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守護霊、深田薫の憂鬱。  作者: 紅紐
第一章 初恋
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第一話 なにが馴れ初めかと言いますと。



 私は深田ふかだかおる

 十七の時、まだ日本が戦争をしていた頃、

 私が暮らしていたこの町が空襲に遭い、そこで焼け死んだ。


 それから半世紀以上も経って、世の中も驚くほどに変わってから、何故かある女の子の守護霊となった私。

 高校生になった彼女が毎朝覗く鏡に映らない私は、あれから自分の顔を見ていない。

 焦げたセーラー服の穴から覗く、焼けただれて、ひきつってしまった胸や、皮が剥がれ赤黒くなった肉の見える腕を見れば、この顔もきっと……。

 決して美人だなんて思っていなかったけれど、幼い頃、死に別れたお父さん、お母さんから頂いたこの顔を傷つけてしまったこと……それが唯一、心残りだった。


 でも、そんな幽霊の私の心を救ってくれた人が現れるなんて。


 それは私が守る少女……『浅野るみ』ちゃんが通う高校で、美術を教えてくださることになった雨守先生。

 失礼かとは思いましたけど、一見仏頂面で、言葉数も少なく、怖そうな方。

 でも他の人達と違って、幽霊の私が見えて、この姿に怖がりもせず、話を聞いてくれた人。


 雨守先生との出会いは、去年の春。

 二年生になった『るみちゃん』が、初日の倶楽部活動のために訪れた美術教室で、初めて会った私の額に、雨守先生はそっと手をかざしてこう尋ねられた。


「深田さん。楽しかった時のこと、覚えてる?」


 死んでから、そんなこと考えたこともなかった。

 楽しかったこと?

 四つの頃かな……夕焼けに染まる土手を……お父さんにおんぶしてもらって、お母さんが優しく微笑んでくれて……。


 その瞬間、雨守先生の後ろにあった姿見に、私の姿が!


『先生! 私ッ!!』


 それから先は言葉が続かなかった。あまりにも驚いてしまって。

 そんな私に、雨守先生は穏やかな目を向けてくださいました。


「もう、心配ないよ。」


 すると鏡の私は、すうっと見えなくなり……でも!


 私は懐かしささえ感じながら震える指で撫でる……色白だった私の腕を。

 制服も、綺麗なままでだなんて。

 三つ編みの髪も、お母さんに教わったとおりに、きれいに結ったままで。

 顔だって生前のまま……いえ、もっと輝いて見えていた。


 思い切り腕を広げて、胸を張って、今までできなかった伸びをする!

 あの日から、胸につかえていた思いが、すっきりと晴れていくようだった!!


「ありがとうございます。先生!」


 でも、雨守先生は私の言葉には答えず、静かに微笑むだけだった。

 そして倶楽部活動初日から、机に広げたスケッチブックに、突っ伏したように居眠りしている『るみちゃん』の頭を、軽く小突かれたのでした。

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