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無法の王は心を喰らう  作者: アメアン
二章 無法の王は過去を見る
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第三話 王は愚行を受ける

 法が無くなる一年前。

 ザンミアも十四歳になり、身長も伸びて大分顔立ちも男前になった。

 そして、魔法学校に通い充実した学生生活を


「おい、ザコミア。金出せよ」


 送れるはずもなかった。


「……嫌だ」


 裏庭に呼び出され、いつものように金を巻き上げられる日々。

 顔だちは良いもの、相変わらず眠そうな目つきをしておりそのギャップのせいか学校の生徒からは良く思われていない。

 

「はあ!? またそうやって反抗すんのか!! 落ちこぼれのくせに!!」


 彼の周りには五人の集団。

 全員魔法学校の生徒。

 入学して一週間した時からこの八年間、ずっとザンミアを苛めている。


「…………」

「またこいつ黙ってやがる!! 正論言われて何も言えねえか!!」


 ザンミアは落ちこぼれだった。

 魔法は昔から上手く使えず成績も良くはない。

 そんな彼の事をいつしかみんな「ザコミア」と呼ぶようになり、学年内では有名人。

 

「おい、いつものあれでいくぞ」

「「ああ」」


 集団のリーダ―的な男は指示を出し、それに従うようにして仲間は彼を取り押さえる。


「――――っ」


 ザンミアは全く抵抗を見せず、されるがままに腕を後ろで固定され


「雑魚が!!」


 一発。


「おらぁ!!」


 また一発と腹や顔を殴られる。


「…………」


 ザンミアは涙を流すどころか痛がる顔すらも見せない。

 そんな弱い部分を見せない彼に対して更に苛立ちが湧き、何発も体を殴った。


「はあ……はあ……」


 殴りつかれた男は息を荒げながら彼の無様な姿に鼻で笑い飛ばす。


「……ねえ」


 すると、ザンミアは下から彼の顔を見上げながら


「……痛いん……だけど?」


 静かに呟いた。


「なっ……」


 彼の眠たげな瞳には自分が映り、不気味さを醸し出している。


「うるせえ!! ザコミアがぁ!!」


 この後、ザンミアは数えきれない打撃を受けた。


――――


 苛めっ子の集団はこの後、お金だけを巻き上げて教室に戻った。

 取り残された彼は壁に寄りかかり一人で日向ぼっこをしている。


「またやられたの?」


 そこに、横から声を掛ける女性が一人。


「……シーク」


 その声の主はシークだった。

 入学する前日に扉の前で針を必要以上に拒んでいた女の子。

 あれからというもの、彼女だけはザンミアに手を加えることなく優しく接していた。


「いつも思うんだけどなんで反抗しないの?」


 彼女は彼の横に座り、奥にある焼却炉を見ながら会話を続ける。

 シークは大人っぽく見せるためにツインを止め、一本のポニテで長い髪を括っている。


「嫌だとは言った」

「言っただけで止めたらそもそもリンチなんてしないわよ……全くしょうがないわね」


 そう言って彼女はザンミアの顔に手を翳し、そこから淡い光を放った。


「……卒業まで許可なく魔法を使うのは禁じられてるんじゃ……」

「うるさいわね。ばれなきゃ大丈夫よ。私が回復魔法の適正者なことに感謝してよね」

「……うん」


 この後ザンミアは焼却炉を見つめながら彼女の視線に気付くこともなく治療をしてもらった。


「さて、これで大丈夫よ」


 彼女は治療を終えると、再び彼の隣に座る。


「もう治療は終わったんじゃ?」

「うるさいわね!! 治療して、はい終わりましたそれじゃさようなら。じゃなんか味気ないじゃない!! 少し会話に付き合ってよ!!」

「……分かった」


 とは言ったものの、ザンミアの一言で場は静かになり奇妙な時間だけが流れていた。


「…………」

「…………」


 妙に気まずい。

 

