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ゲームの軍隊と異世界攻略  作者: RIGHT
第3章 Operation Easy Days
82/88

第3章05 増員と訓練と派遣

[9月28日 10:20時]

〈フェンリル軍GDUHQ フォート・ディール 中央区画 司令部地下 取調室〉

フェンリル軍GDU1stIB MRMU隊長 七海優香 TACネーム:フェアリー コールサイン:シルキー1-1



増員と選抜した人員が到着する前に、母さんからの呼び出しがあったので、私は司令部地下に存在する取調室に来ていた。


「それで、こいつは話したの?」


私はマジックミラーの向こうの部屋の中でガタガタと震える男を指さして言った。


「誰だって話すさ。そいつが話したのは、教団のそいつが知る限りの重役の名前と拠点の場所、誘拐の目的。さて優香。良い情報と悪い情報があるけどどれから聞きたい?」


母さんは薄く笑いながら言った。


「それ、言って見たかっただけでしょ。まあいいけど。それじゃあ悪いやつから。」


「OK。戦時中に西普連が制圧した魔力吸収施設と魔剣を覚えてるな?」


「もちろん。忘れる訳がない。」


吸収施設に捕らわれていた人達は体力と精神のダメージが大きく、今も本土で治療が続けられており、西普連の隊員達が足繁く通い、手助けをしているお陰で回復して来ていると報告があった。親を亡くした子供達を養子として引き取った隊員もいると聞いている。しかし、魔剣を使わされていた少女達は痛覚を失う、あるいは過敏になった娘、感情失ってしまった娘、声を失ってしまった娘など、極度のPTSDを患ってしまっており、まともにコミュニケーションを取れる娘は極少数で、未だに目を覚まさない者も多くいる。


「教団は同様の施設と魔剣を量産しようとしているらしい。そして、財源、エネルギー源、魔剣の担い手として、使用(・・)、するために各地から亜人を集めているそうだ。そして、施設はあいつから分かっただけでもこの大陸中に散らばっている。」


「チッ!命をなんだと思ってるんだ。良い方は?」


「敵のボスの名前が分かった。自らを天の使いと名乗り、信者からミカエルと呼ばれているそうだ。」


「ミカエル…ね。どんな神の使いだか知らないけど、気に入らない。」


「同感だな。ただ、この情報のお陰で敵について色々分かった。」


「たしかに。」


ふと時計を見ると、時間が差し迫っているのに気付いた。


「おっと。もう行かないと。」


「そうだな。取り敢えず、本土に連絡を入れて部隊をいくつか動かしておいた。施設の偵察と事故に見せかけた破壊工作をするようにな。」


「ありがとう。母さん。それじゃあ空軍区画に行こう。皆待ってるわ。」


私は母さんと一緒に空軍区画に向かった。



[10:50時]

〈フォート・ディール 空軍区画 エプロン〉



私達が空軍区画に着くと、既に機のオスプレイが着陸体勢に入っており、多くの隊員が集まっていた。


「遅いよ!2人とも!」


私達が近付くと、ミリアが猫耳をピコピコ動かしながら振り返って言った。


「ごめんごめん!ギリギリ間に合った見たいね!」


私はそう言い、集団の先頭に移動した。

着陸したオスプレイの後部ハッチが開き、中からデザート迷彩の迷彩服を着た20人が、淡い紫のショートヘアで左目に眼帯をつけた女性に率いられて降りてきた。

女性は私の前で敬礼すると、同性ですら見惚れる程の笑顔を見せ、


「久しぶりだな。フェアリー。くそったれな宗教団体をぶち壊して欲しいって聞いてるぜ。まあ、俺達に任せておきな。差別主義者の屑共を根絶やしにしてやるよ。」


盛大に毒を吐いた。

彼女の事を既に知っていた隊員達は平然としていたが、初対面の有希達は見た目に反した言葉に唖然としていた。


「相変わらず酷い言葉遣いね、アリス。」


「あんたもブチ切れたら似たようなもんじゃないか。」


「う……。それを言われると反論出来ないわね。みんな、紹介するわ。この見た目だけ美少女は、フェンリル陸軍秘密情報局特殊作戦グループE中隊中隊長のアリステア・カートン中佐。見た目に騙されちゃダメよ。見た目に騙された男達は強烈な毒とパンチを漏れなくプレゼントされてるから。下品な言葉の世界記録保持者になるべき愉快な奴で、あだ名は食虫植物。」


「おいおい。酷いじゃないか~。そんじゃ改めて、フェンリル陸軍秘密情報局特殊作戦グループE中隊、E-Squadron隊長のアリステア・カートン中佐だ。アリスと呼んでくれ。TACネームはPinguiculaから取ったピングーだ。よろしくな。」


「Pinguicula……ムシトリスミレ、食虫植物なの。」


シャルの呟きに対してアリステアは笑顔を向けた。


「ひっ!」


「そんなことより、次に行くわよ」


アリスから尋常じゃないプレッシャーが発せられたので、急いで別のオスプレイから降りてきていた集団に話題を逸らした。


「えー。こちらはフェンリル憲兵隊連邦捜査局SWAT第2中隊『ブラヴォーチーム』の皆さんです。、特殊武器戦術部隊(SpecialWeaponAndTactics)はFBIの捜査官の中から特に優秀な隊員で構成される犯罪者の制圧と捜査、逮捕のスペシャリスト集団よ。」


私が紹介すると、1人が進み出た。


「FBI-SWAT第2中隊中隊長のニック・メンドーサ警部です。皆さんよろしくお願いします。」


「SWATには私達がいない間、フィール衛兵隊の訓練、犯罪捜査、制圧、予防をやってもらう予定よ。」


「それが俺達の仕事ですから。モンスターや他国の軍隊との戦闘は専門外です。俺達の任務は逮捕する事で殺す事じゃないですから。」


「その通り。あなた達は憲兵隊、警察官よ。犯罪者を捕え、法の裁きを受けさせるのが仕事。戦闘と殺す事は私達軍に任せておきなさい。ただし、私達に出来ない事は、あなた達に頼るわよ?」


