第3章06 潜入と工作
[9月29日 05:30時]
〈エーリンガム王国南部 ゼリノクス地方上空 高度30,000フィート フェンリル空軍第15特殊作戦飛行隊 『スピアー隊』 スピアー1-1 MC-130W〉
フェンリルCIASAD第1中隊『フォックス』隊長 ジャック・クルーバー TACネーム:スネーク
《スネーク。あなたの任務はエーリンガム王国の森林地帯に存在するFROCHの施設に潜入し、情報を奪取、可能であれば施設を破壊し、捕らわれている被害者を救出する事にある。多少手荒な事をする許可は出ているが、エーリンガム王国政府に許可はとっていない。つまり、いつも通りだ。》
機内の指揮所で作戦指揮にあたるSAD指揮官のルシア・コネイン大佐の声が機内のスピーカー越しに響いた。
「降下5分前。機内減圧開始。マスク装着せよ。」
ロードマスターが指示を出し、俺は葉巻を足で踏み消し、酸素マスクを装着した。
《作戦目標を達成したらリカバリーポイントまで行け。そこに行けば洋上で待機している第4艦隊のヘリ部隊が回収に来る。》
「降下4分前。」
《わかっているだろうが、民間人の救出は最優先目標ではない。あくまで敵施設の破壊と情報の入手が最優先だ。だが全てを完璧にこなし、民間人を助け出してこそ、我々のような者の存在意義が示せると言うものだ。》
「降下3分前。スタンドアップ。」
俺は立ち上がり、後部ハッチに近付いた。
《子供や女性を傷つけ、道具として扱うような屑共から、彼女達を無事に助け出し、全ての作戦目標を達成して見せろ。》
「降下2分前。後部ハッチ、開きます。」
[ウィィィン]
後部ハッチが開き、太陽光が機内に差し込んだ。
「…日の出です。降下1分前。後部に移動せよ。」
《さあ、鳥になって来い。幸運を祈る。》
その言葉を受け、俺は空に身を投げた。
〈エーリンガム王国南部 ゼリノクス地方 フット大森林 〉
「こちらスネーク。降下成功。これより北東に進み施設への潜入を開始する。」
《了解。充分に注意して進め。》
背中に背負っていたハニーバジャーを構え、初弾が装填されている事を確認し、移動を開始した。
この森林地帯は、大森林と呼ばれるだけあり、樹齢数百年の巨木や光る虫など幻想的な光景が広がっていた。
俺は木の影や草むらなどの人目に付きにくい場所を選んで大森林を進んでいた。
1時間ほど進むと、幻想的な光景に似つかわしく無い軽装の鎧と、火縄銃のような物を持った2人の男に遭遇のした。
「大佐。歩哨と思われる2人を発見。銃を持っている様に見える。」
《ふむ。見る限りフリントロック式の銃のようだな。制度や威力は不明だが驚異には違いない。注意しろ。》
「了解。これからあの2人の尾行を開始する。」
ステルス迷彩を起動し、足音をたてないよう一定の距離を保って尾行を開始した。
「…でこんな所の警備をしないといけないんだろうな。」
「さあな。だがじきに上がデカイ事をやらかすらしいぞ。」
「まじか。ようやっと俺達人間の天下が訪れるのか!」
「多分な。」
男達はそんなことを話ながら森を進んで行った。
30分ほど経つと、男達は巡回を終え塀で囲まれた研究施設のような場所に入っていった。
俺はまず、塀の周りを観察し、比較的監視の少ない場所から、塀を飛び越えて侵入した。
「大佐。施設に潜入した。塀で囲まれている。ここを民間人を連れて脱出するには正面から行くしかなさそうだ。」
《了解。》
施設の中にも見張りがいたが、ステルス迷彩を起動して影を移動する俺には誰も気付いておらず、容易く室内に潜入する事に成功した。
施設の中を移動していると、生成室と書かれた2人の警備に守られた部屋を見つけた。
俺はポーチからガスマスクと睡眠ガスグレネードを取り出し、ピンを抜き、2人の足元に転がした。
[カラカラカラ]
「うん?」
「なんだ?」
[ブシュゥゥ]
「は?!なに、が…………。」
「うぐぅぅ………。」
強力な睡眠ガスで2人は瞬く間に意識を失った。
俺はガスの放出を終えたグレネードを回収し、生成室の扉を少し開け、カメラを差し込んだ。
中は様々な管が通っており、その管は巨大な漏斗のような物に繋がり、下を流れる小さな瓶に何かを封入していた。
「生成室と言う部屋に到着した。形状から見て、液体タイプの薬品に見える。」
《気になるな。確保出来るか?》
