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守護霊、深田薫の憂鬱。  作者: 紅紐
第一章 初恋
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第四話 なにが起きたのかと言いますと。

「浅野、俺の話、聞いていたか?」


 不意に雨守先生から声をかけられ、るみちゃんと私は、はっとして顔を上げた。

 私はこの教室にいる幽霊のことが気になっていたし、るみちゃんも積極的に雨守先生に質問していく奥原さんに気後れして、顔を逸らせ気味だったから。


「え? は……いいえ、聞いていませんでした。」


 慌ててるみちゃんはしどろもどろに答えたけど、雨守先生に声をかけられて、きっと嬉しかったのだと思う。耳が少し、赤くなったのがわかった。

 そんなるみちゃんを雨守先生は叱るふうでもなく、むしろ心配そうな目を向けた。


「大丈夫ならいいが。じゃあ奥原から聞きながらやってくれ。」


「……はい。」


 るみちゃんは渋々、奥原さんの前に出た。


「ごめん、久美子。教えてくれる?」


「うん、いいよ。いっしょにやろ?」


 るみちゃんの気持ちを全く知る由もない奥原さんは、普段通りに明るく笑った。それがかえってるみちゃんには、一層辛かっただろう。

 だって、自分が敵わないと感じてる相手から、また教えてもらう側になってしまったのだもの。


 今日は新入生が入る倶楽部を決めるための見学会の日だった。るみちゃんにとっても、後輩ができるかどうかという大切な日。二人は新入部員のために、夏の文化祭ポスター制作のパネルを用意すべく、「水貼り」という作業を雨守先生から指示されていたのだ。去年もしたことがあるとはいえ、手順を奥原さんが確認していくことも、るみちゃんには少し……面白くはなかったと思う。


 でも、るみちゃんはまだいいよ?

 私なんて、周りはそんな相手ばかりだよ?

 それに、この教室の……あの隅の暗がりにいるはずの幽霊からは、なんの視線も、なんの気配も感じられない。その人にとって私の存在なんて、きっと気づかれてもいないちっぽけなものなのだから。


 また俯いて思い悩んでいた顔を上げた時、視界から雨守先生の姿が消えていることに気がついた。さっきまで倶楽部長の正木さんと、見学に来ていた新入生に説明をしていたはずじゃ?


 慌てて左右を見回した時、背後に雨守先生の呟くような小さな声がした。


「深田さん。」


 振り向くと、そこに雨守先生が……今は私だけを見つめてくださっている!

 でも、どこか怖い顔をされている……?


「何かあったのか?

 今日は、やけに顔つきが険しいじゃないか。」


『そ、そんな、こと……。』


 昨日初めて会った時、焼けただれて醜かったであろう顔を見られていた時には、そんな怖い目ではなかったのに。

 なぜ?

 どうして今日は、そんな目で私を見るんですか?


 言葉が継げなくなっていた時、るみちゃんの大きな声が響いた。


「もう! いちいち手を出さないでよッ!」


 振り向くと、るみちゃんが奥原さんの手を振り払っていた。

 突き飛ばされるようになってしまった奥原さんは、後ろのテーブルに倒れ掛かる。そこには大きな刃が出されたままのカッターナイフが。


 危ない!


 そう思った瞬間、その上に奥原さんが倒れ込む寸前に、カッターナイフはまるで弾かれたようにテーブルから横に飛び、壁に激しくぶつかった。

 カッターナイフが勝手に……まさか?!

 瞬時に沸いた疑問を考える間など一切なく、勢いでパキンッと音を立てて折れたカッターナイフの刃は、一直線にるみちゃんの顔に向かって飛んでくる!


 その時、目の前が見えなくなった……いいえ、既に雨守先生が私の前に走り、るみちゃんの顔を覆うように右手を開き、突き出していた。


 教室にいた誰かが、悲鳴を上げた。雨守先生の右手の甲に、その刃は深々と刺さっていた。


「皆、騒がせてすまん。続けていてくれ。」


 雨守先生は何事もなかったかのように笑って見せると、窓際の流しに向かって走る。そこで刃を手の甲から引き抜く。鮮やかな赤が、水道の水とともに日に照らされたすてんれすの流しに広がった。


 私、もう心臓なんて動いていないのに、血の気が失せた気がしていた。

 だからなのだと思う。

 全てを目で追っていたるみちゃんが、失神して床に落ちる音が、誰もが言葉をなくしていた教室に響いた。

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