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無法の王は心を喰らう  作者: アメアン
二章 無法の王は過去を見る
22/43

第十六話 純悪の華は蕾を落とす

 法が無くなり六年。


 竜の咆哮が飛び交い、夜も眠れない日が続く。

 赤き竜が火を吹き、森を燃やしていく。

 黒い竜が他の竜を連れて人を喰らい続ける。

 竜の鳴き声と人の悲鳴が交差するこの大地で、余裕を持ち合わせながら歩く青年が一人。


「さてと、今日も練習しないとな」


 ザンミアは黒いスーツと赤いネクタイを身に纏い、荒くれる天地を進んでいく。

 天使に他の世界を見せて貰った時に視界に入ったスーツを着た男。その服装だけは気に入り、特注で作って貰った。

 

「――っ!!」


 一匹の竜がザンミアの存在に気付き、雄叫びを上げながら羽根を広げ突進を繰り出した。

 鋭い歯を見せつけながらこちらに向かってくるが、ザンミアは笑顔のまま


「おいで」


 竜は噛み砕こうと口を開くが、その体制を維持したままぴくりとも動かなくなった。

 宙に浮き、彼を睨みつけているがその巨体が揺れることはない。

 

「これが『金縛り』か。竜でも全く身動き取れないなんて凄まじいな」


 ザンミアはご満悦な表情で微動にしない竜の横を通った。

 異変に気付いた他の竜は群れを作って彼の元に襲い掛かる。

 四方八方行く手を塞がれたザンミアは、立ち止まるが自分が人気者にでもなったかのように喜びを見せた。

 

「そんなにみんな僕と遊びたいのかな」


 一匹の竜が火を吹き、灼熱の炎が地面を伝っていく。

 他の竜も吹雪の息を吹きかけるなど、一斉に攻撃を繰り出した。――が、ザンミアの前まで近付くと逃げてくようにしてそれぞれの息は楕円を描いた。

 

「すごいすごい。これが『加護』の力か。物理と魔法も竜の息すらも無効にするなんてこれは無敵と言っても過言じゃないね」


 天使は神に愛された分だけ加護の力を宿している。

 ザンミアはその加護を多く纏い、ほぼ全ての攻撃を防ぐことが出来た。

 自分が天使の翼を裂いた時は不意打ちだった為に、魔法は通じたが常に警戒すれば問題はない。

 他にも『破滅の音色』や『魂の回収』などの即死技もあるのだが、『殺さずの鎖』のせいで今の彼では人に向かっては使えない。

 後者の技なら人を傷つけなくとも殺すことが可能だが、それが出来ない彼にとってはなんとももどかしい力でもあった。

 

「――――」


 竜の群れはザンミアに集中するも、警戒の体制を取るようになりそれ以上近付く者がいなくなった。

 一人の青年に何十匹の竜が怯えを見せる奇妙な光景をザンミアはただ楽しんでいる。

 世界は崩壊の道を進んでいるのに対し、彼は世界が壊れれば壊れるほど充実感を覚えていた。

 竜の奇襲もあってか、犯罪自体は増えてはいない。しかし、人々の心は揺さぶられ信頼が虚無になった。

 愛や平和などを語る人間はいなくなり、今は目の前の現実に向き合うかどうかだけを考えている。


「実の所、僕は君たちの親玉に用があるんだ。どこにいるのか教えて欲しいな」


 ザンミアは首を傾げながら竜に尋ねるが、言葉の通じない竜は喉を震わせながら彼を睨みつける。

 

