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オーバーヒートと父の誓い



髪に唇をつけたまま、ヴェンデル王子は上目遣いに私に微笑んだ。


「へぁっ?」


口からおよそ令嬢らしくない声が出てしまった私は、きっと瞬時に真っ赤になっていたと思う。

いや、ムリでしょ。

こんなことされたことないし、経験値と感情値がオーバーヒートして頭が真っ白になる。


ヴェンデル王子はクスリと笑ってから、固まっている私の手をとり、何もなかったかのように騎士団長室までエスコートをしてくださった。

私は頭が真っ白のまま王子に手を引かれ、ふらふらと騎士団長室へと向かった。

幸いドアをノックする頃には再起動が完了。顔色ももとに戻っていたはず。


騎士団長室に入ると、お父さまにいきなり抱き締められる。


「サラ、魔術披露を見ていたぞ。素晴らしい。流石シャルの娘だ」


「ありがとうございます。お父さま。わたくし頑張りました」


「そうだな。偉かったぞ」


お父さまに頭を撫でられていると咳払いが聞こえた。


「親子の触れ合いの邪魔をして悪いが・・・」


「あっ、お父さまにお客様です」


危ない。すっかり忘れてた。ヴェンデル王子がご一緒でした。


邪魔なんてとんでもございませんと棒読みで答えておく。

お父さまは急にやってきた王子にも動揺することなく、挨拶から席を勧めるところまでソツなく振る舞っていた。王子の突然の訪問に動揺しないなんて、騎士団長は場数が違うのでしょうね。


「時間がないので用件だけ伝える。

ジェラルド、今から私が言うことを誰にも喋らないと誓え。他の家族や腹心、サラフルール嬢とも、このことについて話をすることは許さない」


席に着くとすぐに王子は真剣な顔でお父さまに告げた。


「この剣に誓って」


お父さまは何の迷いもなく誓いを口にした。


「何についてか聞かず誓っても良いのか」


王子に尋ねられたお父さま。


「おや。王子は私に理不尽なことを求めるおつもりですか」


わざと驚いた顔をするお父さまに王子は苦笑している。


「ジェラルドに対して理不尽な要求などできるわけがないだろう。私は命知らずではないからな。まぁ良い。それほど信頼されていると思うことにしよう」


「ええ。もちろん信頼しております」


王子は表情を引き締めた。軽いやり取りをしていたのに、急に二人の雰囲気がガラリと変わり、騎士団長室は緊張した空気に包まれた。


「その誓いの対価は何とする」


「私の右腕を差し出しましょう」


お父さまの言葉を聞いて、王子は少し雰囲気を緩めた。

私をチラッと見てから言葉を続ける。


「選定の儀により、サラフルール嬢は王室付き魔術師局に配置となった。この部署の存在、業務に係るすべてを公にしてはならない」


「御意」


お父さまの返事を聞いて、ヴェンデル王子が大きく息を吐いた。


「サラフルール嬢にも同じことを伝えているが、レオがジェラルドには話しておいた方がいいだろうと言ったのだ。もちろん私もそう思っている。夫人には其の方から説明しておいてくれ。サラフルール嬢を危険な目に会わせないと断言はできないが、そのような事態に遭遇した場合は必ず守ると約束する」


ヴェンデル王子に守るとか力強く言われ、先程の口付けを思い出して、顔が赤くなっていないか心配になった。


「ええ。そこは最重要でお願いいたします。いくら職務とは言え、私達の可愛い娘に何かあったら、どうするかわかりませんから。私も、妻も」


お父さまはキラキラの笑顔だが、背景が真っ黒ですよ。怖いです。


「わかっている。私の用事はそれだけだ。邪魔をしたな。」


ヴェンデル王子はそんなお父さまに怯むことなく、柔らかく微笑んでから戻って行った。




帰りの馬車でお父さまは私に尋ねた。


「サラは、望んだ場所に行けたと思って良いのだな」


「はい。わたくしがその場所を望みました」


「そうか。シャルには私から話しておこう。話さないと誓ったからには私達から何も言うことはないが、心配ぐらいはさせて欲しい」


向かいに座るお父さまの瞳には少し不安の色が見えた。


「はい。ご心配をおかけすることもあると思いますが、お父さまとお母さまを悲しませるようなことは致しませんので、見守っていただけると嬉しく思います」


私はできるだけ穏やかに微笑んだが、お父さまの瞳から不安の色が消えることはなかった。




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