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ノエルの金色の猫

掲載日:2015/05/04

部屋を漁ってたら、大昔に書いたやつを発見したのでサルベージ。探せば出てくるもんですね!

 さあ、決戦の日だ。

 幼い少年のノエルは、子供用のサンタのコスチュームで身を固め、ぐっと強くこぶしを作った。

「おいおい、そんな気合入れることないぞ。今日のはあくまで練習だからな」

 黒くひげを生やした若い父親が、笑ってノエルをいなしてくる。ノエルはきらきらした青い目を上げると、楽しそうにこう答えた。

「でも、女の子にプレゼントをあげるのは本当でしょ? ぼくが何か失敗して、その子のクリスマスをだいなしにするのは嫌だもん」

「えらい! それでこそサンタの卵だ」

 父親にぐしぐしと荒く頭を撫でられると、ノエルはえへへと照れ笑いして、緩んだ声で付け加えた。

「それにね、初めてのお仕事がうまくいったら、ぼくもプレゼントもらえるもん」

「何だ、それが目当てか」

 父親に軽く頭をこづかれながら、ノエルは弾んだ口調で言った。

「ねえお父さん。ぼくが立派にお仕事したら、毛が金色の仔猫をちょうだい。しっぽの素敵に長いやつ。その仔猫が家に来たら、ぼくそいつにテイルって名前をつけるんだ」

「分かったわかった」

 と父親はゆったりとうなずいて、息子にプレゼント入りの白い袋を手渡した。

「ほら、これがお前の分だ」

「中身は?」

「終わらない物語の詰まった本だ。望んだのはミィナという名の女の子。しっかり渡してくるんだぞ」

 袋の中身をのぞいたノエルは、不思議そうに首をかしげた。

「プレゼントは一つなのに、中身はずいぶん大きいね?」

「まぁ決まり事だからな。シューズ入れみたいなサイズの袋をせおったサンタなんて、格好つかんだろう」

 父親が大きな声で笑うと、ノエルも一緒になって笑った。頭の中は今日の仕事とごほうびのプレゼントの事で、訳の分からないほどきらめいていた。

「ああそうだ、今どきの家はエントツなんかないからな。俺たちサンタは、ガラスくらいなら楽々すり抜けられるから、窓をすり抜けて入りなさい」

 ノエルは「はぁい!」と元気良く返事をした後、極上の笑みを幼い頬に浮かべてみせた。


 夜中の十二時になると、ノエルは父親と一緒に家を出た。途中まで父親と一緒に行動し、ミィナの家の近くで別れた。

 子供用のソリに乗って去ろうとするノエルを、父親が軽く呼び止めた。

「終わったら、先に家に帰ってろ。お前の仕事はすぐ終わるだろうしな」

「うん、行ってきまーす」

 ノエルは冷気と昂奮に頬を赤くして応えると、小さな背を向けてミィナの家へと向かっていった。

 ミィナの家に着くと、ノエルはソリを降りた。いつも寝ているちびトナカイのポムは、ベランダの上で足を組んで、早くもうとうとし始めた。

 ガラス越しにそっと中をうかがうと、ノエルと同い年くらいの女の子が、すやすやと眠っていた。楽しい夢を見ているのか、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

 良し。ノエルはぐっとこぶしを作って気合を入れると、力んだ足を音のしないように踏み出した。す、っと体がガラスを抜ける。

 よしよし、これでカンペキだ。後はこの子の枕元にプレゼントを置いて、金色の猫をもらうだけ……。

 あれ?

 ふいに体がつっかえて、ノエルは後ろを振り返る。プレゼントの袋が、ガラスに引っかかっていた。

 あ、そうか。ぼくらサンタはガラスを通れるけど、プレゼントは通れないんだ。じゃあいったん戻ってと。

 ノエルはベランダに戻り、プレゼントをソリに置いて自分一人で窓を抜けた。

 良し、OK……ってダメじゃん、ぼくだけ中に入ったって何にもなんないじゃん!

 ノエルはぶんぶんと首を振ると、ふいに名案を思いついた。

 そうだ、ぼくが着ているサンタの服は、物なのにガラスを抜けられる。ならプレゼントを服と体のすき間に入れれば、プレゼントもガラスを抜けられるんじゃないかな?

 ノエルは袋から梱包した本を取り出して、おなかに入れた。と、今度は本がストッパーになって、ノエル自身まで入れない。

 むぅ、じゃあ背中に入れて、勢いをつけて入る作戦!

