第3章11 予選会と酒
[10月28日 08:50時]
〈アマギ共和国 首都 桔梗 桔梗コンベンションセンタ
ー フェアリー・ウインド控え室〉
フェンリル軍GDU1stIB MRMU第1小隊 七海有希 TACネーム:ティターニア コールサイン:シルキー1-2
闘技大会開催日となり、私達は開会式が行われるコンベンションセンターに集合し、開会式の準備をしていた。
『ケリーさん、背中の紐がちゃんと固定出来ているか見て貰えますか?』
私は太鼓を持ちながら、背中の紐がちゃんと固定出来ているかを近くにいたケリーさんに確認してもらっていた。
「了解。……。うん。大丈夫ですよ。」
『ありがとうございます。』
開会式では、団体戦に出場する各軍団が順番に呼ばれる事になっており、整列するまでの間楽器の演奏でもしたらどうかと言う姉さんの発案により、フェンリルの国歌と姉さんの故郷、日本の軍歌である『陸軍分列行進曲』を演奏する事になった。その為私達は普段着ている戦闘服から陸海空海兵隊各軍の制服に着替えていた。
「クソ。どうせなら『女王陛下万歳』とか『ブリティッシュグレナディアーズ』が良かったな。」
E-スコードロンの隊長のアリアさんが言った。
「それなら俺だって『リパブリック讃歌』とか『海兵隊賛歌』の方が…。」
「同感。」
ケリーさんやエレンさんも不満ありげにつぶやいた。
「ほらそこ。文句言わないの。私だって本当は歌いたかったんだから。」
「「「「「それだけはやめろ!」」」」」
私は姉さんに変わって歌う事になっているアナトに近づいた。
『ねぇ。アナトは大丈夫?』
「何が?歌なら前にカラオケで歌ったりしたから大丈夫だよ。私の使う魔法には歌を媒介にするのもあるしね。」
『緊張とかは?私緊張でちょっと冷や汗が出てきたよ。』
「それこそ私の得意分野だよ。」
アナトは胸を貼りながら言った。
『と言うと?』
「私の得意分野は精神に関わる魔法。緊張しなくなる手段なんていっぱいあるよ。元々魔法のない世界にいたからか姉さん達には効きずらいけど、有希ちゃん達には大丈夫だし、1発受けて見る?」
『…どんな魔法かによるかな…。』
「オススメは周りの人が石ころみたいに見えるようになる魔法だね。見られるのが好きになるように他人の視線が快感になる魔法とかもあるよ?」
『遠慮させてもらいます!』
私がドン引きしていると、アナトはケラケラと楽しそうに笑った。
「クフフ。冗談だよ。はい。」
アナトの指先から小さな光が私に向けて放たれ、光は私に当たる直前に[ぽん]と小さな音を立てて消えた。
「これが本当の緊張が和らぐ魔法。まあ気休め程度だけどね。」
『ふふ。ありがと。』
全員の準備が終わり、私達が控え室でのんびりしていると、
[ワァー!!]
