第3章09 軍と河童と親友
[10月22日 06:00時]
〈アマギ共和国 桔梗港 フェンリル海軍やまと型ミサイル巡洋艦1番艦 やまと〉
フェンリル軍GDU1stIB MRMU隊長 七海優香 TACネーム:フェアリー コールサイン:シルキー1-1
軽快な起床ラッパの音が桔梗港に響き渡り、眠っていた隊員達が一斉に起床した。
「んー!おはよう皆。」
「おはようございます。」
私は大きく伸びをして、近くにいる隊員達に挨拶をしてOCUの迷彩服を着て食堂に向かった。
「おはよう。」
「おはようございます。フェアリー。」
食堂で豆腐の味噌汁と塩鮭に白飯と納豆というthe日本の朝食を食べながらスケジュールを確認し、トレーを返却した後、ほうしょうに向かった。
[08:30時]
〈フェンリル海軍第1艦隊遠征打撃群 旗艦 いずも改型軽空母 2番艦 ほうしょう フライトデッキ〉
荷物を整理してほうしょうのフライトデッキで待機していると、予定通り5機のAAS-72X+と護衛のAH-64E 2機が飛来し、ほうしょうに着艦した。
ヘリの扉が開くと、良く見慣れた19人の兵士達が私の前に整列した。
「えー。まずは全員長旅ご苦労さま。これからしばらくの間、私達はこの街で生活します。今後の展開ではこの街の中で作戦行動を行う事も有り得るので、各自この街の地理をしっかり頭に入れて置くように。とは言っても、何かが起こるまでは自由行動を許可するから、この街を楽しみましょう。宿泊場所はほうしょうに空きをつくってあるからそこを使うように。以上各自部隊に別れて解散。」
敬礼をし、解散を指示すると、私の周りに千博さん、エミル、アナトの3人が集まってきた。
「お姉ちゃんこの後の予定は?」
「ちょっと街の方に出かける予定があるわ。後で詳しく説明するから、荷物を置いて軽装備で30分後に港に設置してある指揮テントに集合して。」
「「「了解。」」」
3人は荷物を担いでほうしょうに入っていったのを見送り、私はテントの方に向かった。
[08:50時]
〈アマギ共和国 桔梗港 フェンリル軍使用区〉
「メディナ准将、部隊の展開状況は?」
指揮テントで第2MEUの指揮テントを取るジョン・メディナ准将にMEUの展開状況を聞いた。
「進めていますが、全員は無理ですな。場所が狭すぎです。隊員はローテーションで上陸させてますが、緊急時には洋上待機している隊員を必要な場所にヘリで運ぶのが一番でしょう。ただSTA(スティ:観測及び目標要求小隊)のスカウトスナイパー(前哨狙撃兵)、フォース・リーコンは既に上陸して情報収集を初めてます。それとお客人の護衛部隊は準備が完了してゴーサインを待ってます。50を搭載したMRAPも用意してあります。」
「よし。その調子で頼むわ。」
「了解です。」
指揮テントを出るとちょうど3人がほうしょうから出てきた。
「はーい。第1小隊整列して〜。」
私が声をかけると、千博さん、エミル、アナトの3人が並んだ。
「今日の予定を発表します。まず村沙さん達を護送する車列について行って河城にとりと言う河童の経営する会社に行き技術協力を取り付けます。その後車列と別れ、街を散策し、1600時に神社に向かう予定です。質問は?……………無いようだからここで終わりましょう。全員HMMWVに乗車。アナト、運転をお願い。」
「はい。」
ほうしょうが揚陸したHMMWVを1両借り、運転席にアナト、助手席に私、ガンナー席に千博さん、後部座席にエミルが座った。
「出発しまーす。」
アナトが声を出し、HMMWVがゆっくりと発車し、私達が借りている港の1画の出入口に停車していたMRAP 1両とHMMWV 2両、グロウラーITV 1両の車列と合流した。
「フェアリーよりアイアンドック3-1[フェンリル海兵隊第2遠征部隊D中隊第3小隊]。待たせたわね。これより車列に合流する。」
《了解。アイアンドック3-1よりオールアイアンドック3。これより我々は桔梗北部の河城開発交易公社に向かう。事故等起こさないよう細心の注意を払え。お客さんにもこの街の人にも怪我させるな。》
《襲ってくるやつがいたらどうします?》
《警告をする。こちらからの発砲は許可あるまで禁ずる。それでは出発だ。1号車前へ!》
