第3章03 艦魂と人魚とOperationSpiderWeb
[9月22日 10:30時]
〈アメックス王国 フェンリル軍特務派遣軍集団本部 フォート・ディール 海軍区画 ミサイル巡洋艦やまと〉
フェンリル海軍 1stFleet あかぎCBG やまと型ミサイル巡洋艦 やまと
私と特に仲の良い、あたご、あきづき、ストックデール、マイケル・モンスーアの計5人|(?)は、やまと(私)の艦首から釣糸を垂らし、のんびりと釣りをしていた。
「はぁー。こうやってのんびり釣りをするのも良いですねー。」
私は艦首から足をぶらぶらさせながら言った。
「同感同感。あたし等は軍艦だから荒事から逃れられない訳だけど、たまにはこうしてのんびりしたいよなー。」
あたごさんがルアーの付いたロッドを操りながら言った。
「でも、デールとあきづきには難しいみたいよ。」
スーアさんに言われて2人を見ると。
「うぅ。釣れない。」
あきづきちゃんが軽く涙目でロッドを振っていた。
「お!きたかな?!えい!……また逃げられた。うー!いっそのことフラグでも投下しようかな?」
デールちゃんが恐ろしい事を口走った。
「ちょ!デールちゃん!それは止めて!私に傷が着いちゃう!」
「あはは。流石に冗談、ジョークだよ。本当は電極をぶっ指して『それも駄目!』ちぇー。」
デールちゃんは口を尖らせてロッドを振り、釣りを再開した。
「はぁー。」
私はさっきとは別の溜め息をはいた。
「ん?やまと、ロッド引いてるぞ。」
「え?あ、本当だ。」
あたごさんに指摘され、リールを巻くと。
「げ。草河豚。」
ルアーにはパンパンに膨らんだ草河豚が食い付いていた。
「ははは!みごとなまでに外道だな。」
あたごさんが大笑いし、
「河豚?食べられる奴?」
あきづきちゃんが河豚の刺身や唐揚げを想像したのかそう聞いてきた。
「ははは。あきづき、草河豚は無理だな。こいつは体の隅から隅まで猛毒だ。あたし達は兎も角、普通の人間が食べたら死ぬ。ほれ、やまと、さっさと逃がしてやれ。」
「はい。ほれ。逃がしてあげるから別の魚を連れてきてよ。」
私が河豚を逃がす時には、あきづきちゃんは猛毒と聞き興味を失ったのか、自分のロッドに集中していた。
「そう言えばあたごさんとスーアさんは何か釣れました?」
「ん?あたしはこんな感じだ。」
あたごさんのバケツを見ると、
「おぉー。石鯛に鯊ですか。けっこう釣れてますね。」
「ああ。もっと釣れたらマストに大漁旗を掲げようかな?」
「怒られますよ。スーアさんは?」
「え?わ、私はそんなに…。」
「?怪しいですね。無理矢理見ちゃいます!」
「あ!」
スーアさんの隙を突き、バケツを奪って中を見ると、
「え?」
愕然とした。
「ミノカサゴ、クラゲ、ダツ、オニダルマオコゼ、ヒョウモンダコ、ウミヘビ、…………誰かの手袋。い、一体どうなってるんですかー!?」
スーアさんのバケツの中は超危険な魚が所狭しに収まっていた。
「プフ、クッ!ま、まあ、スーア。フフ!そ、そう言う事もあるさ。クク!」
「くっ!だから見られたくなかったのに!」
「いや、2人共、問題はそこじゃ、いえ、それも問題ですが。なんでこんな魚がいるんですか?!生息域も釣れる季節も全然違いますよ?!」
私の真っ当な疑問にたいし、
「まあ、異世界だし、そう言う事もあるんじゃないか?あるいはスーアが海の│(邪)神に愛されているとか。プフ!」
あたごさんがそう答えた。
「な、なるほど。なんか附に落ちませんが一応納得です。」
「や、やったー!釣れた!」
あきづきちゃんの声が響き、そっちを見ると、
「「「え?!」」」
ルアーに見事な伊勢海老がくっついていた。
「え?あれ?伊勢海老?え?な、なんで?!」
「あ、あれだよ。い、異世界、だから?」
「何で疑問系?」
私達が狼狽えている間にあきづきちゃんは伊勢海老をバケツに入れ、上機嫌にロッドを再び振っていた。
「くっ!あきづきちゃんに先を越されてしまった!皆の度肝を抜くような大物を釣ってやる!」
デールちゃんは未だに坊主なのを気にして躍起になっていた。
「ま、まあ今のは忘れて釣りをしよう!うん。」
「そ、そうですね!今思うと私草河豚しか釣ってないですし!」
「それ言ったら私危険生物と手袋ですよ?!せめて食べられる魚を釣りたい!」
「何言ってるんですか?オニダルマオコゼは食べられますよ。結構美味しいですし。」
私達もロッドを振り、釣りを再開した。
「お!早速!」
再開して5分ほどすると、再び私のロッドが引いたので、リールを巻くと、
「ん?また河豚ですか!」
「ど、どうしたやまと。変な声出して。」
「今度はショウサイフグですよ!えぇー!本当にどうなってるんですか?!この海!なんか恐いです!河豚は美味しいから好きだけど海が怖い!」
「お、落ち着けやまと!軍艦が海恐がってどうするんだ?!それにそいつの鍋は超うまいぞ!よかったじゃないか!」
「これが落ち着いていられますか!」
私は軽いパニックに陥ってしまい、あたごさんが必死に私を宥めた。
「はあ、はあ。すいません。あたごさん。取り乱しました。」
「あ、ああ。気にするな。それにしてもすごいな。どうなっているんだか。」
「ははは。その内人魚でも釣れるんじゃないですか?」
私がそう言った直後、
「キター!!重い!これは大物の予感!」
デールちゃんに当たりがきた。
「まさか?」
「本当に?!」
「いやいやいやいや。流石に人魚はないでしょう。」
気になって海面を見ていると、
[ザパァ!]
