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態度の悪い守衛と美麗な隊長

選抜会場を出て騎士団がある方へ向かう。王城の一番端に建っている騎士団の入り口には、守衛らしき若い男性が二人立っていた。


「ごきげんよう」


できるだけ柔らかい声を意識したのに、赤髪の男性がぶっきらぼうに返事をした。


「何の用だ」


「騎士団長室に行きたいのです。」


そう答えた私に向かって赤髪の男性は舌打ちをしたあと、大きなため息をついた。


いやいや。態度悪すぎでしょうが。心の中で悪態をつきながら、貴族令嬢モードを標準装備。


「おい、ハリー、団長の予定はどうなっている」


「団長への訪問予定者は記載されていません」


ハリーと呼ばれた男性が手元の紙を見ながら答える。


「だとよ。さっさと帰れ」


「確認してはいただけないのかしら。約束がございますので、通していただけないと困るのです」


私はとっても困ったという表情を作ってしおらしく言ってみる。


「はぁ?用もないのに入れるわけがないだろうが。帰れと言っているのがわからないのか」


「約束があると申し上げております」

わからないのはあなたの方でしょ。


「ふん。適当なこと言っても通すことはできない」


すごく態度が悪いのは気に入らないけど、とりあえず通してもらわないと困るし、私が騎士団長の娘だってわかれば確認ぐらいはしてくれるかも知れない。


「確認していただきたいとお願いしているのです。わたくしは」


「名乗るなっ」


そう思ったのに、強い口調で遮られ驚いた。


「だいたい貴族の名前なんて名乗られても俺にはよくわからない。それに爵位を笠に着て、無理強いされてもメンドクサイだけだし」


シッシッと手をひらひらさせながら赤髪の男性は


「男漁りならよそでやってくれ」


と吐き捨てるように口にした。


なに言ってんだコイツ。


「不愉快だわ」


呟きと共に、一瞬だけ怒りの感情が漏れてしまったようで赤髪の隣にいたハリーという小柄な男性が慌てて言い募った。


「あの、アイザックさん。オレが団長のところへ確認しに行ってきますから。あの、お嬢さん、お名前をお聞きしても」


そう言いかけた時


「ハリー!余計なことすんな」


大声とともに、アイザックがハリーを殴りつけた。


「乱暴は止めてください!」


私は驚いてアイザックに負けないぐらいの大声を出して、さらに振り上げられているアイザックの腕を掴んだ。


「うるさい。お前はさっさと帰れ」


アイザックは大声で怒鳴って、腕を掴んだ私を勢いよくふりほどいた。


「きゃっ」


私はその勢いで飛ばされる。後ろ向きに倒れそうになって思わず目をギュッと閉じた。

でも、どこかにぶつかる衝撃はいつまでたってもやって来なかった。


「大丈夫ですか」


優しく声を掛けられ、恐る恐る目を開けると、美麗なお顔が目の前にあった。薄い水色の瞳が美しい・・・


どうやら、美麗な騎士さまが飛ばされた私を受け止めてくださったようで、ほぼ抱き締められている状態。お顔がすごく近い。

お願いだからこの距離で微笑まないで・・・。破壊力が半端ないから。


「あああああ、あり、ありがとうございます」


間近で見るキラキラしい笑顔に動揺した私は、激しく噛んだ・・・。恥ずかしい。


「お怪我はありませんか」


「ええ。わたくしは大丈夫です」


私は可能な限り素早く貴族令嬢モードを再発動した。


美麗な騎士さまは、それは良かったと再度微笑んでから、守衛の二人に向き直った。


「アイザック、ハリー。何があったか報告しろ」


「はいっ。この先への立ち入りの許可を求めたご令嬢に立ち入れないことを説明しておりました」


「それで、ハリーはなぜ怪我をしている」


「はいっ。ハリーは私の言いつけに背いたので、思わず殴ってしまいました。申し訳ありません」


二人のやり取りを聞いて私はモヤモヤしていた。アイザックの言うことは違いではないけど、言葉が足りないというか、微妙に表現が違うだけで、こんなにも聞こえ方が違うのか。アイザックは巧いこと言うものだと感心すべきかも知れない。


