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私と残念姫(アラン視点)




「それでは失礼いたします」


宰相の前を辞すると、私はすぐに図書室に戻るべく、廊下を速足で歩いた。

あれほど入りたかった禁書庫の本を読む大義名分を無駄にはしたくない。

そう言えば本が好きだというサラは昨日も今朝もすごく浮かれていたな。私も早く図書室に戻って続きを読みたい。


逸る気持ちを押さえつつ、静かに図書室に入ると奥の方にルッツとサラが立っているのが見えた。

何か言い合いでもしているのだろうか、女性の声が聞こえてくる。相手の女性の姿は見えないが、トラブルなら早く行った方が良いだろう。


そう思って、また少し足を速めた時、こちらを向いたサラと目が合った。


「なによっ!!残念姫のくせに、わたくしをバカにしてっ!!」


「やめろっ!!」


女性の大声と男性の制止する声が聞こえ、サラが声の方を振り返った。

と、その時、何か飛んできたものがサラの額だろうか、当たったように見えて、サラがよろめく。

瞬時に自身に身体強化をかけた私は、サラの元へ全速力で駆けた。


「サラっ!!」


伸ばした手の中に倒れこんできたサラは意識がなく、青白い顔で額から血が流れていた。サラの足元には血の付いた本が落ちている。


「ルッツ。詳細報告は後だ。レオンハルト王子とヴェンデル王子に知らせろ」


ハンカチでサラの傷を押さえながら指示を出し

落ち着け、アラン。自分に言い聞かせる。


大丈夫ですか、と飛んできた司書に、指示があるまでここを触るなと命じ、サラを横抱きにする。


「治療師のところに連れていく。事情聴取があるから誰も図書室から出すな」


司書は私の勢いに気圧されたようにこくこくと頷きながらわかりましたと何回も答えた。


横抱きにしたサラは真っ白な顔に鮮やかな赤色の血が流れ、死ぬのではないかと怖くなった。


「くそっ。治療師に早く見せなければ」


治療室まで普段よりも遠いような気がする。


「行儀が悪いのはわかっているが、背に腹は代えられん」


再度、自分に身体強化をかけて走り出す。廊下ですれ違った者が目を丸くしたり、眉を顰めたりしていたが、形振り構ってはいられない。

全力で治療室に到着し、両手がふさがっているので、扉を足で蹴り開けた。


「やかましい。扉の開閉は静かにするのが常識だろう」


奥から地味なワンピースの上に、白衣を羽織りながら現れた国内一番の治療師と名高い治療師は、私の腕の中のサラに目を留めた。


「ちっ。その状況じゃ、非常識も仕方ないね。坊や、令嬢をそのベッドに寝かせるんだ」


坊や、と呼ばれたことは気に入らないが、そこに反論している時間が惜しい。サラをそっとベッドに横たえた。


「怪我をしたのはいつだ」


「数分前です。図書室でついさっき」


「なら間に合うだろう。坊や、そこの器に水を入れてくれないか。あぁ。そこにあるタオルも5枚ほど持ってきてくれ」


私は言われたとおりに水とタオルを準備した。ベッドの方に行くと、サラの額に手を当てて、治療師が詠唱している。詠唱が終わると手のひらから光が溢れ、傷口を覆っていく。


「普段なら詠唱なんてしないんだがね。令嬢の顔となるとそうはいかない。傷跡なんてないに越したことはないだろう」


だから坊やも慌てていたんじゃないかとニヤニヤ笑いながら言われた。光が治まってから手をどけると、傷の具合を確認している。


「よし。完璧だ。傷ひとつない。間に合って良かったな。坊や」


「私は坊やでは・・・」


「あぁ失礼。マクレガー伯爵令息アラン様。王子の側近たる貴方がなぜサラフルール嬢を・・・いやまぁそれは良いでしょう。アラン様。わたくしは今からサラフルール嬢の清拭をいたします。恐れ入りますが外していただけますか」


突然丁寧な言葉遣いになったことに驚き、返事をしそびれた私に、意地悪な笑顔を浮かべながら、清拭には洋服をはだけさせないといけないが見たいのかと問われ、我に返った。


「な、な何を言っているのですか。見たいわけがないでしょう」


清拭を行うという言葉に、自分の洋服もサラの血で汚れていることき気付き、外に出たついでに私室まで戻った。洋服を着替え、治療室に戻るとちょうど清拭が終わったところだった。


「坊やも着替えてきたのかい」


また口調が戻っている。すぐに目覚めると思うと言い置いて、血で汚れた水やタオルを片付けに行ってしまった。

青白かったサラの顔色は少し血の気が戻っていた。額は髪がかかっていてよく見えないが、傷はないように思う。


「ん・・・」


呻くような声がして、サラの長いまつげが震えた。


「サラ」


そっと呼びかけるとゆっくりと目を開けた。


「サラ。気が付いたか。良かった」


私の声に、サラがぼんやりとこちらを向いた。


「アランこそ大丈夫?ひどい顔色をしているわ」


私の名前を呼んだ。ホッとして体中の力が抜けたような気がする。


「綺麗な顔に傷が残らなくて良かった」


素直に思ったことを口にしたのに、サラは私がそんなことを言うなんてと驚いていた。


私だって綺麗だと思ったらちゃんと綺麗だと言うぞ。

いったい私を何だと思っているのだ。失礼なやつだ。


とは言え、まだ出会って数日だが、どうやら私はこの残念ではない残念姫のことを、存外気に入っているらしい。



サラフルールの怪我がキレイに治ったことに

心から安堵するアランでした。

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