「任せて下さい。」


ニック達が敬礼した。


「さて、次は闘技大会の為に各地から招集したメンバーの紹介ね。」


最後に、身長、性別、装備、迷彩服がバラバラの集団に近付いた。


「ここにいる9人はこれから行くアマギ共和国で開かれる闘技大会で、優勝を狙う為に、多くの部隊に無理を言って送ってもらった精鋭よ。それじゃあ父さんから順番に自己紹介をお願い。」


私がそう言うと、集団の中から、バレットREC-7を持った父さんが1歩進み出た。


「優香の父の正弘だ。フェンリル軍特殊作戦部の司令官と、陸軍特殊作戦群群長を兼任している。兵科はライフルマンだ。私も優香と同じく敬語は苦手だ。気楽に話しかけてくれ。」


父さんが話終えると、父さんの隣に立っていた、M27IARにM320を着けた激烈に重い銃を軽々と持った女性が自己紹介を始めた。


「私は舩坂千博。陸軍特殊作戦群副長、階級は大尉で、兵科はマシンガンナーだ。私にも敬語はいらんぞ。と言うか、特殊部隊に属する奴等で敬語を気にする奴は少数派だろう。まあ気楽に頼むよ。」


次に身長と同じ位のTRG-42ライフルを背負い、腰のホルスターにヤティマティックGG-95PDW、レッグホルスターにブローニングハイパワーDAを持った銀髪、灰色の目、白い迷彩服と白いパワードスーツ、白いマフラーを着た小柄な少女が進み出た。


「フェンリル陸軍北部方面隊ウッティ・ジェーガー連隊第1大隊第1狙撃中隊ルミ隊中隊長のエミル・ヘイヘ中尉です……。」


エミルはそれだけ言うと列に戻り、マフラーに顔を埋めた。


「はぁ。エミル。そんなんじゃ誤解されちゃうぞ?」


そう言って隣に立っていたマリナがエミルに頬ずりを始めた。


「マリナ中佐、やめて。」


エミルが真っ赤になってマリナを押し退けようとした。


「断る。」


だがそんな努力も虚しく、エミルはマリナに抱えあげられてしまった。


「むー。」


「ふふふ。おっと、自己紹介だったな。私はマリナ・スティール中佐。前のダンジョン攻略作戦に参加してた人は久しぶり。第75レンジャー連隊連隊長だ。兵科はマシンガンナーだ。よろしく。」


そう言ってマリナはエミルを愛で、それに対してエミルが抵抗すると言う何ともほんわかした状況が展開された。


「何か凄く始めづらいんだけど…。私はエレン・カイル。フェンリル海軍SEALsチーム7のスナイパーよ。何人か知り合いもいるけど、改めてよろしくね。」


続けて隣に立っていた女性が進み出た。


「エレンのスポッターを受け持つジュディー・ライアンだ。当然所属は海軍SEALsチーム7だ。私は基本スポッターかマークスマンとして活動するからよろしくな。」


次に、M82A3を背負った女性とM16A5を持った男性が進み出た。


「フェンリル海兵隊第1海兵師団第2大隊第1中隊第1狙撃小隊から来た、カーリー・ハスコック少尉です。狙撃を担当しています。」


「同じく第1海兵師団第2大隊第1中隊第1狙撃小隊のジョージ・パーク曹長です。カーリーのスポッターを担当しています。」


「「よろしくお願いします!」」


最後に、Mk.48を持った男性が進み出た。


「フェンリル陸軍第82空挺師団第3歩兵連隊第1中隊第2小隊小隊長のトーマス・ケリー先任曹長です!皆さんと戦う事が出来光栄です。勝利の為に全力を尽くさせていただきます!よろしくお願いします!」


全員の紹介が終わったので私は前に出た。


「彼等は全員フェンリル軍の部隊の中でも特に優秀な隊員達の1人よ。明日から私達はアマギ共和国に向かう。その道中、これから発表する隊員達は連携等の訓練の為にチームで行動してもらうからよろしくね。そしてこれで解散、明日の準備を、と言いたい所なんだけど。皆にはこれから一緒に海軍区画に来てもらうわ。」