と物凄い勢いで海面から何かが飛び出し、艦首に着地した。
その何かは人の上半身に、魚の下半身を持つ人物、ぶっちゃけ人魚だった。
「「「「に、ににに、人魚キター!!」」」」
状況を理解していないあきづきちゃんを除く全員の絶叫が響き渡り、
『に、人魚だ!人魚を釣り上げやがった!おい!急いで山本司令に連絡しろ!艦魂達が人魚釣り上げたぞ!』
艦橋にいた監視員が連絡を入れに艦内に入って行った。
釣り上げられた人魚は、涙を流しながら、
「い、痛いー!こ、これとってー!」
と叫んだ。
「「「「しゃ、喋ったー!」」」」
驚いて叫んでしまったが、その人魚の顔は以前見た事のある顔だった。
「って、あなたアクアちゃん?」
「うぅー。や、やまとさんー?」
基地祭の時に助けた人魚の 1人で、救助された後私と話した人魚が彼女だった。
「や、やまとさんー!この針取ってくださいー!」
「わ、わかった。」
私は彼女の尾ひれの辺りに引っ掛かったルアーを外した。
「うぅー。痛かったー。やまとさんー。ありがとうー。」
彼女は針が外れると、親愛の情を表すように私に抱き付き、頬擦りを始めた。
「えっと。何て言えば良いのかな。おめでとう?」
「……どういう意味ですか?あたごさん?」
「いや。可愛い恋人が出来て?」
「そんなー。恋人なんてー。照れちゃうよー。」
アクアちゃんは両手を頬に当て、体をくねらせた。
「いや。恋人って、前に1回話して仲良くなっただけですし、同性ですし、そもそも私達って子供出来るんですか?」
「んー。愛に時間も種族も性別も関係ないよー。」
そこでアクアちゃんは上目遣い+涙目で、
「もしかしてー。やまとは私の事嫌いー?」
「うっ!そ、それは。どちらかと言えば………好き……ですけど……。」
私はそっぽを向きつつ、赤面しながら小声で答えた。
「んー!私もやまと好きー!」
「ちょ!わかった!わかったから私の胸に顔押し付けないで!」
「ほらな。やっぱり恋人じゃないか。」
あたごさんは私達を見てしみじみと言った。
「もうそれで良いですよ…。」
「そうそう。けっこうお似合いよ。人魚と艦魂、どっちも海に生き、海に帰る者だしね。」
「やまとちゃんおめでとうー。」
「おめでとうー。」
スーアさん、デールちゃん、あきづきちゃんが拍手しながら言った。
「ーーーっ!そ、そう言えばアクアちゃん!何でここに来たの?1人で?」
「んー?それはねー。前に優香ちゃんが言ってた話しの結果を皆で伝えに来たのー。」
「「「「皆?」」」」
「うんー。皆ー。出てきてー。」
アクアちゃんが海に向かって言うと、海面に複数の男女の顔が浮かび上がった。
「ほー。知ってる顔がちらほらいるな。」
「フィリーちゃーん!久し振りー!」
「ウェイスさーん!」
あたごさんが海を見て頷き、あきづきちゃんとデールちゃんは元気に手を振っていた。
それを見た人魚達も手を振っていた。
「うーん。このままじゃ話も落ち着いて聞けないし、取り敢えず詳しい話は後にして、皆でお昼を食べない?」
私はひとまず顔合わせをする場を設ける事にした。
[12:00時]
〈フォート・ディール 海軍区画 食堂〉
私達は食堂に移動し、テーブルをくっ付けて大きくして、料理長の捌いた刺身や味噌汁等を飲んでいた。
「いやー。やっぱり味噌汁は良いですね。」
「オニダルマオコゼって本当に食べられるんですね。しかも結構美味しい。」
「伊勢海老♥おいひい♥」
「ぬぬぬ!あきづきちゃん!私にもちょっとちょうだい!」
「んー?ダメ。」
「デール。諦めろ。ほらハゼの天ぷらと石鯛分けてやるから。旨いぞ。」
「うぅー。」
私達艦魂は味噌汁や刺身を堪能していたが、味噌汁や醤油を始めて見る人魚の人達は、
「おお!この茶色のスープ、色は変だが味と香りは最高だ!」
「この黒い液も美味しい!刺身にピッタリ!」
と料理に感激していたり、
「料理長さん!私にこのスープと黒いソースのレシピを教えて下さい!何でもしますから!」
「ん?今何でもするってい、痛!」
「坂本曹長。次はフォークですよ。」
「じょ、冗談だよ。後でメモと味噌、醤油をプレゼントしてやるよ。」
「やった!ありがとうございます!」
と料理長に頭を下げていたりと色々な意味で満喫していた。
料理も粗方片付いた頃、
「これはぜひともウチと交易して貰いたいな。」
「ああ。最初に襲われて直ぐに別の集団に助けられたと聞いた時は何事かと思ったが。」
「結果的には良かったかも知れないわね。」
「それに、もしかしたらあの事も解決してくれるかも。」
人魚達がそう話始め、
「その話詳しく教えてくれませんか?」
食堂の入り口から聞き覚えのある男性の声が響いた。
「「「「「や、山本司令!」」」」」
私達は一斉に起立し、敬礼をした。
山本司令は敬礼を返すと椅子を1つ運び、私達の真ん中に座った。
「初めまして。人魚の皆さん。私はフェンリル海軍の最高司令官の山本正之と言います。」
人魚の男性達は突然現れた若い男性が海軍の最高司令官としり、驚愕の表情を浮かべていた。
一方女性達はフェアリーやあかぎの艦長が若い事を知っているからか驚きはそれほど大きくなかったようだ。
「この度は遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。七海は現在手が離せないので私が変わりに対応させていただきます。七海がした交易の約束に関するお話と伺っていますが?」
「はい。その通りです。私達セレス海北部海域に住むマーメイド族は、あなた方フェンリルと交易したいと思っています。私は今回の交渉のリーダーを任されたアーロンです。」
山本司令の質問に最年長の男性が答えた。
「ふむ。交易という事ですが、取引の方法はどのようにしますか?」
