第3章08 アマギ上陸と新たな出会い
[10月21日 09:20時]
〈アマギ海 フェンリル海軍第1艦隊 旗艦 あかぎ型航空母艦1番艦 あかぎ SMI〉
フェンリル海軍 あかぎ型航空母艦1番艦 あかぎ艦長 兼 第1艦隊司令 山口多岐
3週間ほどの航海を経て私達派遣第1、第2艦隊はアマギ共和国首都桔梗の港を目視出来る距離まで接近した。
《アマギ共和国が見えて来ました。艦長。》
艦橋にいる副長の青木結友大佐が艦内無線で連絡してきた。
「ああ。モニター越しだが見えているぞ。」
《結構な時間がかかりましたね。艦魂のみんなはかなり暇だったみたいですよ。》
艦魂達はやる事がなくて暇だからか、広いあかぎの艦内の1室にこもって皆でゲームか何かをしているようだった。
「これからは嫌でも忙しくなるだろうさ。それじゃあ一旦切るぞ。」
《はい。》
無線を一旦切り、艦隊ネットワークに接続し、全艦の艦内スピーカーに接続した。
「艦隊司令の山口より各員。長い航海ももうすぐ一旦終わる。陸が恋しいだろうがもう少し待機していてくれ。上陸許可が出るまでに各自準備をしておくように。艦に残る者は対潜対空対水上警戒を厳とし、いかなる事態に陥っても即急に対処出来るように備えよ。以上だ。」
マイクを置くと、SMIの扉が開きダッフルバッグを背負って濃い緑の制服とレンズを黒の遮光レンズに換えたHUDを着けたフェアリーが顔を出した。
「多岐。徳山さんからの連絡で、うちの艦隊は規模が大き過ぎるから基本は洋上待機していて欲しいって。接岸出来るのは3隻が限界だってさ。後、私と部隊の責任者には一旦議事堂まで来て欲しいって。だから私と父さん、母さん、多岐、アレンそれとメタル隊の4人で先に上陸するわよ。LZも指定されてるわ。他の乗員の上陸はアマギ共和国国防海軍の同行のもと少しずつ行って欲しいそうよ。」
「了解しました。艦橋、SMI。艦隊は現在地点で洋上待機。艦を固定しろ。」
《アイアイマム。》
「私は残りの人に声をかけてから先に甲板に行ってるから。」
「わかりました。艦長より第5分隊。サイレントホークの発艦準備を開始しろ。砲雷長。ここを任せる。私は荷物を準備してくる。」
「了解です。」
私は作業用のつなぎから制服に着替える為にSMIを後にした。
[09:45時]
〈あかぎ フライトデッキ MH-60MS コールサイン:サイレント1-1〉
フェンリル軍GDU1stIB MRMU隊長 七海優香 TACネーム:フェアリー コールサイン:シルキー1-1
私は160thSOARのヘリで全員が揃うのを待っていた。
《ようやっと到着しましたね。》
完全武装で座席に座っているメタル隊の隊長のウィリアムが言った。
「そうね。皆少し退屈していたせいか長く感じたわね。」
《そう言えばこの間艦魂達がなにやら騒いでいましたが、何をしていたんです?》
「ああ…。暇つぶし用にクトゥルフのルールブックを貸してあげたんだけど、ダイスの女神のせいで出目が荒ぶってSAN値直葬したらしいわよ。そのせいで発狂したPCによる大乱闘が勃発して探索者がほぼ全滅したとか。」
《それは酷いですね。TRPGは俺達もたまにやりますが、やるのはもっぱらパラノイアとかサタスペですね。クトゥルフだと全員脳筋思考に偏って色々酷い事になったので。》
《忌まわしき狩人を一撃で屠った時は流石に冗談かと思いましたね。》
《探索する屋敷の土地を買って屋敷をクレーンと鉄球で浅間山荘事件にしたり、全員強盗のPCでコービットが現れた瞬間殺して家探しとかやりましたね。》
《工事用の重機でゾンビを踏み潰したときも楽しかったな。》
《発狂したPCがC4つけた車で邪神に特攻したりな。》
「それクトゥルフとは何か違うゲームになってない?」
《ははは。そういえばフェアリーもなにやら面白いことになっているらしいですね?おめでとうございます。》
「…にゃんの事かしら?」
《艦隊中で話されてますよ。フェアリーが性的に襲われたとか。その反応からすると事実みたいですね。》
《いつか起こるとは思ってましたが、フェアリーは襲う側だと思ってました。》
《フェアリーもまだまだ純心なようで安心です。》
「うぅぅ…。」
メタル隊の面々がニヤニヤと笑みを浮かべながら話していると、白い制服に着替えた多岐がヘリに乗り込んだ。
私は彼女に機体の天井につけられていたヘッドセットを手渡した。
《お待たせしました。飛ばしてください。》
《了解。あかぎコントロール。こちらサイレント1-1発艦許可を求める。》
《了解。サイレント1-1発艦を許可する。》
エンジンの回転音が上がり、ヘリが甲板を離れた。私は今の空気を改善する為に機長のレイクス中尉に話しかけた。
「レイクス中尉。ここの人はヘリに慣れてないし空を飛べる人も結構いるそうだから飛行には充分気をつけて、ゆっくり慎重に飛んで。」
《了解です。》
[10:05時]
ヘリは順調に飛翔し、山や竹林の上空を通過し、指定された地点に到着した。
「結構建築のレベルは高いみたいね。明治時代の日本くらいはありそうね。」
《ああ。さっき山の上に神社みたいのが見えたな、竹林もあったし本当に昔の日本にそっくりだな。》
《空を人が飛んでたし、やたら近代的なビルもあったけどね。》
《ん?フェアリー、LZに人がいます。》
「恐らく徳山さんの部下でしょう。拡声器を貸して。」
《どうぞ。》
拡声器を受け取り、機体の扉を開けた。
『これから着陸します!危険なので姿勢を低くしてください!』
私が叫ぶと地上にいた人達が姿勢を低くするのが見えた。
「よし。着陸して。ゆっくり、ソフトにね。」
《了解。》
機体がゆっくりと降下し、地面にほとんど衝撃なく着陸した。
《SOAR-S-11便に搭乗頂きありがとうございました。アマギ共和国に到着です。またのご利用お待ちしています。》
「ありがとうレイクス中尉。」
