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ゲームの軍隊と異世界攻略  作者: RIGHT
第2章 Operation Dragon Slayers
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第2章終 Operation Dragon Slayers COMPLETE

[9月13日 10:30時]

〈レイシス帝国首都 カエラル サンヴェール城〉

レイシス帝国 国王 アレハンド・カエラル・レイシス



わしはいつもの時間に起床し、日課となっている会議に出席し、円卓の端の椅子に座った。


「軍務卿。アメックス王国とフェンリルとか言う国との戦争の様子はどうだ?」


軍務卿が自信に満ちた顔で立ち上がった。


「はっ。まだ前線からの連絡は届いて降りませんが、精鋭である我が帝国軍が負けるはずもありません。前線には魔剣使い達がおりますし、出撃準備中の部隊には人形共もいます。今ごろはアメックス王国の魔術師や、フェンリルとか言う蛮族共を蹴散らしている事でしょう。」


軍務卿は笑いながら言った。


「うむ。我等に楯突いたのだ、徹底的に叩き潰せ。」


「はは。了解しま『無理だと思いますよ?だって私がここにいるんですから。』」


「「「「「?!」」」」」


軍務卿が答えた時、突如女の声が響いた。


「な、なんだ?!侵入者か?!」


会議場が一瞬で喧騒に包まれた。

そんなわし等を嘲笑うかのように、声の主は円卓の中心に突如現れた。


「お久しぶりです。アレハンド陛下。」


銀髪に赤い目で複雑な模様の服を着た女は、後ろで手を組み、肩幅に足を開いて立っていた。


「誰だ!一体いつから、どうやって入った!?」


「衛兵を呼べ!侵入者だ!引っ捕らえろ!」


会議場の隅にいた文官が、衛兵を呼びに行こうと駆け出したが、


「動かないで。」


いつの間にか現れた似た格好をした竜人族の女に捕まった。


「貴様…。どこかでわしと会ったな?」


「フフフ。陛下。私をお忘れとは。私と陛下はルイース大陸大国会議でお会いしましたよ?」


「?!き、貴様!フェンリルの国王!」


「「「「「な?!」」」」」


わしの発言に軍務卿達は驚愕の視線を女に向けた。


「貴様!何故ここにいる?!警備は?!戦争はどうなっているのだ?!」


「フフフ。」



[9月12日 09:30時]

〈レイシス帝国 城塞都市ベルン フェンリル海軍 第1艦隊 空母あかぎ 会議室〉

フェンリル軍GDU1stIB フェンリル軍多種族混成部隊隊長 七海優香 TACネーム:フェアリー コールサイン:シルキー・アクチュアル



「みんな。いよいよ首都攻略よ。」


《これほど一方的な戦争になるとはな。》


《そうですね。それで、作戦内容は?》


「単純な事よ。夜間に特殊部隊を送って軍事施設を制圧。夜明け後、朝の会議が始まって帝国首脳陣が全員揃った所を一気に押さえ、機甲部隊とヘリボーン部隊が街を完全に制圧する。以上。」


《これ以上ないほどシンプルですね。》


《だが少数精鋭の特殊部隊による作戦の概念が無いこの世界では効果的だ。良し!それで行こう!》


《全員行くぞ!とっととこの戦争を終わらせて楽しい異世界ライフを満喫するぞ!》


《《《《《おぉーーー!!》》》》》


画面越しに熱気が伝わるほどの勢いで作戦が開始された。



[9月12日 23:00時]

〈レイシス帝国首都 カエラル 上空 MC-130〉



レイシス帝国の首都の上空1万mに、フェンリル軍の各独立大隊を乗せた大量のMC-130が飛行していた。


降下(ドロップ)ポイントに接近。降下5分前。》


「フェアリーより各員。この戦争をここで終わらせる。私達は国の為に戦場に行くのではない。私達の信念を貫く為、そして国の為に死にたい敵を、彼等の国の為に死なせてやる為に戦場に行くのよ。全員で無事に帰る。私の許可無く死ぬ事は許さん。わかったな?」


