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無法の王は心を喰らう  作者: アメアン
三章 無法の王は死体を飾る
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第五話 奴隷は真実を知る

更新遅くて申し訳ありません。

 ティアナはすぐに二人の注目の的となった。

 肩まで伸びた綺麗で銀色の髪に、どこか誇らしげに横に伸びた眉毛。

 間違いなくつい最近まで一緒に行動していた仲間のカファルだ。彼の瞼は固く閉じ、透き通った肌が更に透き通っている。

 

「どうやら知っているようね。だから法奴隷を中に入れたくなかったのよ……」


 シークは溜め息交じりで首を折り、片方の頬を膨らませながらザンミアを軽く睨んだ。


「そう怒らないでよシーク。僕は何も考えなしに彼女を迎えていると思うかい?」

「それは分かってるけどさ……」


 ティアナはこの光景が異様に見えて仕方ない。

 自分の仲間の死体を間にし、普通に会話を繰り広げる彼らの神経が理解不能だった。


「まさか……カファルをあなたが……?」


 冷や汗を背に彼女はシークに眼差しを集中させた。

 彼女からすれば、シークという女性は悪魔に身を捧げた人間にしか見えない。


「勘違いしないでよね。私は人を殺した事なんてないわ。ただ道に転がっている死体を回収して、それを実験に使っているだけよ」

「実験……!? 私の仲間をそんな事に巻き込まないでください!!」


 凭れかけた体を壁から離し、前に屈んで大声を出した。

 響く声を鼓膜で掴んだザンミアは


「なら外にでも捨てに行くかい? 僕からすればその方が残酷に思えるけどね」

「捨てるなんてしないわ!! ちゃんと埋葬してあげるのよ……どうしてそんな考えになるの?」

「そんなの……もったいないじゃないか」

「……へ?」


 シークは彼の沈んだ顔を確認すると「また始まったか」と言わんばかりの表情を浮かべて首を横に振った。


「どうして人はそこまでして死体を土に埋めたり燃やそうとするのか理解出来ないよ。僕には死体の悲鳴が聞こえるんだ。捨てないでくれ、燃やさないでくれ、てね」

「――――」

「だから僕が飾ってあげるんだ。死体であの大きな城の壁を埋め尽くすんだ。もう二度と、報われない死体達を出させはしないと決めたんだ」


 カファルの肌を撫でながらザンミアは悲しげな瞳を釘付ける。

 一瞬でも彼の発言に重みを感じた自分を罵りたいが、彼の言動に対してどう言えば否定になるのかすら分からなかった。

 

「ティアナさん、あなたの気持ちは分かるけど今はどうこう出来るものじゃないわ。もし、本当に仲間を救いたいならまずは私の説明を聞くのが賢い選択よ」


 シークは一旦落ち着かせようと場を整えた。

 静まり返る空間でティアナは深く考える。確かに今は彼女の説明を聞いた方がいいのかもしれない。

 そもそも自分は仲間の死体を回収出来るほどの力と権力がない。それならば、出来るだけの情報を書き集めていつか法奴隷の仲間に報告した方が懸命というもの。


「どうやら聞く気になったみたいね。それじゃ、話を始めるわ」


 ティアナは下を向いたまま、近くの席に座った。

 

「それじゃまず、このカファル君という子の死因だけど――」


 シークはカファルの血にまみれた腹部を指差し解説する。


「おそらく刃物による殺害よ、右の脇腹を三回刺されている。見つけた時には彼の周りは血だらけだったわ」


 死体の腰から上に服を捲り上げ、刺された箇所からは綺麗に傷痕が三つ確認出来た。


「……この死体はいつ?」


 ザンミアは顎を指で摩りながら推理でもするかのように尋ねた。


「三日前よ。ちなみに場所はここから一キロ離れた森の中。でも、あそこだと人目が付きやすいからなんでこんなに放置されていたかは不明だけどね」

「三日前か、傷口が広い割には腐臭もしないし綺麗だね。何かしたのかい?」


 シークは彼の発言に反応を示すように胸を張り、偉そうな口調で


「よくぞ聞いてくれたわ。実は今回の話のメインはそこにあるの」


 彼女は立ち上がり、棚から何冊かの分厚い本を手に抱えてきた。

 茶色く滲み出る古風な紙から察するに、何十年も前の本のようだ。


「ま、待って。カファルの死因はそこまでしか分からないの?」


 ティアナはすぐさま話の論点を元に戻す。このまま傷口の事だけを話されては、自分の疑問が有耶無になってしまう。


「誰が殺したかまでは分からないわ。特にこれと言った足跡も無かったしね」

「でも彼には他にも仲間がいたはずなんです!! まさかカファルを見捨てて逃げたとは思えないし……どうして彼が……」


 ティアナは自分の膝を強く握り、歯を食いしばった。

 そして更に胸が重くなる。パーバスに続いて仲間の死に姿を見届けなければならないと思うと、自分はどうしてここまで不幸なのだ。

 だが、ティアナは首を横に振った。

 違う。自分は自分の残酷な運命に酔い痴れるためにここにいるのではない。

 これは試練なのだ。パーバスが――仲間が与えた己への試練。

 否定と肯定が何度も交差するが、彼女の中での答えは出ている。

 それだけは見失わないように集中した。


「今更人がそこらで死んでもおかしくないよ。君の仲間も逃げた方が良いと判断したのかもしれないし、僕としてはそれよりも――」

「私たちはあなた達と違うの!! 人を想いやって生きて来たんだから……」

「ならどこかで殺されてるのかもしれないね。彼は仲間が殺害された後に殺された可能性もあるのだから君のその信頼は大した証言にならない」


 ティアナは唇を噛み、ただ怒りを堪えた。

 彼の意見は正論染みているが、それゆえに腹立だしい。

 

