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守護霊、深田薫の憂鬱。  作者: 紅紐
第二章 謀略
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第十二話 ああ! 迷惑千万な輩なのですッ!!

 立ち上がって、こちらにすーっと近づいてくる後代さんに、雨守先生は首を振った。


「いや。

 武藤が関わってるかどうかは、まだわからない。」


『そうですか……。』


 生徒の誰もが、厳しい人だって武藤先生を恐れているけど、後代さんはそれとは違う意味で、武藤先生のことをよく思っていないみたい。


「後代、俺のいない日のことなんだが、

 奥原にこいつ、何しに来てるかわかるか?」


 雨守先生は写真集をかざす。


『深田さんが何か気にしてるんですね?』


「ああ。奥原の守護霊の子が、最近元気がないってな。」


『そっか。深田さん、優しいな。』


 後代さんはいつもどおりの優しい笑顔を見せてくれた。

 私には後代さんが見えて声も聞こえてるのに。守るべきるみちゃんといつも一緒にいられるのに。

 後代さんは、ずっとここに一人ぼっちなのだ。

 私のことを羨んでも不思議はないのに、そんなそぶりは微塵も見せずに、そんなことを言ってくれる。


 後代さんは先生が指し示した写真を見ると、すぐに顔を上げた。


『彼。去年まで芸術は美術をとってましたよ?』


「後代、知ってるんだ。」


 すると後代さんは大きな瞳を半分閉じたような状態で、長く溜息をついた。


『よく覚えてます。

 酷い授業態度……いえ、むしろ悪質な授業妨害。

 雨守先生の前任の先生、それで昨年度末、心労で倒れましたから。』


「それで俺が代わりに来たわけだが……後代までそう怒るな。」


『そんな彼が最近どうしてここに来るのか、変だなあって思ってましたけど。

 文化祭の何かの係でもしてるんですかね?

 パンフレットのレイアウトがどうのこうのと、奥原さんに話しかけてました。』


「今頃か?」


『ええ、おかしいですよね?』


 お二人の会話、その山風って生徒の行動に……。


『どこか、おかしなところがあるんですか?』


「ああ。

 来週には文化祭って時に、印刷物の話なんかするはずがない。

 それじゃ間に合いっこないからな。」


 そういうこと! 

 そして後代さんは呆れたように腕組みをした。


『大方、奥原さんに会うための口実、そんな感じじゃないですかね?

 もっともらしく話してましたが、何もわかってないなって思いました。

 授業態度もそうでしたけど、チャラくて嫌な感じ。』


 ちゃらくて……くて?……は、わかりませんが、きっと軽薄さを表した言葉ですよね?

 それは私も見ていて感じましたもの。


「同じ時間にいたはずの部長や……そうだ、こいつはどんな反応していたんだ?」


 そう言いながら、雨守先生はるみちゃんの頭を軽くこずく。まだ起きないんだっ!

 後代さんは唇に指をあて、思い起こすように言う。


『三年生の二人は、性格の合わない彼とは去年から距離を置いてましたからね。

 早く出て行って欲しいって、遠回しに言ってましたけど。

 それに気がつくほど気が回る子じゃないと思います。彼は。』


「そんな奴なら浅野だって黙っていないんじゃないのか?」


 うわあ、困った!

 でも後代さんも、今きっと私がしてるはずの表情と同じように、眉を逆への字に曲げた。


『うーん、それなんですが。

 浅野さんも雨守先生がいないと油断しまくりというか……。』


「こいつ、なにしてんだ?!」


『私は日中はいつも教室の隅にいますから、そこまでは……。』


 困惑している後代さんから、雨守先生はそのお顔を私にッ。


「どうなんだ? 深田。」


 い、言えないっ!

 先生がいないのをいいことに、すまーとふぉんって魔法の板をなぞって、「ねっと」にあげてるあの幾多の絵の閲覧数が増えるのを、鼻の下を伸ばしながら眺めていただなんて、絶対言えないっ!!


『あの……文化祭の出品とは違う落書きをして、

 あああああ遊んでましたっ!!』


 雨守先生は大きく肩を落として鼻から息を噴出させていらっしゃる!


「困った奴だな。

 だがこいつには話しておいた方がいいだろうな。」


 と、その時、打ち合わせに出ていた皆が戻ってきた。なぜか女子の部長・正木さんと、男子の副部長・副島君はなにやら悪態をつきながら。


「あのバカ、なんなのあれ?