《《《《《了解。》》》》》


無線を切り、キャビンに並んで座っている全員に向き直り、シルキーのみに回線を繋いだ。


「私達シルキーの目標は帝国の王城。恐らく警備は厳重よ。密かに王城に潜入し、衛兵を制圧。翌日の会議の開始を待ち、開始と同時に王城を完全に制圧する。」


「「《《了解。》》」」


《降下2分前。》


「リン!ハッチを開けて!」


リンがボタンを押し、後部ハッチが開き、まだ暑い空気が入ってきた。


「今日は新月!この世界の夜の中で最も暗い日よ!静かに、素早く行動するわよ!」


《降下20秒前。》


私はハッチの端に立った。


「全員準備は良いな!鳥になるぞ!」


《降下開始。》


「ゴー、ゴー、ゴー!」


私はハッチの端から飛び出した。

眼下には闇に包まれた空間が広がっていた。

HUDの高度計は物凄い速度で下がり、適正高度でパラシュートを引いた。

強烈な減速感を感じながらパラシュートを操作し、HUDに表示された降下地点に降下した。


「よっと。」


地面に着地し、パラシュートを外した。

続けてシルキーの隊員達が次々と着地してきた。


「プロビデンス。こちらフェアリー。シルキーは無事着地した。」


《了解。行動を開始せよ。》


「了解。王城に向かう。キーラ、先導して。」


「はい。」



[23:20時]

〈レイシス帝国首都カエラル 城壁〉



暫く歩くと街を囲む城壁についた。


「登るわよ。音を出さないように注意して。」


グローブを吸着モードにし、壁に張り付き、およそ20mの壁を登った。


「クリア。」


壁を登りきり、周囲に誰もいないのを確認し、反対側に同じように張り付き、下まで降りた。


(王城まで行く。静かに着いてきて。)


ハンドサインで指示を出し、王城に向けて歩き出した。



[23:50時]

〈レイシス帝国首都カエラル サンヴェール城 付近〉



城の近くまで接近し、城の近くの林の中に隠れ、4次元ポーチから小型のUAVを取り出した。


「ワスプ展開。侵入前に高台にいる見張りを眠らせる。」


他の隊員が操作する物も含めて合計5機のUAVが上空に展開した。


「サーマルを起動。アリア。目標の振り分けを。」


『了解!』


ワスプの映像に赤い◇マークが表示された。


「良い感じよ。敵は7人。孤立している目標から仕留める。」


ワスプを操作し、1人で立っている兵士に狙いをつけた。


「ファイア。」


[プ]


搭載されたレールガンにより、孤立していた3人が死亡した。


「残りの4人にはまとめて消えてもらうわ。合わせて。」


ワスプが動き、残りの4人に狙いを定め。


[プ]


4人まとめて射殺された。


「クリア。ワスプはオートで空中哨戒。城に入ったら各小隊ごとに散開し、衛兵の詰所に侵入し、潜入しているエージェントと合流。警備掌握する。OK?」


「「「「「OK。」」」」」


全員が頷いたのを確認し、王城の城壁にフックを発射、王城へ侵入した。


衛兵の詰所は東西南北の各門の内側に存在し、その中には帝国軍とは別の指揮系統を持つ近衛軍の中でも、魔剣や魔術、体術、剣術、弓術に秀でた精鋭達がおよそ30名ずつ務めており、その中にCIASADの精鋭が紛れ込んでいる。


城壁に登った私は、有希、シャル、アナト、シェスカ、レヴィ、セシリアを引き連れ、北の詰所に向かった。


ステルスを起動したまま城壁を降り、詰所の扉をそっと開けた。

扉は良く手入れされているようで、音も無く開いた。

中に入ると、衛兵達が簀巻きにされ、麻酔を射たれたのかグッスリと眠っていた。


『これは?』


有希が困惑の声を上げた時、


[ガタッ]