小隊長の号令で、先頭のMRAPが前進を開始し、車列全体がゆっくりと行動を開始した。
〈アマギ共和国 桔梗 国道4号線〉
馬車や車が通る為に整備された道を車列はゆっくりと進んでいた。
歩道を歩く人や他の車の運転手が私達の車列を物珍しそうに見ているのが良くわかった。
「注目されてるね。」
角を通す為の穴が空いたヘルメットを被ったアナトが頬をかきながら言った。
「まあ向こうの人からしたら見慣れない車が何台も並んで走ってる訳だからね。注目もされるでしょう。」
前を走るHMMWVの機銃手が小さな子供がいるのをみつけ子供に向けて手を振っていた。
「あんな感じで手を振ってあげれば良いんじゃない?これからしばらくやっかいになるんだし。」
「それでも私はちょっと恥ずかしい…。」
首を後ろに向けると、後ろに座るエミルが首に巻いた白いマフラーに顔を埋めて小さくなっていた。
「相変わらず恥ずかしがり屋だねぇ。あなたよりこの車列に運ばれてる村紗達の方が緊張してそうだけどね。」
機銃座から千博さんが声をかけてきた。
「あはは。」
《1号車より全車へ。前方を武装した集団が封鎖している。1時停車する。》
先頭のMRAPの報告を受け、私達は笑みを消し、武器の装弾をチェックした。
《アイアンドック3-1より各員。状況が判明するまで待機。命令あるまで敵対行動をとるな。》
《2号車了解。》
《3号車了解。》
「4号車了解。」
《5号車了解。》
車列が停止し、しばらくすると前方から怒鳴り声が僅かに聞こえてきた。
「様子を見てくる。アナト着いてきて。千博さんは運転を。状況によっては突破も考慮しておいて。エミルは援護をお願い。」
「「「了解。」」」
私は車を降り、HUDとスマホをリンクを確認し、ある所に映像が行くように設定した。
「各員こちらフェアリー。アナトと前に行く。援護をお願い。」
《《《《了解。》》》》
《フェアリー。こちら1号車。封鎖しているのはアマギ共和国国防陸軍の部隊のようです。現在隊長とグレン上級曹長が対応しています。》
「フェアリー了解。」
「国防陸軍?何のつもりかな?」
「行ってみればわかるでしょう。」
私達が先頭に近づいて行くと、部隊長のノーム少尉とグレン上級曹長の声と明らかに怒気を孕んだ男達の声が聞こえてきた。
「許可証はあるだろう!何が問題なんだ?!」
「駄目だ!確認が取れるまでは通さん!」
「我々の任務はこの国を守る事だ。貴様らのような不信な者に首都をのさばらせる訳にはいかんのだ。」
緑色の制服を着て刀を腰にぶら下げた5人の男達が車を横向きに止め、道を塞いでいた。
「はぁ。」
私はため息を1つ吐くと、言い争いをしている7人に近づいた。
「そこのアマギ共和国国防陸軍の5人。氏名と階級を教えてください。」
私が声をかけると男達は私の方を向いた。
「なんだ。貴様のような女には関係ない事だ。さっさと失せろ。」
「そもそも女なのか?胸がないぞ。」
「男の娘ってやつかもな。ハハハ。」
3人がバカにするように言った。
「あ。」
「バカ…!そんなこと言ったら…!」
「…………………あぁ?……………良いからさっさと氏名と階級を言えよ。ゴミが…。」
私の隣にいるアナトがわかりやすく舌打ちをして、魔力を感じにくい私達にもはっきりわかるくらい魔力を垂れ流しにして言った。ついでに銃のセイフティも解除していた。
142cmで小柄なアナトの体から黒いオーラのような物が目に見えて漏れだし、圧倒的な威圧感を放ち始めた。
「ひぃ!」
「な、なんだ…お前は?!」
「う…気分が…。」
「視認出来るほどの量の魔力…しかもこれ程高密度だなんて…。」
アナトの威圧感と魔力にアマギ共和国国防陸軍の兵士達は狼狽え、
「な、なぁ。あれが魔力ってやつか?」
「さ、さぁ?俺にはさっぱり…。」
魔法が使えない事もあって魔力をイマイチ認識出来ていないフェンリルの2人が三者三様のリアクションをしていた。
「アナト。落ち着いて。」
「………………了解です。"閣下"。」
アナトが魔力と威圧感を抑えると、軽くパニックになっていた5人が落ち着きを取り戻した。