「私達の集落は海上集落ですが貨幣は流通しておりますので、そちらでの取引と、集落の特産品との物々交換でお願いします。私達が欲しいのは野菜などの食料や日用品等です。」
「なるほど。では本日中にこちらで物品と価格をまとめたリストを作成しますので暫くお待ち下さい。」
「はぁ。分かりました。あの、もう1つ良いですか?」
話が終わったと思うと、男性は神妙な面持ちになった。
「どうぞ。」
「山本さん、フェンリルではクエストの受注も行っていましたよね?」
「ええ。私達はギルドの依頼の受注も行っています。………私達に依頼があると?」
「はい。私達が住む海上集落は、複雑な海流に囲まれ、本来なら魔導船や帆船で越える事が出来ないのですが。7ヵ月ほど前に突然海流が一部変化し、抜け穴のような物が出来てしまい、そこを抜けて海賊が出没するようになったんです。今のところ被害は怪我人数人と家が数件燃えるだけですんでいますがこのままではいずれ死者や誘拐される者が出るのも時間の問題です。」
(7ヵ月前…。フェンリルが転移してきた頃。間違い無くそれが原因ね。)
「つまり、その海賊を討伐してくれと?」
「はい。」
「………少々お待ち下さい。七海に連絡を取ります。」
山本司令が携帯を取り出して食堂を出た。
「……海賊ですか。大変ですね。」
私はアーロンさんに言った。
「ええ。海での戦闘は私達に分があるのですが、何分数が多い上に、最近はどこかの海軍か何かが協力しているようで、装備や兵士の練度が上がっているんです。」
「そいつはやっかいだな。」
「まあ、海賊程度なら余裕じゃないかな?」
「駄目よデール。そんな慢心しているとあかぎさんに怒られるわよ。」
あたごさん、デールちゃん、スーアさんがそんな事を話していると、山本司令が食堂に戻ってきた。
「失礼しました。七海から『許可する。徹底的に叩き潰せ!』との返事が来ましたのでその依頼、お引き受けします。今日は準備と編成で、出発は数日後になるのでそれまではここでゆっくりしていってください。皆さんの案内役に広報課の隊員を呼び出しました。もう暫くここで待っていてください。」
「あ、ありがとうございます!」
山本司令は頭を下げる人魚達に笑みを向け、
「それでは私は仕事がありますので失礼します。」
そう言って食堂を後にした。
「ま、そうだよね。フェアリーがこの依頼受けない訳ないよね。」
「ああ。短い休暇だったな。それじゃあ解散して私達も準備を始めよう。」
「「「「了解。」」」」
私達は人魚達に挨拶をしてから自分の艦に戻り、いつ出撃しても良いように準備を始めた。
[9月24日 10:00時]
〈フォート・ディール 海軍区画 フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG 旗艦 ブルー・リッジ 艦橋〉
フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG 旗艦 ブルー・リッジ 艦長 ピーター・ラヴェル大佐
2日前に召集がかけられた私達は、出港前の最終チェックを行っていた。
「艦長。全ての点検が終了しました。問題ありません。」
副艦長のアリス・フェイラー中佐が報告した。
「了解した。派遣される艦に繋いでくれ。」
「アイサー。繋がりました。」
「第2艦隊第2水上戦闘群、並びに第1遠征打撃群の各艦の乗員に達する。今回の作戦指揮を任されたブルー・リッジ艦長のラヴェルだ。これより第2水上戦闘群、第1遠征打撃群は依頼主のマーメイド族の誘導のもと彼等の集落に向かい、支援物資の譲渡、交易ルートの確立、そして彼等の安全を脅かす海賊の討伐に向かう。
敵の海賊は何らかの組織と協力関係にあると思われる。今回の派遣にはこれの調査も含まれている。背後関係を洗い出し、私達の友人に牙を剥いた愚か者の正体を丸裸にする。海賊を掃討し、私達の新たな友をなんとしても守り抜くぞ!」
「「《《おぉー!》》」」
艦内や無線越しに乗員達の叫びが聞こえた。
「それと、これは余談だが。人魚達は男も女も皆美形揃いだそうだ。良い所を見せられればワンチャンあるかもな。」
『『『『《《《《ウォォー!》》》》』』』』
先程より遥かに大きい│(独身達の)雄叫びが聞こえてきた。
「以上だ。第2水上戦闘群から順に出港を開始せよ。」
無線を置くと、アリスが私をジト目で見ていた。
「最後の1言はどういう意味ですか?」
「もちろん味方の士気を上げる為でそれ以上の意味はない。」
「本当ですね?」
「もちろんだ。この世界では一夫多妻制が主流だそうだが、私の隣の席はもう埋まっているのでね。他者が入る余地はない。」
私は指輪がぶら下がったネックレスを握り言った。
「疑って申し訳ありませんでした。」
アリスは笑顔で私と同じデザインの指輪がぶら下がったネックレスを握りしめながら上機嫌そうに言った。
「構わないさ。私はCICに行く。艦橋は任せるぞ。」
「アイアイサー。お任せください。」
私は艦橋をアリスに任せ、艦隊の指揮の為にCICに向かった。
[13:30時]
〈ブルー・リッジ CIC〉
艦隊は何の問題も無く進み、目的の海上集落に近付き、アメリカを発艦したUAVが集落の映像を映し出した。
集落は海の上に浮かぶ島のような物に1〜2階建ての家が建っているという構造で、パッと見ただけでも20近い家が建っていた。
だが、ゆっくりと眺めている余裕は無かった。
UAVの映像には海賊と思われる帆船に包囲され、火の手が上がる様子が映っていた。
「状況報告!」
「5隻の大型船からなる敵艦隊が集落を襲撃しています!既に上陸され戦闘が開始されています!」
「艦長!SBUと海兵隊、航空隊が出撃許可を求めています!」