「竜にも親玉がいるとは聞いたけどどんな奴か気になるなー。色でも分かれば見つけやすいんだけど」


 彼が竜を見渡している時、後ろから


「親玉の竜は黒色だよ」


 聞き覚えのある男の声がした。

 振り向くと、騎士の鎧を装備して剣を構えている人物が一人。


「久しぶりだなザンミア。俺の事覚えているか?」

「……ズーダンさん。あなたのことを忘れた日はありませんよ」


 ズーダンは仲間を引き連れずに一人で行動していた。

 全身は血で汚れ、先程まで竜と激闘していたのが伺える。


「なんでここに?」

「竜の討伐だよ。もう騎士ではなくなったが、騎士の心は今も健在だ。人を安心させるために一匹でも多くの竜を仕留めるんだ」


 その時、一匹の竜がズーダンに飛び込んで来た。

 不意を突かれたかと思ったが、ズーダンはすぐさま姿勢を低くし剣を構える。

 剣を地面に噛ませた後すぐに下から切り上げ、喉に一太刀お見舞いした。

 ズーダンは「ふんっ!!」と力んだ声と同時に血を帯びた刃先を変え、腹を切り裂いた。

 竜は叫びながら尻尾を彼にぶつけるが、筋肉質な体に受け止められ


「でやあ!!」


 尻尾を腕で包んだまま地面に巨体を叩きつけた。

 竜はその衝撃で気を失い、ぐったりと地面に寝込んだ。


「さすがズーダンさん。強いですね」

「――これぐらい出来ないと騎士は務まらんよ」


 周りの竜は真ん中に佇む二人の化け物を見つめている。

 二人はその視線に気を遣う事もなく、会話を続けた。


「あれから六年か。前より大きくなったじゃないか」

「ええ、御蔭様で。ズーダンさんこそ相変わらずがたいの良い体をしてますね」

「ははっ。なんだか昔より落ち着いてるな。世間と真逆のようだ。さすがは社会の不適合者は懐が違うな」

「今は社会なんてものは存在しませんよ。法律が無ければ悪は肯定される。そうは思いませんか?」

「法が無ければか……やはり貴様は危険だ。法が無くとも私がお前を否定するよ。人の正義はここにある」


 ズーダンは己の胸に拳を置いて勇ましい目で彼を見つめた。


「……正義なんて言葉、自分を否定されない為の道具でしかない。今でもそんなものを信じてるなんてズーダンさんは馬鹿なんですか?」

「正義は馬鹿じゃないと務まらんのだよ。いつか平和な時代が来ると私は信じている」

「僕にとっては今が平和です。自分が自分でいられるみたいで毎日が楽しいですよ」

「お前は寂しい人間だな……」

「寂しい? どこがですか? あなたなんかに分かるはずがない。僕の気持ちなんて……」


 ザンミアは静かに呟く。

 淡々と語るズーダンの姿は自分を見下しているようで気分は良くない。

 だが、自分は変わったのだ。天使の力によって自分はこの世界で最も恐れられる人物となった。

 誰にも邪魔させない。自分の野望は誰にも邪魔させない。


「それで、私を後悔させると言ってたがどう後悔させてくれるのだ?」


 彼の煽りにザンミアは


「ああ……あれは忘れてください。あの時の僕はまだ若くていわゆる思春期だったんです。誰にも認められず勝手に荒くれて、口調も乱雑だった」

「――――」

「でも今は違います。周りに影響されずに自分と真実に向き合う事が出来る。この先どうあるべきかが分かるんですよ」

「どうあるべきかだと?」


 するとザンミアは手を上空に翳し、口を開いた。


「確か黒い竜が親玉でしたね? だったら呼んであげます、その親玉を」


 瞬間、ザンミアの手から鋭い音を帯びた波長が出現した。

 鼓膜を刺される様な音にズーダンは耳を塞ぎ、体制を低くする。

 竜たちも共鳴するかのように雄叫びを上げ、何匹か空に舞った。

 

「一体何を……」


 ズーダンはその場で待機していたが、後ろからの圧迫感にすぐ気付いた。

 風が後ろから包み込むように吹き荒れ、森の木がざわついている。

 竜もズーダンと同じ方向に首を傾け、奥から漂う何かに目を釘付ける。

 

「あ、あれは……」


 上空から数えきれないほどの竜が飛び交い、綺麗に並んでいた。

 竜は道を開け、空に出来た肉壁を通る物体が視野に入った。

 その大きさは凄まじく、他の竜と比べ物にならない程。

 通常、竜の体長は二メートル程だがその物体は十メートルも下らない。

 