ジョークを言うパイロットにお礼を言い、ヘリを降りた。
「フェンリルの方達ですね!?どうぞこちらに!」
下で待っていたスーツの男性に連れられて私達は黒塗りの車に乗り込んだ。
「初めまして。私は徳山の部下の橋場と言います。」
橋場と名乗った男性は、胸元から名刺を取り出し、私達に手渡した。
「ご丁寧にどうも。私はフェンリルの総帥の七海優香です。総帥と言っても名ばかりみたいなもんですけどね。こちらは父の正弘で特殊作戦部の長官を務めています。」
「よろしくお願いします。」
「こちらは母のヘレンで航空隊含む各部隊の管制官と作戦参謀を務めています。」
「よろしく。」
「こっちは強襲上陸や早期展開部隊である海兵隊の司令官のアレン・ストルーカー大将。」
「どうも。」
「最後に、現在アマギ近海で待機している艦隊の司令官の山口多岐中将。」
「よろしくお願いします。」
私は父さん達4人を紹介すると、
「そちらの4名は?」
橋場さんはメタル隊の4人をさして言った。
「彼等は一応私達の護衛です。うちの陸軍でも最精鋭の人員です。」
「そうですか。頼もしいですね。」
「それで、私達はどこに向かっているのですか?」
「今は我が国の立法府に向かっています。そちらで徳山も待機しています。」
「なるほど。」
私は外を流れる街並みを眺めていた。
「良い街ですね。街並みは整っていますし、活気もあって。」
私が呟くと橋場さんが同じように街を眺めて言った。
「ここは73年前には内戦と地震の被害で焼け野原だったんです。」
「へぇ。という事はこの街並みは復興の証と言う事ですね。」
「ええ。もともと人間と妖怪達はそれほど仲が良い訳ではなかったのですが、この時には妖怪の方々が復興に力を貸してくれたそうです。彼等のおかげで今のアマギが完成したとも言えます。じいさんも言っていました。ついこの間までいがみ合っていた妖怪達が、人の為に動いてくれた。あの時は嬉しさとそれまで妖怪を嫌っていた自分の矮小さと恥ずかしさでいっぱいだった、と。」
「良い話ですね。」
「そういえば優香さん。先程自分は名ばかりの総帥だと言っていましたが?」
「ああ。実は私は本国で必要な業務等はほとんど副官に任せていまして。私がやる事と言ったら、軍の作戦の承認や立案、部隊を率いる事くらい。事務作業も大まかな方針を伝えて、送られて来た簡潔にまとめられた書類に目を通しゴーサインを出すくらいで国王らしい事なんてほとんどしていない。そういう意味で名ばかりと言ったんです。」
「ですが、そちらの方々や国民はあなたを総帥と認めているのでしょう?ならば、彼ら彼女らにとってはあなたこそが王なのでは?王とは自称する物ではなく民衆が認め、自発的に民衆からそう呼ばれる者だと私は思います。あなたは民衆に認められている。もっと自信を持っても良いと思いますよ。」
「………ありがとうございます。励まされてしまいましたね。」
そんなことを話していると開けた場所に大きな建造物が見えた。
「あれが我が国の立法府の建物です。」
車はゲートに近付き、橋場さんが守衛に書類を見せるとゲートが開き立法府の敷地内に入った。
「応接室で徳山が待っています。ついてきてください。」
車が立法府の入口で停車し、橋場さんに続いて私達も立法府に入った。
〈アマギ共和国 立法府 2階 応接室〉
「七海さんお久しぶりです。」
私達が応接室に入ると徳山さんが出迎えてくれた。
「お久しぶりです。徳山さん。」
「長旅でお疲れでしょう。どうぞ座ってください。」
「ありがとうございます。」
徳山さんに促されて私達は席についた。
メタル隊の4人は私達の後ろに立ち警戒を続けていた。
「それで、私達をここに呼んだ理由を教えていただけると幸いですが?」
「そうですね。顔合わせと5日前に送られてきた資料について、ですね。」
「ああ。なるほど。」
私は5日前に5大国の首脳にFROCHの現状で判明している情報の1部をまとめた資料を送信していた。
「その件に関しては我々も現在調査中です。なのでお送りした資料以上の事はお伝え出来ません。」
「そうですか…。」
「まあ何か発生した場合は私達が全力を上げて対応します。」
「私共の方でも準備をしています。すでにアマギ防衛軍の特殊部隊に招集をかけていつでも出動出来るように手筈を整えています。後ほど、そうですね……20時にそちらに伺うように伝えます。」
「わかりました。」
「堅苦しい話しはこのくらいにしておきましょう。遅れましたが、ようこそアマギ共和国へ。歓迎します。」
「ありがとうございます。」
その後はたわいもない話しをしていたが、30分ほどした時、応接室の扉が乱暴に開かれた。
「徳山君!」
「鳥山さん?!どうしてここに?」
入ってきた60代の男性に徳山さんが言った。
「どうした、は私のセリフだよ。他国の重鎮が来たのに私の所に連れて来ず、何をこんな所で雑談しているのだね?彼女達にも私にも失礼だろう?」
「はぁ。彼女達はこの国に政府の仕事ではなくギルド主催で行われる闘技大会に出場する為に来たのですよ。」
「なに?では君は身元もわからない人間の多いギルド所属の人間をここに入れたのか?この者達がスパイとは考えなかったのかね?一体何を考えているのだ?」
「どうしてそうなるのですか?彼女達は私が個人的に招待しただけですし、身元の確証もあります!」
「個人的に?それは職権乱用ではないのかね?個人的にこの立法府を利用したと言う事だな?」
「あなたに言われたくはありませんね!女性やチンピラ、ヤクザを連れ込んで不倫や献金を受けているあなたには!」
「ふん!証拠も無いのに言いがかりはやめてもらおうか。」
徳山さんと乱入してきた男はそのまま言い争いを始めた。
「皆さんこちらに。」
私達が2人の言い争いを唖然として見ていると、橋場さんが声をかけてきた。
私達は橋場さんに促されて席を立った。