 計画も相談もなしに勝手なこと言いだして。

 私らに責任転嫁しようってんでしょ?」


「あいつ『俺が俺が』だもんなあ。普段何にもしてないくせにさ。」


 すごい剣幕の二人の後ろに、困ったように顔をしかめた奥原さんが。そしてその後ろに唇をとがらせた女の子の守護霊が続く。

 雨守先生は先頭の二人をなだめつつ。


「いったい何があったんだ?」


 その声を待っていたように、正木さんは目をむいて叫んだ。


「雨守先生、聞いてくださいよっ!

 あのバカ!

 文化祭実行委員長の山風が酷いんですッ!!」


「山風? 山風翔太か。」


「そう、よくご存知で!」


 いつも冷静かつ無表情な副島君も、今日は珍しく語気が荒い。そして二人は交互に不満をまくしたて始めた。


「あのバカ!

 文化祭を派手に盛り上げたいからって、

 前夜祭の締めにステージバックの絵、

 美術部ならその場で即興でちゃちゃっと描けるだろう?

 だなんて今日になって言い出したんですよ?!」


「だいたいステージバックの担当はあいつのバスケ部だったのに、

 なんにもしてきてないんです。」


「そりゃあ、県大会控えてるから真面目なバスケ部員は

 文化祭どころじゃないですからねッ!」


「まあね。

 でも自分があの髪型のせいでレギュラー外されてるにも関わらず、

 『うちの部にやらせる』って言ってたの、あいつだよ?」


「『やらせる』だなんて言えない立場なのに! あのバカ!」


「あいつ、あの時だって奥原にいいカッコして見せたかっただけですよ。

 クラブ代表者会議は三年生だけでいいのに、

 来年の参考になるから二年生もって、奥原だけは名指しで。」


 正木さんは「あのバカ」って、副島君は「あいつ」って、もうかなり山風君に恨みがある感じ。


「つまり、山風は奥原に気があると?」


 それまで黙って聞いていた雨守先生の言葉に、正木さん副島君はぶんぶんと首を縦に振る。奥原さんは非常に困ったという顔に、そして守護霊の女の子はむすっとした。


「それで雨守先生のいない日を選んでここに! あのバカ!」


 正木さんは吐き捨てた。そういうことでしたの!

 美術部以外の生徒ってほとんど皆、雨守先生を怖がってますものね。本当は優しくて、面白いところもある方なのに。でも正木さん副島君の怒りは、まだ収まらない。


「予算もステージバック用にあったはずのもの、

 勝手にお祭り騒ぎ用の屋台運営に回しちゃったんですよ?

 あのバカ!」


「僕らは拒否してるのに、平和的に話ができない三年生はもういいから、

 落ち着きのある奥原を連絡係にするとか抜かして、もう我慢できません!」


 二人は奥原さんをかばってる。そして正木さんは奥原さんに振り向いた。


「奥原、いい?

 あいつに呼ばれたって、あんな打ち合わせ会議に出席しなくていいからね!

 あいつ、あんた目当てなんだから!」


「ちょっと、よくわかりませんが……はい。そうします。」


 気の毒に、奥原さんはずっと困り顔のままだわ。

 正木さんは今度は雨守先生に振り向いて訴える。


「ってわけなんです!

 雨守先生、どう思います?

 ステージバック、引き受けなくていいですよね?」


「まあ、落ち着け。

 お前らの言ってることは正しいと思うが、

 その会議の場ではどうまとまったんだ?」


「もう強引そのものっ。

 今の状態じゃステージバックがないし恰好が付かないから、

 引き受けてくれないかって。あのバカと一緒になって!」


「実行委員会の中にはあいつ同様、

 文化祭をお祭り騒ぎとしか考えてない奴も多いですからね。」


 先生はさらに問いかける。


「だが生徒会の顧問も、そこにいたはずだろう?」


「えっと……山田先生。うちの担任。」


 急に正木さんは歯切れが悪くなった。


「その山田先生は何も言わないのか?

 顧問なら計画通りに進行しているかいないか、

 チェックしていたはずだろう?」


「それが……。」


 雨守先生の問いかけにも、なにか言い淀んでいる。


「山風の担任の、武藤先生か?」


 その名を出された瞬間、正木さんと副島君は息を飲んだ。


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