私は目を閉じ、考えを巡らせた。
「…………駄目だ。出撃は許可出来ない。全艦機関を停止しステルスを起動しろ。」
「本気ですか?!今まさに攻撃されているんですよ!?」
「だからこそだ。ここで奴等を殲滅するのは容易い。が、あれが全てとは限らないし、あの装備を見る限り何らかの支援があるのは間違いない。ここは奴等を泳がせて拠点を把握するのが先決だ。」
「ですが?!」
「考えてみろ。人魚達は過去に何度も海賊を撃退しているそうだ。何故海賊はそうまでして人魚を狙う?それは生け捕りにして売る為だろう。では誰に?5大国は条約を批准した。これまで通りの市場での取引は出来ない。人身売買はこれまでより旨味が減っている。それなのに、何故だ?単純に知らないだけか?売買以外に目的があるからか?それを知る為に、そして後の被害を減らし根本を断つ為にも、ここは我慢しろ。」
「グッ!了解です。」
「クソ!指を加えて見ているだけなんて!」
艦隊が止まり、海賊が撤退するまでの間光学迷彩を起動し艦隊は完全に姿を消した。
[16:20時]
〈セレス海 マーメイド族の集落〉
私は護衛の海兵隊員と人魚達と内火艇に乗って集落に上陸した。
「…………熱烈な歓迎だな。」
上陸した私達は、武器を持った複数の人魚の男達に取り囲まれた。
「や、やめろ皆!」
「そうよ!武器をおろして!」
アーロンさん達が前に出て宥めてくれたお陰で、直ぐに武器はおろされた。
「失礼しました。お客人。私はこの集落の長のハマードと言います。海賊が来た直後で、皆気が立っているのです。」
取り囲んでいた集団の後ろから60代後半の弾性が歩いて来た。
「始めまして。フェンリル海軍第2艦隊第1遠征打撃群旗艦ブルー・リッジ艦長のピーター・ラヴェルと言います。海賊の襲撃ですか。被害は?」
私が聞くと、男達が悔しそうに俯いた。
「………4人の若者が死に、若い娘5人が拐われました。これまでにも10人近くの娘が………。」
「奴等、透明化の魔道具に、魔導船、海竜、完全武装の兵士を連れて攻めて来やがった!」
「一体どうなってるんだ!?何で海賊如きがあんな装備を?!」
人魚達は怒りに震えていた。
「ハマードさん。海賊の装備と攫われた娘の名前を教えて下さい。」
「それは良いですが、どうするのですか?」
「決まっています。海賊を殲滅して、攫われた娘さん達を救出してきます。
海賊達の拠点の位置は現在追跡中です。判明次第そこを急襲します。」
「場所がわかっているのか?!俺達も連れて行ってくれ!」
私の言葉に若い男達がそう言った。
「駄目です。はっきり言って足手まといです。皆さんにはこの集落の修繕工事をしてもらいます。」
「だが、倉庫も焼き払われてしまって、この集落には資材が……」
「ご安心を。建材、食料、日用品を輸送艦に満載しています。本来なら交易という事でしたが、緊急事態ですので構いません。」
「よ、よろしいのですか?!」
私の言葉にハマードさんが驚愕して聞き返して来た。
「もちろんです。協力していただけますね?」
「当然です!どうか、あの娘達をお願い致します!」
私は深く頷き、無線を手に取った。
[23:00時]
〈セレス海 ベーリンゲル島南部〉
フェンリル海軍 SBU 1stCo 3rdPt 小隊長 宮本良美 TACネーム:カイヒメ コールサイン:ウミドリ3-1
夜遅くになり、ゾディアックで海賊の根城の島の近海まで接近した私達は、閉鎖回路式潜水装置を身に着け海賊達の港に接近した。
《ブルー・リッジ、並びにオールユニット。こちらウミドリ1-1配置に着いた。》
《2-1同じく。》
「3-1準備良し。」
《4-1いつでもどうぞ。》
《こちらコイル2[フェンリル海兵隊第2遠征軍第32歩兵連隊第11大隊第2中隊]。島北部に上陸。北部山岳地帯、並びに森林を捜索する。》
《こちらジューク1[フェンリル海兵隊フェンリル海兵隊第2遠征軍第32歩兵連隊第24大隊第1中隊]。東部に展開完了。廃村の制圧を行う。》
《サンゴ1[フェンリル海軍隊第3陸戦大隊第1戦闘中隊]西部に上陸。敵船舶を確認。制圧する。》
《良し。ブルー・リッジよりオールユニット。状況開始。》
合図を受け、海中を泳ぎながら桟橋に接近した。
桟橋には見張りが1人いたが、桟橋の下の海中を泳ぐ私達に気付く訳もなく、呑気に酒を飲んでいた。
私はレッグホルスターからサプレッサー付きのP228を抜き、男の股間の中心目掛けて引き金を引いた。
[ボシュボシュ]
2発の9mmパラベラム弾は男の股間から体に侵入し、男性器や小腸などの内臓を食い破り、男の命を一瞬で刈り取った。
私は桟橋に倒れた男を水音を立てないように水の中に引きずり込んだ。
見張りを片付け、周囲の安全を確認し、ステルスを起動したまま上陸した。
「目標はこの先の建造物。私がポイントマンになる。周囲に目を配って。」
MP5を更新して新しく使い始めたHoneyBadgerを構え、鳴子や矢などのトラップを警戒しながら慎重に歩みを進めた。
幸い海賊は油断しているのか殆どトラップも無く、無事に目標の建物に到着した。
(ミュートチャージをセット。)
ハンドサインで伝え、部下が地面にミュートチャージをセットした。
[ウィーン]
独特な起動音と共に周囲の音が消えたのを確認し、背中に腕を回し、ベネリM4を取り、扉のドアノブとヒンジを破壊し、扉を蹴破って侵入した。
(バディで散開しろ。サーチアンドデストロイだ。船長は捕獲だ。)
ハンドサインで伝え、相棒の佐々木響子[TACネーム:スイフト]と一緒に近くの部屋に侵入した。
部屋の中は散らかっていて、ハンモックが4つぶら下がり、そこに海賊の男達が眠っていた。