「む。何処へ行こうとしているのですかな?」
私達が席を立ったのを見て鳥山が言った。
「何処へ行こうが私達の勝手です。友人と話している所を乱入してメチャクチャにするような空気の読めない人と話すような事もありませんし。」
私がそう言うと鳥山は顔を真っ赤にした。
「…君は目上の人に対する礼儀がなっていないようだな。」
「目上?その人は」
徳山さんが言おうとした事を手を上げて制してから鳥山に向き直った。
「少なくとも他人が会話している部屋にノックもせずに乱入して、人をスパイ扱いするような人よりは礼儀をわきまえているつもりです。」
私は男の耳元に顔を寄せて囁いた。
「他国の重鎮に対してスパイ扱いや会談の邪魔をする…これは私達の対応次第では国際問題、下手すれば戦争に発展しますよ?そんな事も考えつかない、あなたみたいな間抜けとは例え相手が軍のトップや国王だとしても話しをするつもりはありません。」
私はそれだけ言うと反応を見ずに徳山さんの方を見た。
「それでは私達は失礼します。徳山さん。話しの続きはこれでしましょう。では。」
私はスマートフォンを取り出して2、3回降ってから橋場さんに連れられて部屋を後にした。
〈立法府 1階 玄関〉
「申し訳ありませんでした。せっかく起こし頂いたのに。」
玄関で乗ってきた車に乗り込んだ時、橋場さんが謝罪してきた。
「橋場さんが謝る必要はありませんよ。それよりあの鳥山って人は何者何ですか?」
「鳥山さんはアマギ第2の政党の人民党の党首で、国防陸軍の出身の為国防陸軍に強いコネを持っている人です。人民党は表向きには人間と妖怪の格差を無くすと言っている政党ですが、実際は力と技術のある妖怪達が気に食わなくて排斥しようと考えている人達の集まりです。色々きな臭い話しも聞きます。ですが数は多い上に歴史もある政党なので無下に出来ないのです。」
「面倒ですね。人種差別なんて下らない事に思考を回す時間があるなら国益の1つでも考えればいいのに。個人の感情だけで利益を考えない外交は失敗しますよ。」
「私もそう思います。」
私はスマートフォンで今聞いた情報を本土にいるデリカに送信していた。
デリカからすぐに調査すると言う連絡を受け取り、スマートフォンをしまった。
「ところでこの後は着陸地点に向かうでよろしいですか?」
「あ、はい。大丈夫です。その後街を散策したいんですが、大丈夫ですか?」
「それはもちろん。地図は…あった。こちらです。」
橋場さんはダッシュボードから地図を取り出して手渡して来た。
「ありがとうございます。アリア。読み込みをお願い。」
『はーい。』
私はスマートフォンを向け、地図をスマートフォンに取り込んだ。
『読み込み終了しました〜!HUDのマップを更新して表示します!』
私は胸ポケットからHUDを取り出してマップが更新されているのを確認した。
「はぁ。凄い機械ですね。」
「私はこの世界に車や鉄製の軍艦がある事に驚きましたよ。」
「河城にとりと言う発明家の河童さんが経営している会社の製品です。どちらもまだ活動範囲が短くて、国内での運用が限界です。あなた方の艦みたいに国外へ出るなんてとても出来ませんよ。にとりさんの会社は地図に場所が書いてあったので後で行って見てはいかがですか?」
「そうですね。そこの関係者もいますし、明日にでも行って見ます。」
そんなことを話しているうちに車は着陸地点に到着した。
「橋場さんありがとうございました。」
「いえ。迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。何かありましたら連絡ください。」
「わかりました。」
橋場さんの乗った車は立法府に向けて発車し、すぐに見えなくなった。
「優香。メタル隊は街での情報収集に行ったし、俺達はあかぎに戻るつもりだが、どうする?」
「ん〜。私はギルドに顔を出してから街をうろついて見るよ。」
私はサイレントホークからダッフルバッグを取り出し、OCPの迷彩パンツとコンバットシャツ、迷彩キャップ、パワードスーツ、ボディアーマー、愛用のM5A、HK45T、草薙を取り出し、制服を脱いで順番に装備していった。
「準備万端だな。何かあったらすぐに連絡しろよ。」
「うん。じゃあね。」
サイレントホークのエンジンの回転数が上昇し、ローターが空気を切る轟音と強烈なダウンウォッシュを巻き起こしてあかぎに向けて飛び立って行った。
「さて、私も行くか。」
私はM5Aを背負い街に向けて歩き出した。
[12:15時]
〈アマギ共和国 首都 桔梗 冒険者ギルド〉
HUDのマップに従って冒険者ギルドアマギ支部本部にやってきた。
扉を開けると中は現代的な格好から民族衣装、大人から見た目は完全に子供、獣耳や尻尾の生えた人など様々な人が会話をしていた。
「いらっしゃいませ。おや?あなたはこの辺ではあまり見かけない顔と格好ですね。」
受け付けに立っていた9本の尾を持つ狐の獣人|(妖怪?)が声をかけてきた。
「ここで始まる闘技大会に出場する軍団の者です。今日ここについたので手続き等をしてしまおうと思いまして。」
「ああ。まだ大会まで1週間あるのに早いですね。少々お待ち下さい。紫様!大会の参加者が来ましたよ!」
狐の女性は後ろの扉に向けて大声で呼び掛けた。
「なによ藍…。まだお昼じゃない。」
「もうお昼です。そんな事よりお仕事ですよ。」
「ふぁぁ〜。はいはい。」
後ろの扉から出てきた金髪の女性があくびをしながら私に挨拶した。
「どうも。異世界の軍隊の指揮官さん。私は八雲紫。スキマ妖怪とか妖怪の賢者とか呼ばれているわ。」
「こちらでも私達の事は知られているんですか?」
「ええ。特にあなたはね。裏社会、闇ギルド、暗殺ギルドとかで最高値の賞金首としてね。」
「うわ。マジですか?それ。」