部屋の奥から物音がし、全員の視線が奥に向いた瞬間、


「動くな。訓練不足だな。」


背後の扉の影からサプレッサーのついたM1911customを構えた男が現れた。


「毎回私達に訓練をつけるつもりかしら?」


私が振り向かずに言うと、


「新入りが入ったと聞いたんでな。様子を見て見たかったんだ。」


スネークは銃をホルスターにしまいながら言った。


「それで、あなたのお眼鏡にはかかったのかしら?」


私は振り向き言った。


「ふむ。前に会った3人は良い調子だ。まだ伸びるだろう。MP7を持っている子は銃よりナイフを用いた近距離戦が得意のようだ。自己流だな。CQC等の格闘の技術を学べばかなりの強者になる。残りの2人は同じカスタマイズの官給品のHK416を持っている所を見ると、新入りだな。まだ自分のスタイルを見つけていないようだ。竜人の子は力があるようだ。だが近距離よりは中、遠距離向きだな。DMRを持たせて訓練すれば良い射手になる。青い髪の子は最近まで剣を使っていたな。それほど重量のない、レイピアや刀みたいな剣だ。動きも素早いだろうし、ショットガンやサブマシンガン等を持たせて前衛職につくのが妥当だろう。

総合的に言って、まだ未熟な所が多いが、延びしろはまだまだある。これからも励むと良い。」


スネークは1人1人を見て言った。


「フフフ。流石ね。私も殆ど同意見よ。教えたらその分だけ成長してくれるから面白くて。」


「俺もそろそろ引退して弟子でもとるかな?」


「冗談でしょう?あなたなら70越えても現役でいられると思うわよ。」


「ハハハ。もちろん冗談だ。」


私達は雑談を終え仕事に戻った。


「それで、警備態勢は?」


「はっきり言って、ザルだ。衛兵も城の人間も、こんな所に来る訳が無いと思っている。これではただの案山子の方がましだ。危機管理が全くなっていない。

衛兵達が警備しているのは城外の庭や城壁だけだ。城内に入れるのは、東西南北各門の警備主任の近衛軍の指揮官4人だけ。そして、そいつらはもう拘束済だ。」


「仕事が早いわね。」


「当然だ。俺達SADはそいつらに変装し、明日城内に侵入する。その4人は毎朝行われる会議の警備を担当している。城の人間はそとで働く衛兵達の事なんか気にもとめていない。魔術的な警戒もない。あんた達には夜のうちに城に潜んでもらう。朝方いつも指揮官達がやる通りに俺達が侵入する。あんた達は会議が始まると同時に行動を開始。城を制圧する。会議には城の主要な人員全員が参加し、他の部屋に残るのは戦闘力の無いメイドや料理人だけだ。」


「本当にザルね。こんなんで大丈夫なつもりなのかしら?」


「そのぶん、街には近衛軍の基地や詰所、監視塔、巡回が多い。今頃基地に潜入した連中は苦労していると思うぞ。」


「なるほど。わかったわ。それじゃあ私達は城に行くわね。」


「城内のデータを送っておく。おすすめの潜伏場所は天井だ。」


「了解。全員行くわよ。」


私達は詰所を後にし、城内への侵入を開始した。

ワスプとナイトビジョンの効果で周囲に人がいないのはわかっているが、出切るだけ人目につきそうな場所を避けて城の1階の窓に接近した。

HUDをマグネティックモードにし、誰もいない事を確認してから、窓の隙間にナイフを刺し鍵を破壊した。

窓から物音をたてずに城内に侵入し、ミニマップに表示された会議場まで静かに移動した。


(ここね。)


会議場は立派な大理石の床と調度品で構成された、いかにもファンタジーな雰囲気の部屋で、高い天井には柱が橋のようにかかる構造になっていた。

私はフックを発射し、天井の柱の上に移動した。


「ここで会議の時間まで待機よ。

プロビデンス。フェアリーは配置についた。他の隊の状況は?」


《こちらプロビデンス。現在王都で活動中の部隊は順調に作戦行動中。機甲部隊と航空部隊もいつでも動ける。湊の改造は流石だな。多飯喰らいの戦車と航空機の活動時間を大幅に伸ばすなんて。

