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召喚と真実

ちょっと長い目です



鍵を借りてくると言って、途中で別れた王子様方を、保管庫であろう扉の前で待っていると、程なくして王子様方が戻ってきた。


「すまない。待たせたな」


それほどでは、とお答えしようとした私は、王子様方の後ろから現れた人物を見て驚いた。なんと、国王陛下と宰相が数人の護衛を引き連れて立っていた。


なんか大ごとになっていませんか。

ぽかんと開いていたかもしれない口元を引き締め、慌ててご挨拶申し上げようとスカートを摘まんだ。

国王陛下は私の挨拶を左手を上げて制すると、宰相から鍵を受け取り何のためらいもなく扉を開いた。

保管庫の中は少しひんやりとしており、窓のない部屋は奥の方が真っ暗で何も見えない。宰相が手を軽く振ると、魔術具が作動したのか部屋の明かりが点いた。

壁際に作りつけられた棚には、ずらりと白い布に覆われた絵が縦に並んでいる。

まるで大きな本が本棚に立てられているようだ。


「5代目というと、この辺りでしょうか」


宰相が棚に書かれた表示を見ながら奥へと歩いていく。


「ありました。姫君の肖像画は・・・これですね。エリーゼ姫とおっしゃる姫君のようです」


一枚の絵画を棚から出し、近くにあったイーゼルに立てると宰相はそっと布を外した。


「これは・・・」


肖像画を見た私以外の者が全員言葉を失った。そこに描かれていたのは私と瓜二つの色違いの私だった。


「サラフルール嬢にそっくりではないか」


肖像画と私を交互に見ながら宰相は驚きの声を上げる。


「いったいどういうことだ」


レオンハルト王子は絵から目が離せないようだ。


「みなさまは、『闇の王子と光の姫君』という童話をご存知ですか」


私の問いに、全員が頷いた。


「あの童話の光の姫君がこのエリーゼ姫です」


レオンハルト王子の目が丸くなっている。


「っ!?まさかあれは実話なのか。では闇の王子とは誰のことだ」


「闇の王子とは当時の精霊王です」


「なんだと?精霊王だと?」


「サラフルール嬢の言うことが事実だとして、5代目の国王は、精霊王を殺害した、ということになるのではないか」


国王陛下が私に尋ねた。


「はい。ご推察のとおりです」


周りから嘘だ、とか信じられないとか呟きがあがった。


「皆さまが信じられないのは当然です。ですので、わたくし、精霊王の縁の者を呼びたいのですが、お許しいただけますか」


「許す」


私は国王陛下にお礼を述べ、両手を祈るように胸の前で組んだ。


「我が眷属たる風の精霊よ。我が魔力を糧とし、ここに顕現せよ」


ぶっちゃけ、ポーズなんてなんでも良いし、なんなら召喚のための詠唱も不要だ。名前を呼ぶだけでルウは来てくれるからね。

でも、国王陛下もいるし、なんとなくそれっぽく見えた方が、もっともらしいと思ったのだ。


私の前で風がくるくると踊り、風の中にルウが現れた。


「お呼びでしょうか。サラフルール様」


羽をぱたぱたしながらもルウはすまし顔だ。


「ルウ。皆さまにご挨拶を」


「はい。サラフルール様」


ルウは床に降り立つと、スカートの裾をちょこんと摘まみながら、腰を軽く落とした。


「皆さま、初めてお目にかかります。精霊王が娘、風の精霊ルウでございます。以後お見知りおきを」


おぉっ。完璧ですね。淑女っぽくて可愛いじゃないですか。


「わたくしの話だけでは信じていただけないかもしれないので」


私が言い終わる前に、アランがかぶせてきた。


「精霊は嘘を付けない、とか、そのようなもの迷信ではないか」


今となっては精霊について知る人はあまりいないのかも知れない。


「精霊は嘘が付けません」


「主であるサラフルール嬢が嘘を付くよう命じたらどうなる」


アランは疑り深いな。


「私の四肢がもげるか、この身が塵となるか試してみますか?」


ルウが想像もできないし、したくないオソロシイことを口にした。


「え?い、いや。いい。疑って済まなかった」


アランはルウの言葉を聞いて、あっさりと引き下がった。

私はそんなこと絶対命じないことを、心に強く誓った。怖すぎるでしょう。


ルウに私の言葉に嘘があればすぐに国王陛下に報告するよう言って、話の続きをすることにした。

とは言え、精霊王からお借りした魔術具を見てもらうだけなので、私の労力は非常に少ない。


「これは、今の精霊王さまからお借りした記録の魔術具です。今から精霊たちの記憶を見ていただきます」


私は魔術具に魔力を注ぎながら、宰相に部屋の明かりを消していただいた。魔術具が私の魔力でぼんやりと光りだした。棚の前にあった小さいテーブルに魔術具を置くと、白い壁に映像が映し出された。


泉のほとりで座って手を取り、微笑みあう二人の場面から黒い靄となって二人が消えるまで、誰も一言も発しなかった。


魔術具の光が完全に消え、宰相に明かりを点けてもらうまで、誰も何も言わなかった。


「わたくしは、選定の儀で王子様方に呼ばれたとき、エリーゼ姫とお会いしました。彼女はもう時間がない、愛しい人と自分を救って欲しいと言っていました」


「時間がない、とはどういうことだ」


宰相の問いに、私は精霊王から聞いた、精霊の消滅について話した。

消滅までは短くて半年、長くても一年だと伝えるとあまり時間がないなとレオンハルト王子は呟いた。


「サラフルール嬢、そして精霊の姫よ。真実を知らせてくれて感謝する。我々が負っていたのは王族の責務などではなかったのだな」


国王陛下は呟くようにおっしゃった。


「はい。精霊王は『王族の贖罪』だと」


「贖罪か・・・そのとおりだな」


と頷いてから、レオンハルト王子とヴェンデル王子の方に向き直った。


「真実を正しくお前たちに伝えられなかった父を許して欲しい」


「いえ、それは父上もご存じなかったことですし」

「知りようもなかったことですから」


「どうか、闇の精霊王とエリーゼ姫を苦しみと悲しみから救ってやって欲しい。まだ若いお前たちに、祖先の過ちを償わせるのは申し訳ないが。私にできることがあれば小さなことでも力になろう」


国王陛下はその場にいる全員にむかって頭を下げた。


「息子たちをよろしく頼む」


宰相が国王は簡単に頭を下げるもんじゃないと諫めていたけど、一人の父としての頼みだからと苦笑いしていた。





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