「本当よ。特に今内紛状態のレイシス帝国ではあなたは国を滅ぼした最悪の女、全国民の敵、ゴリラ女と物凄い言われようよ。」
「………なんか最後だけおかしくないですかね?ただの罵倒ですよね?私これでも年頃の女の子なんですけど?」
「まぁ同情するわ。そんなことより、お互いに改めて自己紹介をしましょう。さっきも言ったけど、私は八雲紫。ありとあらゆる物の境界を操る能力を持つ妖怪よ。」
「私は七海優香。ご存知の通り、異世界からやってきたフェンリルと言う軍隊を率いているものです。」
「それじゃあ優香って呼ばせてもらうわね。私の事も紫で構わないわ。早速だけど、この書類に日付、団体名、団体ランク、冒険者ギルドの登録番号、団体責任者まぁあなたの名前ね。それとあなたの冒険者ランクを順番に記入して。」
紫さんは書類とペンを差し出してきた。書類には『闘技大会参加者・参加団体』と書かれていた。
私は言われた通りに記入し、書類とペンを紫さんに手渡した。
「はい。これで良いですか?」
「どれどれ。…大丈夫ね。藍!これお願い!」
他の場所で作業をしていた狐の女性を呼ぶと書類を手渡した。
「わかりました。処理しておきますね。」
「藍。どうせだしあなたも自己紹介しておきなさい。これから長い付き合いになるわよ。」
「はぁ。初めまして。私は八雲藍。紫様の補佐をしている九尾の妖狐です。」
「あ、どうも。七海優香です。」
「それじゃあ藍。後を任せるわ。」
「はい。紫様は?」
「私をもう一眠りしてくるわ。」
そう言うと紫さんは眠そうに目をこすりながら出てきた扉へ戻って行った。
「それじゃあ私は街をぶらぶらしてきます。」
「わかりました。何か問題等が発生したらギルドに起こしください。」
私がギルドを出ようとすると、
「あ、優香。後でこの街の東の外れにある山の頂上の神社に行く事をお勧めするわ。」
紫さんが扉から上半身だけ出して言った。
「ありがとうございます。」
「別にいいわよ。それじゃあまたね〜。」
私は紫さんにお礼を言ってギルドを後にした。
[12:40時]
〈アマギ共和国 首都 桔梗〉
「ヤツメウナギって意外と美味しいのね。」
街を歩いていた時に見かけた屋台で買ったヤツメウナギを食べながら歩いていると、
「あー!やっと見つけましたよ!」
上から声をかけられたので上を見ると、背中に黒い羽を生やし、頭襟を被り、高下駄を履き、1眼レフのカメラを持った私と見た目同い年くらいの少女が浮いていた。
「?私?」
「ええあなたです。今巷で噂の強力な軍を率い、国王でありながら最前線に身を置く少女!面白いネタの匂いがプンプンしますよ!あ、私は文々。新聞と言う新聞を書いている、新聞記者の射命丸文と言います。どうぞよろしくお願いします。」
射命丸文と名乗った少女は私の前に着地すると手を差し出した。
「こちらこそよろしくお願いします。射命丸さん。七海優香です。」
私はHUDと手袋を外し、差し出された手を握った。
「私の事は気軽に文で良いですよ。色々お話を聞かせてもらえませんか?」
「私に話せる範囲なら。それと、今街の外れの神社に行く途中なので歩きながらでも良いですか?」
「街の外れの神社と言うと、博麗神社ですか。あそこには私も良く行くので案内しますよ。」
「そうなんですか?それじゃあお願いします。」
「はい!その代わり、取材させてもらいますよ!」
「あはは…。お手柔らかにお願いしますね。」
私は文さんの質問に答えながら件の神社に向かって歩き出した。
[13:30時]
〈アマギ共和国 山中〉
「はぁ。そちらの戦争は凄まじいですね。私達の戦いとは規模も何もかもケタ違いですね。」
「私はあなた達の使う魔法も凄いと思うけどね。威力は申し分ないし、充分な作戦が伴えば戦局を覆す事も可能でしょう。そんなものなくても無双出来そうな子もうちにいるし。」
「そんなものは極一部の人達だけですよ。」
「そう?あなたもかなり強いみたいだけど?」
「いやいや。私はただの文屋ですよ。荒事は他の人に任せます。まあ降りかかる火の粉は払いますけどね。」
「へぇ。ところで文さん。ここってさっきも通った気がするんだけど?」
「………あれ?」
文さんは立ち止まり周囲を見渡した。
「おやおや。これはどうやらいたずらに引っかかった見たいですね。」
「いたずら?」
「ええ。この上の神社にはいたずら好きの妖精が3人住んでいまして。良く人を迷わせたり巫女にいたずらを仕掛けたりしてるんですよ。」
「なるほど。」
私はスマートフォンを経由してHUDの心音センサーやサーマル、ソナーなどのセンサーを起動し、正確な位置情報を得るため衛星と接続した。
「妖精ってどんな姿をしてるんです?」
「人と同じですよ。サイズは小さいものは手乗りから大きい者は150cmくらいまでですね。件のいたずら好きの妖精は身長120cmくらいですよ。」
「ふむ。アリア。今の条件に合う生物を精査。」
『了解で〜す。』
「誰と話しているんですか?」
文さんが不思議そうに私を見ていた。
「うーん。説明するより見てもらった方が早いわね。」
私はスマートフォンを文さんに手渡した。
「これは…。」
文さんが画面の暗転したスマートフォンを受け取った直後。
『はじめまして。射命丸文さん。私は統合戦術支援システム、個人用多機能支援人工知能試作型、PMPSAIP-A000アリアです。』
画面が唐突につき、ぺこりとお辞儀しているアリアが映し出された。
「うわぁ!?」
唐突に出たせいでびっくりした文さんがスマートフォンを落としてしまった。
『あはは。驚かせ過ぎちゃいましたね。』
スマートフォンの画面の中でアリアが楽しそうに笑っている。
「よ、妖精が閉じ込められてる?!」
「やっぱそういう反応か。大丈夫ですよアリアは、なんていうか、意思を持って自由に動く絵みたいな感じですよ。」
『そうですね〜。物凄く簡単に言うとそんな感じですね。』
「それでアリア。精査の結果は?」
