第十二話 百足・2
第十二話 百足・2
ユウはロイを家まで送ることにした。そのついでに町で魔物について情報を集める為で、まずはロイの父親に話を聞く事にする。
「ここだよ、ここがオレのいえ!」
そこは小さいながらも生活感あふれる家だった。建てられてからそれなりに年数は経っているのだろうが、丁寧に補修されているため古さはあまり感じない。ロイは玄関まで駆けていき、勢いよく扉を開ける。
「父ちゃん! 母ちゃん! ただいま!」
奥からのっそりと体格の良い男性が現れる。ロイの父親だろうか、目元が似ている気がする。
「父ちゃん、こっちはユウ兄ちゃんだよ!」
「初めまして、ユウです。すみません、突然お邪魔して……」
「こちらこそ初めまして。私はロイの父親です。どうぞ、こちらへ。……ウチの小僧が何か迷惑でもお掛けしましたか?」
ユウたちは居間に案内される。ロイはそのまま父親の膝の上に座らされ、静かにしているように言い聞かせている。
「ああ、いえ、そうではないんです。実はお聞きしたいことがあって……」
ユウはこれまでの事を説明し、魔物について何か知っていることはないかを尋ねた。
「……そうですか。今、この周辺を荒らし回っているのはオニムカデです。もともと、森の奥に住み着いていたんですが、普段は町の近くまで来ることはありませんでした。それが何故か、こうしてあっちこっちで見かけるようになって、町の者も何人か襲われてしまい、森で仕事が出来なくなったってわけです」
「何か原因とかは分かりますか?」
「それがさっぱり……。やたらと数がいるから、森の奥じゃあエサが足りなくなったんじゃあないかっていう位です」
「? そんなに多いんですか?」
「正確には分かりませんが、目撃したもんの話をまとめると森の広い範囲にかなりの数がいるようです。恐らく普段の数倍は」
そこまで言うとロイの父親は険しい顔になった。
「町では何か対策はしてないんですか? 罠とか……」
「一通りは試しましたよ。毒餌も撒いたんですが、とにかく数が多くて結局は……。大きい街にも相談したんですが、ほら、今は準戦時中とかなんとかで人員を派遣してくれず……」
「……そうなんですね。もっと根本的に駆除しなきゃいけないのかも」
ユウはちょっと考え込む。理力甲冑で一匹ずつ退治していくか。もし巣のようなものがあれば一網打尽に出来るかもしれない。
「もしかして、あなたたちがなんとかしてくれるんですか?」
「父ちゃん、この兄ちゃんは理力甲冑をもってるんだぜ!」
父親の膝の上に座って大人しくしていたロイがしびれを切らしたのか、得意気に教えてやる。
「ああ、やっぱり。その服は軍の操縦士の物でしたか。しかし、街から応援は来ないはずでは?」
「そういう訳ではなく……任務の途中でたまたまここに立ち寄ったんです。それでロイ君に……頼まれて」
ユウはロイがホワイトスワンに忍び込んだ件はぼやかしておいた。
「そうでしたか、ロイが……。どうもすみません」
その後、ユウは町の被害や魔物の特徴を聞いていると、外は夕日に染まってきた。
「それじゃあ、僕はそろそろ戻ります」
「晩御飯も食べていけば良いのに」
ロイの母親は残念そうに言う。しかし、ユウが戻らないとホワイトスワンの食卓は危険に晒されてしまう。早く帰らねば。
「兄ちゃん! また明日な!」
ロイは元気よく手を振る。ユウも手を振って返す。さて、戻って皆を説得して魔物退治しなくちゃな。
夕食を済ませ、そのまま食堂兼会議室でユウが聞いてきた話をする。クレアとヨハンもそれぞれ町で魔物について調べた事を報告したがユウとほとんど同じ内容だった。
「オニムカデねぇ、こんな大繁殖することってあるのかしら?」
「数十年に一度はこんなことがあるって町の人は言ってましたけど」
ヨハンは食後のお茶を啜りながら言う。
「それにしてもオニムカデっすよ、あいつらガワが硬くてなかなか剣が通らないから面倒なんですよ」
ユウは普通のムカデの形を頭の中で想像してみた。
「それでも甲殻と甲殻の隙間を狙えばなんとかなるんじゃ? 動きも遅いっていうし、落ち着いて対処すれば十分勝てると思うよ」
「そうね、基本的に群れは作らないから一匹ずつ仕留めていくことね。それとなるべく暗くてジメジメした所にいる事が多いから、そういった場所をしらみ潰しに当たっていくわよ」
クレアはすっかりやる気になっている。というよりはさっさとムカデ退治を終わらせたいのかもしれない。
先生は疲れた顔でボーッとしている。あれからずっと調整をしていたが、つい調子にのって機材をいくつかバラバラになるまで分解してしまい、今は元に戻している。いつの間にそんなことを。クレアとボルツに怒られてしまい、一応反省してはいるようだった。
「ボルツくーん、後は何を直せばいいんデスか~。今日も徹夜デスか~」
「あとは理力エンジンとクラッチ周り、それと湯沸し器ですね」
「え? じゃあ、まだお湯出ないの?!」
「はい、そうですよ? とりあえず優先順位高いものと被害の小さい所からやってますからね」
被害というところに少しトゲを感じたのか、先生は頬を膨らませている。
「うぅ~、だから悪かったデスよ!」
「いや、それよりもこのままじゃシャワー浴びれないじゃないの! 早く直してちょうだい!」
クレアは悲壮な顔で訴えている。しかし、ボルツは普段と変わらない態度でピシャリと言い放つ。
「駄目です。湯沸し器は優先度が低いですからね、最後に直します。それまでは我慢してください」
「そんなにお風呂入りたかったら町で借りてくればいいじゃないデスか?」
「いや、さすがにもう遅いから止めときなよ……」
そう言った途端、ユウはクレアに睨まれてしまった。う、ヤバイかも……。
「そんなに言うんならユウが直してよ! 汗でベタベタするじゃない! なんだったらヨハンでもいいわ!」
結局ユウが湯沸し器を直すことになったが、いくらなんでも本職のように手際よくとはいかなかった。なんども組んではバラしてを繰り返し、ちゃんとお湯が出るようになったのは深夜を過ぎてからだった。
「やっと、直った……!」
「ありがとうユウ! というわけで、さっさと出ていってちょうだい。私は一刻も早くシャワー浴びて寝たいの」
いつの間にかクレアがそこに立っていたので、ユウは工具箱を掴んで早々にシャワー室から飛び出る。さすがに今日は疲れたのでもうベッドで横になりたい。明日の朝イチでシャワーを浴びよう。
「明日はムカデ退治……だな」
ユウは眠たい頭を振る。早く寝て明日に備えるとしよう。町の人の為にも、ロイの為にも頑張ろう。ユウは拳を強く握りしめた。