王城に展開している部隊は各々隠れ場所を見つけたと報告がきている。会議までまだ時間がある。今のうちに休むと良い。》


「そうさせてもらうわ。

皆聞いての通りよ。交代で仮眠を取りましょう。」


《《《《《《了解。》》》》》》


私達は柱の上で順番に短い眠りについた。



[10:00時]



私達が仮眠を終え、3時間ほどが経つと、帝国の重役達が集まり始めた。


《豪勢な鎧の男が軍務卿のアーレン、細いメガネ男が財務卿のメニラス、金色の鎧の男が近衛軍最高司令にして最強の魔剣使いランベルト。他は各種大臣達ね。》


セシリアが集まってきた重役達の説明をしていた。


《実は、近衛軍は城内に入れないんじゃ無くて、必要が無いから入らないっていう話しがあったわ。》


「なるほど。それほどあのランベルトとか言う男は強いと。」


私達がHUDのテキストチャットで会話していると、会議が始まった。


「フェアリーより全部隊。齋は投げられた。行動を開始しろ。」


《プロビデンス了解!王都近郊に展開中の全部隊!ゴーサインだ!作戦を開始しろ!》


《《《《《《《《《《《了解!》》》》》》》》》》》


無線から大量の部隊からの返事を聞き、私も行動を開始した。

ちょうどふざけた事をぬかした軍務卿の声に被せるように叫び、円卓の中央に飛び降り、休めの態勢で直立した。


「お久しぶりです。アレハンド陛下。」


私は自慢の銀髪をなびかせるようにしながら言った。


「誰だ!一体いつから、どうやって入った!?」


「衛兵!侵入者だ!引っ捕らえろ!」


会議場の隅にいた文官が、他の衛兵を呼びに行こうと駆け出したが、


「動かないで。」


SADの4人は微動だにせず、静かに降りてきていたレヴィに拘束された。


「貴様…。どこかでわしと会ったな?」


アレハンドは私の事を忘れているのか、私にそう聞いた。


「フフ。陛下。私をお忘れとは。私と陛下はルイース大陸大国会議でお会いしましたよ?」


私は内心で、『敵国の王の顔くらい覚えておけよ』と罵倒しながら笑顔で言った。


「?!き、貴様!フェンリルの国王!」


「「「「「な?!」」」」」


流石に思い出したようで、王を含む全員の視線が私に集まった。


「貴様!何故ここにいる?!警備は?!戦争はどうなっているのだ?!」


「フフフ。」


私は笑いながら、


「戦争ですか?私がここまで入ってきている時点で察しがつきませんかね?

まあ良いです。今日、ここには降伏勧告に来ました。」


「降伏勧告?」


「はい。私達フェンリル軍は9月10日、11日の2日間で帝国軍が集結中の5つの都市、ベルン、モラーク、アマリア、アパランテ、エンクの各都市に侵攻し、制圧しました。また、アメックス王国に侵攻した部隊については、フェンリル軍とアメックス王国軍により完璧に殲滅され、当該部隊の将兵は捕虜になるか戦死しました。」