『はい。ちょっと待って下さいね。』
私が聞くと、スマートフォンに映ったアリアの頭にあるアホ毛から電波が出始めた。
「凄い細かく動きますね。」
「はぁ。」
「どうしました?」
「アリア。あんたまた勝手に変なデータ実装したでしょ?」
『えへへ。この間読んだマンガが面白かったんですよ。』
アリアは右手で頭をかきながら言った。
「私はあなたにもっと人間らしくなってほしいと思ってるから良いけど、変な情報を持ってこないでよ。」
『はーい。あ。精査完了しました。衛星の通常広域スキャンには反応ありませんでした。ですが、衛星のサーマルスキャンとスーツの心音センサー、ソナーに該当する生命体を3つ探知しました。』
「距離と方位は?」
『11時に45mです。』
「近っ。一気に行くわ。HUDに表示。」
『了解。』
HUDに輪郭が表示された。
「良し。1、2の3!」
掛け声と同時に、背中の新型ジェットパックを起動し一気に飛び出し、目標の直前で停止した。
私の目の前には背中に羽の生えた幼女が3人ポカンとした顔で私を見ていた。
「な、なな。」
「うそ。」
「まじで。」
「どうもこんにちは。」
「「「わー!!」」」
私が笑顔を浮かべながら言うと、3人は飛んで逃げ出してしまった。
[15:40時]
〈アマギ共和国 博麗神社〉
途中妖精達のいたずらに遭遇した後、頂上の神社に辿り着いた。
「やっとつきましたね。そう言えば光の屈折を操るサニーさんの能力をどうやって突破したんですか?」
「簡単よ。私達の視界が操られてるなら私達以外の目と事前のデータを利用しただけよ。」
私はHUDを外して文さんに渡した。
「おぉぉ!これは凄い!こんな薄いガラスに色々映ってますね。あの急加速も凄かったですし、凄い技術ですね。」
はしゃぐ文さんからHUDを返してもらい、かけ直した。
「それにしても、険しい道にいたずら好きの妖精、これ普通の人はここまで登って来れないんじゃないの?少し疲れたわ。」
私は背中に背負ったハイドレーションのチューブを加えて水分補給をしていた。
「おお。察しが良いですね。この神社は道程の過酷さと、人間より妖怪がたむろしている事から参拝客が滅多に来ないんです。来るのは空を飛べる妖怪や魔法使いくらい。そのせいでお賽銭も雀の涙で貧乏神社とか妖怪神社とか言われてますね。」
「ずいぶんな言い草ね。文。」
私達が声の聞こえた方に顔を向けると紅白の脇が露出した巫女服|(?)を着て、頭に大きなリボンをつけた私より少し年下の少女が大幣(おおぬさ:お祓い棒)を持って立っていた。
「あやややや。霊夢さん…。今日は良い天気ですね!」
「ごまかそうとしたって無駄よ。ここでボコボコにされるかお賽銭入れるか。好きな方を選びなさい。」
そう言って霊夢と呼ばれた少女は小さな賽銭箱を差し出した。
「仕方ありませんね。あなたとは仲良くしたいですし。」
文さんは財布を取り出すと貨幣を1枚賽銭箱に入れた。
「はいどうも。ご利益があるわよ。それで、あんたは一体誰?参拝客?この辺じゃ見ない顔と格好だけど。」
霊夢さんは私の方を見て言った。
「初めまして。私は今日この国に来た七海優香と言います。ここには八雲紫と言う人の紹介で来ました。」
「ああ。紫の紹介で。私はこの神社の巫女の博麗霊夢よ。よろしくね。ここで話すのもなんだし、上がって行って。お茶くらい出すわよ。あ、お賽銭も入れて行きなさい。」
「それじゃあお言葉に甘えて。」
私は財布を出し、貨幣を1枚入れた。
「あの〜。私も一緒に良いですか?」
「なんだ文、まだいたの?」
「そりゃあこんな面白そうな事、見逃す訳には行きませんよ!」
「はぁ。お茶菓子は出ないわよ。」
「構いません!」
私達は霊夢さんに連れられて神社に入った。
[16:30時]
1時間近く話をした私達は年齢が近い事もあってすぐに打ち解ける事が出来た。
「へぇー。外の世界は凄いわね。」
「良い事ばかりじゃないけどね。技術が進歩し過ぎて人は自分で行動する事を怠けるようになったし、例え便利になっても人は簡単に変わらないから相変わらず愚かな事を繰り返してるし。まあ軍隊を率いてる私に言えた事じゃないけどね。私もそんな愚か者達の1人って訳よ。」
「ふーん。そんなものか。」
「そんなもんよ。」
私は霊夢に出されたお茶を啜った。
「ん。ごちそうさまでした。さて私はそろそろ行かないと。この後会う予定があってね。」
「そう。それじゃあここでお開きにしましょうか。」
「そうですね。私も貴重なお話が聞けたので満足です。」
私は立ち上がり、縁側に置いてあるブーツを履いた。
「優香さん。今日はありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございました。文さん。霊夢も。今日は楽しかったわ。今度はうちの艦に招待させてもらうわ。」
「おお!」
「それは楽しみね。」
「また明日の同じくらいの時間に来るからその時に詳しい打ち合わせをしましょう。他にも連れて行きたい友達とかがいたらその時によんでおいて。」
「わかりました。」
「わかったわ。」
「それじゃあまた明日。」
私は縁側にいる2人に手を振って港に向かった。
[19:50時]
〈アマギ共和国 桔梗港〉
桔梗港に到着すると、埠頭の1画にやまととむさし、ほうしょうの3隻が入港しており、クルー達が白いテントを建てたり、明治時代ごろに日本海軍で採用されていた黒い軍服に近い物を着たアマギ共和国国防海軍の隊員と談笑していた。
「あ!優香お帰り!街はどうだった?」
私が来た事に気づいたやまとが手を振って声をかけて来た。
やまとの近くにはむさしとほうしょう以外に見た事のない少女がいた。少女はアマギ共和国国防海軍の制服を着ていた
「楽しかったわよ。新しい出会いもあったしね。その娘は?」
私はやまとの隣にいる少女について聞いた。
