迷いの森と結界
いよいよ迷いの森の調査です
今日は西の森、通称『迷いの森』にある聖なる泉の現地確認です。
いいお天気で絶好のフィールドワーク日和。
早朝の森は爽やかで気持ちが良い。
私はお父さまに付けていただいたスペングラー家の護衛であるマウリシオと共に、『迷いの森』の入り口で王子様御一行を待っていた。全員で城から出発すると目立つから、ということで、現地付近での集合となったのだ。
一応、王室付き魔術師の存在は秘匿されているし、私も必要以上に目立ちたくない。
「お嬢さま。お見えになりました」
草を食む私の愛馬ジュエルを撫でていた私にマウリシオが声を掛けた。顔を上げると、レオ様、デル様、アランの三人と、いつもの護衛騎士3人がそれぞれ馬を駆って近づいてくるのが見えた。
レオ様の馬は、王子様のテンプレ、白馬だ。
似合いすぎ・・・素敵。
「待たせた」
レオ様が馬上から微笑むと、まるで物語の挿絵のようだ。
「サラの馬は可愛らしいな」
黒い馬に跨るデル様も美しい。
「ありがとうございます。ジュエルと言います。それほど乗馬が上手くはございませんので、小柄な彼女はわたくしにちょうど良いのです。それにとても賢いのです」
ジュエルは穏やかで、細かいことにこだわらない大雑把な性格で、私ととてもウマが合う。
・・・馬だけに。
・・・つまんねぇ~と脳内でボケとツッコミを完結させていると、レオ様が馬を森の方に向けた。
「では参ろうか」
「はい。ルウ。お願い」
私の呼びかけにルウが柔らかい風とともに姿を現す。
「ルウ。ローガンを先頭に立てるから、案内を頼む」
「わかりました」
レオ様の采配で、ルウ、ローガン、レオ様、アラン、フレディ、私、デル様、ルッツ、マウリシオの順に一列になって森の中に入った。馬に乗ったまま行き交うのもやっとという獣道のような小径をしばらく進むと、少し開けた場所に出た。
真ん中に大きな岩がでーんと鎮座している。
「ここから向こうが『迷いの森』です。この先に結界があるので普通の人は奥には行けず、奥に進んでもここに戻されるのです」
「聖なる泉までは遠いのか」
「遠くはありません。歩いてすぐですよ」
ここから先は歩くことになるようだ。ルウに言われて馬から降りる。迷いの森には魔獣は出ないし、人も来ないので、繋ぐことはせず放しておくことになった。
「結界の内側に入るには、ルウに触れている必要があります」
ルウはレオ様とローガンの間に入ると、それぞれと手を繋いだ。
「え?ちょっ」
ルウに手を取られ戸惑っているローガンにルウが笑顔を向ける。
「大丈夫ですよ。ローガン様。怖くないですからね」
ルウに優しく言われ、ローガンの顔が赤くなった。
「ぶはっ」
私の隣でアランが盛大に吹いた。横を向いて顔を押さえているが、肩が震えている。ローガンの照れ顔がツボに嵌ったようだ。レオ様も笑っている。
行きましょうとルウに手を引かれて、3人は大きな岩の向こう側に進んでいった。岩を通り過ぎ、樹々の間を5歩ほど進んだとき、急に3人の姿が見えなくなった。
「消えた」
さっきまで静かに爆笑していたアランも、さすがに真顔になった。
「結界の中に入ったと言うことだろうな」
デル様が呟く。
「このような高度な結界が張れるとは、さすが精霊王だな」
残った者で感心しているとすぐにルウが戻ってきた。
「次は、アラン様とフレディ様です」
どうやらレオ様が中に入る順番をルウに指示したようだった。
私とデル様、ルッツとマウリシオも同じように結界を越えた。
越えた、と言っても結局どこが結界なのか全くわからなかった。
「精霊はなんの抵抗もなく入れるのです。ルウと手を繋いでいたからですね」
ルウはずっとにこにこしている。みんなと手を繋げたのが嬉しいのかも知れない。
「では行きましょうか。ここからすぐですよ」
そう言って元気よく皆を先導して先に進んだ。