「部下が失礼しました。私はフェンリル軍の最高責任者の七海優香と言います。そちらの氏名と階級、所属部隊を教えてください。」
私が言うと今度は素直に喋り始めた。
「黒澤小学…階級は2等軍曹。アマギ共和国国防陸軍首都防衛軍第3騎兵大隊第3中隊第2特務小隊…。」
「東郷ルル2等軍曹。部隊は同じ。」
「菅原ボリス伍長。アマギ共和国国防陸軍首都防衛軍第3騎兵大隊第3中隊第2特務小隊所属。」
「山本健二少尉。アマギ共和国国防陸軍首都防衛軍第3騎兵大隊第3中隊第2特務小隊副隊長だ。」
「武者小路ソウル中尉。アマギ共和国国防陸軍首都防衛軍第3騎兵大隊第3中隊第2特務小隊小隊長だ。」
「ふむ。では武者小路中尉。我々フェンリル軍はアマギ共和国政府から発行された正規の通行許可書を所持しています。我々の行動を妨害する理由を説明して貰えますか?」
私は毅然と小隊長の武者小路中尉に言った。
「我々は許可書が発行された事実など知らん。であるなら、その許可書が本物と確認出来るまで貴様らを自由にさせる事はできん。」
「私が徳山総理大臣から聞いた話では、この許可書は私達に手渡された時点から効力を発揮し、私達の通行の自由はアマギ共和国政府が保証しているはずなのですが?」
「その許可書が本物と言う保証はどこにもないだろう?今証明する為の道具を部下に取りに行かせている。戻って来るまで貴様らはここに拘束させてもらう。」
「そんなものを取りに行かせるのはただの時間の無駄です。それよりも徳山総理大臣から直接お話を聞いたらどうです?」
「何を言っているんだ?そんな事が出来る訳ないだろう?」
武者小路中尉は私をバカにするような目でみた。私はそれに対して笑顔を向け、腰のポケットからスマホを取り出し、耳に当てた。
「徳山さん。彼等はこのように言っていますが、どういう事でしょうか?」
《…………恐らく。鳥山さん達の派閥による妨害でしょう。詳しくは言えませんが、正規の手段で発行された通行許可書や滞在許可書などの書類には複製を予防する措置がなされていて、政府の組織に所属する者なら1目でわかるはずです。》
「では彼等に替わるので、処理は任せますよ。」
私は怪訝な目で私を見ている木原中尉にスマホをテレビ電話モードにして渡した。
「徳山さんがお話があるそうですよ。」
「は?」
最初は戸惑っていたが、スクリーンに写っているのが徳山さんと認めると、直ぐに私から離れ、隊員達と小さな声で話を始めた。彼等の顔色は目に見えて青くなっていた。
「あーあ。やっちまったな。あいつら。」
「知らなかったとはいえ、政府が認めた通行許可書を持つ集団を足止めした上、他国の重鎮に対して無礼極まりない物言い…。フェアリーや俺達の行動次第で重大な国際問題待ったナシだ。」
「覚めない悪夢に落とされなかっただけありがたいと思え。」
アナト達がそんな事を言っていると、武者小路中尉が私の前に戻ってきた。
「……通行を許可する。」
中尉はそう言うと、私にスマホを返し、馬を退けた。
「どうも。それじゃあ私達は先に進みます。が、先程言った私への暴言と私達の行動を邪魔した件はしっかりと記録してあります。後程アマギ共和国政府を通して正式に抗議し、厳重な処分を要求するので…覚悟しておけ…それでは。」
私は武者小路中尉達に背を向け、自分のHMMWVに戻った。
「フェアリーよりアイアンドック3-1。4号車準備よし。」
《了解。全車準備完了。アイアンドック3-1より全車。前進再開する。》
車列が前進を再開し、憎々しげに私達を見る5人の視線を受けながら隣を通り過ぎて行った。
[11:10時]
〈アマギ共和国 首都 桔梗 河城開発交易公社〉
途中で問題もあったが、村紗さん達を乗せた車列は無事河城開発まで到着した。
河城開発交易公社の本社は周りの建物と比べて圧倒的に場違いだった。周りは精精3階建てのレンガ造りなのに、その建物はパッと見ただけで10階建てを超えていた。材質もレンガではなく、コンクリートのように見えた。
玄関の前で車列が停車し、隊員達が降車し、村紗さんと副船長を降ろした。
私達4人も、HMMWVを降りた。
「あ、ありがとうございました。七海さん。ここまで送ってくれて。」
