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嘲笑と侮蔑

書き溜めてからと思っていたら

今頃になってしまいました

選抜会場は会社の大会議室のようだった。

三人掛けの長机が整然と並べられ、机の両端に椅子が置かれている。ちょっとだけ懐かしいと思ってしまう。違うのは机も椅子も木製だってことぐらいかな。


「受付を済ませてから席に着いてください」


誘導を担当していると思われる男性に言われ、受付に向かう。



ざわり



周辺の空気が震えたような気がした。たくさんの視線を感じる。

その震えはすぐにさざ波になり、ざわざわと周りに広がっていった。



『まぁ、残念姫だわ。生きていたのね。事故に遭われたと聞いたからてっきり・・・』


『ねぇご存じ?あの方事故でなんにも覚えておられないのですって』


『選抜試験の前に大変でしたわねぇ』


『でも覚えていてもいなくても大差ないのではなくて?』



『あらそれはさすがに酷すぎますわよ。くすくす』



明らかな嘲笑、侮蔑。そんな感情が隠されることもなく伝わってくる。

思わず俯きそうになった私は、お母さまの言葉を思い出した。


「イヤなことを言われても怒らない。自分の感情を隠せなければ社交は無理。腹が立った時こそ前を向いて、相手に向かってにっこり微笑むぐらいの余裕がないとね」

お母さまはマナーの勉強が難しいとこぼした私にそう言っていた。


俯かない、怒らない。前を向いて笑顔で。


『相変わらず見目だけは良いのね』


嘲笑交じりに届いた声の主と思いがけず目が合った。そこでにっこりと微笑んでおく。みるみるうちに相手は首まで真っ赤になっていた。よし。美少女の微笑みは効果バツグンだ。



「お名前をお聞かせください」



受付の前に立つと、おさげの女の子が尋ねる。新人文官のようだ。


「サラフルール=スペングラーですわ」

私が微笑みかけると、おさげの女の子も真っ赤になった。


「せ、せ、せ、席はじ、じ、じ、自由席でふ」


焦って噛んでしまったことで、さらに顔を赤くしたおさげちゃん。誤魔化すように咳ばらいをひとつしてから、今度は落ち着いた声で言葉を続けた。


「席は自由席ですが、サラフルール様のような方はこちらに座られるのが良いと思います」


差し示された方を見ると、明らかに高位の貴族らしき人ばかりが座っていた。反対側に目を向けると、下位貴族や平民と思しき人たちが座っている。

なるほど、自由席としながらも、自然と区分はされているのね。


私は指し示された方で空いている席を見つけ、机の反対側に座っていた男性に声をかける。


「こちらに座ってもよろしいかしら」


「そこは先約があります」


私のことをちらっと見ただけで不愛想に告げられる。


違う席を見つけ、また机の反対側に座っていた女性に声をかける。


「こちらに座ってもよろしいかしら」


「すみません。ここは座っていただけません」


何人かに立て続けに断られ、嫌がらせの稚拙さに呆れながら、どうしようか少し試案した。



「ここはダメよ。というかこちら側に貴女の席はございません」

「そうですわ。向こうに行かれてはいかがかしら」

「あちらの方が貴女にはふさわしいのではなくて」


扇で上品に口元を隠しながらくすくすと笑うご令嬢方に対し、私は嬉しそうに見えるよう意識しながら殊更ににっこり微笑んだ。


「わたくしの席がこちらにはないと教えていただきありがとうございます。皆さまのご親切に、いずれお礼をしなければなりませんわね。わたくし、皆さまのお名前は存じませんが、お顔をよく覚えておくことにいたします」


笑みを深めて、ごきげんようと言い置き、再度受付に向かった。


「よろしいかしら」


受付のおさげちゃんに声を掛ける。


「サラフルールさま。どうかなさいましたか」


「ここは自由席なのですよね」


「そうです」


「わたくしにこちらに座った方が良いと勧めてくださったのは、こちらに座ることが慣例になっているから、ですわね」


「はい、おっしゃるとおりです」


「では、わたくしが向こうに座っても構いませんね」


私が指し示しながら言うと、おさげちゃんの目がまん丸になった。ちょっとカワイイかも。


「本気ですか?いえ、確かに自由席ですのでサラフルールさまがどこにお座りになっても咎められることはありませんが、良いのですか」


おさげちゃんは上位貴族がたくさん座っている方を見遣りながら、席はまだ空いているようです、と呟いた。


「空席はあるのだけれど、わたくしの座る席はないそうよ」


私はそれだけおさげちゃんに言うと下位貴族や平民が座る席の方に向かう。空いていた一番後ろの一番端の席に近づき、反対側で俯いている女の子に声をかける。


「そこの貴女」


ばっとすごい勢いで顔を挙げたのは、そばかすがかわいい女の子。なんだか私の方を見て固まっている。


「こちらに座ってもよろしいかしら」


「はひぃ」


尋ねると肩をビクッと揺らしながら空気の漏れたような返事を聞いてから、私はそこに腰かけた。

サラフルールの外での評判は最悪のようです。

まだまだ逆境は続くかも‥‥

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