開会式が始まったのか物凄い歓声が聞こえてきた。
「始まったみたいね。」
歓声が聞こえて直ぐ、ギルドの係員が私達の控え室にやってきた。
「フェアリー・ウインドの皆さん。入場ゲートまで起こしください。」
「はーい。それじゃあ皆んな行こうか。」
入場ゲートには既に多くの人が集まっていた。
「うひゃー。多いね。ざっと見ても400人くらいかな。」
アマギ共和国を含む5大国が派遣した精鋭や、冒険者ギルド所属の腕に自信のある軍団の精鋭達が互いの装備や顔を見て値踏みを行っていた。
「凄い場違いな格好してるよね。私達。」
「気にしない気にしない。場違いなのはいつもの事よ。」
鎧や戦闘服に身を包んだ集団の中で、オリーブドラブやネイビーブルー、白の礼服に身を包み、太鼓や笛を持った私達は明らかに浮いていた。
私達に向けられた視線に対して手を振り返したりしていると、
「あれ?優香さんじゃないですか?」
聞き覚えのある声のした方を見ると、見覚えのあるエルフの女性が立っていた。
「あれ?あなたは…そうだ!前に護衛任務を請け負った…。」
「はい。風の隊のカレン・オーランドです。」
「お久しぶりです。カレンさん達も出場されるんですね。」
「ええ。本来なら戦うのは嫌いなのですが…。最近私達が商隊だからって舐めてかかってくる人が多くて…。古い友人にこれに出て実力を示して来いって言われたんですよ。」
「ははは…。大変ですね。」
「ええ本当に。もし当たったらよろしくお願いしますね。」
「こちらこそ。」
カレンさんは柔和な笑みを浮かべて去って行った。
カレンさんが去ってすぐ、ゲートの外の音が聞こえてきた。
《さあギルマスのありがたいお言葉が終わりました。以降は解説と司会に定評のある新聞記者の私、射命丸文でお送りさせていただきます。今年も始まった各ギルド合同闘技会ですが、今年は我がアマギ共和国で開催される事になりました。今年は新たなチームや陣営が加わり、より面白い勝負を見る事が出来る事でしょう!それでは選手達の入場です!まずは個人戦参加選手の皆さんです!盛大な拍手でお出迎えください!》
盛大な拍手の後、多くの人の叫び声や歩く音が聞こえてきた。
《個人戦参加選手の皆さんには、予選を行っていただき、勝ち抜いた8名が3日後行われる本戦への出場資格を得る事ができます。そして皆さんが気になっている優勝賞品は…。我がアマギ共和国最高の刀鍛冶が作り上げた至高の名刀!天ノ叢雲と賞金を贈呈だ!》
『『『『『うぉぉぉぉぉ!』』』』』
《さぁ次は皆さんお待ちかね!各国軍の精鋭やプロの冒険者達のチーム戦が見どころの団体戦!今回は忙しいなか極東のこの国にBランク3、Aランク6、Sランク2、推薦枠4、各国軍から5の計20のチームが駆けつけてくれたぞぉ!まずはBランク軍団!双子の魔術師が率いる新進気鋭の軍団!ブルースコーピオン!》
名前を呼ばれたチームからゲートを出て行き、出てから整列するまでの間に様々なパフォーマンスを行い、観客をわかせていた。
《続いてAランク軍団!縦横無尽に飛び回り、強靭な肉体で敵対する者全てを蹂躙する!誰かこいつらを止めて見ろ!竜人属族最強の軍団!オクトヘッドドラゴンズ!》
Aランク軍団はBランク軍団よりも大きな歓声を受けて迎えられていた。
《そして大本命!Sランク軍団!大陸各地の紛争地域や災害地域を渡り歩く、武器なき英雄!戦闘の腕はいかほどか?!風の隊!》
カレンさん達が呼ばれ、待機所に残っているのは推薦枠でやってきた軍団と各国軍のみになった。
《続けて推薦枠です!果たして大判狂わせは起こるのか?!まずはドラコグレイス王国リーンガル支部推薦!高度な連携を駆使する双子の率いるトゥーンツインズ!》
推薦枠の軍団が出て行き、待機所には気まずい空気が流れた。