「いえいえ。街を見てまわる良い機会でもありますから気にする事はありません。それより約束の件ですが…。」
「社長に会わせると言う話ですね。ちょっと待っていて下さいね。」
村紗さん達はそう言って建物に入って行った。
[10分後]
「お待たせしました!私が社長兼開発主任の河城にとりです!」
しばらくすると、青い服と緑の帽子、大きなリュックを背負った少女が息を荒くしながら扉を開けて飛び出してきた。
「ふおぉぉぉぉ!今まで見たことない装備に車!本当に異世界の人間!しかも大勢!お会い出来て光栄です!」
河城にとりと名乗った少女は興奮しながら手を差し出してきた。
「ど、どうも。異世界から来た軍事国家フェンリルの総帥の七海優香です。」
私は差し出された手をちょっと引きながらも握った。
「ご丁寧にどうも!色々お話もありますし、是非上がっていってくださいな!」
「それじゃあお言葉に甘えさせてもらいましょう。ノーム少尉。アイアンドック3-1は来た時とは別ルートを通り桔梗港に帰投。その後は各自自由行動を許可します。久々の陸よ。精一杯楽しみなさい。」
「了解です。皆喜びます。」
「ただしハメを外しすぎないように。もしこの国の人に迷惑をかけたら…そうね、私直々にボコボコにした後、OMONと母さんの尋問を受け、さらにSEALsのヘルウィークをやってもらおうかな。」
「そ、そいつは勘弁ですね。命の危険を感じます。肝に銘じておきます。では。」
ノーム少尉は敬礼をし、MRAPに乗り込み、車列は私のHMMWVを残して去っていった。
「おぉぉ。かっこいいね。プロみたい。」
「そりゃあもちろん。プロですからね。」
「そいつは失敬。それじゃあ中に行きましょうか。あ、村紗は今日は帰っても良いよ。皆心配してたからね。早く帰って安心させてやんな。」
「はい。ありがとうございます。それじゃあ優香さん。今度はうちに招待しますね。」
村紗さんを見送った後、私達はにとりさんに連れられて建物に入った。
[12:30]
〈河城開発交易公社 16階 社長室〉
にとりさんの案内で地下の研究施設等を見学した後、技術提携の契約を交わし、協力の約束を取り付けた。
「これで今まで発想だけで実現出来なかったアイデアの実現が近づいたよ!ありがとう!」
「まあ私達の得にも繋がるからね。さっきちらっと見ただけでもあなた達の技術力がかなり高いのはわかったし。なんであれだけ高い技術があるのに公表しないの?」
地下の研究施設のガレージには戦車に似た車両や戦闘機等の試作型が置かれていた。
「企業ってのは、最新技術を隠しているものだよ。民間に出されるのなんてほんの一部。実際はそれ以上の技術を隠しているもんさ。海軍には正式に採用されたカ4式小銃とカ3式短機関銃と試作型の戦闘機と戦車を20ずつ納品して、量産も始まったよ。確か海軍は今頃西部で訓練中だったはずだよ。陸軍は知らないね。あそこは独自の研究施設があるからね。噂ではあっちも似たようなもの作ってるらしいね。」
「海軍陸戦隊が訓練してるっていうのはそれの事かな?」
「たぶんそうなんじゃないかな。詳しくは知らないよ。」
「というかそんな事他国の軍人に教えて良いの?」
「これはうちで出してる一般向けの資料にも書いてあるから問題ないよ。」
「ならいいけど。おっと。もうこんな時間か。そろそろ行かないと。」
私は時計を見て、立ち上がった。
「この後何か約束が?」
「ええ。この後神社に行く約束があるの。」
「神社って言うと、霊夢さんのところ?」
「そうだけど、どうしてわかったの?」
「この辺で神社って言えば、博麗か守矢の2箇所しかないからね。それに、この国に住む妖怪で博麗の巫女、霊夢さんのことを知らないやつは滅多にいないよ。それで?霊夢さんの所になんの話をしに行くの?」
「……霊夢達をうちの艦に招待しようと思ってるんだけど、」
私は少し悩んだが、正直に言った。
「マジで?!」
にとりさんが凄い勢いで身を乗り出してきた。
「マジよ。」
「お願いします!私も一緒に連れて行ってください!」
にとりさんは私の予想通りのことを、物凄い綺麗なお辞儀をして言った。
「別に良いわよ。」
「いやったー!」
「それで、この後神社でいつ来るか話会うんだけど、一緒に来る?」
