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守護霊、深田薫の憂鬱。  作者: 紅紐
第三章 転生
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第二十七話 守って、あげなきゃ!

『あの~。先生、薫姉ちゃん……ごめんなさい!』


突然将太君が叫んだ。


『どうして将太君が謝るの?』


『いや~、俺、薫姉ちゃんに会えて嬉しかったからつい言いそびれてたけどさ。

 その和真って奴には、もう会ってるんだ。』


『え~ッ? それを早く言ってよ? いつ?』


『ブンカサイとかいうの彼女が休んでいた時かな?

 だから和真はもう知ってるよ。』


『そうなの? まさか知ってて知らんぷり?』


 女の子にこんな不安な思いをさせてるなんて、きっと軽薄な人に違いないわ?


『いい奴だよ? あいつは。』


 想像してもいなかった将太君の答えに、唖然としてしまう。


『そんなはずないでしょう?』


『いや。

 最初、朋子は和真に何も言わずに死ぬ気だったんだ。

 でも和真は朋子の様子がおかしいの、気づいたんだろうね。

 それで会って事情聴きだして、自分が責任もって育てるから結婚しようって。』 


『そんなの口先だけでしょう?』


 すると将太君は目を丸くして私に身を乗り出した。


『あのねえ薫姉ちゃん、男がそう言う時は決意の上さ!』


『それは私たちの時代のことでしょう?』


 将太君に負けじと立ち上がった私を、雨守先生がなだめた。


「深田。

 俺もいろんなケースを見てきて、つい嫌な先入観があったかも知れない。

 桐生君の話を聞こう?」


 あ、つい、またムキになってしまいました……。


『そ、そうですね。』


 将太君は話し出した。所々、よくわからない学校用語?が出るときは、雨守先生が補足してくださった。

 和真君、中学高校と成績は優秀で、倶楽部活動には入らず帰宅後や土日は知人の町工場で、掃除を中心にずっと働いてきたという。


『あいつの家、お母さんと病気がちの妹がいるだけじゃないかな。』

 

「じゃあ町工場のアルバイトは家計に、というわけか。

 それなら一ノ瀬と会う時間だって限られてるだろうに。」


『すまーとふぉんは持ってるでしょう? 電話機!』


 好きあっている者同士、今の時代、いつだって連絡はとっているでしょう?


『ああ、あの薄っぺらい変な板ね。

 朋子は持ってるけど、和真は持ってないって。

 だからいつも和真から、こうばの電話借りて連絡してくるみたいだよ?』


「今時、そんな奴がいたとはな。」


『朋子と会ったその晩、

 和真はお母さんと一緒に来て、玄関で土下座して謝ってた。』


『朋子さんの、家に?』


『うん。朋子一人娘だからさ。

 親父、和真には掴みかかるわ、朋子には激怒して堕ろせ勘当だって怒鳴るわ。

 そりゃあ酷い剣幕だったけど。』


「それはまあ……当然の反応だろうな。」


『でも朋子の母さんに「あんたにそんなこと言えるの?」って言われたら、

 親父、急に大人しくなったよ。』


『どういうこと?』


『デキコンだって……先生、どういう意味ですか?』


 将太君と二人で雨守先生を見つめる。すると同時に先生は咳き込んじゃいました。


「けほ……『子どもできちゃったから結婚する』ってことだ。

 朋子の親父も和真と同じだった、ということだな。」


『先生、いったいいつから順番逆になったんですか?』


「うーん、いつからかなぁ。」


『でも、でもでも、生活はどうするの?』


 和真君も責任を果たすといったって、まだ高校生よ?