私は再びP228を抜き、1人の頭に向け、引き金を引いた。
[プ]
放たれた9mmパラベラム弾は男の頭を穿ち、男の意識を夢見ていた天国に送り届けた。
他の3人も同様に始末し、1階の掃討が終わった仲間と合流し2階に向かった。
階段を音を立てずに登り、再び散開して、私と佐々木は大部屋に向かった。
慎重に大部屋の扉に近付き、鍵穴に解錠ツールを差し込み鍵を開けた。
扉をそっと開けて中に入ると、想像した通り、いかにも海賊と言った髭面の大男が鼾をかいて眠っていた。
「HVT発見。」
《《《《《了解。》》》》》
ポーチからテープと手錠を取り出し、男の両手両足を近くの椅子に拘束した。
「ンガ!な、何だ!お前等?!おい!侵入者だ!」
目を覚ました男は大声で仲間を呼んだ。
私は男の口を塞ぎ、胸のホルスターからナイフを引き抜き、
「お前等が捕えた人魚はどこだ?言えば開放してやる。」
「だ、誰が教えるか…。」
「なら話したくしてやる。スイフト。口を開けさせろ。」
「な、何を、ムグ。」
スイフトが海賊の口を開けさせ、私は胸のホルスターからナイフを拔いた。
「始めよう。人魚はどこだ。」
「くたばれ、ビッチめ。」
私はナイフを海賊の口に入れ歯を肉ごと抉り出した。
「うぎゃァァァァ!」
男は手すりを握り締め、激痛に涙を浮かべた。
「人魚はどこ?」
「あぁぁぁぁ!」
「スイフト。」
スイフトが再び海賊の口を開けた。
「ひゃ、ひゃめ」
[ザシュ]
2本目の歯が男の口から抉り出された。
「ぁぁぁぁぁぁ!」
「このまま歯が無くなるまで続けるか、人魚の場所を話すかだ。人魚はどこ?」
「う、裏ひゃまのどうくちゅと廃村近くの廃墟の地下だ!2日後の昼に受け取り人がくりゅ!も、もうやめてくりぇー!」
「嘘じゃないな?」
「ほ、本当ら!」
男の表情から嘘ではないと判断し、スイフトに頷いた。スイフトは海賊から離れると無線で通信を始めた。
私は怯える男に近寄った。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
私は怯える男の首にナイフを当て、内蔵されているスタンガンを起動した。
[バチバチ!]
「グァァ!」
男は叫び声を上げて気絶した。
「これにこりて改心するんだな。行くぞ。」
私はスイフトを連れて部屋を後にした。
[9月25日 00:00]
〈ベーリンゲル島近海 フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG ブルー・リッジ級揚陸指揮艦 ブルー・リッジ CIC〉
フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG 旗艦 ブルー・リッジ 艦長 ピーター・ラヴェル大佐
《こちらジューク1-1。廃村の海賊を制圧。捕虜4名。こちらの被害無し。 》
「了解した。ジューク1-1。HVIは確認出来たか?」
《捜索中だ。現在HVIは確認出来ない。》
《コイル2よりブルー・リッジ。洞窟を発見。山の北側、G21、A37地点。5人行かせる。》
「ブルー・リッジよりコイル2。了解した。ここは俺達の所とは違う。魔物に注意しろ。」
《了解。2-4、任せたぞ。》
《サンゴ1西部を制圧。》
《ウミドリ1-1よりブルー・リッジ。人魚達の場所が判明した。廃村と屋敷の裏山、受け渡しは2日後の昼だ。》
「何?変わってくれ。」
「は。どうぞ、艦長。」
通信員に変わってもらい、SBUに無線を繋げた。
「艦長のラヴェルだ。本当か、大尉?」
《3-1が敵を吐かせた。俺達はこれから裏山の洞窟に向かう。廃村の廃墟にも誰か向かわせてくれ。》
「分かった。ジューク1を行かせる。」
《了解。頼んだぞ。ウミドリ1-1アウト。》
「ファイアスカウトで廃村近くの廃墟を精査しろ。」
洞窟をSBUに任せ、廃墟を偵察させるようにオペレーターに命令した。
「了解。映像をモニターに出します。」
オペレーターがMQ-8Bの映像をモニターに映した。
「廃墟を視認しました。サーマルスコープはクリア。マグネティックに切り替えます。」
モニターの映像が白黒の赤外線映像から物体透過スコープの映像に切り替わった。
「HVIを6名確認。間違いありません。」
「良し。ジューク1に繋いでくれ。」
「は。……繋がりました。」
「ジューク1、こちらブルー・リッジ。」
《どうぞ。》
「HVI6名を発見。そちらの現在地から西、方位274に1km行った所だ。」
《了解。急行します。ジューク1-1アウト。》
「アメリカに人魚達と捕虜の受け入れ用意をさせろ。気を抜くなよ。」
俺はCICの椅子に深く座り、帽子を被り直した。
[00:20時]
〈ベーリンゲル島 洞窟入り口〉
フェンリル海軍 SBU 1stCo 3rdPt 小隊長 宮本良美 TACネーム:カイヒメ コールサイン:ウミドリ3-1
散開していたウミドリ隊の20人は、目標の洞窟の入り口で再集結した。
「集まったな。ブルー・リッジ。こちらウミドリ1-1。これより洞窟に侵入する。」
《了解。洞窟内では無線環境が不安定になる可能性が高い。十分に注意されたし。オーバー。》
「了解。アウト。行くぞ。カイヒメ。先導しろ。」
「了解。」
ハニーバジャーを背中に回し、ベネリM4を構えて侵入を開始した。
まだ敵がいるかも知れないので、石を動かして音を立てないように注意しつつ歩みを進めた。
〈洞窟深部〉
フィン・ローレイ
「うぅ。ぐす。」
私を含むマーメイド族の多くは自分達の今後を憂いて涙を流していた。
「嫌だよ。家に帰りたい…」
私が泣きながら言うと、
「大丈夫だよ。きっとアーロン達が七海さん達を連れて来てる筈だから…」
