より遅れていた行程を取り戻せそうだ。


 そんななか、ユウは先生の手伝いをしていた。先日の戦闘で損傷したヨハンのステッドランドを修理しているのである。本来ならボルツが担当なのだが、これを機にユウやヨハンもある程度は理力甲冑の整備が出来るようにするというクレアの提案によるものだった。


「ユウ、そこのスパナ取るデス。7ミリのやつデス」


「はい、どうぞ」


 ユウは工具箱の中からコンビネーションスパナを取り出し、先生に渡す。先生は操縦席の内部構造や配線について説明しながら弄っている。前回の戦いで胸部から腹部にかけて大きく損傷しており、操縦席の内部も修理が必要なほどだった。


「……という訳でこの配線が全身の人工筋肉に理力を送っているわけデス」


「ああ、なるほど。……ところで先生、全然違う質問しても良いですか?」


「ん、なんデス? あ、私のスリーサイズは秘密デスよ?」


「……」


 先生はセクシーポーズのつもりか、体をくねくねさせている。全く女性らしさを感じさせない肢体を見てユウはギャグなのか本気で言ってるのか判断がつかず、無視することにした。


「この異世界、ルナシスって理力があるじゃないですか。でも僕たちがいた世界には理力なんて存在しなかったのに、僕はアルヴァリスを動かせている。なんかおかしくないですか?」


「そうデスね、実際のところ私も理力が何なのかよく解っていないのであくまでも推測の話をするデス」クネクネ


「えっ? 先生でも理力について解らないんですか? あとその変なポーズ止めてください」


「変な、とは失礼ですね……。うーん、正確にはまだまだ理力については研究段階なのではっきりとしたことは言えない、っていう感じデスけどね。それで、細かい話を全部すっ飛ばして結論を言うと、ユウの元いた世界にも理力はあると思うんデス」


 ユウはそう言われてもピンとこない。理力があると言われてもそんな話は聞いたことがない。もしかして霊感があるとか超能力とかの話だろうか。先生は説明を続けながら下に降りていくのでユウもそれについていく。


「別にオカルトの話じゃないデス。この世界の数少ない色んな分析装置で調べると、物理的な現象として理力の存在は確認されているんデス。超能力や霊力といった意味の分からない妄想とは違うんデス。ただ、不思議なことに常に実験結果は一定ではなくて、何らかの不確定要素がいくつも絡み合っているとされています。帝国では昔からそういった研究が重ねられていたみたいデスね」


 先生はなるべく専門用語を使わずに説明してくれるが、それでも難しい。


「少し前の研究で、どうもその不確定要素の一つが人間や動物、魔物の感情とか思考、意思ではないかっていう結果があったんデスよ。ただ、研究はその一つの論文出してから以降、音沙汰なくて今では半分与太話として扱われていますけどね」


「感情や思考、意思ねぇ……」


 ユウはあながち間違っていないような気がする。まあ、研究者でもなんでもないので本当に気がする程度だが。


「とにかく、この世界には物理現象としての理力が存在するんデス。そして恐らくユウのいた世界とこの世界の物理法則に異なる点はないと考えられるデス。その証拠としてユウが今、ここに存在していて、生きていることが一つの証明デス」


 どういう理屈かは分からないが、いつの間にかユウは物理法則の証明にされているようだ。


「ただ、向こうの世界で理力の存在がその片鱗でも認識されていない点が、私にはどうにも腑に落ちないんデスよ。共通の物理法則として理力が存在するならば、存在が証明されるまでに至ってなくとも何かしらの法則や経験則で知られていてもおかしくはないんデス。事実、ほかの物理法則はそうやって研究がはじまりますからね。例えば振り子が重力の影響を受けるという物理現象を利用して重力加速度を測定出来るんデスが、これはその昔、旅行で振り子時計を高緯度地域から低緯度地域に持っていくと、時計の時刻が狂うという経験則から分かったという話がありますからね。そもそも振り子というのは重力加速度と振り子の長さが……」


(あれ? 先生、なんかのスイッチ入った?)