「特徴言ってくれたからすぐに見つけられましたよ。竜のボスを」


 地響きとともに竜は二人の前に現れ、ぎょろりと向きだした目玉をこちらに向ける。

 

「これが……黒竜……」


 図太い足を大地にめり込ませ、黄色い目玉に飾られた黒い虹彩で二人を映し出している。

 堂々と佇むその姿はまさに竜の王そのもの。周りの竜も黒竜が現れてから随分大人しくなった。

 

「想像以上に大きいですね」


 ザンミアは震えることなく、今にでもその巨大な顎を近付けそうな竜を眺めていた。

 

「――――」


 黒竜は黙視を維持しながらそこから動こうとしない。

 頭部からは角が突き出ており、顎からは鋭く白い歯がはみ出ている。

 背中の翼を折り畳んでいるもの、あまりの大きさに体制を前に傾けないと後ろに倒れてしまう程のようだ。


「ズーダンさん、この先この世界はどうなると思いますか?」


 ふと、ザンミアは知恵比べでもするかのように彼へ問いかける。

 ズーダンは横目で黒竜を気にしつつも、冷静な口調で


「……また法律が出来るはずだ。法は望まれたからこそ出来たんだ。この竜戦が落ち着いたら人との戦争が生まれる。だが、それは人が平和を望むがゆえに行われるものだ。私はそれでも構わないと思っている。何れ昔の様な秩序が人を守る時代が来る」


 そもそも法律を作ったのが誰かはズーダンには分からない。

 だが、一つのルールが拡大しそれが法と化したと信じている。望まれているからこそ構成され、支持を受ける。ズーダンにとって法律は信頼で出来たものだと考えていた。

 それがザンミアの様な望まれぬ価値観を持った哀れな人物を地獄に突き落とそうとも、自分や周りの人は法によって守れていたのだと確信を抱いていた。


「確かにそうなるかもしれませんね。法律は望まれている。それは間違っていないと思います」


 意外にもザンミアはズーダンの意見を認めた。

 こういった人間は悪こそが人の本能だと論じるものだが、彼はどこか違う視野を持っている。


「人の中には法律が無くとも人を思いやる気持ちがある――でも、全員がそうではない」

「そうだな、お前はな。こうして楽しそうにしてるのも今の内だ。悪は滅びるものでお前は決して物語の主人公の様な存在にはなれないよ」

「――それは法律があった時代の話です。今は違う。それにズーダンさん」


 ザンミアは佇む竜に顔を向けながら


「悪と言われる人間には努力が足りなかったから、人を殺してはいけないなどの意見が通ったんだと思いますよ」

「努力だと……」


 ズーダンは彼の意見に奇妙なものを感じていた。

 

「はい、悪を熟す努力です。最近気付いたんですが、どうも法で裁かれる人間には悪事をやってのける執念が感じられない。どこか逃げ腰で、傲慢で、目の前の事だけに夢中で。そんな努力不足な人が正義とやらに勝てるわけがない。そうは思いませんか?」


 鳥肌のようなものが立つ。

 今まで悪と肯定された人間が捕まえられていたのは努力不足だと言われては、どこか納得がいくのかもしれない。

 だが、ズーダンはそれを認めてはいけない気がするのだ。

 それを認めてしまっては、人を殺す行為そのものを認めてしまうようで首を縦に振る事を躊躇ってしまう。


「努力は何れ報われる。良い言葉じゃないですか。だから僕は努力します。これから僕が認めて貰えるように努力をします」


 ここまで応援したくない努力する姿勢は初めて見た。

 しかしそれは、ザンミアがそこまで死体に対して異常な愛情を持っている証拠。

 必死に頑張ろうとしている彼をどこか認めてしまう自分がいそうで恐怖を覚え始めた。


「僕の夢はこの世の人間を全て死体に誘い、手に入れることです。その為にも法を作り上げる人間は徹底して排除する。そんな人たちも死体をなれば憎めないものですが、これも已む得ません。何か捨てる覚悟でないと僕の野望は叶わないですからね」


