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考察と2回目のキス



どれぐらい時間が経ったのか、私は、掌の水晶玉が精霊王の手に戻ったことで、意識を引き戻された。


「どう思った」


精霊王の問いに


「これが実際起こったことだなんて・・・悲しいですね。唯一の救いは、彼女が愛する人と共に逝けたことでしょうか」


私がポツリと呟くと精霊王は手を伸ばし、私の頭を優しく撫でてくれた。


「でも、後に残された王さまはどうなったのですか。闇の精霊王の呪いと姫君の祝福の両方が魂に刻まれてしまったのですよね」


「そうだ。そして、その呪いと祝福は子々孫々受け継がれているのだ。今も・・・」




今も?



私が驚いていると精霊王は、水晶玉をどこかへ片付けすっかり冷めてしまった紅茶で口を湿らせてから、少し苦しそうな表情で言葉を続けた。



「呪いと祝福は王の孫に受け継がれた。そして、そのあとは子、そのあとはまた孫というふうに何代にもわたって。何代も呪いも祝福も現れないこともあり、その受け継がれ方には規則性がない」



「『光が産まれる時、闇が産まれ』という言葉はどのような意味なのですか」



「言葉通りだ。王族には時々、光属性を持つ者が生まれる。光属性を持つ者が生まれた時、闇の精霊王が現れるのだ」




光属性を持つ王族は、光の姫君の祝福と同時に、闇の精霊王の呪いを持って生まれる。復活した闇の精霊王を祓うのは光属性を持って生まれた王族の宿命でもあり、精霊王の命を奪ったことに対する王族の贖罪なのだそう。



「闇の精霊王にとっても、王族にとっても、贖罪の期間が長すぎた。我としては、闇の精霊王のためにも、もう終わりにしてやりたいのだが、呪いを解く方法がな・・・」



わからないのだと、精霊王は悲し気に呟いた。



私は時々頷きながら精霊王の話を聞いていた。隣に座るルウも真剣な表情だ。




「ルウから聞いたが、其の方、妙な夢を見るそうだな」


唐突に精霊王から尋ねられ、私が見ていた夢について話した。


「ふむ。しばらく夢を見ない日もあったということか」



少し考えこんだ精霊王から夢を見ない時と夢を見る時の魔力量の違いについて尋ねられ、私自身も気が付いた。



「魔力をぎりぎりまで消費した日は夢を見ませんでした」



「やはりそうか。ルウから聞いたが、其の方の夢に出てきた者は、その姿形から察するに、闇の精霊王になりかけの者だ。そして、闇の精霊王は魔力を持たないため・・・」



「魔力のある者を取り込もうとする」


私が精霊王の言葉を引き継いで言うと、


「その通りだ。闇の精霊王になりかけの者は其の方の縁の者なのだろう?恐らく、其の方の魔力に魅かれ、近づいているのであろうな」


「だから、私の魔力がカラの状態のときは魔力を感じられないから現れなかった、ということですか」


「そう言うことだ。其の方の魔力のみに反応するとは、余程好かれていると見えるな」


少し呆れ顔で私を見ている精霊王に、私はため息とともに反論した。


「はぁ。私がアイツに好かれているなんて有り得ません。好かれているどころか、嫌われていると思います。だって、私はアイツに刃物で刺されて殺されたのですもの」


精霊王は「ほう」と驚いて少し目を見張り、自嘲めいた口調で呟く。


「人の感情や機微は相変わらず理解し難いものだ」



「アイツがどういうつもりなのか私にも全く理解できませんので、精霊王さまが卑下する必要はないと思いますわ」



「そうか。だが、きっとこれからも其の方の魔力に魅かれ、執拗に付き纏われると思うぞ」


すごく気の毒そうに言われてしまった。。


「ふむ、だがしばらくは大丈夫そうだな。光の姫君の祝福の残滓が見える。其の方、光の姫君の縁の者に会ったか」


光の姫君?私が首をかしげていると、笑顔のままさらに私を見つめたまま独り言を続ける。


「ほう。これは内側に祝福をしているのだな。ふむ。夢に現れるのであればこれが効果的であろうな」



一人で納得しないで欲しいです。私が少しむくれていると、精霊王は私の頭を撫でながら、



「其の方は何も心配しなくても良い。光の姫君の祝福がなくても回避の方法はわかったのであろう?」



眠るときには魔力を減らしてから、ってことよね。私がその言葉に頷くと



「そのうち、光の姫君の縁の者に会うこともできよう。其の方の道はそちらへ向かっているようだ。決して闇の精霊王にはつながっていないから安心するがよい」



私の頭をもう一度撫でてから精霊王は立ち上がった。



「さて、すっかり長居してしまったようだ。余り長時間一緒にいると其の方の時間にも影響が出るやもしれんからな」



なんと精霊王の周りは時間がゆっくりしか流れないらしい。精霊は寿命が300年ほどと言われているのに、精霊王さまはさらに長寿ということなのね。バルコニーに出てみると、夜空に浮かんだ月は、精霊王をお迎えした時とほとんど変わらない高さにあった。



私の方に向き直った精霊王は右手を出した。私もつられて右手を差し出す。すると精霊王は私の右手を優しく握り、右手の甲、手首あたりに身をかがめてそっと口付けた。



「我の祝福を与えた。手の甲には光の姫君の祝福の跡が感じられたから別の場所にしておいたぞ。・・・・ん?どうした。顔が真っ赤だが。」



驚きすぎて声も出ません。まさか本日2回目のキスですよ・・・手の甲だけど。



「なんだ。意外と初心なのだな。」


可笑しそうに笑い、また会おうと私の頭をひと撫でしてから、精霊王は闇に溶けるように消えてしまった。






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