「行く!ちょっと部下に伝えて来るから玄関で待ってて。」
「了解。」
私達はエレベーターに乗り、入口に停めてあったHMMWVでにとりさんが来るのを待つ事にした。
[15:50時]
〈博麗神社〉
山にはHMMWVが通れる道が無いので、麓でHMMWVを降りて歩いて山を登り、今日は特に妨害も無く神社に着いた。
「結構時間がかかったな。」
「道がなかった。」
「こんなところにある神社に人なんてくるの?」
アナト達は予想以上に厳しい道のりに軽く文句を言っていた。
「やっと来たわね。」
境内を掃除していた霊夢が声をかけてきた。
「今日は結構な人数ね。見知った河童もいるし。こっちで声をかけた人はもう揃ってるけど、まず最初にやって欲しい事があるわ。」
霊夢はそう言うと賽銭箱を指差した。
「お賽銭箱はあっちよ。入れて行きなさい。」
「霊夢さん………。相変わらずだね。」
「うちの家計はあんたの所と違って火の車なのよ。」
にとりはそんな発言に苦笑いしつつ、賽銭箱に貨幣を入れた。
〈博麗神社 居間〉
霊夢に続いて居間に入ると、4人がくつろいでいた。
くつろいでいたのは、縁側に座る文さんと、その隣に座る白髪で尻尾と犬耳を持つ160cmくらいの剣と盾を持った少女、白黒の服と、同じく白黒の大きな帽子をかぶった150cmくらいの少女、そして居間でお茶を飲む緑の髪に巫女服を着た、
「さ、早苗?!」
「優香さん?!霊夢さんの言っていた人って優香さんだったんですか?!」
私の元いた世界の親友だった。
「もう…会えないと思ってた……。」
「私もです。まさか優香さんもこっちに来てるなんて…。」
「早苗!」
「優香さん!」
私達は久々の再会に涙を浮かべ、互いの体を抱きしめた。
〈16:20時〉
落ち着いたので周囲を見ると、全員がニヤニヤしながら私達を見ていた。
「落ち着いたかしら?」
「え、えぇ。もう大丈夫。」
「私も大丈夫です。」
「そう。それじゃあ打ち合わせに入る前に、あんた達について軽く教えてもらおうかしら?」
霊夢の言葉に隣に座っていた白黒の服を着た少女も頷いた。
「確かに気になるぜ。ついでに自己紹介といこうか。私は霧雨魔梨沙だぜ。仕事は何でも屋をしたり、紫にギルドの仕事を回してもらったりしてるぜ。気軽に魔理沙って呼んでくれ。さん付けはいらないぜ。」
「よろしく。魔理沙。私は七海優香。異世界の軍隊の指揮官よ。今は様々な種族の人で構成される多種族混成部隊を率いているわ。こっちの3人は私の部下よ。」
私は早苗の隣に腰をおろし、アナト達3人も同じように腰をおろした。
「フェンリル軍多種族混成部隊、第1小隊の七海アナトよ。種族は悪魔族。これからよろしくね。」
「悪魔族…。実際に見るのは初めてね。まあ、伝承はあくまで伝承で、実際に悪さしてないなら何かするつもりはないけど、余計な面倒を増やしたくないならあまり種族は名乗らない方が良いと思うわよ。」
「くふふ。ご忠告ありがとう。でもお姉ちゃんはこんな化物な私でも好きって言ってくれた。だから私は自分の事が好きになれた。私は私の種族に誇りを持てた。だから名乗るのはやめないよ。」
「そう。なら良いわ。余計なおせっかいだったわね。」
「くふふ。」
「……なんか言いにくいな。まあ良いか。私は舩坂千博だ。所属はフェンリル陸軍。趣味は武術だな。剣道、銃剣道、格闘術こんな所だな。よろしく頼むよ。」
アナトと霊夢のなんとも言えない空気に気まずそうにしながら千博さんが自己紹介をした。
「…………フェンリル陸軍北方軍ウッティジェーガー連隊第1大隊第1中隊第1狙撃小隊小隊長。エミル・ヘイへ中尉。」
エミルはそれだけ言うと白いマフラーに顔を埋めた。
「お終わりですか?」
メモを取っていた文さんが質問した。
「他になにか?」
「いや、あの、しゅ、趣味とか。」
「狩り。鳥を遠くから一撃で仕留める。他には?」
「い、いえ。結構です。」
エミルは文さんを、具体的に言うと文さんの羽をじっと見ていた。
(どうしたんです?文さん。)
(何故かわかりませんが、彼女の目に言い知れぬ恐怖感が…。)
文さんと犬耳の人がヒソヒソ会話していた。
(なあフェアリー。あれやばくないか?)
