真実
「... お前が以前、出会ったあの河童はな、我々RSFラボが生み出した合成生物なんだ。」
工は衝撃的な事実に驚きを隠せなかった。
「合成生物... だと...」
「... ああ、そうだ。」
合成生物とは、複数の生物の遺伝子情報を組み合わせて作られた生物である。 源の父親が言うには、あの河童はアヒルとイルカの遺伝子情報をベースに作られた生物らしい。
「だが親父、あの河童は確かに言葉を話していた。 まさかとは思うが、人間の遺伝子もつかったんじゃねえだろうな? お前、人体実験とかにかかわってるんじゃねえのか!?」
「... さすがに勘がいいな。そうだ、あの河童には人間の遺伝子も備わっている。だが、人体実験などという非人道的なことはしていない。人間のDNAは、研究の血液や髪の毛とかを利用しただけだ。さらに、インコの遺伝子も備わっている。あの河童が話すことができたのはそのためだ。」
「なるほどな。まぁ、それなら非人道的なことをしてるとは言えないかもしれないな。とりあえずあの河童のことはわかったよ。」
「... でだ、お前に頼みがある。 あの河童をお前の発明品を使って捉えてほしい。」
工は源の思いがけない頼みに困惑した。 工はてっきりあの河童はRSFラボが捕獲したものだと思っていたからだ。
「なんでそんなことを俺に? そもそも捕まえたところで、俺になんのメリットがある?」
「... 理由は3つある。 1つ、まずあの以前お前たちが投稿した動画を見て私の上司にあたる徳永白さんがお前に興味を持った。あの河童は常人よりはるかに高い身体能力を持っている。動画で河童を追っ払ったお前をみて、RSFラボの警備員として雇いたいといってきたんだ。」
工は冗談じゃないと思った。一体、なぜ俺が思い入れのあるサイク屋をやめて、警備員として働かなければならないのか。冗談じゃないと言いかけたとき、源は言葉をつづけた。
「まぁ、私はあれがお前の発明品を使ったものだと知っていたから事情を説明したがね。そしたら徳永さんは研究員として雇ってみたいと言ってきた。
「...工、私としてはぜひ研究員として働いてほしい。RSFラボで働くにはあらゆる資格と頭脳が必要になる。学歴を持たないお前にとってまたとないチャンスだと思う。 存分に研究と発明に打ち込むことができるぞ。」
国際機関の研究所で発明をできるという点は確かに工にとっても魅力的だとは感じたが、彼はサイク屋をやめる気は毛頭なかった。
「... 2つ目の利用だが、RSFラボは別件で忙しくてあまり河童の捕獲に割く時間がないんだ。そこで徳永さんが入社試験も兼ねてお前に河童を生け捕りにしてほしいと私に頼んできた。」
というか徳永白とかいうやつ、随分身勝手だなと工は感じた。一体いつ俺がRSFラボで働きたいといったというのか。いくら恵まれた労働環境であってもサイク屋だけは続けたいと思っている。
「... そして、3つ目は私のお願いだ。 RSFラボで働いてほしい。これは父親としての私の願いだ。」
もちろん工の答えは決まっている。
「断る。俺はRSFラボで働く気はない。いくら給料が高かろうが関係ない。俺はサイク屋が好きなんだ。」
そう源に伝えたら、やれやれという顔で源は言った。
「... この話を断れば、たぶんお前はまともなところに就職できないぞ。」
源のアドバイスは全く響かない。というか源は根本的なところを分かってないのだ。
「本当バカだな。俺はもとから他のところに就職する気なんかないんだよ。店を出て行ったお前と違ってサイク屋が好きだからな。」
そう伝えたら源は顔をしかめた。
「... なるほど、お前は私が店が好きじゃないように見えたのか。」
その言葉に工は何も言えなくなった。 少なくともかつて源がサイク屋で働いていた時は充実して働いているように見えた。
「... 工、お前は、俺がサイク屋で働き続けていたらどうするつもりだったんだ?」
思いもよらない源の言葉に工は戸惑った。
工がサイク屋で働き始めたのは源がサイク屋を出て行ったからである。
工は高校時代、当初は大学に進学して、適当にどこかに就職し、源が体力的にサイク屋を続けていくのが困難になったらサイク屋の店主になろうと考えていた。
「工、私は、お前を大学に行かせてやることができなかったことを後悔している。サイク屋を私が続けて大学に行かせるのが理想ではあったが、それは無理だった。」
「...結果として私はお前の大学進学を断念させてしまった。 私がお前の人生をつぶしてしまったもんだ。」
源の謝罪に対して工は何と言ったらいいかわからなかった。 まさか源が自分が大学に行かなかったことに対してそんな風に感じていたとは。
「やめろよ。別に大学に行かなかったことなんて何とも思ってねぇよ。」
「... そうか。だがな、工。私はお前に普通の人生を歩んで欲しかった。店のことを気にせず、普通に就職や結婚をしてほしかった。」
源の願いはもちろん工には理解できた。普通の父親であれば当然の願いであろう。しかし、工はサイク屋を閉店させたくはなかった。
不意に工にある考えが思い浮かんだ。
「分かった。親父、とりあえずあの河童の捕獲は手伝ってやる。その代わり、それを達成したら、親父、俺の言うことを一つ聞いてくれ。」
「... なんだ、お前の言うことって。」
源は不審そうに工に尋ねた。 しかし、まだ話すつもりはなかった。
「親父悪いが、今は言えない。河童を捕まえてから話す。それが嫌ならこの話はなしだ。」
「... 仕方ないな。 いいだろう、私ができることならいうことを聞いてやろう。」
以前対峙して工と河童、果たして工は人間を超越する身体能力の河童を捕えることがことができるのか。