(もの凄い見られてるなぁ。余裕を見せるのも大変なんけど。)
私は精一杯余裕に見せる為、不敵な笑みを浮かべていた。
《さあ最後は各国軍が送り込んできた精鋭達です!冒険者達とは全く違う戦術を持って優勝する事は出来るのか?!まずは発展した魔術を駆使する騎士達!アメックス王国陸軍第11騎兵大隊第1騎士中隊第1小隊!ギルド指定、軍団ランクはA!》
きらびやかな鎧を身にまとったアメックス王国軍の騎士達が旗を掲げながら綺麗な行進をして出て行った。
《続けて空を舞い、敵に死をもたらす竜人達!ドラコグレイス王国軍第1降下猟兵中隊第2小隊!軍団ランクはAです。》
筋肉モリモリマッチョマンの竜人達が翼をはためかせて飛び出して行った。
《森に溶け込み、多彩な戦術であらゆる敵を殲滅する!エーリンガム王国陸軍第2機動大隊第1中隊第1小隊!軍団ランクは最上位のS!》
エルフや犬人などの亜人族で構成された軽装備の兵士達が整列して出て行った。
《軍艦にのり、敵地に真っ先に乗り込む命知らずの尖兵達!我らがアマギ共和国国防海軍第2陸戦隊!軍団ランクはB!》
最後にライフルを持ったオリーブドラブの戦闘服を着た兵士達が出て行った。
《最後に!1年前突如としてこの世界に現れ、最強であった帝国を無傷に等しい損害で打ち破った!軍事国家フェンリル派遣軍ギルド派遣部隊!軍団ランクはCですが、冒険者ギルドアメックス王国フィール支部推薦枠による出場です!》
姉さんが指揮棒を持って立ち上がるのを見て、私も立ち上がった。
「さあ行こうか。」
笑ってそういった姉さんに続いて会場に歩みを進めた。
会場に行進しながら入ると、ケリーさん達のラッパの演奏が始まりアナトが歌を歌い始めた。
「O'er azure skies(紺碧の空と)
And emerald plains(緑豊かな大地が果てしなく広がる)
Where freedom and justice prevail(この地には自由と正義に充ち満ちている)
With courage and strength(勇気と力強さに溢れた)
We'll fight to the end(我らは最後まで戦う)
For liberty in our land(我が祖国の自由のために)」
魔法が施されたアナトの歌声は、不思議な響きを持って会場全体に響き渡った。
続いて陸軍分列行進曲のラッパが始まった。
「我は官軍我敵は 天地容れざる朝敵ぞ
敵の大将たる者は 古今無双の英雄で
之に從ふ兵は 共に慓悍決死の士
鬼神に恥ぬ勇あるも 天の許さぬ叛逆を
起せし者は昔より 榮えし例あらざるぞ
敵の亡ぶる夫迄は 進めや進め諸共に
玉ちる劔拔き連れて 死する覺悟で進むべし
皇國の風と武士の 其身を護る靈の
維新このかた廢れたる 日本刀の今更に
又世に出づる身の譽 敵も身方も諸共に
刄の下に死すべきに 大和魂ある者の
死すべき時は今なるぞ 人に後れて恥かくな
敵の亡ぶる夫迄は 進めや進め諸共に
玉ちる劔拔き連れて 死する覺悟で進むべし」
[ピーッ!ピッ!]
歌い終わると同時に姉さんが笛を吹き、集合場所で足踏みをしていた私達は、足並みを揃えて気を付けをした。
《以上20軍団合計392人が団体戦の参加者になり、これから行われる予選を通過した8軍団が本戦に出場となります!皆さんの健闘を期待します!それでは予定を発表します!本日はアマギ共和国国防陸軍第1演習場で団体戦の予選が行われます。予選の振り分けは演習場に張り出してありますので、後ほど確認してください。個人戦の予選は冒険者ギルド訓練所にて行われます。観客の皆様には、この場からでも予選をお楽しみいただけるのでご安心ください。それでは第13回ギルド主催大闘技会を開催致します!》