(最近狩りどころか訓練もチームワークとか近接格闘ばかりで撃ってないからね。ストレス溜まってるんじゃないかな?)
(うーん。そうだ。今度ギルドで狩りの依頼でも皆で受けよう。訓練にもなるし、この世界では猛獣退治の仕事も多いからね。)
エミルが文さんの羽を獲物を狙う狩人の目で見つめているのを見ているのを見て、早いうちにガス抜きしないと、と決めた。
(あの羽ふわふわで顔埋めたら気持ち良さそうだな。触らせてくれないかな?)
エミルがそんな事を考えているとも知らずに。
「おっと次は私達ですね。私は新聞記者の射命丸文です。私は烏天狗です。そして隣にいるのが私の友達で、この街の警備をしてる白狼天狗の犬走椛です。」
「友達というか、ただの腐れ縁ですがね。どうも犬走椛です。この街の治安維持を仕事にしています。」
「つれないですね〜。同じ部屋に住んでるのに。」
「偶然同じ部屋になっただけですよ。」
「うーん。」
文さんと椛さんの2人のやり取りを見て、アナトが首を傾げていた。
「どうしたの?」
「あれって、ツンデレで良いのかな?」
アナトがそう呟くと、
「な!!つ、ツンデレじゃないですよ!私は文さんとはただの腐れ縁で、それ以上でもそれ以下でもないです!む、むむむしろ嫌いです!」
「くふふ。でも、体は正直だよ。」
「ど、どういう意味です?」
「尻尾をそんなに振っちゃって。か〜わいい。」
「?!」
椛さんはアナトの指摘を受けると、振り向いてブンブンと振られる尻尾をガシッと鷲掴みにした。
「な、何の事でしょうか?これは、あれです。早苗さんと優香さんの関係に興味をあるだけです。それに私は白狼天狗、狼ですよ?犬とは違いますから。」
「狼と犬ってその辺違うの?」
「さぁ?ほとんど同じだと思うけど?」
「まぁ。そこの犬は置いておいて、早苗と、優香だったな。2人の事を話してくれよ。」
魔理沙さんが言うと、椛さんも私達の話が気になるのか、顔を真っ赤にして尻尾を握ったまま黙った。
「それじゃあ私達が出会う少し前から話そうかしら。」
「私は両親が軍人だった事もあって、小さい頃から軍事に興味があったの。父さんや母さんに基地に連れて行って貰った事も何回もあった。そんな私が小学校を卒業した後進学したのは自衛軍中等教育学校、まあ軍の学校ね。そこを卒業した後は普通の学生生活を経験する為に、ごくごく普通の高校に通うようになったの。とは言え、中学の同級生の殆どはそのまま高等工科学校に進んだから知り合いもいないし、両親の訓練と中学の影響で物凄く悪目立ちしてたと思うけどね。」
「ほんとですよ。みんな眠そうに登校してくるのに1人だけキビキビ歩くし、肌も髪も真っ白で、真っ赤な目をしてるし、よくサングラスかけててしかもそのサングラスが凄い似合ってるし、寡黙であまり喋らないし。その上美少女だしで男子も女子も噂してましたよ。」
「あの頃はちょっと荒んでたのよ。本来の私は結構おしゃべりよ。それに、早苗の緑の髪もかなり目立ってたわよ。生活指導の先生に何回も呼び止められてたじゃない。」
「私は別に良いんですよ。」
「全く。それで上手く馴染めていなかった時に、出身中学が中等教育学校って言ったらさらに人が寄ってこなくなっちゃって。」
「それだけじゃないですよ。近づかなくなった理由。英語とロシア語はネイティブ並にペラペラだし、他の授業も軒並み優秀で、歴史の授業で戦史をやった時は歴史の先生にダメ出しするし、みんなドン引きしてましたよ。」
早苗は思い出したのか、クスリと笑いながら言った。
「うぅ。今は反省してます。そんな訳で孤立していた時に、わざわざ別のクラスから昼休みに放課後一緒に遊びに行こうって私に話しかけに来たのが、」