帝国軍に取って信じがたい事実を告げた。


「ば、馬鹿な!!100歩譲って制圧が出来たとしても、殆ど同時に5つの都市を襲い、尚且つこんなに早く王都に侵入するなんて出切る訳が無い!」


「その通りだ!そんな事は不可能だ!嘘八百を並べるな!」


その予想通りの反応に対して、私はポーチから各部隊から集めた物を詰めた袋を軍務卿に投げ渡した。


「な、なんだ?これは?」


「中をお確かめください。それが証拠であり、真実です。」


軍務卿が恐る恐る手を入れ、中から1つの木片を取り出した。


「なんだこれは?ただのゴミじゃないか。」


「文字が掘ってあるはずです。」


軍務卿は木片の文字を読み、顔を青くした。


「こ、これは!?」


「な、なんのだ?一体何が書いてあるのだ?」


他の大臣達も集まり、木片を見た。


「それは城塞都市ベルンでフェンリル海軍が制圧した帝国海軍第1艦隊旗艦『アドミラル・ヨーデル』の一部です。そして、その袋の中には、港湾都市モラークの指揮所の標識、森林都市アマリアにいたベヒーモスや地竜の鎧や識別票、鉱山都市アパランテの指揮官が着ていた鎧、遺跡都市エンクで破壊した車両や航空機の残骸、城塞都市ベルンの地下要塞の見取り図と、私の部下達が街で撮影した写真が入っています。」


軍務卿は袋の中身を机の上に広げ、1つ1つ確認し、


「…………全て本物だ………間違い無い。」


「で、では軍が壊滅したのも…」


「全て事実と捉えるべきだ…。」


アレハンドと大臣達の間に絶望が舞い降りた。


「ふん。何を落ち込んでいるのだ?」


その絶望の雰囲気を打ち消したのは深々と椅子に座っていた近衛軍最高司令官のランベルトだった。


「たとえ軍が壊滅していようと、小娘を中心に成り立っている軍など、そこの小娘を始末すれば直ぐに瓦解してしまうでしょう。」


ランベルトは剣に手を掛けながら立ち上がった。


「…そうだな。殺ってしまえ。」


アレハンドが頷くと同時にランベルトは剣を抜いた。


「フフフ。良いですね。遊んであげましょうか。」


「ふん。強がるのはよせ。とっとと国に帰って本当の王を連れてくると誓えば無事に帰してやるぞ?」


「………私が偽物だと?」


「貴様のような小娘が軍を指揮など出来る訳が無いからな。」


「…………フフフ。だったら試してみたらどうです?私が偽物かどうか。」


「言われずとも!」


ランベルトは剣を抜き、突進してきた。

私は左手で鞘を掴み、腰を落とし、居合いの態勢を取った。


「剣を抜かんのか?」


「フフフ。この体勢が一番良いんですよ。」


「フン。勝たせてもらうぞ!ライトニング!」


叫ぶと同時にランベルトの剣から電撃が迸り、私の方に向かってきたが、


[バチィィィ!]


「な、何!」


セシリアから話しを聞き、待機していたアナトが完璧なタイミングで放った銃弾によって凄まじい速さで放たれた電撃は私から逸れ銃弾に吸い寄せられていった。


「初撃を防がれたからと言って冷静さを欠くのはいただけないですね。」


私は姿勢を低くしたままブーストで直ぐ横を通り抜け、すれ違いざまに横凪ぎに抜刀した。


[シュイン]


という金属の擦れる音と共に魔剣が切断され、ついでにランベルトの両足も切断した。


「ギャァァァァ!」


両足を失ったランベルトは、自らの足があった所から広がり始めた血の池に浸かりながらもがいていた。


「私の軍は完全に実力主義でね。家柄?性別?年齢?そんな物が何になる。私のチームでの活動や操縦の実力は何年も死線をくぐり抜けてきた連中には程遠い。だが個人での戦闘なら私はフェンリル軍573万6746人の軍人達の中でも上位5人に含まれている。高々50万人程度の中で1位がなんだ。私はその10倍以上の軍人達の頂点だ。見た目はただの小娘だからとたかをくくって挑んできたあんたのミスだ。」


「グゥゥ!クソォ!殺せぇ!」


「フフフ。残念だけど、あんたは殺さない。あんた達には私達に手を出すとどうなるか伝えてもらう。」


私は草薙についた血を払うように剣を振り、回転させながら鞘に納め、地面に倒れているランベルトの応急処置を命じ、アレハンド達に向き直った。


「さて。おたくの最高戦力は私が一蹴した訳ですが、そう言えばこの間ウチに入った新入りが軍務卿のアーレンさんに用事があるそうですよ。」


私がそう言うと、セシリアがヘルメットとバラクラバを脱いだ。


「!お前は、セシリア!貴様!裏切ったな!」


アーレンはセシリアを視認するなり、そう叫んだ。


「はぁ?彼女の住む村や、彼女の部隊の隊員達の村を襲わせたクズの分際で良くそんな事が言えますね。」


「な?!貴様!何故それを!」


私の発言を聞いたアーレンは分かりやすく狼狽えた。


「フフフ。あなた達は私達の事をカモとしか思っておらず、まともに調べていなかったようですが、私達は例え相手があなた達のように遥かに劣っていようと入念に準備してきたんです。敵を知らずに戦争を始めるほど愚かではないのでね。」