俺は部屋に入り、周囲を見回すと、木箱のいくつかに同じ形状の瓶がいくつも入っているのを見つけた。
「大丈夫だ。2、3本頂いていく。今からこの部屋にC4を設置する。」
《了解。》
瓶を3本ポーチに入れ、C4を設備の後ろに仕掛け、眠っている2人を手錠とテープで拘束し、生成室に引きずり込んだ後、廊下に出てから高周波ナイフでドアノブを破壊した。
麻酔弾を装填したM1911をローレディで構えながら廊下を進んで行くと、ラッパの音が聞こえ、前にある階段から杖を持った魔術師達が降りてきて奥の部屋に入っていった。
奥の調査を後回しにして階段を登った。地下への階段もあったが、発見された場合逃げ道が無くなってしまう為後回しにした。
2階に上がり、マグネティックで近くの部屋の中に人がいない事を確認し、部屋に入った。
中には干し肉や野菜などが保管されていた。
ポーチからテルミット爆薬を取り出し、干し肉の箱の後ろに設置した。
食糧庫にテルミットを仕掛け、別の部屋のチェックを始めた。
3つめの部屋に入ると、他の部屋と違い、高価そうな机が中央に置かれていた。
机の上には製造している兵器のスペック表と付近の地図、そして納入先の人名が記載されていた。
「大佐。所長室に侵入した。兵器のスペック表と地図、納入先のリストだ。」
《良くやった。データを送信してくれ。》
「了解。」
HUDの機能を利用してデータを送信していった。納入先のリストを送信していると、ふと気になる名前を見つけた。
「ん?こいつは………。なるほど。」
《どうした?》
「納入先のリストの5番目を見てくれ。フェアリーの予想は的中しているみたいだぞ。」
《ああ…こちらでも確認した。良し。次は民間人の救出だ。第4艦隊はヘリ部隊を発進させた。コールサインはコールド1-1、1-2、サンダー1-1、1-2、1-3、1-4だ。一刻も早く救出してやってくれ。》
「了解だ。」
書類を元に戻した所で、HUDのセンサーが人の接近を感知した。
俺は素早く窓を開けて、グローブで外壁に貼り付き、窓を閉め、下に降りた。
そっと地面に降り、近くの窓の隙間にナイフを差し込み鍵を破壊し、静かに部屋に入ると、食堂に出た。
俺はポーチからテルミット爆薬を再び取り出し、机の下に設置して階段に向かった。
階段を下ると、複数の牢獄が並んでいた。
手前には監視所と思われる部屋があった。
ナイフを抜き、扉の前でカウントを始めた。
(3、2、1。)
扉を勢いよく開け、部屋に突入した。
「あ!?」
監視所にいた男は急いで立ち上がろうとしていたが、それより早く男に近寄り、男の顔を殴った。
「あぐっ!」
男は椅子に持たれかかった。
俺は男の喉にナイフを突きつけた。
「鍵はどこだ。」
「か、鍵?!」
「牢の鍵だ。」
「あ、ああ!鍵ならそこの棚の中だ!」
「そうか。」
俺は男の喉にナイフを突き刺した。
「あ、あぐっ………。」
男は血を吐くと、自分の血で窒息し、息絶えた。
男の言っていた棚を見ると、確かに鍵の束があったが、その棚の横には配電盤のような機器が設置されていた。
「大佐。牢の鍵を入手したが部屋に妙な機械がある。」
《ふむ。前の戦争の時に西普連が急襲した施設の機器にそっくりだな。恐らくそれで捕らえた人の生命力や魔力を吸い取っているんだろう。解除方法を送る。》
直ぐに解除方法がHUDに送信された。
「こいつを……良し。」
HUDに表示されている通りに操作した。
「大佐。機械を停止させた。恐らく大丈夫だ。これから牢に侵入する。」
交信を終え、鍵と男の持っていた銃をポーチに入れ、愛銃をローレディで構えながら牢に向かった。
地下フロアには4つの牢があり、うち1つの牢の覗き窓から中を見ると、10人程の亜人の女性や子供が裸で鎖で壁に繋がれていた。
牢に鍵を差し込み、扉を開けると鼻がおかしくなりそうな腐臭がした。
「くそ。」
思わず悪態をつき、身じろぎ1つしない女性達の脈を1人1人調べていった。
「大佐。牢の1つに入った。手遅れだ。全員死んでる。次に移る。」
せめてもの弔いに、女性達を固定していた鎖を切断して床に体を寝かせて苦しみに見開かれた死後硬直で固くなった目を閉じた。
次の牢に鍵を差し込み、扉を開けた。中は同じく強烈な腐臭に満ちており、既に息絶えた後だった。
