快適な目覚めと魔力測定
「サラ様。起きてくださいませ」
セシルに声をかけられ、私はゆっくりとベッドから身を起こした。目覚めがすっきりしているのは久しぶりだ。この世界に来てすぐに見た坂本の夢があまりにも生々し過ぎて、毎晩熟睡できていなかったように思う。昨夜はルウと一緒にベッドに入ったから、きっとよく眠れたんじゃないかな。
ん?そう言えばルウは?セシルに見つかったら大変だ。
辺りを見回していると、どこからか声が聞こえた。
「サラ様。大丈夫ですよ。私はサラ様以外の人には姿も見えませんし、声も聞こえませんから。けれど、念のためにあまり姿を現さないようにしますね」
「わかったわ」
「サラ様?どうされましたか」
セシルが不思議そうに私を見ている。
曖昧に微笑んでごまかしたけど、危なかった。ルウの声は私にしか聞こえないんだった。思わず返事をしちゃったよ。
セシルが私の身支度を手早く整えていく。初めは誰かに着替えさせられることにすごく抵抗があったのに、すっかり慣れてしまった。そして、鏡の中にはふんわりと微笑む美少女がひとり。
あぁ、やっぱりこの姿だけはなかなか慣れないなぁ。鏡の中のサラが苦笑いになる。
「朝食の後は、今日は魔術のお勉強だと聞いております。」
セシルが私の髪を整えるのながら言うのを聞いて、ちょっとテンションが上がる。
いやー、魔術とか聞くと異世界感が増すよねぇ。暴走するぐらいの魔力があるなら、真面目にやれば結構イイ感じにはなれるんじゃない?
「昨日のお勉強の時のようになされば、奥様のような立派な魔術師になれると思います」
やっぱり前はおとなしくしていなかったんだね。
朝食後、しばらくすると地味なワンピースに身を包んだ女性が部屋を訪れた
「わたくしはアリソンと申します。」
40代半ばぐらいだろうか、なかなかの美人さんだ
「フリッツからサラ様は生まれ変わられたと聞いております。」
にっこりと微笑みながら腰を落として、挨拶をする。私もそれに対して挨拶を返す
「生まれ変わった気持ちで学ばせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
お互いに挨拶が済むとアリソンは急に真面目な顔になる
「それではサラ様。早速ですが、これをお持ちください」
アリソンが差し出したのは黒い球のような石だった
「これは魔力の属性と量を計る魔術具です。サラ様が以前とお変わりないのか確認させてください」
アリソンから石を手渡されたが、どうしたらいいのかわからずにいると
「手に魔力を集めてください」
魔力を集めるって言われてもどうしたらいいの?
とりあえずなんとなく手のひらに感覚を集中させてみる。すると手のひらに乗っていた石が輝き出した
「きゃっ!」
小さく悲鳴をあげる私とは反対に、アリソンは歓喜の声をあげる
「まぁぁ。素晴らしいですわ。サラ様」
私の手から取り上げられた石は、真っ黒だったはずなのに何故か光り輝いている。目が痛いぐらい眩しい。しかも、その光がなかなか消えない
「フリッツの言う通り、サラ様は生まれ変わられたのですね」
アリソンは今にも泣き出しそうな勢いで感激しているが、私には何のことかさっぱりわからない。アリソンは光り続ける石を見つめながら、なにやらブツブツと呟いている。ちょっとコワイ。しばらくそっとしておこう。
壁際に控えていたセシルに目をやると、彼女もまた感激しているのか、口に手をあてて目を見開き固まっていた。二人ともいったいどうしたの?
「あの。アリソン先生」
我慢できずに声をかけると、アリソンは、やっと石から目を離し、私に向き直った
「サラ様。大変素晴らしいです。以前は水と風の属性だけでしたが、今日の測定の結果、サラ様は全属性をお持ちだということがわかりました。しかも、魔力量は旦那さまよりも多いです。もしかしたら奥さまよりも多くなるかも」
いやいや、いくらなんでもお母さまよりも多くなるってそんなことはないでしょう。私が信じられなくて苦笑いしていると、アリソンは石を私の目の前に突き出しながら、私に一歩近づいた
「冗談ではありませんよ。旦那さまよりも多いのは間違いありません。あとは、この魔力を制御できるか、ということが重要なのです。わたくし、サラ様のために精一杯指導させていただきます」
アリソンのやる気スイッチがONになった音が聞こえたような気がした