 

『ああ、それね。

 和真、こうばにも続けて働かせて欲しいって事情も全部説明したらしい。

 そうしたら高校だけは卒業しとけって、そこの社長に言われたんだってよ。

 驚いちゃったけどこの時代、ほとんど皆高校まで出てるんだってね。』


『じゃあ朋子さんは、学校を続けられないと考えて悩んでるの?』


 だって、産むとなれば。おなかだって大きくなるし。


『それはないよ。学校は辞めるって自分から言った。

 そうしたら親父がさ、

 いくつになっても構わないから行きたいと思った時にまた通えって。

 自分みたいになるな、だってさ。』


「そうか。親父さん、中退したのかもな。

 ところでそこまで聞けば二人で頑張っていけそうに思えるが。

 それでも朋子はまだ、何を悩んでるんだろう?」


 雨守先生の挟んだ疑問に私も頷く。


『ねえ将太君。この話は私達以外にこの学校の人は誰か知ってるの?』


『知らないはずだよ。和真と朋子が前から付き合っていたことも。』


『それで朋子さん、隠れるように来ていたのね。』


『あっそうか! それでこそこそと。

 でも俺は和真は偉いと思うけど、それも隠さなきゃいけないことなの?』


『この時代、興味本位でつまらない噂を流す人が多いのよ!』


『俺達の時代だって噂はあったじゃないか? でも人の噂も七十五日だろ?』


 うわあッ! ちょっと前の私を鏡に見てるみたい!


『違うの!

 もうぜーんぜん比べ物にならないくらい長ーく広ーく伝わっちゃうのよ!!』


 そんなことがあったばかりだもの、余計心配になるわ?


「一ノ瀬はおおかた、今日私物を取りに来たんだろうな。

 だが辞めるとなれば、事情を話さないといけない……か。

 ちょっとした騒ぎになるだろう。

 それに和真の担任があの武藤だと……。」 


『あ! そうその人! 二人ともその先生のこと気にしてるんです。

 朋子のほうは親と一緒に適当な理由つけて退学するって担任に伝えたら、

 あっけないくらい「そうですか」ってなったんです。

 その先生もいい加減だなとは思うけど、

 和真の担任って目茶苦茶厳しいそうですね?』


『生徒が妊娠だなんて知ったら、

 「許せません!」って怒りだしそうですよね?』


 生徒会室で見た、あの冷たい態度を思い出してぶるっと震えてしまう。


「ああ。

 騒いで人の傷口だけ大きくしておいて、後は素知らぬふりをしそうだな。」


『だから最悪の時は朋子、

 自分が死んで誰にも迷惑かけないようになんて、まだ考えているんです。』


『あれ?

 さっきそんなこと言ってないじゃない?

 将太君、殺されるかもって。』


 びっくりして将太君を見つめる。将太君はすぐにしまった、というように一度目を閉じた。


『ああ、あれね……あれもごめん。 

 俺が産まれなきゃ、万事解決かな?なんて考えちゃっていたからさ。

 どうせ一度死んでるし。

 薫姉ちゃんにここまで話すとは、思ってもいなかったしさ。』


『馬鹿ッ!!』

 

 思わず将太君に手を上げていた。ただ二人とも霊体だから、私の掌は将太君の顔を勢いよくすり抜けただけだった。

 でも。


『あれ?

 ……おかしいね。俺、ぶたれてないのに。死んでるのに。痛いな。』


 将太君は悲し気に笑いながら、頬をさすった。


『ご、ごめん、ね。』


 急に切なくなって、将太君に目を合わせられなくなっていた。雨守先生はそんな私達二人を静かに見つめていた。


「将太君。

 一ノ瀬に死ぬことを思いとどまらせるのも、そのお腹の子の命を繋ぐのも。

 君に与えられた使命なのかもな。

 そしてそれをはっきりさせたのは深田だ。

 これは二人の大切な縁だよ?」


 その言葉に私たちは、そろって顔を上げられた。そうですよね!


『将太君、私もできることはなんでもする。

 まだなにか言ってないこととか、気がついたこととか、ない?』


『うん……和真だけど、今日武藤先生に話をつけるからって言ってた。』


「『え?』」


 唐突な言葉に先生と私、同時に目が点になってしまいました。


『和真は高校に入った時から卒業したら就職するって言ってたんだって。

 でも、武藤先生って何が何でも成績がいい和真に進学させたいみたいでさ。

 就職用のチョウサショなんか書かないって、怒ってたみたいなんだ。』


「馬鹿な! 進学実績稼ぎたいってわけか? 武藤なら言いかねないな。」


 雨守先生は小さく唸る。


『それで話つけたら朋子に電話するからって。』

 

『じゃあ、朋子さんが今日来たのは?!』


「荷物を取りに来たんじゃない! 和真を心配して来たんだ!!」

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