「でもマリナ、私達が全力で泳いでも4時間かかるのに、船なんかで来たら一体どれくらいかかるかわかってるでしょ?」
「あの人達なら……」
「いい加減にしてよ!あなた達帝国軍に捕まってから何かおかしいのよ!」
1人が声を荒げた。
「おい!うるせえぞ!」
奥でハンモックで眠っていた海賊が怒鳴りながら近づいてきた。
「クソ。どうして俺が魚共の見張りなんかしないといけねえんだ。………そうだ。どうせお前等は明日には売られるんだ。1人くらい貰っちまっても問題ねえだろう。」
男は下品な笑みを浮かべながら私に近づいてきた。
「い、嫌!近付かないで!」
私はなんとか逃げようとするが両手の鎖がジャラジャラ音をたてるだけだった。
「おら!大人しくしやがれ!」
「やめムグゥ!」
男が私の口を抑えて私の胸に触ろうとした時、
「へへへ、イデェ!」
男が後頭部を抑えた。
「辞めなさいよ!」
マリナが尾びれで男の後頭部を叩いたようで、男の顔には明らかに怒りが見えた。
「テメェ!上等だ!先ずはテメェから犯ってやるよ!」
男がマリナズボンを降ろし、マリナに近付いた瞬間。
[ピシ! ドチュ]
と言う空気を打つ音と小さな水音が聞こえ、直後、
「な、アアアアァァァアァ!う、腕がァァァ!」
「「「「「キャァァァァァ!」」」」」
男の右腕が千切れ飛び、私達の目の前に落ちた。
そんな中、マリナは洞窟の入り口の方を見て、
「ほら、やっぱり来てくれた…」
涙を浮かべながら呟いた。
私もマリナにつられてそちらを見ると、全身黒の服に見を包んだ杖のような物を構えた集団が杖を男に向けながら入って来る所だった。
[数分前]
フェンリル海軍 SBU 1stCo 3rdPt 小隊長 宮本良美 TACネーム:カイヒメ コールサイン:ウミドリ3-1
洞窟を進み始めてしばらくすると、人のすすり泣く声と男の声が聞こえてきた。
私は音をたてないように細心の注意を払って曲がり角に近付き、そっと覗いた。
そこは少し広い空間が広がっており、壁際に設置された檻に5〜6人の人魚達が捕らわれ、男に襲われようとしていた。
(HVI発見。敵1名。危険な状態。発砲許可を。)
(撃て。)
ハンドサインで会話をし、許可を得た私は銃をしっかりと構え、引き金を引いた。
[プ]
私のハニーバジャーから放たれた.300AACBLK弾が男の腕を引き千切り男が倒れた。
(ターゲットダウン。)
(HVI確保。ゴー。)
私達は自分の担当する方角に銃を向け油断無く檻に近付いた。
檻に近付くと、前にも見た人が捕まっているのに気付いた。
「マリナちゃん?」
「良美?」
「やっぱりマリナちゃんか。また捕まってるのね。もっと気を付けないと駄目よ。」
「うう。ごめんなさい。」
「なにはともあれ無事で良かった。」
私は檻の扉を開き、地面でのたうち回っている男を踏みつけて気絶させ、腰から鍵を取って人魚達の手枷を外していった。
[01:20時]
〈ベーリンゲル島近海 フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG ブルー・リッジ級揚陸指揮艦 ブルー・リッジ CIC〉
フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG 旗艦 ブルー・リッジ 艦長 ピーター・ラヴェル大佐
《ウミドリ1-1よりブルー・リッジ。HVIを救出。若干の衰弱が見られるが命に別状は無い。》
「「「「「ぃ良しゃぁぁ!」」」」」
人魚達の救出が完了した瞬間、艦内の各所から完成が上がった。
「全員落ち着け!まだ終わっていないぞ!アメリカに艦載機を出させろ!全員無事に連れ出すんだ。」
「了解!アメリカ、こちらブルー・リッジ!ヘリの発艦を要請する!」
《了解です!シーホークを2機行かせます!コールサインはホテル2-4、2-5!》
「ブルー・リッジ了解!ウミドリ1-1、ジューク1-1、こちらブルー・リッジ!シーホークがそちらに急行中!コールサインはホテル2-4、2-5だ!」
《了解した。ホテル2-4、近くに着陸出来る窪地がある。赤のフレアを焚く。》
《ホテル2-5、こちらジューク1-1。こちらは緑のフレアを焚いた。かなり衰弱している娘もいる。急いでくれ。》
私は椅子から立ち上がり、浮かれる乗員達に言った。
「全員気を抜くな!彼女達を救出し、背後にいる連中を根絶やしにするまでが俺達の任務だ。各員警戒を怠るな!」
「「「「「アイアイサー!」」」」」
私は椅子に深く座り、緊張感を取り戻す為に帽子を深く被り直した。
「ああ、そうだ。通信員、本土に魔術に精通している人員をよこすように連絡してくれ。念のためにな。」
[14:20時]
〈ベーリンゲル島近海 フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG アメリカ級強襲揚陸艦 アメリカ 艦橋〉
フェンリル海軍 2ndFleet 1stESG 旗艦 ブルー・リッジ 艦長 ピーター・ラヴェル大佐
要請した魔術に精通した人員が航空機で到着すると連絡を受け、アメリカにやってきた私は艦長のメイ・リン大佐と艦橋で話をしていた。
「艦長はこれから来る方がどう言う人物か知っているのか?私はそれほど面識が無いのだが。」
「ええ。とても可愛い娘達ですよ。」
「ほう。それは楽しみだな。」
その時、艦橋に無線連絡が入った。
《こちらルーシー。FNSアメリカ。応答を。オーバー。》
「こちらアメリカコントロール。どうぞルーシー。」
《私とプランは現在そちらに接近中です。着艦許可を求めます。オーバー。》
「了解。着艦を許可する。オーバー。」
《了解。アウト。》
無線が切れ、暫くすると前進翼を持つ戦闘機が2機現れ、着艦体制に入った。
