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2度目の来訪と祝福

「そこで、だ。エリーゼの器を持つ其の方に頼みたいことがある。我の訪問の目的でもあるのだが」


精霊王はそこで言葉を切り、逡巡するようなそぶりを見せた。


「どうか、あの二人を救ってやってはくれまいか」


しばらく迷っていた精霊王は申し訳なさそうに私への頼みごとを口にした。


「消滅するとなると其の方らにも少なくない被害が出るだろう。もちろん精霊たちにも。だが、過去に精霊王を人の王が害したことを許しておらぬ精霊もいる。精霊たちにも被害が出るとはいえ、そのような感情を持つ精霊がいる中で、王たる我が表立って人の王族の贖罪を手助けすることはできぬのだ。それに我が近づいて、万が一、取り込まれてしまうようなことになれば、町ひとつどころかこの世界が終わるであろう」


精霊王が取り込まれるとハルマゲドン確定らしい。まぁそうだろう。全ての精霊を統べる王は膨大な魔力を持っているから。


「だから、其の方に頼みたい。彼の解呪と二人の解放を」


精霊王は今にも泣き出しそうな顔をしていた。精霊王の膝の上のルウも泣きそうな顔をしている。


「サラ様。ルウからもお願いです。ルウも頑張りますから」


精霊王とルウを見つめながら、私は迷っていた。私は自分の大切な人たちを守りたい。そして皆で幸せになりたい。闇の精霊王が消滅することになったら、きっと私の大切な人たちが傷つき、最悪、失ってしまうかも知れない。それはダメだ。でも、私にできるのかな。いくらエリーゼの器を持っているとはいえ、ただそれだけで


「できるのかな」


無意識に口から出た言葉。


「正直、それはわからない」


精霊王よ。嘘でもがんばればできるとか言って欲しいところですよ。ますます不安になるでしょうが。


「だが、勝算は高いと思っている。なにより其の方はエリーゼと繋がった。エリーゼの祝福を受け継ぐ者とも繋がった。其の方にも光と聖の魔術属性があるのだろう。其の方一人では無理でも、解呪に必要な属性を持つ者が二人いるのだから」


「レオンハルト王子・・・」


「そうだ。もう一人は闇の精霊王の祝福を受けている。近づいても取り込まれることはない。きっと解呪の助けになるだろう」


「ヴェンデル王子・・・」


初めて精霊王にお会いした時、彼は私に言った。


『歪な其の方が現れたから、なのか。それとも、解決のために其の方が現れたのか』


エリーゼの器を持つサラフルールが谷に落ちて死んでいたら、王子達と繋がることはなかったかも知れない。でも、私がサラフルールになった。エリーゼの器は失われてはいない。それならば『解決のために』私がいると思いたい。


「サラ様。お願いです。ルウがサラ様を守ります。守れるように強くなります」


ずっと黙っている私に、とうとうルウの赤い大きな瞳からポロポロと涙がこぼれた。


「精霊の都合を其の方に押し付けるようで心苦しいが・・・それに其の方の不安もよくわかる」


泣いているルウを撫でながら精霊王は座ったまま頭を下げた。


「すまない」


「精霊王さま。どうか頭をお上げください」


思わず頭を下げている精霊王の前に跪き、その手を取った。


「確かに不安ではありますし、わたくしに何ができるのかわかりません。でも、わたくしも闇の精霊王を消滅させたくはないのです。王子様方とともに、解呪と解放の方法を見つけます。ですから」


私の言葉の途中で、精霊王の膝にいたルウが私に抱きついた。


「サラ様。一緒に頑張りましょう」


「そうね。ルウ。諦めず、方法を探しましょう」


精霊王はありがとうと言いながら私とルウを撫でた。


「我は手を貸すことはできぬが支援することはできる」


精霊王は私の両手を取り、立ち上がらせると額に口付けた。

来ました。本日2回目のキスですよ。


私が驚いていると、額が一瞬熱くなり、すぐに熱が治まった。


呆けている私の手を握ったまま、祝福を与えたと言う。


「我ができる最大級の祝福だ。危険な目に会わなくなるというわけではないが、其の方を守ってくれるだろう」


私の髪をひと撫でした精霊王さまはくつくつと笑う。


「相変わらず初心なのだな」


きっと真っ赤になっているはずだ。額の熱は引いたのに、顔が熱い。


初心で悪うございました。


「サラフルール。これを持って行け」


精霊王さまは小さい水晶玉を私の手に握らせた。闇の王子と光の姫君のその後の記録を複写した魔術具らしい。一度再生すると消えてしまう、使い捨ての魔術具だ。


「祝福を持つ者たちに見せると良い」


なぜ闇の精霊王が何度も復活するのか、なぜ王族に祝福が受け継がれていのるかを正しく知らなければならない。その上で、闇の精霊王に向き合うべきだ。精霊王は私とルウを優しく抱きしめた。


「其の方らの健闘を祈っている」


また来ると言い残して、精霊王はバルコニーから夜に溶けていった。



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