表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/56

悪夢とキス

あけましておめでとうございます


ルウが精霊の里に向かってから今日で3日。

ルウには大丈夫、とか心配しないで

とか言ったけど

本当はほとんど睡眠がとれておらず、かなりフラフラの状態だ。


少しでも眠りが深くなると、坂本がさらに近づいてくるのではないかと思うと、ベッドに入っても眠りが深くならないうちに何回も目が覚める。

怖くて熟睡できないのだ。


昼食後、セシルに淹れてもらった紅茶を飲みながらぼんやりと考える。


そういえば、最初の時に助けてくれた人は誰なんだろう。


多分男の人だと思う。声とか、掴まれた手の感じとか。


『絶対離すなよ』と言った声は少し低くてぶっきらぼうな感じ。でも優しい声だった。


なぜ私を助けてくれるのか。

どうやって私の夢に入り込んだのか。

そもそも何故坂本が現れたのか。

あれは本物の坂本なのか。

そしてだんだん近づいてきているのは何故なのか。


わからないことだらけだ。


「お嬢様。具合がお悪いのでは?」


心配そうにセシルが私に声をかけた。



「大丈夫よ。ちょっと夢見が悪くて、昨夜はあまり眠れなかったの」


「まぁ、そうなのですか。午後は特に予定はございませんから、お昼寝でもなさいますか?」


「そうね。それも良いかも知れないわね」


私がなんとなくそう返事をすると、セシルは私にブランケットを手渡してから茶器を片付け、静かに部屋を退出した。


お昼寝はしないつもりだったけど、寝不足が限界だったらしい。

一人になって緊張が解けたせいもあるのだろう。

静かになると、いつの間にか寝てしまっていた。




気が付くと、冷え冷えとした暗闇の中に立っていた。


眠っているはずなのに意識が起きている感覚がして

いつものように聞こえるブツブツ呟く声は

この間よりも近い気がする。

ズルズルと何かを引きずりながら、だんだん近づいている。


今日はすぐそばまで来るかも知れない。


そう思った瞬間、恐怖で体が震え、呟きが聞こえないように思わず耳を塞いだ。

膝がガクガクして、立っていられなくなり、その場に座り込む。

耳を塞いでいるのに聞こえる呟きと近づいてくる気配。



イヤだ。誰か。助けて。



恐怖で悲鳴を上げそうになったその時、ふわっと暖かい風が吹いてきた。

その風に払われるように突然暗闇が晴れ、周りが真っ白になる。体の震えは治まり、逆に不思議と安心感に包まれた。


「大丈夫だよ」


後ろから突然男の人の声が聞こえて、驚いて振り返ると、光の中に誰かが立っている。眩しすぎて良く見えない。



「えっと・・・どちらさまですか?」



「これでしばらくは大丈夫。近寄れないようにしておいたから安心して」



私の質問に答えてくれるつもりはないようだ。でも、この間助けてくれた人とは別人だとわかる。

声も違うし、なんとなくだけど雰囲気も違う。


眩しくて直視できず少し俯いていると、その光はスッと近づいてきて、私の手を取った。


うん、手の感触も違うから、別人確定だね。


私が眩しさに目を細めながら、ひとり納得して頷いていると、


「会えてよかったよ。それじゃ、また」


私の手を取ったまま少し屈んだような気がした後

手の甲にキスをした。


と思う。なにしろ眩しくて見えないのだから、なんとなくそういう感触があったからそう思っただけなんだけど。


突然のことに思わず顔を上げた私は

きっと間抜けな表情をしていたと思う。

その人はくすくすと笑ってから

そのまま、溶けるように消えていった。



そのまま、ゆっくりと目覚めると、ちょうどドアをノックする音が聞こえた。


「お嬢様。甘いものでも召し上がりませんか」


セシルがスイーツと紅茶を乗せたワゴンを押してきた。今日は桃のような果物のタルトだ。瑞々しくて美味しそう。セシルは手早く紅茶を入れ、タルトと共に私の前に並べると、


「少しお休みになれたのですね。顔色が良くなっております」


「えぇ。ありがとう。すっきりしたわ」


謎の人物のお陰だと心の中で感謝を述べる。


タルトと紅茶を堪能しつつ、さっきのことを思い返す。


そういえば、さっきの人は『また』って言ってたけど。また会えるのかな。会えたらちゃんとお礼を言わなきゃ。声と手の感触。それだけじゃ探すのは難しいよね。


あ、今日の人はそれだけじゃなかった。唇の感触も。唇?


「えぇぇ??!!」がばっとソファから立ち上がる。


そうだよ。手の甲にキスされたんだ。

多分。

いや。間違いなく。

手の甲とはいえ、キス・・・


「お嬢様。どうなさいました?」


いきなり立ち上がった私に驚いて、セシルが近づいてきた。


「いや、なんでもないの。大丈夫」


一人であたふたする私の顔は真っ赤になっていたらしく、熱があるかもと、セシルにいらぬ心配をかけてしまった。


「今夜は、きっと良い夢が見られますよ」


お昼寝をしたから、まだ眠くないと言う私を、セシルは良い笑顔でベッドに押し込みながら言う。

セシルは華奢なのに、結構力があるのだ。


結局逆らえず、大人しく寝ることにした。





年末年始も休日出勤で

なかなかゆっくり休めません(^◇^;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