3つ目の牢に入ると、やはり腐臭が充満していたが、中学生くらいの魔人族の少女の脈を取ると、かなり弱っているが、確かに鼓動を感じられた。ひとまず彼女の鎖を切断し、ポーチからコートを取り出し、そっとかけてから4つ目の牢に入った。
4つ目の牢には同じ魔人族の姉妹と鬼人族の女性がいた。
「うぅ。誰?」
「ここから…出して……。」
「これ以上何しようってんだ。」
「意識があるのか。安心しろ。俺はあんた達をこの壁の向こうにエスコートしにきた。」
「…………信用出来ねえな。」
「なら俺が鎖を壊した後好きにすればいい。今から鎖を壊す。」
高周波ナイフを抜き、1人ずつ鎖を破壊して行った。
「歩けるか?」
「うん。なんとか。」
「私は大丈夫…です。」
「あたしも大丈夫だ。」
「そうか。鬼人族のあんた。外にもう1人いるんだ。その子を運んでもらえるか?俺は仲間に連絡する。」
「ああ…。わかった。」
鬼人族の女性に弱っていた少女を任せ、無線を起動した。
「大佐。生存者4名。体の汚れが少ない事から最近連れて来られたんだろう。これから研究施設を強行突破してAssyに向かう。」
《了解。》
「コールド1-1、こちらスネーク。聞こえるか?」
《こちらコールド1-1。良く聞こえる。迎えが必要か?》
「ああ。これから民間人4名を連れて施設を強行突破する。かなり危険な脱出になる。援護を頼む。」
《了解!海兵共!出番が近いぞ!準備しろ!》
《《《《《ウーラー!!》》》》》
頼もしい掛け声に思わず笑みを浮かべ、無線を切った。
「さあ。準備は良いか?」
「うん。」
「はい。」
「大丈夫だ。」
「良し。敵陣を強行突破して仲間との合流地点まで行く。後ろにピッタリ着いて来い。行くぞ。」
M1911をホルスターに戻し、ハニーバジャーを構えて階段を登り始めた。
「最短ルートを突っ切る。姿勢を低くしろ。」
移動を始めると、向かいから魔術師が2人歩いてきた。
「お前!何[ププ、ププ]あ!」
「ぐう。」
「トゥーダウン。」
ダブルタップで300AACBlockout弾を撃ち込み、男達を歩みを止めずに始末した。
外への扉には直ぐに到着した。
「良し。外に出るぞ。後に続け。3、2、1!」
[バン!]
扉を蹴破ると同時にオーバードライブを起動、視界に映った敵の歩哨6人を右から順にダブルタップで撃ち倒した。
《こちらコールド1-1、ETA4マイク。》
「真っ直ぐ森に行くぞ!」
流石に敵も俺達に気付き、カーンカーンカーン、と警鐘が鳴らされた。
「歩哨が集まって来るぞ!行け行け行け!」
森に走り込み、C4を起爆した。
[ドォォォォン!!]
凄まじい爆発音と爆風が森に吹き荒れた。
「ひぃぃぃぃ!」
「止まるな!進め進め進め!」
《こちらコールド1-1、ETA3マイク。》
少しすると、
[ダーン!]
という音の直後
[バシッ!]
と近くの木が弾け飛んだ。
「ひぃ!」
「な、何?!」
思わず4人は足を止めていた。
「足を止めるな!動き回ればそう簡単にはあたりはしない!」
[プププ、ププ、ププププププ、カキ]
使い終わったマガジンをダンプポーチに突っ込み、新しいマガジンを叩き込んだ。
「走れ!集結地点はすぐそこだ!」
《こちらコールド1-1、ETA2マイク。》
走り続けると、森の切れ間のような草原に出た。
「ど、どうするんです?!もう隠れる場所も無いですし、走るのも限界です!」
「も、もうおしまいだよ!」
「おい!本当にあんたの仲間とやらは来るのか?!」
「頭を低く!もうすぐだ!」
《こちらコールド1-1、ETA1マイク。》
ヘリのローター音が聞こえてきた。
「コールド1-1!敵のいる方向に赤のスモークを投げる!撃ちまくれ!」
《了解。サンダー、目標は赤のスモークだ。》
《コピー。機銃掃射を行う。頭を下げろ。》
「攻撃が来るぞ!頭を下げろ!」
俺は4人に覆い被さるように倒れた。
直後、
[グォォォォォォ!]
[ダダダダダダダ!]
上空から飛来した4機のAH-6がミニガンと25mm砲を撃ちまくりながら高速で頭上を通過した。
「こ、今度はなにぃ?!」
「大丈夫だ!あれが仲間だ!」
《スネーク。コールド1-1だ。待たせたな。海兵!降下開始だ!》
《降下開始!降下開始!》
《ロックンロール!》
リトルバードに続いて2機のオスプレイが草原の上空に侵入し、後部ハッチから海兵隊員がファストロープで降下を開始した。
[バババン、ババババババン!]