「ねえ、ザンミア」

「……何?」

「あんた、好きな人っているの?」

「…………」

「…………」


 なんだかすごく恥ずかしくなってきた。

 シークは変な質問をした自分を殺したくなり、顔を紅潮させる。


「やっぱ今のは忘れて!! ていうかあんたも無視なんかしないで――」

「分からないんだ。その、好きってのが未だに」


 再び沈黙の時間が流れる。

 シークは彼の目を見つめるがそこにあるのはただ奥に顔を向けて眠たそうにしている彼の姿。


「入学前日もそんな事言ってたわね」

「そうだっけ?」


 どうやらあの日の出来事を覚えているのは自分だけのようだ。

 

「そうよ。私が針を嫌がってたのをあんたの母親に必死に縋ったのよ。あの時は迷惑を掛けたと思ってるわ」

「覚えてないや」

「あっそ、なら別にいいけど」


 三度目の静寂な時間。

 どうもザンミアとは一つの会話が長く持たない。

 何度も質問しても帰ってくるのは三文字か二文字。

 

「……シークは」


 しかし、今日は珍しく彼から質問をして来た。

 意外な行動に彼女もドキッとするが、冷静を保ちながら彼の声を聞く。


「な、なに?」

「シークは好きな人っているの?」


 急な発言に胸が熱くなる。

 どうした急に。

 なぜそんな質問をしてくる。

 まさか、いや、絶対ありえないか。

 彼に限ってそんなことはありえない。

 それに確信を持てるのは一番自分が理解してるはず。


「わ、私は……」

「…………」

「いない……」

「…………」

「いない……こともない」


 言ってしまった。

 自分に好きな人がいると言ってしまった。

 まずい。どうする。

 もしこれで自分の好意に気付いてしまったら彼はどんな反応を示す。

 緊張が高まる中、彼が出した答えは


「その好きてどんな感じなの?」

「……へ?」


 それが誰かではなくどんな感じかというもの。

 

「あ、ああ。そうね、そうよね……」

 

 期待した自分が馬鹿だったか。

 彼の様なよく分からない価値観を持つ人間が予想通りの反応をするわけがない。

 分かってた。

 分かってはいたが、どこか寂しくも思える。


「こう、ドキドキするってか。胸が締め付けらるっていうか。苦しいっていうか」

「それ病気なんじゃ……」

「あんたなら絶対言うと思ったわ……」


 彼女は考えた。

 どうすればこの感覚が伝わるか。

 

「うーん、あ。そうだ」


 そして、一つの案が頭に浮かんだ。


「ねえ、ザンミア」


 すると彼女はザンミアの肩に自分の頭を優しく乗っける。

 長くツヤのある髪が微かに顔に掛かり、肩からは温もりと重みを感じた。


「……これは?」

「なんか感じない?」

「別に……」

「うっ……じゃあ、嗅いでみてよ」

「何を?」

「何をって……私の髪を!! 女の子に何でも言わせない!!」

「ごめん……」


 ザンミアは彼女の頭部に顔を寄せ、ゆっくり嗅いでいく。

 彼の鼻が頭に当たり、彼女の心臓は今にでも張り裂けそうだった。


「……どう?」

「良い匂いがする」

「で、でしょ!?」


 臭いと言われないか少し不安ではあった。


「……これが何か関係あるの?」

「ドキドキしない? その、異性の匂い嗅いでその……ムラムラというか何というか……」

「……むらむら?」

「ええい!! もういいわ!! いつまで嗅いでんのよこのバカたれが!!」


 シークは顔面が赤くなっているのを見られないように俯きながら彼の顔を引き離す。


「はあ……本当あんた何考えてるか分かんないわ」

 