『『『『『ワァーーーー!!!』』』』』
歓声が沸き上がり、闘技会が始まった。
[10:30時]
〈アマギ共和国 首都北方 アマギ共和国国防陸軍第1演習場〉
開会式が終わった後、服を着替えて装備を整えた後、オープンカータイプの高機動車Ⅱ型に乗って予選会場の演習場に着ていた。姉さんはトーナメント表を受け取る為に一旦離れていた。
周囲には団体戦に参加する人達がたくさんいるが、高機動車に乗った迷彩服を着た集団、つまり私達は非常に目立っていた。フェンリルの隊員の多くは主にOCPの迷彩ズボンとコンバットシャツとボディーアーマーに、後は各々が気に入っている装備を着けているが、千博さんと正弘さん達特殊作戦群の面子は陸上自衛隊迷彩、八重さんはSBUが使っている黒と紺の戦闘服ではなく、空軍の基地警備隊が使用するデジタル迷彩の戦闘服、ローザさん達KSKの隊員はフレックタン迷彩、アリアさんはMTPと言うほぼマルチカムと同じ迷彩|(アリアさんに同じ事を言ったら物凄い怒られた)を着ていて、エミルさんはフィンランド陸軍のM/05を着ていた。さらにほぼ全員がバラクラバかストールを巻いていて顔を隠し、遮光レンズのゴーグルかサングラスを着けているので肌の露出が殆どなく、その異様さを際立たせていた。
『エミルさん、そのマフラー目立ちませんか?』
前をに止まっている高機動車の後部座席でライフルを抱えるエミルさんの白髪と白いマフラーが風ではためいている様子を見て聴いてみた。
《これは私の父さんに貰った私の誇り。殺りようはある。それにあっちよりまし。》
そう言ってエミルさんは近くで待機しているアメックス王国軍の騎馬隊を指差した。
指さされた事に気がついたアメックス王国軍の隊長が、私達に対して敬礼をしたので、返礼をして愛想笑いを浮かべた。
『まあそうですね。騎士さん達からしたら隠れて戦うなんて不名誉な戦いは論外でしょうしね。』
「他のチームにはその人達なりのやり方がある。私達は私達のやり方でやるだけよ。」
いつの間にか戻って来ていた姉さんが言った。
「全員集合〜。この予選はこのアマギ共和国国防陸軍の演習場で行われる。この演習場は1辺4キロの正方形の形をしており、山、水辺、平野、森林の4つのエリアで構成されており、予選は各エリアで1つのリーグを構成して行われる。そしてここからが本題だが、私達は山岳エリア、第2リーグの第1戦、相手は軍団ランクAのクロスジャッカルだ。さっきリーダーに会ったんだけど、名前の通りジャッカルの獣人みたいね。短剣を持ち軽装備だった事から近距離戦闘が得意と思われる。試合開始は今から40分後、各自準備をしましょう。」
「「「「「『了解!』」」」」」
[11:20時]
〈アマギ共和国国防陸軍第1演習場 山岳エリア〉
山岳エリアまで高機動車で移動し、目的の場所に着くと冒険者ギルドの腕章を着けた係員と16人の冒険者達が待機していた。
《総員降車。》
車のエンジンを切り、皆に続いて車をおり、姉さんの横に整列した。
「フェンリルの方たちですね。確認の為に冒険者カードを見せてください。」
「はい。」
姉さんはコンシャツの左腕のポケットからカードを取り出した。
「……。確かに。確認しました。それでは予選を開始致します。私は今回の審判と、危険防止の腕輪貸与の責任者の斉藤です。よろしくお願いします。それではまず、皆さんにこちらを渡します。」
そう言って斉藤さんは足元に置いてあったブリーフケースを開けた。
「このブリーフケースには、身代わりの魔術と転移の魔術がかけられた腕輪が入っています。この腕輪を着けていればこの演習場内に限り体の1部が欠損する、あるいは生命の維持に危険が生じた場合に1度だけ身代わりとなってくれます。また身代わりの降下が発動するか、腕から外れると同時に転移の術が発動し、マーカーの設置されたポイントに転移します。今回の場合はここになります。それでは皆様、確実に腕輪を装着してください。」
