沈黙のアランと護衛騎士の紹介
「サラフルール嬢、キミの披露順をアランに教えてやってくれないか」
楽しそうに言うレオンハルト王子のご要望にお応えしよう。
「わたくしの披露順は、最後でございます。レスティ様の次に披露させていただきました」
「なんだと」
アランが言葉を失う。
「しかもサラフルール嬢は的を跡形もなく燃やし尽くした」
ヴェンデル王子が続ける。アランは目を見開いて固まっている。跡形もなくは言いすぎだ。
「灰は残りました」
王子の発言に訂正を加えてみたがスルーされてしまった。
「いや。そんな信じられない」
アランは王子様方の言葉を飲み込めずにいる。
「私たちがサラフルール嬢を望んだのは、今日の結果だけによるものではない」
「詳細はまた明日話すが、この王室付き魔術師局にふさわしい者であると確信している」
私は王子様方の言葉を聞いて、首をかしげた。
「王室付き魔術師局・・」
選定の儀に臨む前に、フリッツから王国の行政組織について講義を受けたが、そのような部局はなかった。新しくできた部署なのかしら。
アランが黙ってしまったので、レオンハルト王子は説明を続けることにしたようだ。
表情を引き締め、私の方に向き直った。
「王室付き魔術師局は常設ではなく、また、公にはされない部署だ。したがって、ここに所属していること及び、職務の遂行上知ったことについて、他言することは許さない」
非公開ということですね。まぁ私は幸いにも友人と呼べる人はいないし他言する心配なんてないよね。ボッチ最高。悲しくなんてないもん。
常設ではなく王子様方が所属しているということは、やはり闇の精霊王関係かな。
「もちろん、家族に話すことも許さない」
お父さまとお母さまにもか。これはちょっと苦しいが仕方がない。
「承知いたしました」
私が答えると、レオンハルト王子は部屋にいた人たちを紹介してくれた。
側近のアランはマクレガー伯爵の次男。
王宮騎士で王子様方の護衛のローガンはブロンソン子爵の三男、フレディはビリンガム伯爵の次男、ルッツはなんと平民だそうだ。
三人ともきっと剣の腕前がすごいに違いない。騎士団のなかでも精鋭が王宮騎士に推薦され、さらにそこから選ばれ、国王陛下の任命を経て王族の護衛騎士となる。
私が騎士の三人を見ていると、ヴェンデル王子が尋ねた。
「護衛騎士に平民がいるのは不愉快か」
「いえ。そうではなく、王子様方の護衛騎士をなさっているということは、きっと剣の技量が相当素晴らしいのだろうなと想像しておりました。不躾に見てしまって申し訳ありません」
「不愉快なわけではないのだな」
レオンハルト王子は笑顔だ。
「はい。身分と騎士としての能力は同じではありませんもの。平民は魔力が少なく戦闘の際には苦労すると聞いております。ですから、ルッツが王族の護衛騎士となるまでに、どれほどの努力と研鑽を積んだのかを想像すると頭の下がる思いです」
私は心からの賛辞を述べた。ルッツは私の言葉に一瞬驚いた顔をしたが、すぐに照れくさそうに微笑んで、軽く頭を下げた。
「そうだろう。ルッツだけではなく、三人とも非常に優秀な騎士だよ」
王子様方はとても嬉しそうだ。
「今日は顔合わせだけだ。明日はもう少し詳細を説明しよう」
明日は10時までにここに来るよう言われ、解散となった。
部屋を出てから廊下をしばらく進んでから辺りを見回し、思わず一人呟いた。
「ここはどこ?」
右に行くべきか、左に行くべきか。
来る時は選定の魔術陣でお部屋に直行だったから、ここが王城なのかも全くわからない。
悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「サラフルール嬢。騎士団長室まで送ろう。私もジェラルドに用があるのだ」
振り返るとヴェンデル王子だった。渡りに船とはまさにこのこと。迷子にならなくてよかったと思いつつ、にっこり笑ってお礼を言い、右手を預けてエスコートしていただくことにした。




