闇の王子と光の姫君
今日は共通テスト
受験生の皆様の健闘をお祈りします
むかしむかし
闇の王子と光の姫君はお互いを一目見て恋に落ちた。
しかし闇と光は相容れないもの。
光の前では闇が消えてしまい、闇の中では光は輝くことはできない。
触れることすら敵わないのに、ふたりは求め合い、森の中の池のほとりで離れて座ってお互いに愛を囁き合うだけの逢瀬を密かに重ねた。
そのうち、光の姫君の父である王に二人の関係が知られることとなった。怒った王は二人の逢瀬の現場に乗り込み、怒りに任せて闇の王子を斬り殺してしまった。
光の姫君は驚きと悲しみのあまり、目の前の池に身を投げて死んでしまった。
あまり童話としてはふさわしくないような悲恋の物語だと、初めて読んだとき思った。
「闇の王子は精霊王、そして光の姫君は帝国の王女だ」
精霊王は絵本を開き、王子と姫君が美しい森の池のほとりで見つめ合っている挿絵を指しながら続ける。
「殺された後、精霊王は姫君と引き裂かれた悲しみ、姫君への恋慕、王に対する怒りと憎しみにより、その魂は闇の精霊王となってしまった。精霊王は体内に豊富な魔力を持っており、自然から魔力を取り込む能力も大変優れている。しかし、闇の精霊王は体内に魔力を持たず、なんの力もないのだ。闇の精霊王となったとて何もできないはずであった」
精霊王はどこからか、透明な水晶玉のようなものを取り出し、私の掌に乗せた。
「見るがよい。これは童話のその後の話であり、この世界の記憶だ」
私の手のひらに乗せられた水晶玉に凄惨な光景が次から次へと映し出される。
自分自身の血にまみれた精霊王は黒い靄のようなものを纏い、闇の精霊王となった。そして、自身を魔力で満たすため、魔力を持つものを黒い霞の中に取り込んでいった。
黒い靄のような体で獲物を包み込み、消し去る。
身の内で魔力とするために。
この世に存在する命ある者は皆、わずかながらも魔力を持っているため、魔力の多い少ないに関わらず、魔物、魔獣だけでなく、植物も、人も、精霊も、すべてのものを取り込みながら精霊王は王城を目指す。
闇の精霊王が通った後には何もない大地が広がる。
不毛の大地を広げながら闇の精霊王は王の元に辿り着いた。恐怖のあまり逃げることもできず玉座に貼りついたように座っている王に向かって、闇の精霊王は呪詛を吐いた。
「精霊王である私をこのような目にあわせるなど許すことはできない。愛しいものと引き裂かれ、希望もなく憎しみに染まった我が心を思い知るがよい。光が産まれる時、闇が産まれ、その闇が全てを滅ぼすであろう。」
その言葉は王の魂に呪いを刻み、左腕に呪いの紋章を浮かび上がらせた。
王に呪いを刻み込むことで、取り込んだ魔力を使い果たしてしまった精霊王は徐々に消滅していく。
その時、勢いよく扉を開けて走ってきたのは王女であった。
「待って。わたくしを一人にしないで。どうかわたくしも一緒に連れて行ってくださいませ。この先もずっと共にありたいのです」
止める王を振り切って、王女は消えつつある闇の精霊王の胸に飛び込んだ。
「お父様。親不孝な娘で申し訳ございません。でもわたくしは愛する人と永遠に共にあることができるのです。とても幸せですわ」
黒い霞に包まれながら、王女は美しい笑顔を見せた。
「わたくしの愛しい人はこの世界を呪いましたが、わたくしは愛しい人と一緒に美しい世界を見たかった。わたくしの見たかった景色を守るため、光が産まれた時、その光に闇を祓う聖なる力を与えましょう」
王女は、父である王の魂に祝福を刻み、右腕に祝福の紋章を浮かび上がらせた。
やがて、王女は黒い霞となった精霊王と共に消えてしまった。