「ご令嬢は騎士団にどのようなご用件でしょう」


「そちらの方にもお伝えいたしましたが、騎士団長室に行きたいのです。約束がございますので」


最初に尋ねられたのと同じ返答をする。


「約束?」


「はい、昼食に誘われておりますの」


私の答えを聞くや否や「嘘だ」と叫ぶアイザック。


「嘘ではございません。確認をしていただければわかります」


「そうですね。確認いたしましょう。ご令嬢、お名前をお伺いできますか」


「わたくし、名乗っても宜しいのですか?」


私の言葉に、水色の瞳が不思議そうに見つめる。



「名乗ろうといたしましたら、そちらの方に貴族の名前なんて言われてもわからないし、爵位を笠に着て無理強いされても面倒だから名乗るなと怒鳴られましたの」


私の言葉を聞いた途端、水色の瞳をすうっと細め、ちらっとアイザックに視線を投げた。

一瞬辺りの気温が下がったような気がする。

私の言葉を遮ろうと、黙れだの余計なことを言うなだの大声で喚いていたアイザックはみるみる顔色が悪くなり、貝のように固く口を閉ざした。


水色の瞳はすぐに柔らかい雰囲気を取り戻し、私の前で、美しい騎士の礼をしてくださった。


「私は、騎士団一番隊 隊長のテイラー=クレイトンと申します。騎士団の者が不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません」


私もそれに応えるべく、淑女の礼を返す。


「丁重なご挨拶、ありがとうございます。クレイトン隊長。わたくし、スペングラー侯爵家長女、サラフルールと申します。父がお世話になっております」


「団長のお嬢様でしたか」


顔を上げて微笑むとアイザックの顔色が青くなっているのが見えた。


「・・・らなかった」

アイザックが何か呟く。私とクレイトン隊長がアイザックに目を遣ると


「なぜ名乗らなかった。名乗れば良かったのに」


叫ぶように私を責めた。


「何をおっしゃっているのですか。確認してくださるようお願いしても確認もしていただけず、名乗ろうとすると面倒だから名乗るなと怒鳴り、挙句の果てには男漁りなどと侮辱され、確認に行くとおっしゃってくださったそちらの方を殴りつけ、ついには帰れとわたくしを突き飛ばしておきながら、『名乗れば良かったのに』ですって?どの口がそんな発言をなさるのかしら。永遠にその口を閉じておいていただきたいわ。不愉快ですもの」


私は薄く微笑んだ。


「いや・・・オレはそんなことは・・・」


アイザックの顔色は紙のように白くなっていた。


「言っていなかったかどうかは確認すればわかることですわ」


「そうですね。ご存じでしたか」


クレイトン隊長が驚いている。選抜会場にも監視の魔術具があったけれど、騎士団にもいくつか設置されているようだ。選抜会場のものとは違い、ご丁寧に隠蔽か隠密かそういった系統の魔術がかけられているようで、かなりの魔力量を自負する私でも、微かに存在が確認できる程度で、どこに仕掛けられているかはまったくわからない。


「先ほど気付きました。でも詳細はわかりません。腕の良い方がおられるのですね」


おそらく機密事項だろうからぼんやりとした返答に留めておく。


クレイトン隊長は私を驚いた顔で眺めてから、近くにいた他の騎士を2人呼んだ。



「私はご令嬢を騎士団長室に案内してくる。私が戻るまでアイザックを見張っておけ。ハリーは救護室へ行って来なさい」


顔色だけでなく、存在感すらペラッペラの紙のようになってしまったアイザックを他の騎士に任せて、クレイトン隊長は騎士団長室に案内をしてくださった。


道すがら、クレイトン隊長は私に謝罪してくださった。


「アイザックが大変失礼いたしました。剣の腕は良いのですが、あの攻撃的な性格のせいで、対人関係に摩擦が起こりやすいのです」


どうやらアイザックのことは騎士団内部でも手を焼いているようだった。外部の人に迷惑をかけるのだけは止めてもらいたいし、できることなら私は二度と会いたくないと思った。



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