「グゥ!」


「さて。セシリア。そいつの処遇はあなたに任せる。煮るなり焼くなり好きにどうぞ。」


セシリアは頷くとHK416を構えた。


「お前、良く全てを失った私の前で、亜人の仕業だと言えた物ね。」


「ま、待ってくれ!い、命だけは!」


「?誰が、いつ殺すなんて言いました?」


セシリアはアーレンの足に向け引き金を引いた。


[ププ]


「グゥ!ガァァァ!」


両足に穴が空いたアーレンは地面に倒れ、激痛に悶えていた。


「誰がすんなり殺してやるものか。私の家族、部下の家族、お前の命令で死んでいったすべての人の苦しみを味わいながら永遠に苦しめ。」


セシリアはそう言ってアーレンの頭を蹴り、元の位置に戻った。


「さて。もう十分力の差を見たと思いますが、まだ抵抗しますか?」


「……………」


「黙りですか。そう言えばさっき後ろでくたばっている男が私を偽物の王だと言っていましたね。」


「…………それがどうした?事実だろう?小娘に国王が務まるものか。」


「…………フフフ。」


私は近くで待機している戦闘機隊に無線を繋いだ。


「フェアリーより全戦闘機隊。王都上空をローパスで飛行し威嚇行動を開始しろ。」


《《《《《《《了解!》》》》》》》


「何をしているんだ?」


アレハンドは無線に話しかけた私に訝しげに言った。


「直ぐにわかる。」


私が答えた10秒後。


[キーーーーン!]


甲高いエンジンと、空気を切り裂く轟音と共に、マッハ2に近い速度で大量の戦闘機達が王都の上空を家にぶつかりそうなほど低空で飛び越して行った。

戦闘機達から発生したソニックブームと暴風が民家の屋根を引き剥がし、ガラスを割り、街路に降り注いだ。


「「「「「は?」」」」」


アレハンド達は言葉を失い、ただ唖然としていた。


「これだけではまだわからないと思いますのでこいつもプレゼントします。

スピアー1-1、1-2、1-3、こちらフェアリー。目標a-1、a-2、a-3にMOABを投下。」


《《《了解。》》》


無線から返事がして直ぐに上空に3機のMC-130が飛来し、王都周辺の上空でそれぞれ巨大な爆弾を投下した。


「爆弾の母(Mother Of All Bombs)の到着です!皆さま衝撃にご注意ください!」


私が言うと同時にMOABが爆発し、戦術核級の爆発が王都を囲む森で発生し、3箇所に巨大なクレーターを作り上げた。


[ズドォォォォン!]


爆風と衝撃は王都を襲い、民家や王城のガラス全てを粉々に砕いた。


「な、何なんだ?!あの爆発は!貴様は一体何者だ!?」


アレハンドは顔を恐怖に歪めながら叫んだ。


「あの爆発が何なのか。そんな事は重要じゃあない。重要なのは、」


私はアレハンドに歩みよった。


「私達は今のと同等かそれ以上の攻撃をいつでもどこでも投下出来る。そしてその命令を下せるのは私だ。つまり、あんた達の喉元に剣を、いや、あんた達の首にギロチンの刃を落とせると言う事だ。それこそ今すぐにでも。