 ユウの質問に答えるうち、だんだんとその言葉に熱を帯びていき、今では関係ない振り子の方程式について熱心に解説している。専門用語と数値、公式をふんだんに織り交ぜて話すので、高校生のユウには理解が追い付けないほど難しい話になってしまった。思わずユウは遠い記憶の中、物理の授業を思い出してしまう。学校のみんな、元気で受験勉強しているかなぁ。





「先生、ユウ、修理は終わったの?」


 クレアが二人の様子を見に格納庫までやってきたのだが、そこには熱弁をふるう先生と、どこか遠い目をしたユウが突っ立ている。そしてヨハンのステッドランドはまだ腹部の装甲が外されたままだ。


「ちょっと!! 二人ともどういうことなの!! まだ終わっていないじゃないの!!」


 クレアが大きな声をあげると、二人は今まで気付いていなかったのかビクッと肩を竦ませる。そしてゆっくりとクレアの顔を見る。


「い、いやだなぁ、クレア、今はたまたま、そう、たまたま休憩していただけだよ、ねえ先生?」


「そ、そうデスよ、ユウの言う通りデス、さあユウ、そろそろ休憩を終えて作業に戻るとシマショウ」


 二人は顔を恐怖で引きつらせながらクレアから遠ざかろうとする。その二人の肩を掴む者がいた。怒りで顔を引きつらせたクレアその人だ。


「さっさと作業を終わらせなさい……じゃないと今日は夕食抜きよ……?」


「「は、ハイッ!」」


 二人はクレアのあまりの迫力に気圧されてしまい、逃げるようにしてステッドランドまで戻った。その様子を見送っクレアはふぅ、とため息一つつき、監視の意味を込めてしばらくの間、二人の作業を見守ることにした。


(ユウ! ユウが遊んでるから私まで怒られたじゃないデスか!)


(そんな! 先生だって関係ない話を一人で盛り上がっていたじゃないか!)


「二人とも口は動かしていいけど、それ以上に手を動かしてね?」


 恐る恐る振り返ると、クレアはニコニコと笑顔になっている。これはまずい。顔は笑っているが、そのオーラはすさまじい怒気を放っている。先生とユウは黙って作業をすることにした。その甲斐があってか、それともクレアの無言の圧力のお陰か、ヨハンのステッドランドは一通りの修理が完了した。


「ああー! やっと終わったデスー!」


「ちょっと休憩しましょうよ、さすがに疲れた……」


「二人とも、やれば出来るじゃない。さっ、食堂でお茶でも飲みましょ」


 三人は手早く後片付けを済まし、食堂へ向かった。






 食堂の入口まで来たところに廊下の向こうからヨハンが走ってくる。


「あ、姐さん、いま呼びに行こうとしてたんですよ!」


「姐さんって言うな。で、どうしたのよ。そんなに慌てて」


 ヨハンは少し深呼吸をして息を整えた。


「さっき、近くの街から無線があったんですよ。なんでも、帝国の理力甲冑がこの近くで目撃されたそうで、至急警戒と索敵を開始しろとのことっス。少なくとも敵は一部隊いるみたいっス」


 ユウとクレアは目を合わせ頷く。


「ユウはアルヴァリス、私はステッドランドで出撃。ヨハンは自分のステッドランドに搭乗してホワイトスワンで待機。先生はボルツさんとブリッジで待機。街道から外れてどこか隠れる場所を探して」


「みんな、気をつけるデスよ!」


 一同はクレアの命令を確認してそれぞれの持ち場に向かって走りだす。格納庫へ向かう途中でクレアが二人に作戦を伝える。


「ヨハンのステッドランドは直したばっかりで再調整もまだだからね、ホワイトスワンの護衛をお願い。でも絶対に無理はしないこと。ユウは周囲の索敵をして。敵影を確認したらこちらから攻撃はせず、全員に報告して。私は見晴らしの良い所から狙撃と索敵をするわ」


「ウッス。ユウさん、気をつけて下さいよ。この辺にまで帝国の奴らが来るってことは滅多にないはずだから、敵は何か作戦があるのかも」


「分かった。なるべく見つからないように探すよ」


 ユウたちはそれぞれの理力甲冑に飛び乗って出撃する。ユウは剣と専用のライフル銃を手に取る。予備の弾倉も忘れない。


「ヨハン、ここ(ホワイトスワン)は任せたぞ!」


「了解っス!」


 ユウは高速で移動するホワイトスワンから飛び降りる。周囲の地形を確認すると、森と小高い丘が広がっている。理力甲冑がいるとしたら森の方か? アルヴァリスは静かに走り出す。










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