 語る彼の姿は悪魔そのものだというのに、執念を持っているだけで物語に出る主人公のように錯覚してしまう。

 いや、もしかしたらザンミアという青年はこの世界だからこそ主役に相応しいのかもしれない。

 本当に彼の歪んだ野望は叶いそうで、応援されるのではないかと思えてくる。


「それが……お前の本性か……」


 ズーダンは今までザンミアを他の悪を比べていた。

 だが、比べても仕方がないのだ。

 犯罪を行うものには必ずそれなりの理由があった。

 無差別に人の命を奪おうが、過去に虐待か虐めを受けているケースが見られた。

 だが、彼はそんなものではない。何かのきかっけで堕ちたのではなく、彼と言う異常な考えこそが個性なのだ。

 ザンミア・コールネクトス。彼は悪魔の子でもなく、悪魔そのものでもない。

 例えるなら異常者になるが、ズーダンはそれで括れるものでもないことに気付いていた。

 

「ザンミア……お前は――純粋な悪だ。何かの言葉で例えるならそう……『純悪』と私は呼ぼう」


 何者にも汚されず、綺麗な一輪の真っ黒な華を抱えた純悪者。

 その華を大事に愛で、成長を遂げるようにして説得力という強力な蕾を横に咲かせている。

 彼はこの法無き世界を維持させるつもりなのだ。法が無い限り少なくとも自分は否定されない。

 だからこそ、ここから認めてもらえるように努力をする。それがこの純悪者の答えなのだ。


「二十年後……」


 ふと、ザンミアは呟いた。


「二十年後、僕の努力が報われ始めるでしょう。人々は僕という存在に恐れつつも認め始め、僕が何もしなくても向こうから私を死体として手に収めてくださいと頼んでくるはずです。そして僕は人々から認められ、一生死体に囲まれた幸せな生活を送るんです」

「貴様……」

「でもこの世には人が溢れている。死体は手に入れても飾る場所が無ければ意味がない。だから僕は王の住んでいた城を拠点にして、その壁に飾ろうかなと考えているんです。だから、この黒竜を呼んだ」


 ザンミアは黒竜の前に近付いていき、手を差し伸べた。

 唐突な行為にズーダンは声を上げそうになったが、周りの竜が彼を囲うようにして集まった瞬間に助けることは出来ないと喉を震わせるのを中断した。

 彼を囲んだ竜は親玉に何かしないかと警戒心旺盛に喉を唸らせるが、黒竜は首を横に振り手下の襲撃を拒んだ。

 ザンミアは敬意を払いつつも、黒光りした鱗に手を置き


「やあ、僕はザンミア・コールネクトス。君のその強大な力を見込んで頼みがある」


 黒竜はおもむろに太い首を下に降ろし、歯の隙間から溢れる息をザンミアの顔に掛ける。

 微かながらも揺れる前髪を整えることなく、ザンミアは


「友達になろう。僕とこれから家族同然に行動して、仲良くやろうじゃないか」


 ズーダンは聞いてて呆れる様な交渉をする彼を、冷や汗掻きながら見つめる。

 

「――――」


 黒竜は顔をザンミアの前に近付けたまま数秒間沈黙を置き


「――――っ」


 顎を開いて盛大な咆哮をザンミアに浴びせた。

 大きく震える喉はこちらからでも鮮明に見える程。

 ズーダンはあまりの声に耳を押さえ、鼓膜が破れるのを防いだ。――が、一方のザンミアは一番近くで方向を浴びているというのにその場から逃げようとしない。

 笑みを浮かべながら額を晒し、黒竜が落ち着くまで待ち続けた。


「――――」


 黒竜はしばらくして顎を閉じ、再び瞳にザンミアを映す。

 そして、首を少し上げたかと思いきや改めて彼の前に頭を置いた。


「ありがとう。これで僕たちは仲間だ」


 ザンミアは忠実に頭を下げる黒竜を愛でるように頬を撫でた。

 竜は小さく唸りながら、身も心も捧げたかのように安心した表情を浮かべている。


「僕はあの恐れられている竜に認めて貰った。ズーダンさんこれで――」


 ザンミアは後ろに振り向いた。――そこには剣をこちらに振り下ろすズーダンの姿が目に映る。


「ぬああああ!!!」


 ズーダンは勇ましい声を上げながら彼に斬りかかり、首元を狙う。

 だが、黒竜はそれを阻止しようと咆哮を再び浴びせ、ズーダンを吹っ飛ばした。


「くっ!!」


 ズーダンは尻餅は付かまいと両足で踏ん張り、剣を地面に刺して体制を整えた。

 