斉藤さんは姉さんと相手チームのリーダーにそれぞれブリーフケースを渡した。
姉さんがブリーフケースを開け、腕輪を装着したらケースを次の人に回していった。
「それでは装着が終わったようですので、予選を始めさせて頂きます。よろしいですか?」
「はい。」
「OKだぜ。」
姉さんと相手チームのリーダーが答えた。
「予選は今から10分後ちょうどに開始されます。ですがその前に皆さんにはこのクジを引いてもらいます。赤い物を引いたチームは開始までの10分の間に皆さんにはお好きな場所に移動してもらって構いません。10分経過の合図として黄色の花火を上空に打ち上げます。また試合終了時には赤色の花火を打ち上げます。他の場所は色が違いますので間違えないよう注意してください。それではクジをどうぞ。」
「レディーファーストだ。お先にどうぞ。」
「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて。」
姉さんと相手チームのリーダーがクジの入ったカプセルを選び、同時に開けた。結果は姉さんが当たりだった。
「それではカウントを開始します。スタート。」
「ジャッカルさんどうかよろしく。」
「こちらこそ。楽しませてくれよ?」
「そうですね楽しむ余裕があれば良いですね。ま、せいぜい頑張ってくださいな。それでは。」
姉さんはそう言うと私達に指示を出した。
「ブラヴォーはポイント167742、チャーリーは170750、エコーは170702、デルタは161703へ移動開始。アルファ、私達は165502移動。エミル。あなたはアナトを連れて独自に行動して。」
《《《《『了解。』》》》》
命令を受け、私達は移動を開始した。
『皆さん行きましょう。10分しかありませんから急ぎますよ。』
「「「「了解。」」」」
[10分後]
軍団 クロスジャッカル リーダー ジャクソン・クライテル
「10分経過したので花火を打ち上げます。」
[ヒュー……パァン!]
空に黄色の花火が打ち上げられ、予選が始まった。
「さて、あいつらは移動したが…どこにいるのかな?っと。」
俺は自慢の嗅覚を使って奴らの残した匂いを追いかけた。
「あいつらは独特な匂いがするからな。簡単に見つけられそうだ。お前ら山のほうだ。行くぞ。」
「「「「「おう!」」」」」
(さぁせいぜい楽しませてくれよ?)
[10分後]
七海有希
私達は指定されたポイントの近くで隠れられるポイントを見つけ、狙撃の準備をしていた。
HK417に着けていたM320のアンダーバレルに着けていたバイポッドを展開し狙撃の準備をしている私の隣でシャルがスポッティングスコープを準備していた。
《こちらアルファ1。アルファ4と観測の準備完了。各員の状況を送れ。》
一番見晴らしの良い位置に着いた姉さんから連絡がきた。
『こちらブラボー1。オールブラボースタンバイ。』
《アルファ3。現在ポイント173821。狙撃準備完了。アルファ2もスタンバイ済み。》
《チャーリーチーム準備完了。》
《デルタ目標ポイントに到着。いつでも。》
《エコーチームスタンバイ。》
《アルファ1了解。現在敵影は確認出来ない。待機せよ。》
『ブラボー1よりアルファ1。さっきの喧嘩腰の対応は色々まずかったんじゃ?』
《ブラボー2よりブラボー1。あのくらいなら別に大丈夫でしょ。あんなわかりやすい挑発に乗るんならその程度の奴らって事でしょ。そんな事より、私はヘリからとか船の上からの狙撃が専門で野戦は嫌いなんだけど。地面ゴツゴツしてて嫌。マット持ってこれば良かった。》
