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【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
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第十三話 双頭・2

第十三話 双頭・2



 ソレは異様に巨大なオニムカデだった。これまでに倒したオニムカデも大きかったが、こいつは比較にならない程大きい。理力甲冑、いや、ホワイトスワンを二巻は出来るかもしれない。それに巨大な顎の牙はアルヴァリスの剣より長く太い。規格外の大きさに二人は圧倒される。


 オニムカデの頭が触角をチロチロ振りながらアルヴァリスとステッドランドの方を()()()()()上から見下ろす。二匹が絡んでいるのか。それぞれの頭は牙をガチガチ鳴らせて威嚇する。

 ユウはとぐろの隙間から見える物に気が付いた。薄い黄色をした無数の小さい球状の何か。もしや、あれは卵か? それならばこの巨大オニムカデは卵を守っているのか。


「ヨハン! 逃げるぞ!」


 ユウが叫ぶと二機は放たれた矢のように来た道を駆け出し、巨大オニムカデもそれを追いかける。ホールから通路に入ったが全く速度が落ちない。通路状になっている洞窟の壁を巨大な足が削岩機のように荒々しく削っていく。ひょっとして、この洞窟は巨大オニムカデが掘ったものなのか? もしそうならこの大きさも納得が出来る。


「なんで! アイツは生きているんですか?!」


 ヨハンが悲鳴のような声を上げる。殺虫剤が全然効いてないのだから、その悲鳴も無理はない。


「多分、洞窟が深すぎたか、それとも体がデカ過ぎて効かなかったんだ!」


 恐らく、その両方だろう。洞窟の奥は広いホール状になっていたので殺虫成分が拡散し、あの巨体を殺すには葉っぱの量が少なかったのだ。


 一本道の曲がった洞窟をアルヴァリスとステッドランドは必死に駆け抜ける。あまりの速さで走るのでステッドランドが手にした即席の松明は今にも消えそうだ。すると向こうに明かりが見えた。出口だ。

 二機は洞窟を飛ぶようにして脱出し、続いて巨大オニムカデも後を追って飛び出していく。その際、オニムカデの巨体が洞窟の入り口を削って拡張する。


「でかい……!」


 すぐさま、振り向きながら戦闘体勢に入ったユウは呟く。改めて見るとその巨大さが際立つ。それに……。


「あのオニムカデ、頭が二つも付いていますよ!?」


 そう、二匹が絡み合っていたのではない。このオニムカデは巨大なうえに双頭だったのだ。体長の三分の一ほどから体が二又に裂け、それぞれに頭がついている。突然変異であろうオニムカデは二つの大きな頭をもたげてこちらを睨む。まるで物語に出てくる巨大な大蛇か竜のようだ。

 それぞれの頭についている鋭い牙がガチガチと再び鳴らされる。二つの首が後ろへわずかに動いたかと思うと、巨体に似合わない速さでユウとヨハンに襲いかかってきた。


「くっ……!」


 アルヴァリスとステッドランドはその場を大きく跳躍して回避する。それぞれが元いた場所はオニムカデの巨大な頭が地面と激突し、大量の土砂を巻き上げながら首を振り回す。


「ヤバいっすよ! こんなの、かすっただけで機体がバラバラにされる!」


 しかしここで逃げたとしても、この二つ首はかなりの速さで走るためすぐに追い付かれるだろう。それに下手に町の方へ逃げるとそちらの方へ攻撃対象が移るかもしれない。


「でもヨハン、ここで倒すしかない!」


 アルヴァリスは剣を振りかぶり黒光りする甲殻に斬りかかる。しかし甲殻は想像以上に硬く、傷ひとつ付かずに弾かれた。


「それならっ!」


 ユウはアルヴァリスの剣を水平に構えさせると、クルリと機体を回転した。回転による遠心力を得た剣はオニムカデの腹と背の間、黒と白の甲殻の隙間へ鋭い一撃を与える。

 通った。確かに剣は隙間を抜け硬い甲殻の内側にある肉を斬り裂いたが傷は浅い。


「デカ過ぎて刃が通りにくい……!」


 あまりにも大きな体を傷つけるためにはアルヴァリスの剣では重量と大きさが足りないのだ。ユウがどうするかと考え付いたところ、突然、機体に大きな衝撃が走る。後方へ吹き飛ばされたアルヴァリスは大きく尻餅をついた格好になった。


「くっ……! なんだ?!」


 見ると斬りつけた腹から生えている足が奇妙に動いている。巨大オニムカデはアルヴァリスを足で器用に蹴りつけたのだ。これでは下手に近づいて攻撃しにくい。






「一撃が……重い!」


 ヨハンのステッドランドは向こうでもうひとつの頭から繰り出される攻撃を凌いでいた。二振りの剣で上手く牙を捌いているが、覆しようのない質量差はステッドランドの腕部に悲鳴を上げさせる。このままではあまり何度も受け続けられない。