「早苗だったのか。」
私は魔理沙さんの言葉に頷いた。
「だって面白そうじゃないですか。それに普通の人よりちょっと変な所がある人の方が仲良くなったら長く続くものですよ。」
「あなたも十分変な人よ。まあその通りで、一緒にカラオケとかに行ったりゲームやったりで一気に仲良くなって今に至るって感じね。」
「カラオケは面白かったですよ。だって優香さん、ふふふ。物凄い音痴なんですから。」
「え?そうなの?」
アナトが早苗に聞き返した。
「はい。頑張って歌ってるのはわかるんですけど、音程が完全に外れてて一緒に行ってた私と友達は必死で笑いを堪えてたんですよ。」
「う、うるさいわね!音楽は聞いたり演奏するのは良いけど歌うのはダメなのよ!」
「そのせいで音楽だけ成績が10段階評価で3でしたからね。後他にも」
「も、もう良いでしょ!私と早苗の出会いは話した訳だし。こっちの打ち合わせに入るわよ。」
「別に良いわよ。後で早苗から聞けばいいだけだし。」
「……もう勝手にして。それで私達の艦に招待するって話しなんだけど、明日でも大丈夫?」
「「「「「大丈夫。」」」」」
全員が頷いた。
「それじゃあ明日、0830時に港にあるうちの艦が停泊してる所に来て。そこからヘリ、空を飛べる乗り物ね。それで洋上で待機してる艦隊に移動するから。」
「艦隊って…。どんだけ連れて来たんですか?」
「2個空母戦闘群に、4個水上戦闘群、2個遠征打撃群ほど。」
「ちょ!多過ぎですよ。この国を更地にするつもりですか?!」
「まさか。そんな事するわけないでしょ。」
「で、ですよね。良か」
「ピンポイント爆撃で街への被害は最小限に抑えるから。大丈夫。誤爆は絶対にさせないから。それに、多いって言ってもマリアナとかレイテの時のアメリカ海軍よりは少ないでしょ。」
「何と比較してるんですか…。あー。優香さんがそう言う人だって忘れてました。」
「まあそれは置いておいて、みんなをうちの海軍の中核をなす、空母に招待するわ。」
「空母って、どんな船なんだ?空でも飛ぶのか?」
魔理沙が煎餅を食べながら言った。
「艦自体が空を飛ぶのは無理だけど、空を飛べる乗り物を80機搭載出来る、海に浮かぶ移動基地よ。」
「ふーん。私達も空飛べるし、それだけだとあまり凄そうには聞こえないな。」
「空を飛べるんだったら、絶対に艦隊に近づいちゃダメよ。攻撃されるわよ。」
「ほほう。私はこの国でもかなり速い方なんだがな。」
「速度はどのくらい?」
「そうだな。全力を出せば240kmは出せると思うぜ。」
「ふふ。人が出せる速度としては物凄い速いと思うけど、その程度じゃ無理ね。」
「その程度とは随分な言い草じゃないか。さぞかしそっちの乗り物とやらは速いんだろうな。」
「勿論。まず艦隊から半径400km以内に侵入したあらゆる物体は空飛ぶ目に探知されて、すぐに空母の航空隊が上がって向かって来るわよ。音以上の速さで。」
空母の上空では常にAEW&C(Airborne Early Warning and Control)であるE-2Dや、移動司令室のAWACSが待機しており、片時も欠かさずに警戒を続けているため艦隊への接近は並大抵ではない。とはいえ、空母に艦載できるE-2Dと違いAWACSは常に滞空する事は不可能なので、最も近い基地で待機している。
「音よりって…まじか?」
「まじ。もし空の目をくぐり抜けても次は艦隊の目に探知されるわ。もし探知されたら音速の3倍以上で迫る爆弾と、それを撃ち落とす事も出来る対空兵器を満載した艦の群れが待ち構えてるわよ。私達の艦隊に許可なく近付きたいなら、音速の3倍くらいは出さないと。」