私とシャルのすぐ近くで待機している八重さんが言った。
《こちらエコー1。一応私達は作戦行動中なのですよ。通信規程を守るべきです。》
KSKのローザさんが呆れたように言った。
《おー。流石ドイツ。お堅いこって。》
《あなた達が自由過ぎるんです。》
《アルファ1よりエコー1。まあ落ち着いてよ。その問題の8、いや5割は私が原因なんだし。任務遂行に問題が出てないんだから、ね?》
そんな事を話していると、
《アルファ4よりオールユニフォーム。目標接近。方位15、距離800に8人。方位315、距離825に9人。方位15の目標を目標群タンゴ。方位315の目標を目標群ユニホームと呼称。
《アルファ1より各員、これより目標を分配する。ブラボー、デルタはタンゴの目標を狙撃。チャーリー、エコーはユニホームを攻撃。アルファ3は自由戦闘を許可する。全隊自由戦闘を許可する。》
「ブラボーコピー。有希、まずは先頭の小柄で動きの速そうなヤツなの。」
指示された先頭を歩く猫耳の軽装備の少女に狙いを着けた。
「すぅ…はぁ…すぅ…」
銃のぶれが無くなると同時に引き金を引いた。
クロスジャッカル
ヒール・リーディン
「本当に山の上にいるのかな?」
私は仲間達を連れて山に向かって歩いていた。
「姿も見えないよ。普通軍人ってのは名誉とか誇りとかを大事にしてるんでしょ?盗賊みたいにこそこそ隠れたりしないんじゃない?」
前に見た軍人はきらびやかな鎧を着たプライドばかり高い腑抜けだった。
「それがな。フェンリルの奴らは全く違うらしい。なんでも隠れるのが上手くて遠距離攻撃や奇襲ばかり使ってるって話だ。」
「遠距離攻撃ったって。弓くらいでしょ?エルフが使う弓とかならやばいけど、普通の人間が使う弓くらいなら私達の方が速いじゃん。ねぇやっぱいないんじゃない?」
「確かに影も形もないな。今回ばかりは違うかもな。」
「そうだねぇ。ん?何かひか」
[ドシュ]
「え…?」
強い衝撃を胸に受けた。足から力が抜け、膝をついた直後、再び小さな光が見え、私の視界は完全に暗転した。
七海有希
「グッドキル。」
2発の7.62mm弾が胸と頭に命中し少しすると転移が発動し、猫耳の少女の体は光に包まれて消えた。
《ブラボー3攻撃開始。足並みの乱れた集団のど真ん中にエアバースト。》
《コピー。》
[ズドォン!!]
腹に響くXM109の轟音の直後、スコープに映っていた目標を2人真っ二つにした所で爆発が発生し、まとめて4人が転送された。
《ヒュー。すげぇ威力。さすが25mm。》
あっという間の出来事にあっけに取られていた残りの冒険者達は、仲間が一瞬でやられたのをみて恐慌状態に陥り逃走を開始したが、
《アルファ3攻撃を開始する。》
エミルさんが攻撃開始を宣言した直後。
[パン!]
1発の銃声が響き、2人が同時に倒れた。
『凄い…。』
《凄ぇ。》
《こちらデルタ。目標群タンゴクリア。私達はいらなかったわね。》
《こちらエコー1。目標群ユニホームを殲滅。》
ローザさんの報告の直後、花火が打ち上げられた。
《アルファ1より全隊。良くやった。初戦としては充分。相手にはちょっと可哀想だったけどね。さあ戻って各自反省会と次の作戦会議にしましょう。》
[19:30時]
アマギ共和国首都 桔梗 居酒屋"太平洋の魔女"]
「「「「『カンパ〜イ!』」」」」
最初の1戦の後、3戦を無事を勝利した私達は、海兵隊の人達に聞いた居酒屋に来ていた。
居酒屋には私達以外にアマギ共和国国防海軍の将兵や、フェンリルの将兵も来ていた。
「さあ皆、今日は私の奢りで好きなだけ食べて良いわよ。ただし過度なお酒は禁止!それがわかったら、祝勝会を始めましょう!」
「「「「『おぉー!』」」」」