[ドシュドシュドシュ]
[ドドドドドドドドドド]
降下した海兵隊員達のライフル、リトルバードのロケット、オスプレイのガンターレットが接近してきていた敵を次々と凪払っていった。
《!RPG!3時方向!》
《回避する!》
オスプレイが急いで高度をあげた。
《来るぞ!》
[ヒュウ]
RPGはギリギリでオスプレイの下を飛んで行った。
《あっぶね!ガンナー!お返しだ!撃ちまくれ!》
[ポンポンポンポンポン]
オスプレイ側面のMk.19が火を吹き
[ドドドドドン]
敵諸共地面を抉った。
《クリア!》
《クリア!》
《クリア!》
《オールクリア!エリアセキュア(エリア制圧)!》
「大丈夫ですか!」
「ああ!俺は大丈夫だ!それよりそこの3人を頼む!」
「メディック!コールド1-1、LZを確保!」
直ぐにパラメディックが駆け寄って来て応急手当を開始した。
「衰弱が激しい!直ぐに本格的な治療を受けさせないと!」
「コールド1-1、1名衰弱が激しく直ぐに治療が必要だ!」
《クイーン・エリザベスが受け入れ準備をしている。さっさと乗り込め。》
他の隊員が素早く担架を組み立てた。
「3、2、1で担架に移す!3、2、1!」
少女を担架に乗せ、4人で担架を持ち、オスプレイに運び込んだ。
「君達も早く乗れ!もう出発する!」
3人の少女達はそう言われてオドオドとオスプレイに乗り込んだ。
最後に海兵隊員達がカバーしながら乗り込んだ。
「オールイーグルオンボード(全員乗ったぞ)!」
《ラジャー。コールド1-1離脱する。》
ヘリのエンジンの回転数が上がり、僅かな振動の後、離陸した。
《エリザベス、コールド1-1だ。パッケージを確保。直ぐに帰還する。》
《コールド1-1、エリザベス。受け入れ準備は出来ている。到着を待つ。》
《よーし。お嬢様方!ようこそ当機へ。最高級とはいかないが、俺達の艦に戻ったら精一杯のもてなしをさせてもらおう。》
俺はポーチからチョコレートを4つ取り出し、パラメディックから受け取った毛布に身を包んだ3人に差し出した。
「疲れた時には甘い物が良い。」
俺はそう言ってひとつを食べた。
「あ、ありがとう、ございます。」
「ありがとう。」
「……ありがとう。」
3人は包みを受け取ると、少し齧った。
「!美味しい!」
「甘い!」
「凄いな…。」
少し食べるとチョコレートの甘さに感激してあっという間に食べてしまった。
「ねえ。質問してもいい?」
赤い肌の魔人族の少女が言った。
「ああ。」
「何であなた達はわざわざ危険を犯して私達を助けてくれたの?」
3人の視線が俺と海兵隊員達に向けられた。
「なぜ、か。」
「そう言われてもなあ。命令ってのもあるが、可愛い女の子や子供達の為に命を掛けるのは男として当然だしな。ましてや理不尽に虐げられているなら助けるのは当然だ。」
「教団とか言う連中は気に入らんしな。」
海兵隊員達は口々に答えた。
「そ、そんな理由で?あんたら馬鹿じゃないか?」
「ははは。ちげぇねえ。」
「俺達のボスからしてとんでもねえ戦闘力を持つくせに誇示もしないし、傲る訳でもないし、常に最前線に出続けるし、百合だし、はっきり言って変人だからな。」
「だけど、誰も救えない普通よりは、誰かを救える馬鹿の方が良い。」
「同感だ。」
他の隊員達も頷いていた。
「何なんだ、あんたらは本当に。」
「信用出来ないのもしょうがない。信用というのは、自らの行動で示して得るものだ。だから君達は俺達の事を信用しなくてもいい。俺達を信用出来ると君達自身が思えるようになるまではな。
まあひとまずは、ようこそ。フェンリルへ。」
皆様こんにちは。
大学の講義やテスト勉強、新しく買ったARMA3をやっていて遅れてしまいました。
もうすぐ夏休みですが私は夏休み中に免許を取ろうと考えているので更新速度は特に変化無いと思います。
今回の名言です。ヨルムンガンドより元デルタフォースのエコーのセリフです。
エコー「威圧的にわめいてないで、ピーピー泣いてないで、常に笑っているべきだ。ボスってのはそういうもんだ。」
ボスがパニックに陥れば部下もパニックに陥り、危険な状況になります。が、ボスが笑っているくらい余裕を見せれば、部下も余裕を取り戻し、安心出来ます。エコーのこの言葉は正鵠を射ていると思います。
次回は原隊に一時帰還した西普連の話しです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。ご意見ご感想をお待ちしています。