「?海軍区画に?何するの?」


フランが頬に人差し指を当てて顔を傾げた。

私はその仕草に頬が緩みそうになるのを堪え、続けた。


「明日以降フォート・ディールに駐留する艦艇に新しい仲間が増えるのよ。」


「………まさか設計に湊さんが関わってるんじゃ………。」


ミリアが苦笑いを浮かべた。


「それはもう当然。ただ、今回湊はただのアドバイザーで、主な設計は別の人よ。まあ湊と同じかそれ以上の変人、いや変態かな?まあ面白い奴だよ。」


私がそこまで言って手を上げてグルグルと回すと待っていましたと言わんばかりに周囲に駐機していたヘリのロータが回転を始め、あっと言う間に周囲はヘリの轟音に包まれた。


「全員搭乗開始!港で艦魂達とお客さん達、そして新しい仲間が待っているわよ!」


私がそう言うと、全員がヘリに乗り込み移動を開始した。



〈フォート・ディール 海軍区画 第1区 あかぎ型航空母艦1番艦 あかぎ フライトデッキ〉

フェンリル海軍第1艦隊あかぎ空母戦闘群 やまと型ミサイル巡洋艦1番艦 やまと



「あー。もう大分寒くなって来たね。」


「そうだね、姉さん。」


私の言葉に近くにいたむさしが答えた。


「それにしても、また仲間が増えるのか〜。ふふ。楽しみね。どんな艦(子)が来るのかな?あかぎさんは知ってるの?」


「ん?そうだな。確か駆逐艦4、巡洋艦2、補給艦2と潜水艦だと思ったが。」


あかぎさんがそう言うと、


「「「「「やったー!」」」」」


潜水艦と聞き、ワシントンやずいりゅう達潜水艦が喜びの声をあげた。


「凄い喜び様ね。」


「潜水艦は水上艦に比べて数が少ないからね。」


「それもそうね。ん?」


フィーバーする潜水艦達の向こう、艦橋の扉に隠れるように和服を着た少女が覗いているのを見つけた。


「あの子……私達と同じ?」


「みたいね。行こうむさし。」


私はむさしと一緒に少女に気付かれないように移動し、扉に近付いた。


「うぅ。来たは良いけどどうしよう。怖い人達だったらやだなー。………………やっぱり帰ろう。うん。」


そんな声が聞こえたので、


「「せーの!」」


2人で少女が寄り掛かっている扉を一気に開けた。


「え?」


少女は突然の事態に困惑していた。


「確保ー!」


「ひゃぁぁぁー!?」


私は少女に飛び付き、逃げられないように抱きついた。


「あ、あの!覗いてた事は謝ります!だから許してください!」


少女は慌てて涙目で言った。


「ふふふ。ダーメ。まずは服を剥いじゃおうかn、痛っ!」


悪ふざけを始めた私の後頭部をむさしが殴った。


「うぅ。何も殴らなくても…。」


「ふざけるから悪い。ごめんなさい。大丈夫?ほら姉さんも。」


むさしが少女に手を差し延べながら言った。


「ごめんなさい。悪ふざけが過ぎました。」


私が謝ると、少女はむさしの手を取り、服を整えながら言った。


「い、いえ、私の方こそ、こっそり覗いたりしていてすいませんでした。」


「気にしなくていい。それよりあなたは?私はフェンリル海軍第1艦隊第1遠征打撃群所属、やまと型ミサイル巡洋艦2番艦のむさし。そこにいる変態が姉のやまと型ミサイル巡洋艦1番艦のやまと。」


むさしが身だしなみを整えるのを手伝いながら言った。


「ちょ。むさし、酷い。」


「うるさい。自業自得。」


「あう。やまとです。変態じゃありません。」


「あ、ご丁寧にありがとうございます。私はアマギ共和国首都、京宮県に本拠地を持つ河城開発交易公社所属の魔導船、洞爺丸です。」


そこで騒ぐ私達に気付いて皆が近付いてきた。


「やまと、むさし、何をして、ん?君は?」


「おおー!和服美少女だー。」


「可愛い!」


「和服かー。あたしも着てみたいな。」


「アメリカ、あなたには似合わないと思うよ。」


「な!?そんなこと着てみないとわからないじゃないか! そう言うエンターはどうなんだ?!」


「私は似合うに決まってるでしょ。……………あなたと違って私は胸も背も小さいんだから。」


「………なんかごめん。」


「そう思うなら私に身長とその胸部装甲をちょうだいよ!!」


「いや…それは無理。」


「そんなことわかってるよ!!」


「……なにこれ?え、本当にどういう状況?!なんでいきなりカオスに?!」


いきなりのカオスに思わず私は叫んだ。


「………ふふ。」


「うん?洞爺丸さん?」


「いえ。なんか1人で皆さんを怖がってた自分が馬鹿らしく思えちゃって。ふふふ。私、軍艦の皆さんってもっと固くて怖い人達ばかりだと思ってました。前に会った人は商船如きが、って言われましたし。」


「そんなことが。まあうちの軍はトップからして、まあちょっと、いやかなりあれって言うか、はっきり言って変人でちょっと変態の百合思考だしね。」


「へぇ〜。変人でちょっと変態の百合思考、そんな風に考えてたんだ〜。ふーん。」


「?!」


私は強烈な威圧感を感じて背後をチラッと見ると、


笑顔で腕組をしたフェアリーが特殊部隊の隊員達を引き連れて立っていた。


「あ、あははは。もも勿論冗談ですy(ガッ)ヒギャアアアアア!」


フェアリーは笑顔のまま私の頭を拳で挟み、グリグリと動かした。


「あああ!ごめんなしゃい!許してぇ!」


「ダーメ。」


「か、陰口を言ったりしてすいませんでしたぁ!」


「?別にそんなこと気にしてないわよ?」


「じゃあどおじてぇぇ?!」


「うーん。なんとなく?やまと可愛いし、なんかいじめたくなるんだよね。」


「理不尽すぎりゅぅー!」




「うぅ…グス。ふぇえぇん。もうやめてぇぇ。」


しばらくして、頭の痛みはそれほどでもなかったがストレスで限界になった私は子供のように泣き出してしまった。


「うう。どうせ皆もフェアリーも私の事嫌いなんでしょう。前世の私は大事な船員の皆さんの期待に応えられずに沈んじゃったし、今の私は駄目な姉だし。」


私が思わず自分を否定すると、フェアリーは頭から手を離し、私をギュッと抱き締めた。


「ふぇ?」


驚く私を尻目に、フェアリーは私の頭を優しく撫でた。


「ごめんね。やまと。やり過ぎちゃった。」


「私も…ごめんなさい。」


「良いよ。でも1つ約束して。」


「ふぇ?」


「自分を卑下するような事は言っちゃ駄目。やまとは私の大切な仲間で、やまとの変わりはどこにもいないし誰にも出来ない。駄目なところと良いところ、全て合わさってやまとという1人なのであって、そんなあなただからこそ私はやまとのことを信頼しているし、大好きよ。」


「っ!」


私は急に恥ずかしくなってしまい、フェアリーの胸に顔を埋めた。顔を埋めると少女特有の甘い香りと、トクン、トクン、という鼓動の音、頭を優しく撫でられる心地よさから非常に安心感を感じた。