姉さんがそういうと皆は各々で好きな物を注文し始めた。
[同時刻]
〈アマギ近海 フェンリル海軍派遣第2艦隊遠征打撃群 旗艦 ブルー・リッジ級揚陸指揮艦1番艦 ブルー・リッジ CIC〉
フェンリル海軍派遣第2艦隊遠征打撃群 旗艦 ブルー・リッジ艦長 マックス・M・パラダイス大佐
フェアリー率いる部隊が会場で行動している間、大規模な通信設備と指揮能力を有するブルー・リッジが陸で活動する部隊の指揮をとる事になっていた。
モニターに表示されたアマギの地図には現在陸で活動中のフェンリル軍の人間の位置と、上空を飛行するUAV達の映像が逐一表示されていた。
《ウォッチタワー。こちらユース2-3。現在130625にいるが近くの居酒屋で喧嘩が発生。どうやら冒険者どうしの小競り合いのようだ。》
「こちらウォッチタワー(ブルー・リッジのコールサイン)。ユース2-3、巻き込まれないよう注意しつつ、133639に移動し警備ルートCからルートFに変更し警備を続行しろ。」
《ユース2-3コピー。オスカーマイク(行動に移す)。アウト。》
《こちらシルキー2-1。定時連絡。現在地128627。警備ルートBを巡回中。特に異常なし。不審者、化学兵器、いずれの兆候は確認出来ない。オーバー。》
「ウォッチタワー了解。シルキー2-1、そのまま警戒を継続せよ。ウォッチタワーアウト。」
ブルーリッジのCICでは地上部隊から入ってくる連絡にオペレーターが受け答えしていた。
《こちらバイキング3、巡回終了。特に異常なしだ。巡回をバイキング4に引き継ぐ。》
「こちらウォッチタワー。了解だバイキング3。」
「異常はまだ見られないか…。」
タブレット端末で上がってきた報告を確認したが、特に不審な動きは観測出来なかった。
「港を監視している部隊からも不審物が入ってきたとの報告はありません。」
副官のジョッシュ・P・ハウストン中佐が言った。
「これはもうこの国に入っている可能性が高いな。CIAが化学兵器の存在を確認したのがだいたい1ヵ月前。その時点で相当な数が生産されていたと報告があった。しかも敵は同様の施設を大量に作っているんだろう?これはどう考えても生半可な組織に出来る事じゃない。もっと大きな…」
私は長考に入っていた。
「はぁ。大佐。」
長考に入っていた私はジョッシュの声で我に帰った。
「今は作戦行動中です。目の前の仕事に集中してください。」
「ああ。すまん。私の悪い癖だな。」
私は再び随時上がってくる報告に目を通し始めたが、先程の疑問がずっと頭から離れずにいた。
[40分後]
七海有希
「有希ちゃ〜ん。狙撃の腕上げたねぇ〜。教官としては嬉しいよ〜。」
飲み会が始まってしばらくすると、1部の人はお酒で完璧に出来上がっていた。
『ちょ!八重さん!抱きつかないで下さい!ひゃっ!どこ触ってるんです?!』
八重さんは私の胸元に手を突っ込んできた。
「あひゃひゃひゃ!つれない事言わないでよ〜!ん?お酒なくなっちゃった。取って来るねぇ〜。」
八重さんは隣のテーブルに行き、私はオレンジジュースを一口飲んだ。
一旦落ち着いて辺りを見ると、全員この空気に酔っているのか普段よりテンションが高まっているようだった。普段はあまりしゃべらないエミルさんとシャルの2人もお酒を飲みながら花の話しをしていた。
『姉さん。これ明日大丈夫ですか?』
私は隣にいる姉さんに話しかけた。
「ふぇ?んにゃあ。大丈夫でしょ〜。」
『姉さん?』
「んん。有希ぃ〜なんか暑くない?」
姉さんは顔を真っ赤にしてオレンジジュースみたいな飲み物を飲んでいた。
『姉さん。ちょっとそれ貸して。』
姉さんが持っている飲み物を取って匂いを嗅ぐと、キツイアルコールの匂いがした。
