招かれざる客と口頭試験
私が紅茶のおかわりを入れようと立ち上がった時
控えめにノックの音が響いた。
「団長にお客様です」
取り次ぎの騎士の声の後、お父さまが返事をする前に扉が開いた。
先ほど選抜試験会場でお会いしたベイカー宰相とあと二人。確か、総務部長官と財務部長官だ。
「招き入れたつもりはないのですが」
お父さまがすごくイヤそうにしている。
「すまない。ジェラルド。こちらの二人がサラフルール嬢に確認したいことがあるようだ」
宰相が自分は付き添いだと申し訳なさそうにしていた。
「わたくしですか?」
お父さまがイヤイヤながらも3人に椅子を勧め、私もお父さまの隣に座った。
「サラフルール嬢。貴女はいったいどんな手を使ったのだ」
総務長官に尋ねられたが質問の意味がわからなかった。
黙っている私を見て、さらに総務長官が続ける。
「どんな手を使って不正を行ったのだ。答えなさい」
「不正、とはどういう意味でしょう」
「君があれほどの成績を取るなど、不正を行ったとしか考えられない」
どうやら私は選抜試験の出来がかなり良かったようだ。そしてカンニングを疑われているということか。
「証拠があるのか」
お父さまが感情のこもらない声で尋ねた。
「・・・いや。証拠はない」
総務長官が答える。
「だが、あんな成績なんて・・・ざん・・サラフルール嬢が、だぞ。不正としか思えん」
総務長官、今、『残念姫』って言いそうになっていましたよね。
「あの場で不正を行う者は、不正の手腕に自信のある方か、考えが浅はかな頭の悪い方か、どちらかだと思いますわ」
私の言葉を聞いて宰相が嬉しそうな顔で、身を乗り出した。
「何故そう思うのだ」
言ってもいいのだろうか。逡巡する私に、宰相は話せと促した。
「あの会場にはいくつもの監視の魔術具が設置されておりました。あのように四方八方から常に見られている中で不正を行うような馬鹿な真似、わたくしはいたしません」
「なんだと?監視の魔術具だと?」
どうやら総務長官と財務長官はご存じなかったようだ。
「だから申したであろう。あの場で不正を行うなど不可能であると」
宰相がため息とともに呆れたような声を出した。
「しかし、サラフルール嬢の魔力探査は素晴らしいな。可能な限り気配が漏れないようにしていたのに」
何故か宰相は嬉しそうだ。
「ええ。おそらくどなたかが魔術具を操作なさっていたのではありませんか?」
私が魔術具を操作している人の気配が漏れていたのではないかと言うと
「なるほど。そこは盲点だったな。魔術具に隠蔽を施すだけでは不十分なのか」
「操作する方にも同じく隠蔽か隠密を施しておけば良いと思います」
「次回はそうしよう」
満足気な宰相とは対称的なのがお父さまだ。
証拠がないのに私が不正をしたと疑われているのが相当気に入らない様子だ。
もちろん私も気に入りません。
突然、それまで無表情で黙って座っていた財務長官が口を開いた。
「サラフルール嬢に総務長官が何か問題を出してみたらいかがでしょうか」
口頭試験のようなものだろうか。
了承の返事をしようとした私をお父さまが制し、
「もし、問題に答えられた場合は、不正を疑ったことについてサラフルールに対して謝罪していただきたい」
3人とも詫びろと言うお父さまから若干黒いオーラが漏れているような気がする。ちょっとコワイです。
宰相がものすごい笑顔で、財務長官は安定の無表情で、総務長官は渋々、三者三様の了承だったが、お父さまは言質が取れたことで少し機嫌を直したようだ。
「それではサラフルール嬢、爵位の承継について王典に照らして説明をして欲しい」
『王典』とは、日本でいう憲法とか法律のようなものだ。とは言え、それほど明確に定められているわけではなく、非常にざっくりとしたもので、結局はほとんどのことを最終的には臨機応変に国王が決定することになっている。
「爵位の承継については、王典第2章『貴族』の章に定めがあります」
私は説明を始めた。貴族の爵位は代々受け継がれる。大きな功績を残した場合は、一代限り貴族の階位が上がり、三代続けて功績を残した場合は、上がった階位が原則永久に認められることになっている。
もちろん逆のパターンもあり、不始末を起こした場合は、降格となるのだ。
また、王典では爵位を受け継ぐことができるのは『直系の男子』とされていて、受け継ぐ者がいないときは、その家は取り潰しとなる。
「では、直系の男子がいないときに、爵位を継承するためにはどうすればよいか」
総務長官が続けて尋ねる。
「方法は3つあります」
私が答えるとその場にいた全員が驚いていた。
「3つだと?」
「まずひとつめは、男子の養子を迎える。娘がいる場合には婚姻によって養子とすることもあると思います」
「うむ。一番多い方法であろうな」
総務長官が頷いた。
「次に、側室を迎え、側室との間にもうけた男子に継承させる」
この国では3人まで妻を持つことが許されている。扶養するのにお金がかかるので高位の貴族にしか聞いたことがない。もちろんお父さまはお母さまLOVEなので、側室なんて考えたこともないだろう。それに一夫多妻を容認する度量も私にはない。
「最近では側室を迎える者は少なくなっていると聞く。私は考えたこともないが」
宰相が呟いた。宰相サマも奥様一筋なのね。素敵です。
さっくり終わらせるつもりが
長くなってしまいました(^◇^;)




