表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無法の王は心を喰らう  作者: アメアン
一章 無法の王は真実を告げる
1/43

プロローグ

意見を頂き、2017年2月21日に改めて投稿したものです。

 彼は天使の翼を毟った。


 白い羽根を鷲掴みにし、片方の手で押さえ手前に引っ張る。

 付け根は固く、かなり力を入れないと千切れない。

 肌触りの良いフワフワとした羽根が彼の乱暴な手を包んだ。


「――――」


 何一つ表情を変えず、プチプチと音を立て彼は作業を繰り返している。

 千切った羽根は黒い髪と服に付着していく。

 羽根が無くなった所からは肌色の皮膚が覗かせ、数カ所に血が滲んだ。


「――――」


 白い羽根を全て毟り取り、血液によって付着した羽根のカスを軽く払った。

 彼は翼を両手で持ち上げ、肉付きのありそうな部位から


「……んっ」


 がぶり。と豪快に噛みついた。

 食感は軟骨をすするようで柔らかくない。

 噛んだ跡から大量の赤い液が垂れ、地面を染めていく。

 骨を上手くかわしながら肉を噛み千切り、口の周りを真っ赤にしながら咀嚼を繰り返す。


「………」


 味は美味しくない――というより殆んど血の苦い味で舌が埋め尽くされ、肝心な肉の味が薄まっている。

 食感は固く、砂肝のような歯応え。

 そして肉を食道に通した後


「……んっ」


 また一口、横の肉を頬張る。

 少しずつ。

 少しずつ。

 少しずつ。

 血液で胃が満たされていくが、腹をさすることもなく彼は翼を喰らい続けた。

 血は口だけでなく喉まで伝り、体の前を濡らしていく。

 服すらも赤く染まり生暖かい感触が彼を襲った。


「……ふひっ」


 真っ赤な彼の口が僅かに歪む。


「ふははっは……ひひっひ……ふふふっふ」


 歪んだ口から不気味な笑いが溢れ、赤い涎が地面に滴下した。


「くくくっく……うひひ……はむっ……」


 無意識に出る笑い声を堪え、また一口食する。

 翼からは次第に骨が露わになり、肉片が大分削られていた。

 彼はこびりついた肉すらも残さないように顔を突っ込み、額までも赤くした。


 三十分程掛け、やっと全ての翼を胃に収めた。

 細い息を上空に吹きかけ、満足げな表情を静かに浮かべている。

 血に汚れた骨は周辺に散らかり、虫が寄りついていた。

 ほのかに当たる日の光が彼の体を温め、こびりついた血は凝固していく。

 

「……へへ」


 乾いた血は彼の顔面を掴むように表情筋を押さえつける。

 だが、それに抵抗するように口を動かし、赤みにヒビが入った。

 紅の瞳の横に飾られた眼球だけが白く目立つ。

 

「……これなら」


 人の気配がない川沿いの中、彼は呟いた。


「……これなら、僕は人を殺せなくとも殺せる……」


 その時、太陽の光が刺し込んでいるにも関わらず雨が降り出した。

 大粒の雨は地面を叩き、辺りを雑音で包む。

 彼は空を見上げたまま目を瞑り、綺麗な笑みを天に晒した。 

 汚れた頬と額とを洗い流し、服は更に赤く染色される。

 苦い口の中を雨で洗浄し、うがいを繰り返した。

 

「やってみせる……僕なら出来る……僕なら……」


 彼は立ち上がり、雨に打たれながら川と距離を取っていく。

 足跡のように歩いた道を血で覆わせ、振り返ることなく前へと進んだ。

 草木が濡れ行く独特の匂いと血液の刺激臭が絨毛に絡み付き、脳内を支配している。

 湿っていく空気に身を寄せながら目を鋭くぎらつかせた。


 脱力感溢れる背中とくたびれた腕を肩にぶら下げながらも、彼の中には強い執念が眠っている。

 次第に日の光は雲によって悪戯に隠され、周辺は暗くなった。それと同時に彼の顔も見えずらくなり、目をよく凝らさない限り歪んだ笑顔は確認出来ない。

 が、光を浴びなくともそこに眠る執念は曇ることなく、赤く光っていた。

 その証拠に、紅の瞳が光の原則を拒絶するように輝いている。

 紅の残像を眼球から後ろへと作りながら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