「ひぇぇ。恐ろしいもんだな。」
「まあ実際はまず航空隊が確認に上がるからそこで下手な真似をしなければ攻撃される事はないわ。」
「なら一安心だな。」
「話が反れたけど、空母の見学と、時間が許せば戦闘機の後席に乗ってもらおうと思ってるわ。注意とかは明日集合した時に伝えるわ。」
「わかったぜ。」
「こんな所かしら。私から話す事はもうないし、時間もあるから後は雑談でもしましょうか。早苗がどうしてこの世界に来たのか、とか霊夢達との出会いも聞かせて欲しいしね。」
私が早苗に顔を向けると、早苗は笑顔でうなずいた。
「わかりました!まずは、うちの神社の神様について話しますね。」
[19:00時]
雑談に花を咲かせ、ふと外を見ると、外はもう真っ暗になっていた。
「あ、もう19時か。それじゃあ私達はそろそろお暇させてもらうわ。」
「そう。それじゃあまた明日。次来る時はお菓子でも持ってきてくれるとありがたいわ。」
「わかった。次はお菓子を持ってくるわね。また明日ね。」
私は立ち上がり、椛さんで戯れているアナトとエミル、魔理沙と話ている千博さんの3人を呼び、神社を後にした。
[23:00時]
〈アマギ共和国近海 ジェラルド・R・フォード級航空母艦2番艦 エンタープライズ 第2会議室〉
港に戻り、車を返したあと、私とアナトはほうしょうの艦載機で明日の打ち合わせの為にエンタープライズに来ていた。ちなみ千博さんとエミルはアマギ共和国国防海軍とうちの隊員達との親睦会に行くと繁華街に歩いて行った。
今はその打ち合わせも終わり、私とアナトの2人だけが残っていた。
「んー!後は明日になるのを待つばかりね。」
私は扉の近くに座っているアナトに話しかけた。
「そうだね。ところでお姉ちゃん。」
アナトが立ち上がり、
[ガチャン]
扉を閉めた。
「早苗さんとはどこまでいったの?」
「どこまでって、早苗はただの友達だから何もしてないけど。」
「嘘だッ!!!」
「ええ〜。なんでそんなひぐらしみたいな言い方?ちょっと笑ってるし。」
「まあ今のは言ってみたかっただけだけど、実際嘘でしょ?自他共に認める百合で変人のお姉ちゃんが手を出さないはずが無い!」
「いや、まあ百合で変人っていうのは認めるけど、痴女じゃないから。というかアナト、妬いてるの?」
「そ、そんなことないよ!ただ、何かモヤモヤして…。」
「ああ!可愛いなぁ!もう!この間はやられたから今度は私の番よ!」
「ちょ!お姉ちゃん!キャー!」
このあと滅茶苦茶
皆さんお久しぶりです。
お待たせして申し訳ありませんでした。
今回はモブの命名にはサタスペというTRPGのルルブに書かれている命名表、通称大惨事表を利用し名付けました。日本人に固定しましたが、さすが大惨事表、期待通りすごい名前になりました。ただまだパンチが足りないとは思いますね。
今回の名言コーナーです。今回は機動警察パトレイバーより、特車二課第二小隊隊長の後藤喜一隊長の言葉です。
後藤「よく見極めてから穴を開けないと、どっちに向かって決壊するかわかんないよ」
とにかく行動しろ、という言葉を良く見かけますが、そう言う人達に投げかけたい言葉です。
パトレイバーは古いアニメですが、踊る大捜査線に影響を与えたとして知られていて、今見直しても非常に面白いアニメです。警察用のロボットというロボットアニメにはあまりないコンセプトで新鮮味もあります。
次回は霊夢他がエンタープライズにやってくる話の予定です。
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