「………私も。」


「ふふ。ありがとう。でも、続きはまた今度ね。」


「え?」


フェアリーが苦笑いを浮かべながら周囲を見るように促したので、視線を向けると、


「「「「「………………」」」」」


「な、なんか物凄くむず痒いんだが。」


「姉さん。大胆。」


「凄い…。」


何人かは空気を読んで別の方を見ていたりしてくれているが、殆どは私達を生暖かい目でじっと見ていた。


「?!」


私は慌てて優香さんから離れ、DCG-194YAMATOと書かれた帽子を深々と被った。


「やまとちゃん可愛い♥ペロペロしたい♥」


「止めろ八重(変態)。止めをさすな。」


「うぅぅ…………。」


……あまりの羞恥心に顔を抑えて体育座りでうずくまってしまってもしょうがないと思う。



フェンリル軍GDU1stIB MRMU隊長 七海優香 TACネーム:フェアリー コールサイン:シルキー1-1



やまとがうずくまってしまったところで海を見ると、増援として派遣された艦隊が見えてきた。


「お、見えてきたわね。ほらやまと。元気出して。」


「うぅ。恥ずかしくて死にそう。」


私はやまとの手を取って立たせると、手を握ったままデッキの端に移動した。


「フェアリー。私は増員される艦艇達について詳しい事は知らないのだが、いったいどういう艦が来るんだ?」


私の近くにいたあかぎが質問した。


「潜水艦は平賀姉妹が「秘密だー!」って言って教えてくれなかったけど、巡洋艦はキーロフ級をモデルにした最新の洋上打撃艦、駆逐艦はあたご型の発展型だったはずよ。」


「また凄いものを持ってきたな。」


「同感ね。」


私達が話していると、あきづきが近付いて来て、


「ねえ。空母がいるわけでもないのに輪形陣で航行してるの?」


と言った。


「ん?そう言えばそうだな。」


「確かに。」


私達が艦隊に囲まれた中央に視線を向けると、見越していたかのように水柱が上がり、鋼鉄の塊が姿を表した。


「なっ?!」


「あれが潜水艦?!400mはあるぞ?!」


「大きい……凄い。」


巨大な潜水艦の威容に全員が呆気に取られる中、艦隊は悠々と港に接近してきた。



あかぎからドックに移動すると、港に入港した潜水艦から湊と一緒に良く似た外見の少女が降りてきた。


「フェアリー久しぶり。元気だった?」


「久しぶり。私もやっとこっちにこれたよ。いやー。面白そうなところだね。」


2人は私に近付くと言った。


「ええ。私は元気よ。皆、紹介するわ。この湊にそっくりな人は平賀穣。湊の双子の姉でフェンリル海軍の設計主任よ。」


「穣だよ。よろしくね。」


穣は片手を上げて振りながら言った。


「それじゃあ早速説明してもらおうかな。」


「良いよ〜。まず巡洋艦から。あれはキーロフ級巡洋艦をベースにした巡洋艦で、名前はマラート級巡洋艦。ここに来たのは1番艦のマラートと2番艦のガングート。マラート級は圧倒的な物量で叩き潰す事に特化した艦で、16.5cm2連装速射砲を2門と30mmCIWS10基、8連装SAMVLS14基、短SAM連装発射機2基、SSMVLS25セル、SUM連装発射機2基、6連装魚雷発射管2基、12連装対潜ロケット砲2基を積んでて、性能はやまと型と同等だね。艦隊の防空をさせても艦隊戦でも活躍出来るよ。


次に駆逐艦だね。あれはあたご型ミサイル駆逐艦の発展型として開発したゆうだち型ミサイル駆逐艦で、主砲をやまと型の70口径175mm速射砲を小型化した65口径150mm速射砲を1門に大量の各種ミサイルを積んでるよ。まあ大量とは言っても、バランスやダメコンはちゃんと考慮してあるから安心して。


最後が今回の目玉の潜水艦!水中での基準排水量47,620 t!全長422m全幅52mの巨大潜水艦で、名前はいおな型原子力潜水空母その1番艦のいおな!全面に特殊なタイルを使用しソナー対策が施されているよ!機関には最新のウォータージェット推進システムを使用!最大速力は水上で36.7kt、水中で46.5kt!最大潜行深度580mで兵装は28式533mm艦首魚雷発射管8門、多目的垂直ミサイル発射管12基、弾道ミサイル発射管4基、MPUAV(潜水艦発射無人航空機)14機、光学防御システム4基、AGS72口径170mm速射砲1門、を積んでいて、艦載機はASF-X、F/A-4、F-35B、AV-8B合計8機とSH-60K4機、V-22、V-50合計4機 の全16機が搭載されてるよ。

それと全体で使う新型の魚雷、スーパーキャビテーション魚雷を補給艦に積んできたから後で換装作業をするよ。何か質問は?…………ないようだから私達は作業に入るね。行くよ湊。」


「はーい。」


唖然とする私達を残して2人はさっさと作業に入っていった。


「えーと。とりあえず今日は解散に「あのー。」ん?」


私が解散を指示しようとすると、海軍の制服を着た9人の少女達が敬礼をした。


「フェンリル軍ギルド派遣部隊フェンリル海軍第1艦隊分遣艦隊に新しく配属されたマラート級巡洋艦1番艦のマラートです!よろしくおねがいします!」


「フェンリル海軍第2艦隊分遣艦隊に新しく配属されたマラート級巡洋艦2番艦ガングートです。頑張ります。」


「ゆうだち型ミサイル駆逐艦1番艦、ゆうだちです。第1艦隊第1水上打撃群に配属されました。よろしくお願いします。」


「同じくゆうだち型ミサイル駆逐艦2番艦のあきさめです。ゆうだちと同じ、第1艦隊第1水上打撃群に配属されました。若輩者ですが、あの、よろしくお願いします!」


「ゆうだち型ミサイル駆逐艦4番艦のつゆです。配属先は第2艦隊第1水上打撃群です。ご指導の程よろしくお願いします。」


「ゆうだち型ミサイル駆逐艦5番艦のはるさめです。第2艦隊第1水上打撃群に配属されました。精一杯頑張りたいと思います。よろしくお願いします。」


「私はいおな型原子力潜水空母1番艦のいおな。よろしく。第1艦隊あかぎ空母戦闘群への配属になる。」


「ルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦5番艦のロバート・E・ピアリーです。最新の魚雷を持って来ました。短い間ですが、お世話になります。 」


