それからの事と日記帳
本日2回目のキスの衝撃からなかなか立ち直れず
真っ赤な顔のままフラフラと部屋に戻った私にルウが近づいてきた。
「サラ様。長らく留守にして申し訳ありません。でも、ちゃんとお役目を果たすことができて良かったです」
ルウは嬉しそうに私の周りを飛び回った。
悪夢の対処法が分かったこと、間違いなく闇の精霊王が復活すること、そして闇の精霊王はアイツかも知れないということ。
収穫はたくさんあった。でも、とりあえず疲れた。
「ルウ。本当にありがとう。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。久しぶりだし、今日は一緒に寝てもらうからね」
私はルウと一緒にベッドにもぐり込んだ。
お昼寝をしたから眠くないと思っていたけど、情報量が多すぎて脳が疲れていたのかもしれない。目を瞑って気付いたら朝になっていた。
それから、王城で選抜試験が行われる日まで、私は、アリソン先生と魔術の勉強に勤しみ、フリッツ先生に座学を教わった。
とは言え、最後の2カ月は、ほとんど学ぶべきことが終わっていたので、剣術と馬術の時間を追加してもらった。
ひとつ、わかったことは、私には剣術の才能が皆無であるということだ。
馬術はと言うと、まぁ、とりあえず乗れるようになった。ということにしておきたい。
いいもん。魔術ならきっと誰にも負けない自信があるから。
でも、自分の身は自分で護れるように、護身術ぐらいは身に付けておいた方が良いかも知れない。
そして、週に1日、必ずセドリックと過ごしていた。
もちろんお母さまも一緒に。
庭でピクニックの真似事をしたり、絵本を読んだり、おもちゃで遊んだり、散歩をしたり。本当にセドリックは可愛い。
天使だ。
デレデレしている私の様子は、微笑ましいを通り越して、怖いとお母さまに言われてしまった。
うぅ。成長したセドリックに「ウザイ」とか言われないように少し自重したほうがいいのかも知れない。
あとは、ルウから精霊のことについていろいろと教わった。
精霊は嘘を付けないこと。
魔力の多い者の中には、精霊を見ることができる者もいるということ。
お互いの意思が通じ合えば、誰でも精霊と契約ができること。
でも、精霊と契約していることを他人に簡単に話すべきではないし、精霊同士でも契約について口にすることはないのだと言う。
そして、私は、サラフルール自身のことについても知ることとなった。
部屋に置かれた机の中を整理していた時、引き出しの一つが二重底になっていることに気が付いた。底板を持ち上げると中に日記帳が入っていたのだ。
私の物であって、私の物ではない日記帳。読むべきか、読まざるべきか、散々迷った挙句、『残念姫』という二つ名で呼ばれていたサラフルールが、どのような令嬢であったのか、知りたいという想いから日記帳を読むことにした。
日記帳を読むことで、もっとサラフルールとして生きることに覚悟を持てたら、と考えていたのだけれど、
何故サラフルールが『残念姫』と呼ばれるような行いをしていたのか、日記を読むことで、その原因が分かった私は、やりきれない思いでいっぱいになった。
いつか、このことを『お父さま』と『お母さま』に伝えることができるだろうか。サラフルールとしての記憶を取り戻すことなど決してできない私に、その機会があるとは到底考えられなかった。
私の予想に反して
その機会は思いがけず
すぐに訪れることになるなる。