「侵入コース適正。そのままの姿勢をいじせよ。」
「綺麗な姿勢だ。良い腕だな。」
独特な接地音とともに着艦した機体は、アレスティングワイヤーによって勢いが殺され、綺麗に着艦した。
着艦した機体に作業員達が群がり、2機目の着艦準備を始めた。
「それでは司令、甲板に行きましょう。」
「ああ。そう言えば見た事の無い機体だったが、あれは新型か?」
「ええ。湊さんがフェアリーの部隊にロールアウトしたばかりの新型機を4機おろしたんです。その一部ですね。湊さんお得意のキチガイ使用で、とんでもないピーキーな機体に仕上がってますよ。」
「まあ、あの人に自制は無意味だろう。」
そんな事を話しているうちに飛行甲板に到着した。先程着艦した機体の近くでデッキクルーと話しをしているフライスーツに見を包んだ青と緑の肌の少女達が目に入った。
「とても繊細な機体ですから、整備には気を使って下さいね。」
「これ、整備マニュアルなの。宜しくお願いしますの。」
「はい。分かりました。それにしても良い腕ですね。見事な着艦でした。」
「ありがとうなの。」
「ありがとう。それじゃあ整備お願いします。私達はあちらで待ってる艦長さん達の所に行ってきます。」
「分かりました。最高の状態に仕上げておきますよ。」
2人は整備員と別れ、私達の前にやってきた。
「フェンリル軍ギルド派遣部隊第1独立大隊多種族混成部隊第1小隊の七海アナト大尉です。」
「同じく多種族混成部隊第1小隊のシャルル・オラトリエですなの。」
2人は私達の前で敬礼をし、私達もそれに対して答礼した。
「第1遠征打撃群司令のピーター・ラヴェルだ。今回は私達の要請に答えて頂き感謝する。」
「私達に意見を求めたいとお聞きしましたが?」
「ああ。まずは2人には着替えて貰って、その後ブリーフィングルームに行こう。SBU他、各部隊が既に待機している。そこでこれからの動きを説明する。艦長。案内を頼む。」
「了解です。それじゃあ2人とも、私に着いてきて。」
「「はい│(なの)。」」
3人が艦内に入って行ったのを見送り、私は準備の為にブリーフィングルームに向かった。
[14:40時]
〈アメリカ級強襲揚陸艦 アメリカ ブリーフィングルーム〉
ブリーフィングルームに入って暫くすると、メイ・リン大佐とパワードスーツと迷彩服に着替えた2人が入ってきた。
「良し。全員揃ったな。これよりブリーフィングを開始する。先ずは紹介したい人物がいる。SBUの諸君は既に面識があるだろう、七海アナト大尉とシャルル・オラトリエ中尉だ。」
2人は席から立ち上がり、敬礼をした。
「ありがとう。着席してくれ。先ずは状況整理から始める。事の発端は24日1330時、海賊が人魚達の集落を襲撃し、人魚数名を誘拐した。その後、人魚達の長の要請を受け我々は24日深夜、救出作戦を開始、人魚達を救出。その最中、SBUの宮本中尉が敵から受け渡し日時の情報を入手した。ここまでは良いな?」
隊員達が頷いた。
「海賊達からの情報によれば敵船は1隻。そして肝心の受け渡し時刻だが、明日の正午近くとしか判明していない。この世界には正確な時計なんて無いからな。
作戦の詳細を説明する。敵船がどこから来るか不明な為、海上に艦船を停泊させる訳にはいかない為、作戦は潜水艦、UAV、ボート、ヘリ部隊で行う。まずSBU2個小隊と海兵隊員を載せたヘリがベーリンゲル島に簡易拠点を設置する。残りのSBUは海中のイリノイで待機する。その後、敵船が島に接近次第、海中のイリノイからSBUがSDVで敵船に接近、奇襲する。SBUの奇襲開始と同時にヘリ部隊とボート部隊が奇襲の援護を行う。甲板が制圧出来次第、ヘリからSBUが降下、船内の制圧を行う。
そして、可能であれば敵の指揮官は生け捕りにして欲しい。」
「生け捕り?」
SBUの斎藤大尉が言った。
「そうだ。私とCIA、ペンタゴンの考えではこの敵は以前の戦争で判明した教団と言う集団と関連があると思われる。現在多くのエージェント達が教団について調査しているが、その中で1つ、分かった事がある。奴等は亜人を下等生物あるいは害獣と呼び、他宗教を異教、教義の為の戦いを聖戦と呼び、異教徒の殺害は英雄的行いとしているそうだ。胸糞悪いな。そして名前は、『救世主たる人類の為の第1教団、First Religious Organization of Christ Humanities』と言うらしい。以降FROCHと呼称する。詳しい情報はまだ調査中だが、ここで教団の人間を捕縛出来るメリットは非常に大きい。」
「だから生け捕りか。」
「他に質問は?」
七海大尉が挙手した。
「私とシャルが呼ばれた理由は?」
「ああ。戦時中に逃走したFROCHのメンバーは帝国の研究者だった。よって乗船している可能性のある構成員も何らかの魔術、魔法的防御が存在する可能性がある。2人にはそれの無力化を頼みたい。」
「なるほど。了解です。」
「他に質問は?………よろしい。では本作戦を以降OperationSpiderWeb(蜘蛛の巣作戦)と呼称する。哀れな獲物を海中、海上、空中に張り巡らした蜘蛛の巣に絡め取ってやれ。以上だ。準備に取り掛かれ。解散。」
全員が一斉に立ち上がり、敬礼をし、ブリーフィングルームから駆け出して行った。
[9月26日 12:43時]
〈ベーリンゲル島近海 河城開発交易公社船籍大型船 洞爺丸〉
FROCH トーム・ジーレ
「キャプテン。島が見えて来たのか?」
私は船員の島が見えて来たと言う声を聞いて甲板に上がり、船長に話かけた。
「ええ。接岸まで1時間ほどです。」
「そうか。これはこの世界から異物を排除する為の聖戦への第1歩だ。頼むぞ。」