「フォート・ヴィクトリア級補給艦1番艦のフォート・ヴィクトリアです。ピアリーと同じく、短い間ですがお世話になります。」


「こちらこそ、よろしく頼むわ。」


彼女達の敬礼に対して返礼した。


敬礼を解き、私は全員が見える位置に移動した。


「さて皆、今日はこれで解散にするわ。明日の準備をしたら寝るも良し、食うも良し、部隊で過ごすのも好きな者同士でイチャイチャするも良し。好きに過ごして良し。後で各自のスマートフォンに乗艦する艦と隊員のリストを送るから良く確認するように。明日艦隊が出港を開始するのは0730時、全員これに遅れないように注意する事。以上。解散!」


隊員と艦魂達が一斉に敬礼し、それに対して私が返礼し、腕を下ろすと、隊員達は思い思いの方向に歩いて行った。

私は有希、シャル、アナトの3人と合流した。


「お姉ちゃん。この後はどうする?」


「まずは食事にしましょう。何が食べたい?」


「私は刺身がいいかな。さっきあたごさんと海軍の人達が良い魚が釣れたって言って巨大な発泡スチロールのケースを押してたし。」


「お、良いわね。それじゃあ刺身にしましょう。2人もそれでいいかな?」


『大丈夫です。』


「OKなの。」


「良し。それじゃあ車を借りて行こうか。」


私は高機動車を借り、海軍区画にある艦魂達ご用達の食堂に向かった。



「料理長〜!お刺身まだ〜?」


「あきづき、飲みすぎだよ。」


「む〜。お祝いの席だから〜いいの〜!」


「あなたがやまとさんですね?!私、マラートって言います!!お会い出来て光栄です!!」


「え?あ、ありがとう。これからよろしくね。」


「はい!!あの、お姉さまと呼んでも良いですか!?」


「ええ?!べ、別に良いけど。」


「ああ!ありがとうございます!やまとお姉さま!!一緒に飲みましょう!」


「わわ!危ないよ!抱きつかないで!酔ってる?酔ってるよね?!え?顔を掴んで何を?え?!いや、私お酒弱いからウォッカなんて飲めなング!ング、ン。」


「…………………(パクパク)」


「……どうした、むさし?」


「……いえ。何も。………………」


「……………………マラートに妬いてるのか?」


「ブフォ!?ゴホッゴホッ!あ、あたごさん!何を言ってるんです?!そんな訳………」


「妬いてるんだろう?お前、意外とお姉ちゃんにべったりだからな。」


「うぅ……。」


「私じゃやまとの代わりは出来んが、やけ酒には付き合ってやるぞ。」


「ありがとう……ございます……うぅぅ。」


「気にするな。あ、店員さん。お酒持ってきて飛びっきりきついヤツ。何かある?スピリタス?じゃそれで。」



「いやー。皆可愛いなぁー。」


「ああ。特にやまとが良いなぁ。頑張って背伸びしてる子供見たいな感じがして、癒される。」


「は?お前、うちのあたごさんに決まってるだろ。クールだけど気遣いも出来るお姉さんでたまに見せる笑顔が最高に可愛い。」


「あ?お前ら何言ってんだ?エンターちゃん一択だろう。元気いっぱいで天真爛漫な姿を見るだけで山口大将の鬼の訓練も乗り切れる。」


「なんだ?やるのか?」


「いいぜ。やったろうじゃねえか。」


「お前らのその考え。修整してやる。」


「「「山本司令は誰が1番だと思いますか?!」」」


「いや。なんで私に振るんですか?それに私にはもうクリスがいますから。」


「「「ちくしょう!!」」」



「カオスね。」


「カオスだね。」


「荒れてるの。」


『凄い騒ぎ。』


私達が食堂に着くと、食堂は艦魂達や海軍の将兵達が集まった宴会場となり、多賑わいだった。


私達はなんとか空いている席を確保した。


「いらっしゃいませー。あ!優香さん達!こんにちは!」


私達が席につくと、エプロン姿に伝票を持ったマリアちゃんが近づいてきた。


「こんにちは、マリアちゃん。今日は売店じゃないのね。」


「はい!人手が全く足りないと聞いたのでお手伝いに来ました!ご注文はなんですか?おすすめは海軍の人達が採った新鮮なお魚です!」


「じゃあ私は本日の刺身セットで。」


「私も!」


「私は蟹セットをお願いするの。」


『私は海鮮定食で。』


「はい!ご注文を繰り返します!本日の刺身セットが2点、蟹セットが1点、海鮮定食が1点。以上でよろしいでしょうか?」


「ええ。大丈夫よ。」


「それでは少々お待ちください!」


マリアちゃんはぺこりとお辞儀をすると厨房に戻って行った。


「マリアちゃん頑張ってる見たいだね。」


「そうね。そう言えばマリアちゃんを見てて思い出したんだけど、アナト、前に保護した魔剣の被害者の子達、様子はどうなの?報告は受けてるんだけど、直接聞いておきたくてね。」


報告書は逐次私のスマートフォンに届いているので状況は知っているが小さな少女が多いので直接治療に関わったアナトに話を聞いておきたかったのだ。


「あぁ…。結論から言うと、身体的には回復してる。ただ…魔剣の影響で心に重大な障害を負っていて、意識がないか、あっても発狂状態でまともな受け答えも出来ないレベルがほとんどだね。何人かは比較的軽度でもうほとんど治っている子もいるけど、全体としては完治には年単位必要になるかも。」