「この娘はアマギ共和国国防海軍首都防衛艦隊旗艦のマリーゴールドちゃんですよ。私達のエスコートをしてくれたんです。」
ほうしょうが答えると、飛翔がぺこりとお辞儀をした。
「初めまして。アマギ共和国国防海軍首都防衛艦隊旗艦、マリーゴールド型重巡洋艦1番艦のマリーゴールドです。」
「へぇ。重巡洋艦か。」
「はい!主砲の25cm2連装砲2門は私の自慢なんですよ!火力と装甲では国防海軍1です!」
マリーゴールドが胸をはると、やまと達も「おぉぉ。」と反応を返した。
「25cm砲なんて当たったら今の私達じゃ一溜りもないね。なんてったってフェンリルの軍艦のほとんどは装甲化されてないからね。」
「当てられたら。だけどね。実戦だったら25cmの射程に入る前に、ミサイルで沈められるし、私達の機動性と攻撃能力なら発射されてから回避や撃墜も出来る。それに私と姉さんの前世に比べればまだまだ。」
むさしが冷静に言った。
「そりゃああなた達の前世と比べたら大抵の軍艦は見劣りするんじゃないの?」
「え?やまとさんとむさしさんの前世ってそんな凄い艦だったんですか?」
マリーゴールドさんが驚くように言った。
「うん。元いた世界では大した活躍すら出来なかったけど、世界最強の戦艦って戦後80年がたっても世界中の人から呼ばれてたね。」
やまとが恥ずかしそうに頬をかきながら言った。
「私達の自慢はあなたも言った強力な主砲と重装甲。私達の持っていた主砲は46cm3連装砲3基と最も薄い甲板に200mm、主砲防楯に650mmの装甲板があった。」
「す、凄いです!」
むさしの言葉にマリーゴールドさんは目を輝かせた。
「まあ私達2人とも航空機からの大量の攻撃を受けて水底に沈んじゃったけどね。」
「それでも凄いです!あの、皆さんの事を先輩って言っても良いですか?」
「どーぞどーぞ。好きなように呼んでよ。」
「これからよろしくお願いします。マリーゴールドさん。」
「よろしくお願い。」
「こちらこそ!よろしくお願いします!」
やまと達と話をしていると、89式改を持った隊員が私のところまで歩いてきて敬礼した。
「失礼します。アマギ共和国国防海軍の方々がフェアリーに会いたいとこちらに来たのですが。」
「ああ。来たみたいね。海幸の方の準備は?」
「終わっているそうです。」
「了解。それじゃあ案内して。」
「はっ。」
私は隊員の後について行った。
[20:05時]
少し歩くと、うちの兵士達が設置したテントの前に、MP18機関短銃ぽい銃や三十年式歩兵銃に似た銃を持ち、カーキの戦闘服を着た人間が20人ほど立っていた。
「お待たせしました。私が七海優香です。あなた方が徳山さんのおっしゃっていた部隊でよろしいですか?」
私が敬礼すると、先頭に立っていたウサミミのついた背の低い女性が1歩前に出て敬礼した。
「はい!私達はアマギ共和国国防海軍第101特別陸戦隊"レオニード隊"第1小隊、通称レグルス隊です。私は隊長の月見玲大尉です。レイセンとお呼びください。こちらは副隊長の山月月花中尉です。」
「山月です。お会い出来て光栄です。」
「本来なら戦隊長が伺うべきなのでしょうが、戦隊長達は現在訓練の為この街を離れ、西部の九重にある佐世基地にいるのです。」
「そうですか。」
「そうなんです。ですので、例の件については私と山月に聞いて置いて欲しいとの事です。」
「なるほど。ではレイセンさんと山月さんは私に着いてきて貰えますか?」
「わかりました。全員ここで待機してください。自由行動は許可しますけど、フェンリルの人に迷惑をかけたらダメですよ。」
「「「「「了解。」」」」」
レイセンさんが言うと残った18人が敬礼した。
「では行きましょう。」
私はレイセンさんと山月さんを連れてやまとの艦長室に向かった。
〈フェンリル海軍第1艦隊 あかぎ空母戦闘群 やまと型ミサイル巡洋艦1番艦 やまと 艦長室〉
「ようこそ。やまと型ミサイル巡洋艦1番艦やまとへ。私は艦長の有賀海幸大佐です。どうぞお掛けください。」
「はい。ありがとうございます。」
「失礼します。」
艦長室に入った私達は互いに向かい会うように座った。
「まずこちらが首相と海軍大臣からの親書と、通行許可書や滞在許可書などの書類です。」
レイセンさんは私に茶色の封筒を2つ差し出した。
「ありがとうございます。海幸。何か飲み物をお願い。」
「準備してありますよ。あぁ。あいにくコーヒーしかなくてね。口にあえば良いんだけど。」
そう言って海幸はコーヒーの入った小さなカップ4つと砂糖とミルクを机に置いた。
「ありがとうございます。コーヒーですか。私はあまり飲んだ事はないですね。」
「私もです。」
「気を付けて。海幸のコーヒーは物凄く濃くて苦いわよ。」
私はそう言って砂糖をスプーンで4杯すくって入れた。
「そりゃあそうです。これくらいキツくないと眠気覚ましにもなりません。それにこれはエスプレッソですよ?エスプレッソは激烈に苦いので砂糖を入れて飲むのが普通です。」
そう言って海幸は小さなカップに入ったコーヒーを砂糖を1杯入れて香りを楽しんでからぐいっと飲んだ。
「はー。苦い。」
そんな私達を真似てレイセンさんと山月さんも思い思いの量の砂糖を入れ、カップに口をつけた。
「あ、美味しい。」
「う、私のはちょっと苦いです。でも結構癖になる苦さですね。」
場の空気が少し和んだ所で海幸が立ち上がり、机の上に置いてあったブリーフケースを持ってくると中から書類を取り出した。
「さて。それでは本題に入りましょう。まずこれが現時点で判明した敵の拠点です。赤い点は予想される位置。青い点は私達の部隊が潜入し、調査、破壊工作を行い無力化した地点です。」
私が説明を始めると2人の目の色が変わり、さっきまで浮かべていた笑みもなりを潜めた。
「こんなに…。」
「アマギにも少数ですがありますね。」
