人がいない町
「現在52か所で同じ現象が起きています」
「はぁ…処理するこちの身にもなってくれよなまったく」
「えーっと、また新たに3件の発生報告が」
「おいおいまだ収まらないのか?勘弁してくれよ…」
「たった1日でここまで増えるとは異常な速度ですよ」
「異常なことぐらい分かってるよ。こんなの誰だって初めてだ」
「まさか本当にこんなことが起きるなんて」
「どうなっちまったんだよこの世の中は…」
「…ゾンビ」
突如発生したゾンビ化現象。
1週間も経たないうちに町は完全な廃墟と化してしまった。
しかしゾンビ化はその街だけに収まり外部への発生拡大は確認できなかった。
そのため町が廃墟化していることに気づいたのは1か月も後になる。
GUARDにこの情報が来る頃には近隣の住人は避難を終えており、
調査をするにはとても動きやすくありがたい状況になっていた。
そして今日GUARDは初めてゾンビ町へ足を踏み入れる。
「…っとなんだこりゃ。酷い有様だな」
「ドローンを飛ばして周囲をスキャンします」
「散らかり放題荒れ放題…本当に町一つが廃墟になったんだな」
「問題なのはこの町だけっていうところなんですよね」
「普段から他の場所との行き来が少ないところだったから発見が遅れるのはまぁわかるんだが、それでも警察の通信記録から初めて発生した日から考えてると何かしらの現象が1か月もこの町にとどまってるってことなんだよな」
「条件が上手くそろって外部に影響が広がらなかったか、どのみち空気感染ではないようですし」
「どうなってるかは実際にゾンビに合わないとだめみたいだな」
「…生体反応を感知しました。3体いますね」
「どっちだ」
「右3軒目の家屋ですね」
「家族ってことか、よし行こう」
「しかし町がこんなに静かだと不気味ですね」
「巨大なお化け屋敷って感じだな」
「周囲に他の生体反応はなしと…それじゃあ入りますか」
「おしっそうだな。ゆっくり開けるぞ」
音をたてないように静かに扉が開かれる。
中は薄暗く空気はじめじめしていた。
生体反応は2階で感知された。
階段もゆっくりと、
一歩ずつ慎重に確実に進んでいった。
そして反応が確認された部屋の前まで来た。
「さあて心の準備はできたか」
「まぁその時はその時でしょう」
「言うじゃない、じゃあ開けるぞ」
最後の扉は勢いよく蹴破り、
即座に銃を構えた。
だが。
「…あ?なんも居ねえぞ?」
「そんなはずは、あれ…生体反応が重なってる?」
「見せろ。なんだこれは…どうなってる」
「見えないのにいるてことですかね」
「だけど報告だとゾンビって言ってたよな」
「これじゃゾンビじゃなくてゴーストですよ」
「んー…反応は動く気配なしか…どうする?」
「そうですね。一応ドローンは飛ばし続けます。時間経過で何かが変わるかもしれません」
「そうだな。夜になれば何か変わるかもしれない。とりあえず安全な建物に待機するか」
「その方がよさそうですね。ここで帰っても上に怒られちゃいますから」
「それもそうだ。飯も買ってきてあるし時間は十分にある。焦らず慎重にやろう」
「はい」
それから何時間も観察、
ドローンのスキャンとカメラ映像による監視を続けたが特に変化はなし。
そして結局何事もなく朝を迎えてしまった。
「…起きてるか?」
「はい、ここ数時間の映像を確認してますが…何も起きてないですね」
「ゾンビ現れずか…ますますわからなくなったぞ」
「どうします?いったん本部に戻った方がいいんじゃないですか?」
「そうだな。上に連絡する」
「昨日あった生体反応はそのままか…ん?あれ…動いてる」
「おい大変だ」
「これ見てください。例の生体反応が深夜に移動してまた家に戻ってるんですよ」
「連絡ができない、圏外になってる」
「え?」
「あ?」
「圏外ってそんなはず」
「…ここを出るぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
2人は入ってきた街の入り口まで戻ってきた。
しかしそこにはあったはずのものがなくなっていた。
「俺たちの車はどこにいったんだ」
「道が…」
「なんなんだ…この町は!?」
車は消失し、
外につながる道はそこまで長くなかったはずなのにまるで永遠に続いてるようだった。
「ドローンを高くまで飛ばします…町の周囲を確認しないと」
ドローンが空高く上昇し、
町の外をカメラにとらえる。
「…これは、一体」
「町以外何もない…な」
「この町には2つの現象が起きていたんだ…」
「ゾンビ化と空間の隔離か」
「だからゾンビ化の現象が広がらなかったんだ…」
「なるほどな、だが最初は連絡がとれていたってことは空間の隔離はゾンビ化の後ってことになるな」
「あぁそうですね、まるで…」
「誰かがゾンビ化の規模拡大を止めるためにやったみたいだ」
「そうです。これは相当ややこしいことになりましたね」
「今頃本部も俺らと連絡が取れないからって援護を向かわせてるかもしれない」
「それはまずいですね…見つからなければ帰ってしまいますし、待機したら僕らと同じように迷い込んでしまうかもしれない」
「だから昨日は焦るなといったが、前言撤回だ。片づけるぞ」
「いやでも何もわかっていない状態でむやみな行動は」
「いいや分かってる」
「え?」
「あれを見ろ」
「…あれって、電波塔ですかね。あんなもの来たときは確かなかったような」
「あそこに行けばどっちかの問題は何かわかるだろ」
「そんな無茶な…」
「俺らはエージェントだ。問題を解決するためにここに来た。そうだろ?」
「そう…ですけど」
「…俺1人で行く」
「え!?いやまってくださいよそれこそ本当に何が起こるか」
「お前は外部との連絡方法を探してくれ」
「先輩…」
「チャックだ」
「え?」
「俺の名前だよ」
そういうとチャックは振り向くことなく塔へと走っていった。
残された僕は一気に情けなくなった。
エージェントなのに。
―GUARD本部―
「なるほど。連絡が途絶えたと」
「応援を向かわせた方がいいのでは」
「そうだな。あの町に向かう一般人もいない。今すぐ向かわせよう」
「しかしこんな時にエージェントXはどこに行ったんだ」
「なんでも長官が直々に命令を下して極秘任務に行ってるとか」
「極秘任務ってなんの」
「そりゃ極秘だから俺にもわからんよ」