「…………。何を運ぶのか、何故運ぶのか、何をしたいのかは聞きません。報酬も貰っていますし、私は依頼された仕事を行うだけです。ただ、個人的には二度とあなた方の依頼は受けたくない。」
「それはこちらとて同じだ。誰が好き好んで貴様等のような俗物の異教徒の害獣に依頼などするものか。私は自室に戻らせてもらう。着いたら知らせてくれ。」
「分かりました。」
私は船長との話を終え部屋に戻った。
洞爺丸船長 村紗水蜜
男が船内に戻った後、船員達が私の所にやってきた。
「キャプテン。何故あんな奴の依頼を?」
「報酬の良い簡単そうな仕事だったからね。まあ完全に失敗見たいだけど。この海域は海賊の縄張りだよ。」
「くそったれの差別主義者め。キャプテンも妖怪だって言うのに。」
「キャプテン、終わったらあいつの乗った船沈めちまったらどうですか?」
「まあまあ。私は大丈夫だから皆落ち着いて。それよりもうすぐ上陸だよ。準備して。」
「「「「「りょーかーい。」」」」」
乗員達がそう答えた直後、
「動くな。」
「?!」
鋭くとてつもない殺気を伴った静かな声が後ろから聞こえた。
「大声を出すな。既にこの船は包囲した。」
甲板を見ると既に数人の乗組員達が取り押さえられていた。
「だ、誰?一体何が目的?」
「安心しろ。あんた達に危害は加えない。俺達の目的はさっきの男だけだ。後で事情聴取はさせてもらうがな。」
「はぁ。本当に疫病神ね。良いわ。私達も協力する。」
「…………良いだろう。拘束を解け。」
黒い服を着た人間達が乗組員達を離した。
「ありがとう。皆、下手な動きはしないで。殺されるわよ。あなた達フェンリルでしょ?」
「……さあな。後で教えてやれるかもな。奴は俺達にまかせて貰うぞ。」
「ええ。ついて来て。」
私はフェンリルの軍人達を船内に案内し始めた。
フェンリル海軍 SBU 1stCo 中隊長 斎藤重春 TACネーム:テンマ コールサイン:ウミドリ1-1
船長の少女に着いて行くと1つの部屋の前に到着した。
「ここよ。」
セーラー服を着た少女が振り向いて言った。
俺は隊員に振り向くと、隊員は頷いて扉の隙間にカメラを差し込んだ。
「いました。」
「良し。」
[コンコンコンコン]
「島に到着しました。」
俺は乗員を装って扉を叩いた。
「そうか。」
男が立ち上がり、扉に近付く音が聞こえた。
[バン!]
「グフゥ!」
男がある程度近付くと扉を蹴破り、突入を開始した。
「うぐぅう。き、貴様等、何者だ。」
「それに答える事は出来ない。お前はFROCHのメンバーだな?」
「だったらどうした?」
「連行させてもらう。おい。」
隊員が拘束しようと近寄ると、男は笑いながら立ち上がった。
「フハハ。貴様等などに捕まるものか、捕まるくらいなら、私は、死を選ぶ!」
そう言うと男は腰のポーチから水晶のようなものを取り出し、床に叩き付けた。
[ガシャン!]
「…………何も起こらないぞ?」
「な、何故だ?!何故爆裂の魔術が発動しない?!」
男が狼狽えて声を上げると、
「私が無力化させたからよ。」
俺達の後ろから黒の戦闘服とヘルメットを装備したアナトちゃんが部屋に入ってきた。
「クフフ。その程度のアーティファクトの無力化、私には朝飯前よ。ついでにあなたにかかっていた口封じの魔法とかも解除しておいたよ。残念だったね。クフフ。」
「そ、そんな馬鹿な!そんな事が出来る筈が無い!」
「まあ否定したいならすればいい。でも事実は決して変わらない。テンマ、後は任せるよ。」
「ああ。おい、拘束して立たせろ。アメリカに移送する。」
「了解。」
「く、くそ!私に近付くな!」
[バチチ!]
「アギャッ!」
暴れた男に対し、隊員がテーザーを発射、80万ボルトの電流が流れ、男が崩れ落ちた。
「抵抗はしない事だ。連れて行け。」
隊員達が男を無理矢理立たせ、甲板に連れて行った。
「あの、私達はどうすれば?」
船長が不安そうに聞いてきたので、俺はマスクを外し、笑みを浮かべて言った。
「申し訳ありませんが事情聴取を行いたいので一度我々と基地に来て貰います。あなた方の船は我々の艦が曳航して行くので心配はいりません。」
「は、はぁ。」
話しをしていると2機のシーホークのローター音が聞こえ出した。
「な、なに?」
「来たな。甲板に行きましょう。」
「え、ええ。」
〈洞爺丸 甲板〉
[ババババババ!]
甲板に出ると、2機のシーホークのローターの轟音と強烈なダウンウォッシュが吹き荒れていた。
「こ、これが話しに聞いてた鋼鉄の鳥?!」
「凄い!本当に鉄の塊が飛んでる!」
低空で船に接近したヘリに乗員達が興奮して大声で話していた。
「それだけじゃないぞ!4時の方向を見ろ!なんだあれ?!」
4時の方向からは距離を取って光学迷彩を起動していた第2艦隊が接近して来ていた。
「これがフェンリル……凄い。」
「基地はもっと凄いですよ!」
「本当?!楽しみだな〜!」
子供のようにはしゃぐ船長を見て、俺達は思わず笑みを浮かべた。
遅くなって申し訳ありません。大学の講義やサークル活動で忙しくてなかなか時間が取れません。その為今後も投稿が不定期になる可能性が高いです。申し訳ありません。
今回の名言です。今回は機動戦士ガンダム逆襲のシャアより。
シャア「そうか、しかしこのあたたかさを持った人間が地球さえ破壊するんだ。それをわかるんだよ、アムロ」
アムロ「わかっているよ。だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!」
最近何回目かわからない見直しをしたのでこれを選びました。
次回は優香達フェンリルがアマギに向かう予定です。出来るだけ早く投稿出来るよう頑張りますので今後もよろしくお願いします。
ご意見ご感想をお待ちしています。