「そう…。精神系の魔法が得意なアナトに出来ないならかなりひどい状態見たいね。」


「うーん。はっきり言うと、私は精神を壊すのは大得意だけど、治すのは普通の魔法使いと同じくらいしか出来ないんだよね。」


「そうなの?まあ、壊すのと治すのじゃ何もかも違うから、そう言われればそうか。」


「そういう事。だから、あの子達の治療には専門の魔法使いか魔術師を探すのが1番だと思うよ。」


「なるほど。今度マスターとか王様達に聞いてみるか。」


「そうだね。って、こんな楽しい場所で気落ちする話はやめようよ。希望がない訳でもないし。」


「それもそうね。」


そんな事を話していると、マリアちゃんと補給科の隊員が料理を持って来た。


「お待たせしました!」


2人は慣れた動きで料理の載ったトレーを私達の前に並べていった。


「それではゆっくりしていってね…じゃなかった。していってください!」


2人はお辞儀すると厨房に戻って行った。


「それじゃあ食べようか。」


『「「「いただきます。」」」』


私達は手を合わせ、箸をとった。




「ありがとうございました〜!」


マリアちゃんの元気な声を受けて食堂を後にした。


「お姉ちゃんお刺身美味しかったね!」


「ええ。やっぱり新鮮な刺身は美味しいわね。」


「蟹をお腹いっぱい食べれて大満足なの。」


『お腹いっぱいだよ。』


私達は駐車しておいた高機動車に乗り込んだ。


「次は何をしようか?」


「明日の為に必要な荷物とかをまとめちゃおう。」


「それがいいと思うの。」


「了解。それじゃあ宿舎に戻るよ。」


私は車のエンジンを起動し、中央区画の宿舎に向かった。



[13:30時]

〈フォート・ディール 中央区画 上級職員宿舎〉



私は宿舎の駐車場に車を止めた。


「食料とか私達の銃は既に艦隊に積み込まれ始めてるから、私達が準備するのは個人的な私物よ。歯ブラシとか私服、貨幣、暇潰し用の本とか。ポーチやリュックにまとめて、足りない物は後で皆で買いに行きましょう。」


『「「了解!」」』


私達はそれぞれの部屋に向かい、準備を始めた。



[14:15時]



「ふう。こんなものかな。」


私は自分の私物をダッフルバッグにまとめ終え、クローゼットから出した白いTシャツにマルチカムのズボンに着替え、 第1独立大隊のエンブレムが縫い付けられたマルチカム柄のベースボールキャップを被り、サングラス型のHUDをかけてダッフルバッグを担いで部屋を出た。


部屋を出てエレベーターホールに来ると、既に3人が待っていた。有希はピンクのワンピースにスカート、シャルは白のシャツにズボン、アナトは黒のTシャツにスカートをはいていた。


「待たせちゃったかな?」


「そんな事ないよ。」


「そう。なら良いけど。………。」


『どうしたの?』


「うん。皆似合ってる。可愛いよ。」


『エヘヘ。』


「ありがとう!お姉ちゃん!」


「ありがとう…なの。」


3人は頬を染めて嬉し恥ずかしそうにしていた。


「ふふ。それじゃあ車に荷物を詰め込んでPXに行こう。その後はSWATの所に行こうか。」


『「「はーい。」」』


私はエレベーターのボタンを押し、地下駐車場に向かった。



[15:10時]

〈フォート・ディール 中央区画 憲兵隊演習場指令室〉



基地の購買部は久々の長期派遣という事もあり、日用品や菓子、消耗した装備の換えなどを求める兵士達がひっきりなしに出入りしていた。


私達は、新しいコップや箸、下着等と、大量の菓子類を買い、車に詰み、中央区画の憲兵隊指揮所の近くにある演習場の演習指令室にやってきた。


憲兵隊の任務は軍と違い、CQBが主になり、野戦は滅多に行われない上にHVTやHVIの設定も何もかも違う為専用の訓練施設が用意されていた。


「始め!」


ニックがマイクに怒鳴ると、モニターに映ったM4A1やMP5、UMP.45、M92F、P226等を手にした黒や青を基調とした戦闘服を着たSWATブラヴォーチームの隊員5名が行動を開始した。


[ドンドンドン!]


『警察だ!ドアを開けろ!』


先頭のM16A5を手にした女性隊員が扉を叩いた。


反応が無いとわかると、隊員の1人が破壊槌を扉に叩き付けた。


[バン! カラン…バァン!]


打ち付けられた破壊槌から杭が射出され、扉が破壊された。と同時に隊員がフラッシュバンを室内に投擲、室内が100万カンデラ以上の強烈な光と、180デシベルの爆音に満たされ隊員達が一斉に室内に突入した。


『伏せろ!地面に伏せろ!』


中にいた犯人役の隊員に銃を突きつけ怒鳴った。


『手を後ろに回せ!早くしろ!』


犯人役が伏せると、犯人役の隊員を踏みつけながら怒鳴り、後ろに回された手に手錠をかけた。


「訓練終了!上出来だがまだ早く出来る。10分後に人質救出訓練を行う。準備に入れ!」


そう言うと、ニックはマイクのスイッチを切り、私達に向きなおった。


「何か御用ですか?」


「この子達にSWATの戦いを見せてあげたくてね。」


「なるほど。軍で行われる突入は犯人の射殺が基本ですからね。対して我々SWATの突入は犯人の逮捕が基本で、射殺は最終手段としていますから軍の訓練だけを受けた人には新鮮でしょう。」


実際有希達は人を逮捕し、捕われた人質を救出する事に特化したHRTの戦術に興味を持ったようだ。


「私もそう思うわ。所で1つ提案があるんだけど?」


「…………なんでしょうか?」


ニックが嫌そうにしているが、私は笑顔で提案を言った。



フェンリル憲兵隊連邦捜査局SWATブラヴォーチーム副隊長 カイ・ダオ 警部補



時間になり、隊員達が集まった所で状況説明が始まった。


『これより救出訓練を開始する。現在凶悪犯1名が人質を取り立てこもっている。人質は心臓病を患っていると報告がある為、フラッシュバンの使用は禁止する。また容疑者は非常に好戦的で凶暴な為十分注意しろ。以上。状況開始!』