『ちょっ、誰ですか!姉さんのオレンジジュースをカシスオレンジにすり替えたの!ああ!ダメですよ姉さんここで脱いじゃ!』
私は姉さんの腕を抑えた。
「えぇ〜。別に良いでしょ。どうせ私の貧相な胸なんて誰も興味ないでしょ〜。今はとにかく暑いの〜。」
しかし姉さんはスルスルと力を受け流して拘束を抜け出し、ボタンを1つ1つ外して行った。
「良いぞ嬢ちゃん!脱げ〜!」
「何する気だ?」
「俺達に何か見せてぇ見たいだぜ。」
「ストリップかな?ぬへへ。」
いつの間にか冒険者達が私達を遠巻きに見ていた。
『アナト!』
「はいよ〜。それじゃあ皆さん良い夢見てねぇ〜。」
私がアナトを呼ぶと、彼女は私の隣に現れ、催眠魔法で見ている人達をまとめて眠りにつかせた。
「それじゃあ店長さんお金はこれで。え?多いって?迷惑料だよ。これからしばらくお世話になりそうだしね。とっといてよ。」
アナトはいつの間にか手にしていた姉さんの財布から貨幣を出し、店長の鳥の妖怪さんに手渡していた。
「それじゃあ私達は帰ろうか。シャル手伝って。」
「了解なの。それじゃあエミル。また今度なの。」
「じゃあね。」
エミルさんが微笑むみがら小さく手を振っていた。
〈桔梗港 フェンリル海軍 やまと型ミサイル巡洋艦 やまと〉
居酒屋を脱出した私達は車に乗ってやまとに戻って来ていた。
『姉さん。着いたよ。』
私達はふらふらしている姉さんを何とか支えながら司令官室のベットまで運んできた。
「うー。脱がせてぇ。」
『え?!そ、それはちょっと。』
「はい!喜んで!」
私が狼狽しているのに対してアナトは元気に返事をした。
『アナト?!』
私が止めるより早くアナトは姉さんの服を脱がせていた。
「クフフ。これを待ってたんだよ!これで姉さんのジュースをこっそりお酒にすり替えた甲斐があったってものよ!」
『あんたの仕業か!』
「あ〜。暑い。アナト〜。なんか凄い暑いよ〜。」
姉さんは明らかに正常ではない目をしてベットに倒れた。
『アナト…。お酒に何か入れた?』
「シャルに貰った媚薬を少々。」
アナトは悪びれもなく言った。
私がシャルに非難の視線を向けるとシャルは無言で目をそらした。
「さぁ姉さん。私と素敵なパーティーしましょう!」
さっと下着になったアナトが姉さんのベットに入り込んだ。
「それじゃあ私も行くの。」
シャルもゆっくりとベットに近づき、狭いベットに重なるように入り込んだ。
「うぅ……。」
私の口から本物の唸り声が微かにこぼれた。
「…有希。おいで…。」
姉さんが潤んだ瞳を私に向け、熱っぽい声で言った。
『行きます!』
私の理性が崩れる音が聞こえたが、そんなもの全く気にせず私も姉さんのベットに入り込んだ。
毎度の事ですが、遅くなってしまい非常に申し訳ありません。
書いてしばらくしてから、「こんなんでいいのか?話し全然進んでないし、この後どうしよう」などなど色々出てきてしまい直しては消しを繰り返してました。さらにリアルでやっている艦これRPGのキャンペーンシナリオの作成やハウスルールのまとめなどに時間がかかったりしてしまいました。
次はいつになるかわかりませんが、気長に待っていただければ幸いです。
今回の迷言は『地球防衛軍3』Mission.29より、
隊員「こちら情報部、あのヘクトルは小型です。おそらく、空中輸送が可能な軽量タイプと思われます。」
隊員「大型の方は体が大きすぎ、円盤による輸送が不可能だと思われます。逆に小さいものは空中輸送が可能な軽量タイプと推測できます。」
本部「今更そんな情報が何だというんだ!」
本部「各員、攻撃を開始せよ。集中砲火でヘクトルを倒せ!」
この頃の本部は本当に鬼畜ですね。5ではいったいどうなるんでしょうか。今から非常に楽しみです。
それではこれからもよろしくお願いします。