「てぇぇ……りゃぁぁ!!」


 ヨハンも防御に徹していては押し負けると分かっており、なんとか僅かな隙を作って反撃に移る。牙を二刀で思い切り上に跳ね上げ、がら空きになった頭の下に潜り込むステッドランド。巨大オニムカデはそのまま頭を下に振り下ろしてヨハンを押し潰そうとする。


「危ないっ!」


 ユウが叫ぶと同時にヨハンのステッドランドは垂直に飛び上がり、オニムカデの顎下へと片方の剣を突き立てる。普通ならば簡単には突き刺さらないほど硬い甲殻は自身の重量と振り下ろす速度が仇となり、周囲に亀裂を走らせながら砕ける。


「やったか?!」


 ヨハンは勢いをそのままに、突き立てた剣を振り抜こうとする。このまま縦に斬り裂いてやる。その瞬間、あまりの衝撃に視界が歪んでしまった。


 ヨハンが下から串刺しにした頭は怯むことなく巨大な頭部を振り回し出したのだ。ステッドランドは攻撃する途中だったため防御が間に合わず、土手っ腹に巨大なハンマーをぶつけられたかのような重い一撃を食らって遠くに吹き飛ばされる。


「ヨハン!」


 ステッドランドは近くの木々をなぎ倒しながら減速する。アルヴァリスはそちらの方へ駆け寄ろうとしたが、もう片方の頭が牽制するかのように立ちはだかった。ステッドランドは胸から脇腹にかけて装甲がへこんだり脱落しかかっている。


「ヨハン! 無事か!?」


 ユウは無線に向かって叫ぶと、ザザッというノイズの向こうにうめき声が聞こえた。気絶しているのだろうか、何とか無事のようだ。


 二つの頭は動かなくなったステッドランドを無視してユウのアルヴァリスへと狙いを定める。ユウは盾を全面に構えながら左右どちらの攻撃にも対応出来るように爪先へ力を込める。一瞬の間の後、右の頭が顎の牙を大きく広げて迫ってきた。それを横に跳んで躱すと、タイミングを合わせたのか左の頭が猛烈な速度で襲いくる。


(躱せない……!)


 咄嗟に左腕の盾を前面に掲げる。オニムカデの巨大な牙がアルヴァリスの盾に貼られた分厚い金属板と激しく衝突した。この汎用型の盾は厚みのある金属を張り合わせており、多少は重いがかなりの強度を誇る。理力甲冑の剣擊はもとより、大口径の銃もある程度の距離ならば防げる。


 その盾があまりの運動エネルギーに耐えきれず、変形、いや貫通してしまった。アルヴァリスはそのまま盾と一緒に持ち上げられてしまう。


「くそッ! 離れない!」


 ユウはなんとか振りほどこうとするが、牙はしっかりと盾に食い込んでしまって外れる気配がない。それどころか万力のような力で締め付けてくるではないか。それに牙の先から何か液体のようなものが分泌されている。ムカデの毒腺というやつか。その毒が飛び散り、装甲から煙が上がる。


「まさか、強酸?!」


 ユウは思いきって左腕と盾を繋ぐ部品に剣をあてがい、切り離す。地面に着地したアルヴァリスは大きく後方へ跳躍し、巨大オニムカデと距離を取る。

 牙に絡め取られた盾はというと、みるみる間に曲がっていき最後は真っ二つに割れてしまった。なんという凄まじい咬合力か。


 圧倒的な質量による打撃、強力な顎の牙、理力甲冑の装甲を溶かしかねない毒。そして並みの攻撃では()が立たない分厚い甲殻。

 これからアルヴァリスは一振りの剣と腰に保持しているライフル銃だけでこの双頭のオニムカデを仕留めなければならない。


(ライフルだと至近距離でもあの甲殻を貫通しないだろうし……甲殻と甲殻の隙間を狙うのも難しそうだ。でも剣ならばヨハンがやってみせたように、相手の質量を利用すればあるいは……)


 そういえば、ヨハンが下顎に突き立てた剣は? 影になってここからでは見えないが、右の頭から体液が滴っている。これならば……!


