魔力操作と魔術練習
「それではサラ様」
アリソンが私の手を握りしめながら真剣な表情をした
「風の魔術から始めましょう。風が渦を巻く光景を思い浮かべながら念じるのですよ。まずは私が詠唱するので真似をしてください」
私の手を離したアリソンが詠唱を始める
「風の精霊の力を我が手に」
私もそれに続く
「風の精霊の力を我が手に」
少し前に出して広げた両手のひらに熱が集まっていく
「ブレス」
アリソンがそう言った途端に小さな竜巻が起こった
「ブレス」
私が唱えると、手のひらの熱がすごい勢いで放出され、アリソンの倍以上の大きさの竜巻が起こる。あっと言う間に部屋の中は酷い状態になった。
本棚に収まっていたはずの本はほとんど部屋にばらまかれ、壁に掛かっていた絵も傾いている。
「アリソン先生。外で練習をしたほうがいいかと思うのですが…」
私がおずおずと提案すると、呆然としていたアリソンは我に返り、慌てた様子で同意した
「そうですね。外でしたほうがよさようです」
部屋の片付けはメイド達に任せて、私たちは中庭に出た。
「サラ様。魔術の規模を調整するのも訓練です。できるだけ小さい竜巻を作ってみてくださいませ。」
アリソンに言われて、私は木枯らしでクルクルと回る落ち葉を思い浮かべながら詠唱する。
「風の精霊の力を我が手に。ブレス」
すると部屋で見たアリソンのブレスとほとんど変わらない大きさの竜巻が起こった。
「大変お上手です。同じようにブレスと唱えたとしても、注ぎ込む魔力によって威力が変わるのです。魔力には個人差がございますから、どれぐらいの魔力を注ぎ込むとどうなるのかは、実際にやってみて覚えるしかありません。」
「先生。詠唱は必ずしないといけないのでしょうか。」
私が尋ねるとアリソンは少し困った顔をした。
あれ、なんか不味いこと聞いたかな
「詠唱は必ずしも必要ではないと思います。まれに無詠唱で魔術を操る方もおられるようですが、わたくしは今までそのような方を見たことがございません」
詠唱しなくてもいいんだ。なんとなく無詠唱でもイケそうな気がするんだけど、今試すのは止めておこう
「サラ様。詠唱によって魔術をイメージをすることが大事なのですよ。自分がどのような魔術をどれぐらいの規模で発動させたいのかを自分自身で理解するのです。」
自分がどの属性のどれぐらいの規模の魔術を使うのかをちゃんと認識しないとダメってことね。
アリソン先生の言葉になるほどと納得する。
私はお父様よりも魔力が多いと言われたから、魔術の規模には少し気を付けないといけないのかも知れない。
「アリソン先生。属性の同じ魔術を使用するときは、すべて同じ詠唱で良いのでしょうか?」
私の質問の答えは「その通り」でした
なんだ 意外と簡単だね
そう思っていたら属性に関する部分はどんな強力な魔術を使っても同じだけど、魔術の名称は変えないといけないらしい。
さっきは「ブレス」と詠唱したけれど、もっと大きな威力のものは「ストーム」とか「ウラガーノ」とかかなりたくさんの種類があるとのことで。
私の言葉が通じているから今更だし、ここは日本じゃないから別にいいんだけど英語とかイタリア語とか仏語とかごちゃまぜなのがちょっと面白い。
一般的に使われているものは詠唱が固定だけど、個人の属性や適性に応じてオリジナルの魔術を作ることもできるらしい
オリジナル魔術ってなんだかちょっとワクワクしちゃう。
そんな私の様子に気付いたアリソン先生からは
「サラ様は、まず基本の魔術をきちんと制御できるようになってくださいませ。制御ができないのに無理なことをすると、魔力が暴走して取り返しのつかないことになりますからね。」
怖い笑顔でぐっさりと釘を刺されてしまった。
その日は、魔力制御を意識しながら、風、火、水の3属性の基本的な魔術を最小規模で発動させる練習をひたすら繰り返した。
火の魔術で、お母さまの花壇の花を少し燃やしてしまったり、中庭へのアプローチに大きな水たまりを作ったり
まぁ、些細な失敗もあったけど、アリソン先生には見違えるように上達したと手放しで褒められ初めての魔術の勉強は終了した。
3年ぶりの投稿です
投稿済みのものもちょこちょこと校正しながらになります
今後の投稿は不定期ですが完結まで頑張ります