 シークは溜め息をつきながら体育座りの姿勢で太ももに顔を埋めた。


「シーク、まさか今ドキドキしてるの?」


 彼の言葉に反応し埋めていた顔を上げた。


「なっ……ドキドキなんてしてるわけ――」

「でも顔が赤いよ?」

「…………っとだけ」

「ん?」

「ちょっとだけしてるわよ!! このバカ!!」


 聞いてるだけなのになんでここまで罵声を浴びせられるか疑問に思っていた。


「なら……触っていい?」

「……はっ?」

「そのドキドキどんな感じか触ってみていい?」

「……あんたそれ……え!?」


 つまりそれは意図的に自分の胸に手を置くということでる。


「駄目?」

「そんなの駄目に決まってるじゃない!! 自分が何言ってるか分かってんの!?」


 今の彼女の中では嬉しいんだかイラついてるのかよく分からない感情が渦を巻いていた。


「そっかじゃあ仕方――」

「待って!!」

「?」

「どうしても、触りたいの?」

「いや、そこまで」

「そこはどうしてもって言いなさいよ!!」

「じゃあどうしても」

「じゃあは付けなくていい!!」

「どうしても、触りたい」


 彼女自身も自分が何を言ってるのか分からなくなっていたが、彼の瞳を見ていると何故か許してしまう自分がいた。

 少し抵抗もあるが、彼の考えを見てると彼なら問題ないのでは? と思う自分がいた。


「それじゃ、少しだけなら……」


 そう言って彼女は座った体制で胸を突き出し、顔を真っ赤にする。


「いいの?」

「いいから早く!! こっちが恥ずかしくなるじゃない!!」


 もうすでに恥ずかしい。


「分かった……じゃあ」


 彼は右手を前に出し、シークの左胸に向かって伸ばしていく。


「…………っ」


 彼女は緊張の余りに彼の行動が目に映すことが出来ず、瞼を強く閉じている。

 ザンミアは次第に胸との距離を縮めていき、そして


「…………え?」


 彼の手の温もりを感じた。

 しかし、その温もりは胸の上ではなく


「なんで、私の顔に手を……?」


 彼女の紅潮した頬だった。

 ザンミアは半分閉じた瞳でこちらを見つめ、優しく手で顔を包む。


「なんか、こっちの方がドキドキしてそうだったから」


 少し何を言ってるか理解出来ないが、彼女にとってこの時間が異常なまでに幸せに感じていた。


「……ザンミア」


 彼の乾燥した大きな手が、彼女の顔だけなく心まで包み込む。


「どう?」

「熱い」

「それだけ?」

「柔らかい」

「……もう片方も触っていいよ」


 彼は言われるがままに彼女の顔を両手で挟み、親指で鼻の横の頬を撫でる。

 彼が指を微動させる度に気持ちが高ぶり、脳の中が沸騰していく。


「……ザンミア。私……」

「ん?」

「私……ザンミアの事……」


 もうここで言ってしまおうか。

 伝わるとは思えないが、このまま欲望に任せて想いを告げてしまおうか。


「あ、チャイムだ」


 しかし、狙ったかのようなタイミングでチャイムが鳴り、彼はあっけなく彼女の頬から手を離した。


「……」


 彼女は少し落ち込んだ表情を見せるが、どこか安心した溜め息をつく。


「それで僕が何?」

「うんうん。何でもない」


 彼女はそこに座ってるのが恥ずかしくなり、急いで教室に向かおうとする。


「シーク」


 その背後で彼は名を呼び、彼女の足を止めた。


「何?」

「さっきの奴、少し分かった気がする」


 分かった?

 それはどっちの意味でだ?

 自分の熱を感じてそこから読み取ったのか?

 それとも自分の熱を感じて自分も緊張したということか?

 もし、もし後者ならば、それは彼女にとって朗報でしかない。


「そ、そう。それは良かったわ」


 しかし、彼女はその真偽を確かめることはしなかった。

 ここで聞くのは少し違う気がしたのだ。

 今は彼の言葉の意味が分からずとも、何れゆっくり自分の気持ちに気付いてもらえばいい。

 そう思って、今回はこのまま教室に戻ることにした。


「また触らせてね」

「ほへっ!? また変な事言って……まあいいけど……も、戻るわよ!!」

「うん」


 二人はお互いの意志を確認しながら教室へと向かっていった。

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