「行くわよ。正面の扉からダイナミックエントリーで侵入する。」


「「「「「了解。」」」」」


私達は正面の扉にそっと近づき、扉の隙間にカメラを差し込み、部屋の様子を確認した。


(人質1を確認。容疑者は確認出来ない。サイレントエントリーに変更。注意しろ。10カウント。)


他の隊員にハンドサインで情報を伝え、10数え終わると同時に扉を開け、向かいにいた隊員が先導して突入し、少し進むと 、


[ガッ]


先導していた隊員の首に物陰から細い腕が回され、バラクラバをかぶった何者かが隊員を盾にし、レッグホルスターからM92Fを抜き私達に向けた。


「?!動くな!銃を捨てて隊員を解放しろ!無駄な抵抗はするな!」


私達は突然の事態に驚いたが、直ぐに銃を構え、投稿を促した。


「…………わかった。ほら!」


何者かは銃を上に放り投げ、私達はつい銃に視線を向けてしまった。


まずい!


と思った時には、既に何者かは捕まえていた隊員を他の隊員に突き飛ばし、私達に向かって来ていた。


何者かは1番近い隊員の懐に潜り込み、M4を掴み、クルッと1回転させた。


「グゥッ!」


背中から叩きつけられた隊員のくぐもった呻きが聞こえると同時に何者かは手にしたM4の銃床を別の隊員の腹に突き、足を払うと同時に腰のホルスターから警棒を抜き出した。


私は銃から警棒に持ち替え、構えた。


「あなた…もしかして。」


「おっと。おしゃべりする余裕はあるのかな!?」


何者かは警棒を素早く振り、私はなんとか受け止めた。


[ギャリィッ!]


「ぐ!」


細腕1本とは思えない強い力で押され、体勢を崩されないように踏ん張るので精一杯だった。


「上にばかり集中していると、足元掬われるよ。」


何者かは踏ん張る私の足を払い、私が体勢を崩すと、警棒から手を離し私の胸ぐらを掴み、床に叩きつけた。


「ガハッ!」


私が苦悶の声を上げ、何者かの警棒が振り上げられると同時に、


『訓練終了!』


ニックの号令が響いた。



フェンリル軍GDU1stIB MRMU隊長 七海優香 TACネーム:フェアリー コールサイン:シルキー1-1



訓練終了の号令が響き、私は振り上げた警棒を下ろし、腰のベルトに繋ぎバラクラバを脱いで倒れているカイに手を差し出した。


「やはりあなたでしたか。」


カイは私の手を取り立ち上がった。


「ニックに無理を言ってね。」


「なるほど。それにしても、お恥ずかしい。手も足も出ないとは。」


頷きながら周りを見ると、倒れていた他の隊員達も立ち上がり始めていた。


「この世界には私と同じような身体能力を持っていたり、魔法や魔術があるから注意しないとダメよ。」


「はい。了解です。」


カイ達が敬礼をした。


「分かればよろしい!」


私が腕を組んで頷いていると、


「もしかして、それを伝える為だけにここに?」


隊員の1人が言った。


「うん?まあ、そうかな。ぶっちゃけるとここに来たのはただの暇つぶしが半分で、残りは私の相棒達にあなた達の訓練を見てもらいたかったのが残り半分かな。いい刺激になった見たいだし、訓練の邪魔するのもあれだからそろそろお暇させてもらうわ。」


私はカイ達に敬礼し、


「私達が留守にしている間、フィールの街をお願いね。」


私がそう言うと、カイ達は一斉に姿勢をただし、ビシッと効果音がつきそうな見事な敬礼をした。


「おまかせください。我々の命を懸けてでも守り抜きます!」


「ふふ。頼もしいわ。それじゃあね。」


私はカメラに向けて有希達を呼び、憲兵隊演習場を後にした。



[19:00時]

〈フォート・ディール 中央区画 上級職員宿舎 大浴場〉



憲兵隊演習場を後にした後は、4人で適当にドライブ等を楽しみ、宿舎に帰ってきた。食事を終えた後、私達宿舎に併設された大浴場に向かった。


「はぁー。」


「良い気持ちなの。」


大浴場には私達以外にもフランやメグ、良美など数人が伸び伸びとくつろいでいた。


「おお。思った以上に気持ちいいわね。ね、咲夜?」


声の聞こえた方を見ると、レミリアがフラン、咲夜と一緒に湯船に浸かっていた。


「そうですね。温水に体を沈めるのがこれ程気持ちいいとは。」


私は3人に近づき、会話に加わった。


「そうでしょう。私の故郷は風呂にはかなりうるさくて、1日に何回も入る人もいるくらいだし、軍隊の備品に野外入浴セットがあるくらいだからね。この大浴場にもかなりこだわってるよ。」