「あの、話を続けても?」


 尋ねるシークに彼女は悔しながらも小さく頷いた。


「それじゃさっきの続きね。結論から言うとこのカファルさんの死体には回復魔法を掛けているわ」

「回復魔法?」


 ザンミアは興味深そうにシークの目を見つめる。


「そう、回復魔法の応用よ。本来、回復の魔法は生きていないものには効かない。でも、それがなぜかと思って調べてみたの」


 シークは膝に一冊の本を置き、刻まれている紙を捲っていく。

 とあるページに目を付けるとそこを見開きにして


「魔法にはちゃんとした歴史があるみたい。そして、その魔法には多くの説が存在するわ」


 彼女の指す紙には文字と人が何かを崇めている絵柄が記されていた。

 

「まずは、女神説。昔は魔法を使える者はおらず、魔法と言う言葉すら存在しなかった。でも、アビレンゲネスという魔法を司る神が人にその力を与えたと言われてる」


 アビレンゲネスはこの世界に置いて全知全能を持つ神だと崇められていた。

 性格は傲慢かつ、怠惰で色欲に塗れた女神。人に魔法を与えたのも、人がそれを用いて戦争を起こすための引き金だという説が強い。

 己の与えた力で人々が苦しむ様を見るのがこの女神の退屈な日常の遊戯だったそうだ。


「でもね、私はこれではないと思うの」


 魔法学校ではこの説を唱え、魔法は有力だが人の影を引き出す道具でもあると肯定した。だから我々にとって大事なのは魔法を学ぶこととその使い方なのだと教えられたのだ。

 しかし、シークはその説自体を否定するように


「仮に女神が人に魔法を与えたとして、それが己の暇を潰すための余興だったらそれは的外れよ。実際魔法が争いに使われたのは最初だけで、最終的にはラクティアンス・フォールライによって良い方向へと導かれたわ。なのに魔法は没収されず、今もこうして人の体に宿っている。無法の世界になることを予測していたとなればまた話は別だけど、私は別の説を唱えるわ」


 言い残すとシークは別の本を膝に置いた。それは先程の本より古く、埃を大分浴びていたと見られる。

 

「……へくちっ」


 と、浮いた埃に鼻元を擽られシークは可愛らしいクシャミを披露した。

 張り詰めた空気を自ら崩す彼女の行動にティアナは目を点にするが、ザンミアはすかさず


「大丈夫かい? ほら、これで鼻を」


 紳士的な行為に彼女は頬を赤らめながらもどこか嬉しげだ。

 鼻を紙で吹いた後に気を取り直して話を再開する。


「それでね、その説なんだけど私は『核竜』が関係していると考察したの」


 その単語を耳にした瞬間に、場が静まり返った。


「……まさかあの?」


 ザンミアはいまいち彼女の考えが理解出来なかったのか、再度問い質した。


「ええ、あの核竜よ」

「確か何千年も前の話だよね? 人に魔法が宿った年数を計算してもかなり外れてるよ」


 魔法が存在したのは約五十年前。核竜が仮に関わっていたとしてもそれでは何百年もの歳月が経ったことになる。


「そうね。でも魔法が使えるのが人に宿ってすぐだなんて決まっていないわ」


 ザンミアは悩ましげな表情を浮かべながら推理を始めている。


「ま、待って」


 そこにティアナは話の腰を再び折るように口を出した。


「どうかしたの?」

「その、かくりゅうて何ですか? 竜なのは分かるんだけど、そのあなたが言っていることがいまいち……」


 シークはザンミアの顔を見て詳しく話していいかの確認を取った。

 彼は冷静に小さく頷き、話題を逸らすことを促す。


「核竜――またの名を竜神グジャ。生物界の覇王とも呼ばれた最強で無敵の竜よ。体長はおよそ八十メートル。横に並べば人が虫くらいの大きさに見える程ね」

「そんな強大な生物が存在したんですか……?」

「法奴隷さんのところではこういった話はしないのかしら。それに核竜の話は割と有名よ」


 シークは一から核竜についての説明をした。

 核竜には全属性の魔法が宿っており、それに加えて理不尽なまでに力がある。

 どういった経緯で生まれたかは不明だが、その恐ろしさがゆえに世界が文字通り崩壊しかけたそうだ。

 そこで人々は知恵を振り絞り、竜神に対抗したが結果は敗北。世界の終りもそう遠くなかった。

 

「まずあの大きさからして完全に仕留めるのは無理だと判断した。どこかに封印しようにもその檻に入りきらないし、人の手でどうこう出来る存在じゃなかったのよ」


 竜神には刃が通らない。大砲などのありとあらゆる手段を用いて攻撃を仕掛けたが、傷一つつけることは出来なかった。

 

「そこで考えたのよ。奴をどうすれば抑えられるか、どこに閉じ込めればいいか」

「……まさかそれが」


 ティアナは話の内容を理解し、過去の人々の行動が読めた。

 体長八十メートルもある巨大な竜を唯一封印できる場所、それは――


「今僕らがいるこの下の下。核だよ」


 回答を述べたのはザンミアだった。

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