再訪と残された時間
今日は本当に盛りだくさんで密度の濃い一日だった。
寝る前にバルコニーから夜空を見上げる。キレイだと呟きながら、明日もいいお天気かなぁなんて呑気なことを考える。
「ヴェンデル王子の色ですね」
隣から聞こえたルウのからかうような言葉に思わずむせた。
「ぶふぉっ。そそそれは、どどどういうぅ」
思わずルウを捕まえあたふたする。
「今夜は月もキレイですね。サラ様の色ですね。ふふっ」
「ままままさかルウ。みみ見てたの」
「ふふっ。サラ様、真っ赤になって可愛いかったです」
楽しそうに言うルウを捕まえて、ほっぺをつまんでムニムニしてやった。
「もぉっ。盗み見するなんてはしたないわ。おしおきよ」
「サラ様、また顔が赤いですよ」
ムニムニされているのに楽しそう。ほっぺがみにょんとなったルウは可笑しいのにとっても可愛いくて、ルウを抱きしめて二人で笑った。
「相変わらず仲が良いのだな」
「ひぇっ」
突然背後で声が聞こえ、またしても令嬢らしからぬ声を出してしまった。
「とうさま」
ルウが私の腕から出て、声の主に抱き着く。
「精霊王さま。ご無沙汰しております」
「其の方も息災で何よりだ」
ルウを抱いたまま精霊王はソファに座った。
「光の姫君の縁者と繋がったようだな」
「はい。あの、わたくし精霊王さまにお聞きしたいことが」
「我も其の方に話さねばならぬことがあったのだ。其の方の用件から聞こう。申してみよ」
精霊王に促され、私は選定の儀で召喚された時、エリーゼ姫に会ったことを話した。
「エリーゼ姫とわたくしはそっくりだったのですが、何か繋がりがあるのでしょうか」
私の質問に精霊王は頷いた。
「本来であればエリーゼ姫が輪廻の輪に戻り、新たな生命として産まれるはずであった。しかし突発的な出来事によってそれが叶わなかった」
15年前、闇の精霊王はエリーゼ姫と周囲の精霊たちから癒しを与えられ、浄化され、輪廻の輪に戻る準備が終わっていた。あとは王族と同時に自身にも刻み込んだ呪いをエリーゼ姫が解呪するだけとなっていた。闇の精霊王は国王に呪いを与えたと同時に、自身も呪われていたらしい。人を呪わば穴ふたつというところか。
ところが二人の逢瀬の場所であった池のほとりで火災が発生した。
火は森を燃やし尽くすほどの勢いで燃えたため、闇の精霊王は森に住まう精霊たちを守り、鎮火させ、エリーゼ姫は森を再生させた。解呪のための魔力を全て注ぎ込んで。
「あのときが解呪と輪廻の輪に戻る最後の機会であったのだ」
「最後って、このあと二人はいったいどうなるのですか」
「もう長い年月が経ちすぎた。解呪のための魔力を貯めるには到底間に合わない。輪廻の輪に戻れなければ、消滅してしまう。周りを巻き込みながら」
どういうこと?周りを巻き込みながら?
「過去の記述では、闇の精霊が消滅するときに町がひとつなくなったと記録されている。2千年ほど前の出来事だから詳しいことはわからないが」
「そんな・・・」
「消滅するのが闇の精霊王ともなると、どれぐらいの被害がでるのか想像もできない」
「エリーゼ姫はもう時間がないと言っていました。愛しい人と自分を救って欲しいと」
「さもありなん。消滅までにはそれほど多くの時間は残されていないだろう」
「どれぐらいの時間なのでしょうか」
「そうだな。短くて半年、長くても一年といったところか」
「その間に闇の精霊王として復活することはあるのでしょうか」
「もうそんな力は残っていないはずだ。何かで力を得るようなことがない限りは心配はなかろう。」
「何か、とはどのようなものですか」
「闇の精霊王の復活の時期に、上位の魔獣が異常発生し、それを取り込んでしまったことがあった。当時の王族は封印に苦労したようだな。被害も大きかったらしい」
「魔力の多いものを取り込むと闇の精霊王の力も大きくなるのですね」
「そうだ。それがなければやがて消滅する。」
精霊王は私をじっと見つめた。
「そこで、だ。エリーゼの器を持つ其の方に頼みたいことがある。」