 ユウは左手にライフルを持ち、銃の安全装置を解除する。最初からオニムカデには効果がないと踏んでいたので、予備の弾倉は持ってきていない。しかし、今ある分だけでもこの作戦ならばなんとかなるだろう。


 二つの頭は残ったアルヴァリスを仕留めるために猛攻を開始する。片方の頭が牙を突き立てようと飛びかかるのを複数回の跳躍で避ける。そこへもう片方の頭が胴体を使って凪ぎ払ってくる。この連携を予期していたアルヴァリスは宙返りで回避し、甲殻の隙間へ剣を突き立てようとする。しかしオニムカデは体をよじることで隙間への攻撃を防ぐ。これまでの行動から読んだというのか、以外に賢いのかもしれない。


 アルヴァリスは積極的に攻撃をせず、回避に専念している。敵の一撃はどれも致命的な威力を持つが、落ち着いて動きを見れば躱すことは難しくはない。オニムカデが巨大なので、その予備動作も分かりやすいお陰だ。

 しばらくの間、そうやって攻撃を避け続けると片方の頭からの攻撃が鈍くなってきた。周囲にはオニムカデの体液が飛び散っている。


(そろそろか……?)


 陸上のハードルを飛び越えるようにしてオニムカデの攻撃を上へ跳んで躱したアルヴァリスはそのまま背中を走り抜け着地する。二つの頭はそれを追いかけようと全身を器用に動かして向きを変える。その一瞬の隙をユウは見逃さなかった。


「今だっ!」


 アルヴァリスは右の頭を目掛けて跳ぶ。あまりの速さに二つの頭は反応出来ない。そのまま右の頭部の下に潜り込んだアルヴァリスは地面を垂直に蹴って機体を捻りこみ、上方へ膝蹴りを繰り出す。目標はヨハンが突き立てた剣だ。

 金属と甲殻が割れる音がする。突き刺さったままの剣はアルヴァリスの膝蹴りでより深く突き刺さり、しまいには上側の甲殻も突き破ると同時にあまりの力に負けて折れてしまった。


 思わぬ攻撃に右の頭は悲鳴のような音を上げる。しかしアルヴァリスの攻撃は終わらない。そのまま頭にしがみつき、手にしたライフルを今しがた貫通した傷口につっこむと引き金を引く。鈍い銃声が数回響くと同時に巨大オニムカデの右の首は不自然に震える。そしてすぐに力なく地面へと激突する。

 分厚い甲殻を貫通することが出来ない銃弾はオニムカデの体内で跳弾し、内部の組織をズタズタに破壊したのだ。いくら外皮が硬くとも、中身は柔らかい。


 今や一つ首になった巨大オニムカデは片方の頭がやられた怒りか、思うように仕留められない苛立ちからか甲高い叫び声のようなものを上げる。

 怒りの気勢を無視するかのようにアルヴァリスは今、倒したばかりの頭にまだしがみついている。いや、両腕を顎の大きな牙の一本に掛けているようだ。ユウは歯を食い縛り、アルヴァリスにあらんかぎりの力を振り絞らせる。


 アルヴァリスは両手で大きな牙をしっかりと掴み、足でその付け根を踏みつけて全身を使って引き抜こうとする。メキメキと音を立てて牙が付け根から引きちぎられようとしている。理力甲冑に使用されている人工筋肉が持てる全力を発揮する。装甲で覆われているその下では限界まで人工筋肉が膨れ上がっているだろう。

 その動かないアルヴァリスを残った左の頭が呑気に放っておく筈もなく、ここぞと言わんばかりの速さで襲いかかるが何故かアルヴァリスは避けようとしない。


 アルヴァリスに搭載された理力エンジンの吸気と排気が激しくなる。低い唸るような音が辺りに響き渡る。

 一瞬、アルヴァリスの全身が強く光ったように見えたかと思うと、大きな音を立てて筋線維がちぎれ巨大な牙がもぎ取られた。そのまま突進してくる頭部を上空へ大きく跳躍して避ける。


「これでトドメだ!」


 アルヴァリスは空中で姿勢を変え、手にしたオニムカデの大きな牙を両手に持ち直す。そのまま、地面と激突したままの残った頭部にその牙を突き立てる。落下速度とアルヴァリスの質量を乗せた一撃は、牙の尋常ではない硬度と鋭さもあって簡単に甲殻を貫通した。


 巨大オニムカデは全身をのたうち回らせる。アルヴァリスは振り落とされないよう必死に突き立てた牙にしがみつく。その傷口から僅かに煙のようなものが上がっていく。思った通りだ。牙に残った毒がオニムカデの体内を灼いていく。アルヴァリスはさらに牙を深く、抉るように押し込む。


 のたうつオニムカデへ最後のだめ押しで刺さった牙を引き抜き、大きく空いたその穴へライフルの銃口を突っ込み、そして引き金を引く。フルオートで銃弾が発射され、その度にオニムカデの巨体は痙攣したように跳ねる。そして弾倉に残った弾丸をすべて撃ち尽くした時には完全に生命活動を停止していた。








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