「へぇー。私達は体を拭くくらいで済ませる事が多いけどこう言うのも良いわね。」


「そうですね、お嬢様。それに………。」


「?どうしたの?咲夜?」


「?咲夜?」


咲夜は黙ってレミリアとフランを見つめると、


ガシッと私の手をとった。


「本当に素晴らしい!私はあなたと会えた事を神に感謝します!」


「さ、咲夜?大丈夫…って鼻!鼻血が出てるわよ?!」


「大丈夫ですお嬢様!これはお嬢様への忠誠心が溢れ出ているだけです!」


「アホな事言ってないで止血してきなさい!」


「…そうですね。お湯に血が入るのはまずいですし、少し失礼します。」


咲夜は鼻を押さえながら大浴場を後にした。


「はあ。咲夜にも困ったものね。」


「あはは。まあわからなくもないけどね。」


「普段はもっと瀟洒で完璧なメイドなんだけど…。」


「ただし忠誠心は鼻から出る、と。実際の所、レミリアと咲夜はいつから一緒にいるの?」


「うーん。物心つく前から一緒ね。面と向かって言うのは恥ずかしいけど、咲夜は私の誇りよ。今後もずっと一緒に過ごして行きたいわね。」


「お姉さま!私は?」


フランが羽をピコピコ動かしながら言った。


「もちろんあなたも私の誇りよ、フラン。」


「やったー!」


「お嬢様。そのように思って頂けているとは。大変恐縮です。」


フランと突然私の隣に出現した咲夜が言った。


「さ、咲夜?!止血に行ったんじゃ?!」


レミリアが咲夜に気付き、顔を真っ赤にして言った。


「あまり待たせる訳には行かないと思いましたので、時間を止めて止血してまいりました。」


「と、言う事は……。」


「はい。全て聞かせていただきました。」


咲夜はとても良い笑顔で言った。


「う、うー。」


レミリアは真っ赤になった顔を押さえてうずくまってしまった。


「「可愛い…。」」


私と咲夜はレミリアの姿を見て呟いた。


「八重がいなくて良かった。あいつならルパンダイブしてもおかしくないわね。」


「ルパンって誰ですか?」


「漫画のキャラクターの名前よ。後で読んでみる?」


「はい!」


風呂の反対側では良美がメグの猫耳のついた頭を優しく洗って泡だらけになっていた。



[9月29日 07:25時]

〈フォート・ディール 海軍区画 第1区 あかぎ型航空母艦1番艦 あかぎ 艦橋〉



昨日風呂から出た私達は、自室に戻り直ぐに眠りについた。

今朝スマートフォンの目覚ましで目を覚ました私は、同じく目を覚ましていた3人と一緒に高機動車であかぎに乗艦し、私は全体への訓示の為に艦橋に来ていた。


「衛星からの気象予測が来ました。現在近海は風速秒速2、雲量2、高気圧が停滞しており天候は極めて良好。」


「エンタープライズより洞爺丸を含む第2艦隊全艦艇の出港準備が完了との事です。」


「第1艦隊各艦より報告。出港準備が完了しました。海軍区画司令部から人員、車両、銃火器、物資、全ての搬入完了。」


「了解。準備完了です。フェアリー。」


報告を受けた多岐が言った。


「全艦とディールのスピーカーに繋いで。」


「は。第1、第2艦隊の各員、並びにフォート・ディールの各員へ。総帥の訓示である。作業中の者は作業の手を休めずに聞け。」


私はマイクを手にとった。


「七海優香より各員。これより私達は、アマギ共和国に向けて出港する。目的は知っての通り2つ。1つは10月29日から開催される闘技大会で優勝を目指すこと。そして、大会期間中に発生すると思われるFROCHのテロを防ぐことだ。この大会は大陸各地の冒険者、各国軍の精鋭が集まり、各国の重鎮も多数出席する。反亜人、現体制の転覆を目指すFROCHには最高の標的だろう。どのような主義主張をしようと各人の勝手だ。だがその主張に関係のない他人を巻き込み、一方的に傷つける事はただのテロだ。そのような主張を認める事は出来ない。FROCHは当初の我々の予想より巨大で、背後には何らかの組織がついている可能性が高い。私の予想では……いや、これはいい。大会で冒険者や軍の精鋭が抜けた隙をつき、アメックスをはじめとする各地でテロや犯罪が発生する可能性も高い。ディールに残る各員は十分警戒し、いつでも行動出来るように準備しておくように。第1、第2艦隊に乗艦の各員は、フェンリルの軍人である事を常に頭に入れて起き、決して私達の名前と誇りに泥を塗らぬように留意しろ。世界中の人々に私達の力を直接見せ、人を人とも思わぬ外道を地獄に叩き落とす為の前哨戦だ。既に本土たちの警戒レベルを引き上げ、情報にあったFROCHの拠点偵察、並びに攻撃の為の部隊を編成し、出撃の時をいまかいまかと待っている。到着までのおよそ2週間、爪を研ぎ、牙を磨け。自身を、友を、そして愛する者を守る為に。以上だ。各員の健闘を祈る。」


私はマイクを多岐に返した。


「出港用意!」


多岐の号令と同時に軽快なラッパが流れ、船員達が離岸作業に入った。


「第1艦隊、第1水上打撃群から出港を開始!」


第1水上打撃群の艦艇が出港を開始した。


『登り方用意!登れ!』


横を通った艦の艦長の号令とともに制服を着た隊員達が弦側に整列した。


『総帥、艦隊司令、並びに基地各員へ敬礼する!礼!気を付け!かかれ!右帽振れ!』


整列した隊員達が帽子を持った右手を振った。


新たな仲間を迎えた艦隊は整然とアマギ共和国に向けて出港した。

投稿が非常に遅くなり申し訳ありません。


潜水艦はエースコンバットのシンファクシとフルメタル・パニックのトゥアハー・デ・ダナンを足したような物を考えてください。


次回以降は航海中の話や本土に戻った部隊、特殊工作を開始した部隊の話を等数回挟んで、闘技大会にしようと思っています。


今サークルの活動でクトゥルフ神話TRPGをやっているのですが、もしかしたらそのリプレイを投稿するかもしれません。もし投稿したらそちらもよろしくお願いします。


今回の名言です。今回は機動戦士ガンダムMSIGLOO2重力戦線第3話より、陸戦強襲型ガンタンクパイロットのアリーヌ・ネイズン技術中尉の一言です。


アリーヌ「卑怯者は影で笑うものだ。」


MSIGLOOシリーズは全て3Dのアニメですが、戦場の泥臭さをかなり濃く描いています。特にMSIGLOO2はザクに対して地球連邦軍の対MS歩兵小隊や61式戦車中隊の活躍が描かれ、固定の主人公がいないのでどの話からも楽しめます。3Dが苦手でなく、非常に泥臭い一年戦争の話を見たい方は是非ご覧ください。


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