「次に、これが予想される敵の装備の性能データです。」
2枚目と3枚目の書類には敵の使っていた銃の性能、毒ガスについての情報が記されていた。
「銃…それに毒ガス…ですか?」
「はい。アメックス王国の技術者と我が国の技術者が共同で解析した結果、この毒ガスは多くの人々から無理矢理抽出した魔力を用い、魔力を持つ人間や元々魔力を持つ亜人の魔力に不均衡や暴走を起こし、強烈な吐き気、下痢、腹痛などの消化器官の障害を引き起こし、酩酊感、悪寒、発熱、全身の皮膚の糜爛、呼吸困難、言語障害、脱毛、脱皮、運動機能の障害、凶暴化が発生するそうです。カエンタケ級のヤバさですね。また魔力を体内に宿さない人間や微量の魔力しか持たない者には効果は激減し、魔法や魔術を阻害する効果もあるそうです。激減した時の効果は起こってもせいぜい花粉症などの軽度のアレルギー反応程度だそうです。」
「そ、そんなものが…。」
レイセンさんと山月さんは私の話を聞いて青ざめていた。
「幸い呼吸器から一定量吸わなければ毒性は発揮されないそうです。それと空気中に残ったガスの除去には水酸化ナトリウムや過酸化水素の濃厚水溶液が利用出来るそうです。」
「水酸化ナトリウム?一体どんな物ですか?」
「薬品の1つです。これ自体も劇薬ですが、このガスに比べれば可愛い物です。何故か知りませんがこの毒ガスは我々の知るガスと対処法が似ているんです。威力と製法は最悪ですが、ガスを無力化する事は出来ます。」
私の言ったガスとは人類が開発した最強の毒とも言われるVXガスの事だ。 VXガスとは、猛毒の神経剤(V剤)の一種である。サリンなどと同様、コリンエステラーゼ阻害剤として作用し、人類が作った化学物質の中で最も毒性の強い物質といわれる。
致死量は大気中濃度で0.1 mg・min/m³。琥珀色をした油状の液体で、揮発性は低く、無味無臭である。また、濃度や温度にもよるが、粘着性を持つとされ、エアロゾルを毒ガスとして使用する。水への溶解度は約3%ほどである。
VXガスは1950年代初期にイギリスで合成された。 揮発性が低いため残留性が高く、そのうえ、サリンなどと異なり化学的安定性も高いので、温帯の気候においては、散布から1週間程度は効果が残留するとされる。
呼吸器からだけでなく、皮膚からも吸収されて毒性を発揮するため、ガスマスクだけでは防護できない。 また、親油性が高く、水で洗浄しただけでは取り除くことができないため、安全な状態にするためには化学洗浄が必要である。 木材や皮、布などに付着した場合には長期間毒性を維持したまま留まるため、VXガスに汚染された物に触れただけでも危険である。
「治療薬は現在本土にある軍化学物質局、疾病予防センター、技術研究本部が総力を上げて研究中です。早ければ今月中にサンプルが出来るそうです。」
VXガスや催涙ガスなどの化学兵器のスペシャリストが集う化学物質局、生物兵器や感染症のスペシャリストが集う疾病予防センター、アメックス王国のエルフが研修に来ており、魔術や魔法を利用した武器装備、最新兵器の開発実績のある技術研究本部。現在本土ではこの3つの組織が互いの知識を結集し、急ピッチで治療薬の研究が進んでいた。
「そのような事件への対処専門の部隊も連れてきています。」
「そんな部隊があるんですか?!」
「はい。フェンリル海兵隊化学生物事態対処部隊(Chemical Biological Incident Response Force)|(CBIRF:シーバーフ)、通称The Birf。彼等は毒ガスのような化学兵器を使用したテロや、危険物質の流出事故などに対処する為に編成、訓練された精鋭達です。」
CBIRFは現実世界ではアメリカ海兵隊第2海兵遠征軍隷下の特殊部隊で、オウム真理教の行った地下鉄サリン事件を期に編成され、東日本大震災でも150名近くのCBIRFの隊員が米軍の日本支援作戦、オペレーション『トモダチ』に参加し、原発事故対応を行っている。
「今回の件が私達の想像通りなら、私達にとっても非常に厳しい戦いとなるでしょう。ですが、私達は諦めるつもりはありません。最善を尽くすつもりです。その最善を手繰り寄せる為にも、是非私達に協力してください。」
私は改めてレイセンさん達に協力をお願いし、手を差し出した。
「こちらこそよろしくお願いします。」
レイセンさんは差し出した手を握り、互いに協力の意思を確認した。
「エスプレッソはその苦さと香りを楽しんだ後、底に残った砂糖を食べるまでが正しい作法です。今回の件も、最初は苦く、辛くとも最終的に勝利と言う甘味を得る事が出来ると思っています。そして、甘味の量と質は私達が仲間と民間人、ひいては国を守れたかによって決まります。お互い所属組織は違えど、自分の仲間、家族、国を守りたいという志しは同じと思います。そんなあなた達の協力は非常に心強いです。協力感謝します。」
私は握手の後そう言ってからレイセンさん達に敬礼をした。
[21:30時]
〈やまと 居住区〉
あの後レイセンさんと山月さんに連絡用にスマートフォンを渡し、3日後に共同訓練の約束を取り付け、私は海幸に頼んで居住区のベッドを1つ借りて横になってマンガを読んでいた。
一般隊員用のベッドは非常に狭いが、周りに気心の知れた仲間達がいるここは広い部屋に1人で寝るよりは安心感があった。
「何を読んでいるんですか?」
私の上の段のベッドからひょこっと顔を出して機関科の蔵元正美上級曹長が聞いてきた。
「良くある異世界転移物のマンガよ。」
「ああ。あの神様の手違いで死んじゃったからチートをあげるってやつですか。」
「あれって何故か車に轢かれる場合が多いですよね。」
私の向かいのベッドの航海科の高脇圭先任曹長ののんびりした声が聞こえてきた。
それを聞いた私達は確にと頷いた。
「そう言えばその手の話だと現実世界への帰り道を探すパターンも多いですけど、フェアリーはそう言うのは探さないんですか?」
