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虚偽報告とルウの帰還


「今日のお勉強の時にフリッツ先生が、わたくしがお城にあがるというようなことをおっしゃいましたが、どういうことでしょう」


両親と夕食を取りながら、私はお父さまに尋ねた


「そうか。サラは忘れてしまっていたな。」


食事の手を止めて、お父さまが説明をしてくれる。



16歳になるとお城で行われる任命式に呼ばれるらしい。


「任命式?」


「そうだ。カルディア王国を支えるための役割を与えられるのだ」



例えばお父さまは騎士団、お母さまは魔術師という役割を与えられ、それぞれ王国の繁栄に貢献することが義務付けられている。お父さまは騎士団長として王国を守護するというのが役割で、お母さまは今は育児休業中らしいが、魔術学校の教師というのが役割とされている。これは貴族だけが課せられているものであり、その役割や働きに応じて地位や報償が国王から与えられるそうだ。


「役割を与えられない貴族もいるのですか」


私の質問にお母さまが答えてくれる


「役割を与えられない貴族なんていませんよ。」


「けれど、能力は人それぞれです。その役割がふさわしいかどうか、どうやって見定めるのですか」


地位の高い貴族の家に生まれたからと言って、能力も高いとは限らない。それに何を基準に役割を決めるのかが全くわからなかった。


「どうやって決めるのかは私からは話せないのだ。たが、今のうちに学べることは身に付けておかないと、きっと後悔することになるであろうな。」


お父さまによると、両親の地位が高くても、本人の能力が低いと判断されれば、強制的に実家から分家をさせられ、地位を落とされるそうだ。ただし、実家の地位が低くて、本人の能力が高いと判断されたときは、実家ごと地位を上げてもらえるそうだ。実際はそんなことはほとんどないらしいが。


なんだそれ。前のままのサラだったら、分家コースだったんじゃないの。それなのに、お父さまもお母さまも焦ってないのは何故だ?


「フリッツ先生から、このままでは間に合わないかも知れないと言われましたが、わたくしは大丈夫なのでしょうか。以前がどうだったか覚えていないので、わたくしにはわからないのです。」


不安になっておそるおそる尋ねると、お母さまは意外なことを言い出した。


「何を言うのですか。フリッツからは全く問題ないと聞いておりましたよ。心配することはなにもありません」


えっ?そんなはずはないのに。あんな進み具合の勉強で問題がないわけがない。驚いて固まっている私に、お父さまもお母さまと同じことを言う


「そうだぞ。サラ。フリッツからは順調に勉強は進んでいると報告を受けていたのだ。何も問題はないと私は思っているぞ。そんなに不安になることはない」



これはフリッツが虚偽報告をしていたに違いない。

全く心配をしていない両親に、私は焦りを隠せない。マズイ。このままでは私は分家させられ、侯爵令嬢ではいられなくなるかも知れない。右も左もわからない異世界で、分家として放り出され、ひとりでなんとかしないといけないなんて絶対に無理だ。




そのあと、両親と何を話したのかほとんど覚えていない有り様で食事を終え、自室に戻った私は、眠れずにバルコニーに出た。


「どこに行っちゃったの?」


名付けの後、しばらく留守にすると言って出かけたルウがまだ帰ってこない。


「ルウに聞きたいことがいっぱいあるのに」


ルウにならこの世界のことをもっと色々教えてもらえるかも知れないのに、そう思っていると、暗くなった遠くの森にぼんやりと光が灯った。

なんだろう。

目を凝らしていると、その光はどんどん近づいてきてバルコニーに飛び込んできた。


「えっ?」


驚いている私の目の前で、その光の中から赤毛の女の子が現れた


「サラ様。ただいま戻りました」


「ルウ!どこに行ってたの?遅いよ。心配してたんだからね」


駆け寄ってぎゅっと抱きしめる


「すみません。サラ様。精霊の里に行ってきたのです。」


ルウは風の精霊の女王さまに、無事に名付けが終わったことを報告に行っていたらしい。名付けのあと精霊の里には自力で辿り着かなくてはならず、すごく時間がかかったと言う。報告が終われば、女王さまが里からの転移陣を設置してくれるので、帰りは一瞬で、これからは簡単に里帰りができるようになるのだそうだ。


「女王さまにはサラ様のおそばにいる許可をもらいましたから、これからはこんなに長く離れることはありません。ご心配おかけしてしまったみたいですね」


申し訳なさそうに言い、ルウは少ししょんぼりしてしまった


「ちゃんと戻ってきてくれたからもういいよ。ルウも疲れてるでしょ。今夜は一緒に寝よう。」


「いえ、サラ様と一緒に寝るなんて、そんなことできません」


ぶるぶると首を横にふりながら、辞退するルウだったが、私が抱きしめたままベッドに入ると、観念したようだ。


「サラ様、今夜だけですからね」


たくさん不安なことがあるはずなのに、サラがサラではないことを知っているルウが側にいるだけで、さっきまで眠れなかったのに、横になって目を閉じるとすぐに眠りの淵に落ちていった。




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