「ザンミア……貴様はここで……!!」

「なるほど……最初から僕が目的だったと言う訳ですか。不意を打つとは騎士らしくない行動ですね」

「そうだな――だが手段を選んでいてはお前は倒せない。あの時お前を牢屋に入れて正解だった。お前は社会の不適合どころか世界の不適合者だ。お前を生かす訳にはいかない!!」


 使命感に駆られるようにズーダンは剣を取り、再びザンミアに斬りかかった。

 

「世界が僕を認めないなら僕が世界を認める立場までに努力すればいいだけだ。僕が間違っていると言えば、世間はすぐ納得するまでに!!」


 ザンミアは手を翳し、瞳を赤く光らせた。

 それと同時に大地が割れ、ズーダンがこちらに近づけぬように地面を裂いた。

 

「これはっ……お前はここまでの力を手に入れたと言うのか……」


 大地を揺るがすほどの力は長年戦い続けたズーダンでも見たことがない。

 その強大な能力は裂かれた地面からマグマでも吹き荒らすのではないかと思うほどだ。


「ズーダンさん。あなたの綺麗な死体が手に入らないと思うと悲しいですが、これも已む得ません。ぜひ、その竜たちと遊び相手になって下さい」

「ま、待てザンミア!!」


 叫ぶズーダンを背後にして彼は黒竜の背中に足を乗せた。

 割れた地面の前に立つズーダンを見下しながらザンミアは


「僕はこの世に必要とされる存在だ。そうなるように頑張るので、ズーダンさんは応援してて下さい」

「ザンミアぁぁぁぁぁ!!!!」


 黒竜は翼を広げ、盛大に揺らしながら彼を乗せて巨体を浮かせていく。

 翼から暴風を巻き起こし、草木をざわつかせた。

 

「僕の手であなたは殺せない。だから竜に認めて貰うことによってあなたを倒す手段を選んだ。殺さずの鎖があろうとも僕が認めれられ、正しければ倒されることはない。これからもずっと、僕は僕を信じて生きてきます。何れ世界は気付くはずです。僕が――僕と言う人間が認められるべきだと」


 ザンミアは大量の竜に襲われ、腕や足を引きちぎられるズーダンの姿を見ながら呟いた。


「僕は、この無法の世界で君臨し続けるんです。そう、王のように。いつしか世間は僕の事をこう呼ぶだろう」


 黒竜は彼の言葉に耳を傾けながら上空に近付いて行った。


「――『無法の王』と」


 ザンミアは無惨に死に行くズーダンの散らかる肉片を冷たい眼差しで見つめた。

 地面に咲く真っ赤な華を見納め、黒竜と共に天空を駆け抜けて行った。

 

 法も秩序も無きこの世界。

 壮大な海と大地は大空の下に張り付いている。

 人が人を支え、世界には優しい風が運ばれている。

 真実ならぬ真実を見つめた彼は、純悪を携えたまま死体を愛でる。

 狂気を狂気とせず、人の求める物だと肯定する彼の姿は異常者極まりないだろう。

 しかし、彼はそれを認めてもらうべくして執念を抱き、努力を続けるつもりだ。

 そんな彼に世界は同情するかのように、竜という圧倒的な存在ですら彼に頭を下げた。

 ザンミアはそれに優越感を覚えつつ、目的とする王の城へと向かった。

 

 狂気が狂気で無くなる時代もそう遠くないと言わんばかりに日の光が彼を照らしている。

 輝く彼の瞳は、夕日よりも眩しく赤く光っていた。

 

 こうして無法の王は、笑顔で空を駆け抜けた。

これで二章は完結になります。

次回からは一章の続きである三章です。

感想など頂けると幸いです。

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