そして質問の答えだが、私の名前は七海優香。異世界から転移してきた軍事国家フェンリルの軍人であり、総帥だ。それ以上でもそれ以下でもない。」


私は近くに倒れていた椅子を起こし、腰かけた。


「これを言うのは2度目だが、こんどは勧告じゃない。命令だ。降伏しろ。さもなくばこの街を更地に変えてやろう。プライドを取って自らの命と国民を犠牲にするか、降伏してプライドを犠牲に国民と自らの命、国の未来を守るか。好きな物を選ばせてやる。今すぐ決めろ。」


アレハンドは青い顔をしたまま、


「こ、降伏する。」


力なく言った。


「承った。これより王都は一時的に私達の占領下に置かせてもらう。

フェアリーより全部隊。帝国は降伏した。これより王都は一時的に私達の占領下に置かれる事になる。条約が結ばれるまで王都を占領し、治安維持を行え。」


《《《《《《了解。》》》》》》


無線に告げた直後、ステルスで待機していた大量のヘリと車両が現れ、アレハンド達はヘリから隊員達が降下する様をみて、再び唖然としていた。



[9月18日 12:30時]

〈軍事国家フェンリル アークレイン国立霊園〉



9月16日に降伏文書が5大国の王達の同席のもと、中立国セントラルで調印された。

条約の内容はおおまかに言って以下の通りになった。


1.レイシス帝国はフェンリル、アメックス両国に賠償金を支払う。

2.帝国はフェンリル、アメックス両国に鉱山、遺跡の利権と調査権を譲り渡す。

3.奴隷の扱いに関する国際条約に加盟し、人道的に扱う事を確約する。

4.犯罪奴隷、借金の未払い等で奴隷となった者意外を即刻奴隷から解放し、賠償金を支払う。

5.上記の内容を確認する為に1年間フェンリルを始めとする多国籍軍が駐留し、その活動を全面的に支援する。

6.貴族制、帝国制を廃止し、5年以内に共和国制に移行する。


この時に、5大国間での奴隷の扱いや、人種差別等の人権に関する条約もまとめられ、種族、身分の違いを理由とする公の差別は禁止とされた。

レイシス帝国はフェンリルとアメックス王国に賠償金と、鉱山の利権を明け渡す事が決まり、捕虜となっていた帝国軍の軍人達はレイシス帝国に引き渡された。それと同時に、治安維持の為に王都に駐留していたフェンリル軍の部隊は撤収し、私も一度本土に戻った。

本土に戻った私は後処理などの細かい仕事をキャロルに押し付け、有希達シルキーのメンバーと、城塞都市ベルンで救出した元奴隷の女性達を連れて、ある重要な会に参加した。


「……………」


私達は軍の制服、元奴隷の女性達は黒い服に身を包み、国旗が掛けられた真新しい2つの棺の前に、海兵隊第3遠征旅団第14歩兵大隊第3中隊第1小隊のメンバー達と整列していた。


「ジョージ・シーグラー2等軍曹、アール・フィルモア1等軍曹。彼等は非常に優秀な海兵隊員であり、私は彼等と共に戦えた事を誇りに思います。

彼等は私の部下として、共に戦い、自らの信念と、守るべき者達の為に戦い、戦死しました。

彼等の死は、家族、戦友達、全ての軍人達に、深い悲しみをもたらしました。しかし、彼等の思いは、常に我々と共にあります。我々は彼等の思いを抱き、彼等が守り抜いた物を、彼等の代わりに守っていく事を誓います。だから、ゆっくりと、眠りについてください。」


小隊長のコール・バーント曹長が弔辞を読み上げた。

ラッパの演奏が始まり、棺に掛けられていた国旗が丁寧に畳まれていった。


「あなたの亡き人の、職務に殉じた記念に、国家よりこの旗が贈られます。」


という言葉と共に、畳まれた国旗と、勲章が、軍の担当者の手から遺族に渡された。

第1小隊の隊員達が、1人ずつ棺に近付き、自らが着けていた部隊章を外し、


[バン]


棺に打ち付けていった。

死してなお部隊の一員である事を示す為に。


[バン!]


ある者は涙を流しながら、


[バン!]


