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異変と精霊たち


元気よく進み出したルウはすぐに立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回し始めた。


「ルウ。どうしたの」

「何か変です」


慌てて私のところに飛んでくると、また辺りを伺うように見回す。


「どうしたのだ。ルウ。何が変なのだ」


デル様が問いかける。


「精霊の姿が見えません。結界の中にはいつもたくさんの精霊がいるのです。それなのに精霊がいません。迎えに来ているはずの兄さまもいない」


ああどうしようとルウは大きな赤い目にいっぱい涙を溜めていた。


「ルウのお兄さま?」

「はい。水の精霊で聖なる泉を守っています。とうさまが伝えてくれて、ここに迎えに来てくれることになっていました」


ふるふると背中の羽を震わせ、とうとうルウの目から涙が零れた。ルウに手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめる。


「ルウ。何があったのか確認しましょう。お兄さまも他の精霊たちもきっと大丈夫よ」

「そうだな。泉の様子も気になるし、このまま進もう」


レオ様も私に抱きついているルウを撫でてくださった。



ルウを励ましつつ、辺りの様子を伺いながら、先を急ぎすぐに泉に到着した。その景色に愕然とする。


「なんだここは・・・」


私たちは全員言葉を失った。

泉は灰色に濁り、周りの樹々も、光を失ったようにくすんでいるように見える。泉の周りの草は枯れて茶色になっていた。


「こんな・・・」


ルウは呆然としたまま私の腕から飛び出した。


「ここは本当に美しい泉なのです。光が溢れてキラキラしていて。 いったい何があったの・・・ねぇ誰かいないの?誰か返事をして」


ルウの悲痛な呼びかけが辺りに響いた。

すると、すぐそばの繁みがガサガサと音を立てた。護衛騎士たちはすぐさま腰の剣に手を掛ける。

繁みを全員で睨みつけていると、突然何かが飛び出し、護衛騎士の間をすり抜け、私の額にぶつかってポヨンと跳ね返って地面に落ちた。


「きゃっ」


驚いて悲鳴をあげてしまったが、痛みは全くはない。

下を見ると、チカチカと瞬いているものが落ちている。大きな蛍みたいだ。屈んで手のひらですくう。


「サラ、得体の知れないものを拾うんじゃない。すぐに捨てるんだ」


遠くからアランが言う。そのセリフは犬猫を拾った子供にたいしてお母さんが言うやつだね。


「いえ、大丈夫です。この子は精霊です」


私はルウを呼んだ。


「すごく弱っています。このままだったら消えてしまうかも知れません」


ルウに言われるがまま、私はほんの少しだけ指先から魔力をにじませた。私の魔力を吸収し、さきほどより力強い光を放ち始めた精霊は、チカチカと点滅して私にお礼を言っているようだ。


「この子はまだ幼いので、説明がわかりづらいところもありますが、何があったのか聞いてみましょう」


ルウが私の額に触れると、その精霊の言葉が流れ込んできた。


『空から黒いの落ちてきた。みんなたくさん食べられた。マリノス様が隠れろと言った。黒いのノワール様連れて行った』


幼いからか説明が断片的だ。


「つまり、空から黒いものが泉の中に落ちてきて、精霊を襲った。マリノス様が隠れろと言ったので、隠れていた。そして黒いものはノワール様を連れて行ってしまった、ということか」


手のひらにいる精霊の子から聞こえたままを伝えた私の言葉を、レオ様が整理してくれる。


「マリノスとノワールというのは何者だ」


デル様の質問にはルウが答えた。


「マリノスは兄さまです。ノワール様は皆さまが闇の精霊王と呼んでいる者です。兄さまは無事なの?」


『襲われた、違う。食べられた。マリノス様無事、わからない。きれいくない。動けない精霊いっぱい。よごれてる。元気出ない』


私の手のひらでチカチカと瞬きながら精霊の子が訴える。


「サラ。何と言っているのだ」


アランから催促されて要約する。


「精霊たちは襲われたのではなく、『食べられた』と言っています」


「なんだと」


皆が驚いた表情になる。


「マリノス様が無事かどうかはわからない。精霊たちがいないのは、この場がキレイではないため動けない精霊がたくさんいると。汚れていると元気が出ないそうです」


ルウは大丈夫なのかと心配になったが、私と契約をしているので、私の魔力が汚れない限り影響はないらしい。


「サラ様。なんとかできませんか。このままだと兄さまが」


ルウの瞳からまた大粒の涙が零れる。


「ここで魔術を使えるのは、精霊と契約しているサラ様だけなのです。お願いです」


どうやら、結界の内側では精霊が認めた者しか魔法を使えないみたいだ。


「サラ。浄化の魔術を使えるのか」


聖属性の魔力を持つレオ様に尋ねられて、返事を躊躇う。もちろん使えるけど、聖属性を使える人は希少だから隠しておきたい。でもこの状況でそうは言ってはいられない。なにしろ魔術を使えるものが私しかいないのだから。


「さあどうでしょう。とにかくやってみますね」


私は明確に答えることなくルウに向き合った。


「わたくし一人では難しいわ。ルウだけじゃなくて精霊のみんなに手伝って欲しいの。動ける子がいたら、わたくしの呼びかけに答えてもらえないかしら」


「大丈夫です。呼びかけに答えるとサラ様の魔力をもらえますから。きっとたくさんの精霊が手伝ってくれます」


私は泉の方に向いた。


「サラ。私たちは魔術は使えないが、魔力はある。」

「どうか私たちの魔力も使ってくれないか」


レオ様とデル様の申し出をありがたく受けることにした。


「こんな広範囲を浄化するのは、魔力消費が激しいだろうからな」「遠慮なく使ってくれ」


レオ様が私の左肩に、デル様が私の右肩に手を置いた。

そこから二人の魔力が流れ込んでくるのが感じられた。

私は詠唱を始めた。



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