向かいのベッドの上段に寝ていた機関科の森川純曹長が聞いてきた。
「うーん。私は別に帰るつもりは無いかな。父さんと母さんもいるし、向こうの友達に会えないのは寂しいけど、あなた達もいる。それに、私に好意を抱いてる子達がいるのに彼女達の気持ちを無下に出来ないわ。」
「確かに凄い好かれてますよね。」
「フェアリーを性的な意味で襲ったくらいですからね〜。」
「………それそんなに噂になってるの?」
「噂と言うか…。」
「あかぎさんが途中からずっと見てたとかで艦魂達が話てました。」
「………………マジで?」
「フェアリーが処女喪失する所もバッチリ見られてた見たいですよ〜。」
「フェアリーはずっとタチだと思ってましたけど、じつはネコだったんですね。」
「………………………も、もう寝る事にすりゅわ。おやすみ。」
私は突き刺さる生温い視線に耐えきれず、背を向けて目を閉じた。
(((((耳まで真っ赤になってる。可愛いなぁ。)))))
私が背を向けてもしばらくは視線がずっと刺さっていた。
皆様大変長らくお待たせしました。
今回は出したかった東方のキャラを出す事が出来ました。今後も少しずつ出していくつもりです。
今回の名言は、世界一カッコイイデブこと、HELLSINGのモンティナ・マックス、通称"少佐"の非常に有名な演説です。
少佐「諸君 私は戦争が好きだ
諸君 私は戦争が好きだ
諸君 私は戦争が大好きだ
殲滅戦が好きだ
電撃戦が好きだ
打撃戦が好きだ
防衛戦が好きだ
包囲戦が好きだ
突破戦が好きだ
退却戦が好きだ
掃討戦が好きだ
撤退戦が好きだ
平原で 街道で
塹壕で 草原で
凍土で 砂漠で
海上で 空中で
泥中で 湿原で
この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ
戦列をならべた砲兵の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ
空中高く放り上げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどる
戦車兵の操るティーゲルの88mmが敵戦車を撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵をMGでなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった
銃剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える
敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ虜兵達が私の降り下ろした手の平とともに
金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ
哀れな抵抗者達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを80cm列車砲の4.8t榴爆弾が都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える
露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ
英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ
英米攻撃機に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ
諸君 私は戦争を 地獄の様な戦争を望んでいる
諸君 私に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体 何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない 糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な闘争を望むか?
「戦争!! 戦争!! 戦争!!」
よろしい ならば戦争だ
我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争では もはや足りない!!
大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!!
我らはわずかに一個大隊千人に満たぬ敗残兵にすぎない
だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している
ならば我らは諸君と私で総兵力100万と1人の軍集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう
連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる
天と地のはざまには 奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる
一千人の吸血鬼の戦闘団で
世界を燃やし尽くしてやる
最後の大隊 大隊指揮官より全空中艦隊へ
第二次ゼーレヴェー作戦状況を開始せよ
征くぞ 諸君」
この演説だけでもHELLSINGをみる価値があると思います。少佐が世界一カッコイイデブと言われるのも納得です。良くカリスマがブレイクするどこぞの吸血鬼と違って常にカリスマに満ち溢れています。次回は河童や他の主役級キャラとの出会いとなる予定です。闘技大会は後3話ほど後になると思います。非常に遅い投稿となって申し訳ありませんが、これからもよろしくお願いいたします。