またある者は決意をして、彼らに最後の別れを告げていった。


「総員、敬礼!」


私の号令と共に、参列した軍人達が敬礼し、弔銃隊の空砲が鳴り響く中、棺は埋葬されていった。



棺の埋葬が終わり、葬儀が終了した直後、整列していた私達と元奴隷の女性達のところに、1人の少女が走ってきた。


「お姉ちゃん。私のお父さんは、誰かの為に死んじゃったんだよね?無駄なんかじゃないよね?」


私は膝をつき、泣くフィルモア軍曹の子供の頭をそっと撫でた。


「ええ。あなたのお父さんは、普通の人に出来ない事をやり遂げた、立派な人よ。それに、いつもあなたの事を1番に思っていた、素晴らしい父親だったわ。

あなたのお父さんの魂と思いは、いつもあなたと一緒にいる。だから、お父さんの為にも、早く元気にならないとね。」


「うん…ありがとう。」


「どういたしまして。何かあったら私達を頼ってね。じゃあねキーラちゃん。」


「バイバイ!お姉ちゃん!私、お父さんみたいな立派な人になるよ!」


キーラちゃんはお母さんのところに走って行き、最後に一礼し、手を振りながら車に乗り込んでいった。



[14:50時]

〈軍事国家フェンリル 首都ロキ CIA本部〉



葬儀の後、部隊に自由行動を言い渡し、私は有希達3人と遅い昼食をとっていたが、「今すぐ来い」と呼び出しをくらい、有希達と別れてCIAの本部にやって来た。


「何があったの?」


私は呼び出した張本人である、長官のデリカ・ペトレイアスに聞いた。


「先程、逃走した遺跡都市エンクの領主の調査をしていたエージェントが会話のデータを送ってきた。場所はルイース大陸中央部の小国、キャリーエ。」


「これを」と差し出されたイヤホンを耳に着けると、男の会話が聞こえてきた。


『…い。計画は大丈夫です。フェンリルの連中も帝国がただの身代わりだとは気付いてないでしょう。

はい。お任せください。全ては教団の為、人族の為に!亜人共に死の鉄槌を!』


狂気を感じさせる男の声に、弱冠寒気を感じながらイヤホンを外した。


「…………デリカ。こいつは面倒な事になりそうね。」


「ああ。エージェントには引き続き泳がせておくように伝えた。この手の輩は初期段階で一網打尽に出来ないといたちごっこになりかねん。現時点ではその計画とやらが何かもわからんし。」


「同感ね。私は今日の夜には向こうに行くけど、この事に関しては何か分かり次第逐一報告して。」


「了解だ。」


私はデリカに引き続き調査を頼み、CIAの本部を後にした。


(それにしても、教団とは。名前からして宗教か?やっかいな奴等の尻尾を掴んだな。)


私は、新たな戦いの始まりを漠然と感じ取っていた。

取り敢えず今回で第2章と戦争編は終了ですが、色々と急ぎ足になったので後日書き直す可能性が大ですね。


葬儀の場面は最も書きたかった物の1つです。なろうで様々な現代軍隊がメインの話はありますが、死んだ隊員の葬儀を描写している作品は少なかったので。

葬儀はアメリカ軍の物を参考にしました。映画『ネイビーシールズ│(英名:Act of Valor)』やゲーム『メダルオブオナー』で死んだ仲間の棺にSEALsの部隊証を打ち付けるシーンが非常に心を打ちました。


今回の迷言です。今回はエースコンバット6より、


ゴーストアイ「敵爆撃機編隊の全滅を確認した。素晴らしい戦いっぷりだ」


アバランチ「オイオイ。そんなに感謝されたら照れくさくて帰れなくなる」


ゴーストアイ「了解した。アバランチは撃墜され行方不明だと報告しておく」


自国の殆どを制圧された男達のユーモア溢れる一幕です。


次回は第0章1話の修正、というより新しい1話の投稿になると思います。これから暫くキャラクターリストや登場兵器リストなどの投稿になります。


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