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噂話とアラン

「待っていたよ」


男性の声がして、私の前に誰かが立った気配がした。顔を上げると、そこには黒髪黒眼の男性が黙って右手を差し出していた。前世で見慣れた色合いと麗しい外見に見とれていると


「手を」


ぶっきらぼうに言いながらさらに手を差し出した。


その手を取り微笑んでお礼を言うと、目を逸らして耳がほんのりと赤くなった。その声と、差し出された手に覚えがあった。


「ようこそ。王室付き魔術師局へ。待っていたぞ」


椅子に座ってニコニコしているのは手を貸してくれた男性と色違いで、まるでエリーゼと私みたいだと思った。オレンジ色がかった金髪に紫の眼のイケメンは立ち上がり、黒髪の男性と並んで立った。色違いでそっくりってやっぱりそうだよね。実際に会うのは初めてだけど、やっぱり私は彼らの声と、手を知っている。


私は本日二回目の最敬礼カーテシーをしながらご挨拶申し上げた。


「実際にお会いするのは初めてでございますね。スペングラー侯爵家のサラフルールでございます。レオンハルト王子、ヴェンデル王子。お目に掛かれて大変光栄にございます」


「へぇ。わかっていたのか」


レオンハルト王子が面白そうにしている。


「いえ、今、わかりました。あの時はお声と手のみでしたので」


私も微笑んでお礼を述べようとした。


「なんということだ」


私の発言を遮って大声を上げたのは王子たちの後ろに控えている男性。側近だろうか。


「レオ様。『待っていた』とはどういうことですか。ご令嬢だなんて厄介ごとの匂いしかしない。しかもよりによってスペングラー家の残念姫なんて」


銀縁メガネに茶髪金眼のクール系イケメン。いかにもお仕事できそうな感じ。貴族って、イケメンばっかりなのか。このままだと顔で貴族かどうか判断するようになりそうだ。


「アラン、サラフルール嬢に失礼だ」


次々と私に対する罵詈雑言を発するアランをヴェンデル王子が窘めた。そしてその言葉で我に返る。一応私は記憶喪失という設定だから、他人事のように感じてはいるが、面と向かって残念姫呼ばわりされるのはあまり気分が良いものではない。

選抜の時は一応陰口だったけど、こんなにはっきりと言われるとは思わなかった。


「失礼だなんて、本当のことではありませんか。見目は良いのに、中身が残念なのは有名な話でしょう。まさか王子様方がご存知ないなんて信じられません」


アランは王子様方に力説している。


そんな風に言われているのは知っているけど、本人を目の前にして言いすぎじゃないかな。いや、それとも、私が以前この人に何かしてしまったのだろうか。それなら謝罪しないといけないし。


「アラン。サラフルール嬢とはどういった知り合いなのだ」


レオンハルト王子が尋ねた。


そう、それ。私も聞きたかった。


「何をおっしゃっているのですか。私がそのような女と知り合いの訳がないでしょう」


アランは不愉快そうに答えた。


「え?」

「は?」


私も、レオンハルト王子も、ヴェンデル王子も、室内にいる護衛騎士らしき方々も、全員一瞬固まった。


「アランはサラフルール嬢とは初対面ということか」


「そうです。幸いにも今日が初めてです」


何故かアランはものすごく得意気な様子。


「びっくりですわ」

「全くだ」


思わず口からこぼれた私の呟きに王子様方も同意を示す。


「わたくしが酷いことをしたのを忘れてしまったのであれば、どのように謝罪しようかと考えておりましたのに、まさか初対面だなんて」


ふぅとため息をつきながらアランとやらに目をやると、何故か憎々し気に睨みつけられている。いや、私、貴方に何もしていないんですよね。


「私がお前ごときに何かされるわけがないだろう」


ふんっと鼻を鳴らしながら吐き捨てるように言うアランを、再度レオンハルト王子が諫める。


「初対面であれば余計に失礼ではないか。何もされていないのにそのような態度は良くない。何度も言うが、サラフルール嬢に失礼だ」


「ですが王子、このご令嬢がどのような人物かご存じでしょう。それなのに何故」


「知っているとも。当たり前だろう。知っているからこそ、私たちはサラフルール嬢を望んだのだ」


「私たちは噂ではなく、自分たちの目で確かめたからこそ、サラフルール嬢がふさわしいと知っている」


王子様方お二人の言葉に、唖然とするアラン。


「アラン。お前はサラフルール嬢の何を知っているのだ。噂で聞いたことではなく、自分自身で確かめたことは何だ」


王子から尋ねられてアランが返事に詰まる。何か言いたそうに口をパクパクしているが、言葉が出てこないようだ。


「何もございません」


視線をうろうろと泳がせながらアランがぼそりと呟いた。


「お前は単なる噂話を信じ、それを確かめることなくサラフルール嬢を侮辱したのだな」


「それは・・」


アランの言葉を右手を挙げて遮ってから


「少なくとも私たちは噂話ではないサラフルール嬢を知っている」


レオンハルト王子は私に微笑んだ。


「アランは選抜の魔術披露を見なかったのか」


ヴェンデル王子の問いに、見ていたと答えるアラン。


「見ていたのにサラフルール嬢への評価がそれとは解せないな」


「魔術具で最後まで見ておりました。レスティの魔術は素晴らしかった。さすがです」


そう誇らしげに答えるアラン。


「レスティ様?」


「ああ、アランとレスティは従弟だ。それにアランはレスティの家庭教師をしている」


なるほど。教え子の出来が気になって見ていたということね。


「ですから、レスティの披露までちゃんと見ました」


「なるほど。そういうことか」


レオンハルト王子はやれやれと言うようにため息をつき、アランに問うた。


「魔術披露の順番がどのように決められるか知っているな」


アランは当たり前だと頷いた。


「サラフルール嬢、キミの披露順をアランに教えてやってくれないか」


レオンハルト王子は楽しそうに笑っていた。




毎回同じぐらいの長さで終わりたいのですけど

キリの良いところで次話に続けるのは難しいです^^;

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