 本を背中に押しこんで、気持ちダッシュをかけるように足を踏みこむ。が、っと背中がつっかえる。

 何でなんで? 父さんたちはどうやってプレゼントを配っているの?

 ノエルは寒いベランダに戻り、しゃがんで頭を抱えこんだ。ちらりと横目でトナカイを見たが、彼は変わらず寝こけている。仮に彼を起こしたところで、助けになってはくれないだろう。

 父さんが来るまで待つか? うぅん、父さんは『先に帰ってろ』って言ったから、多分ここには寄らないで、まっすぐ家に帰るだろう。もしぼくの帰りの遅いのに気がついて来てくれても、その時はきっともう遅すぎる。

 ノエルは、ふーっと息をついて立ち上がった。

 もうこうなったら、何としてでもぼく一人でプレゼントを配らなくては!

 寒さに鼻をぐずつかせて、ノエルは、ぎゅっとこぶしを固めた。


 星の光が、少しずつ薄くなってくる。冬の遅い夜が、明け始める合図。

 ゲームオーバーだ。

 ノエルは凍りつきそうなひざを抱えて、ベランダにぽつりしゃがんでいた。脳内であんなにはっきり像を結んでいた金色の仔猫が、今はもうぼやけて見える。

 どうしよう。ぼくも本当に残念だけど、プレゼントが来るって信じていた、ミィナって子は本当にがっかりするだろう。今あんなに幸せそうに眠っている子を、ぼくは泣かしちゃうのかな。

 やだな、そんなの。

 女の子を泣かすサンタなんて、サンタの風上にもおけないや。

 自分で自分をけなしていると、どんどん悲しくなってくる。べそをかきかけたノエルが、ふっと目を上げると、ガラス窓の鍵が目に入った。

「あ。そうか!」

 思わず大声を上げて立ち上がり、あわてて口をふさぐ。女の子は少し身じろぎした後に、またすうすうと眠り出した。

 よぅし。ノエルは静かに窓を抜けると、かじかんだ手で鍵を開けて窓を開け、プレゼントを持って中に入った。

 あんまり無理矢理入れようとしたので、だいぶ梱包のよれてしまったプレゼントを抱え、ミィナの枕元に本を置く。

 ぼくが、初めてプレゼントを配った人。

 ノエルは内心で呟いて、ミィナの寝顔をそっと眺めた。気持ち良さそうに眠るミィナが、何だかとても愛しかった。

 結局最後まで寝こけていたトナカイのポムを起こして、家に帰る。白々と明け始めた空にぽわぽわと息を吐き、ノエルは生まれて初めて、嬉しくて泣いた。

 そうしてその後、風邪をひいて三日寝こんだ。


 ようやく風邪の治った日、ノエルの家に可愛い仔猫がやって来た。ノエルの言った通りの綺麗な金色の毛の猫で、細いしっぽはすてきにすんなり長かった。

 ノエルは大喜びで、ベットの上で金色の仔猫を抱き上げた。自分のつけようとしていた名を呼びかけて、ふと考えこむ。

「何だ、どうした?」

「父さん、この子男の子? それとも女の子?」

「譲ってくれたやつは、確かメスだって言ってたな。どうしてだ?」

 不思議そうに訊ねる父親に笑って首を振り、ノエルは仔猫を抱きしめた。

「父さん、この子の名前『ミィナ』にするよ」

「何でだ? 確か『テイル』にするって言ってたじゃ……」

 問いかけた父は、ああ、と訳知り顔にうなずいた。

「なるほどな。まあそれも良いだろう」

 父親がノエルの部屋から出て行くと、ノエルは仔猫の桃色の鼻にキスをした。

 サンタが初めてプレゼントを配るのは、その子が大人になるまで、ずっとプレゼントを配る人。

 ぼくはずっとずっと、君を特別にしているよ。君が、欠片もぼくの事を知らなくても。君がいつか大人になって、ぼくたちの存在すら否定するようになっても。ずっと。

 胸が、きゅっと縮まって、ノエルは仔猫を抱く手に、少しだけ力をこめた。ミィナと名づけられた猫は、『みゅう』と鳴いて、可愛らしくあくびした。

(了)


何だろう、ものすごい季節外れなこの話……。他にも多々突っこみどころありますが、生温い目で読んでやってくださいまし;

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