プロローグ2 転移
その日私達は戦争をしていた。
当然ゲームの中でだ。
World・Warfare・Onlineではプレイヤーが国を作り、他のプレイヤーに戦争を仕掛けることが出来た。
私達の国、軍事国家『フェンリル』はそんなプレイヤー間戦争を全て勝ち抜き、気付いた時には最強と言われるほどになっていた。
「敵は揚陸艦3に駆逐艦5?たったそれだけの戦力でよく挑んできたものね。攻者3倍の原則を知らないのかしら。航空支援も無いし。」
《そう言ってやるな。相手の戦力を事前に調べ上げられるほど諜報組織のレベルが高いのはうちくらいだろう。》
私と父さんは敵がもし上陸したときの為にそれぞれ部隊を率いて待機していた。
「だとしても酷すぎですよ父さん。これじゃあこの大陸に上陸する前に全滅ですよ。何のためにこんなに戦車やら装甲車やらを集めたのかわからないですよ。」
《前に教えただろ。戦争に絶対などない。準備をしておくにこしたことはない。それと作戦が始まったら父さんではなくコールサインで呼べよ。》
「わかってますよ。リーパー」
その時上空を『フェンリル』所属の証である白銀の狼と尾翼に漆黒の狼のエンブレムをつけた『ウォーウルフ隊』のF-22、12機と同じく白銀の狼と尾翼に槍を持った騎士のエンブレムをつけた『ジャベリン隊』の、空対艦ミサイルを搭載したF-2、8機が飛んでいった。
「こんなことならパイロットとして作戦に参加すれば良かったな。」
《今更言ってもしょうが無いわね。我慢しなさい。》
「わかってますよ母さん。それより敵の様子は?」
《変化なし。航空機をあげるでもなくゆっくり進んでくるわ。あと3分で空軍が攻撃を開始する予定よ。それと、作戦中はコールサインを使えと言われたばかりでしょ。》
「了解です。アテナ。」
その時突然大きな揺れを感じた。
「なに?地震?でもそんなの聞いたことがないけど。」
このゲームでは爆発などによる揺れはあっても自然災害としての地震は起こらないはずだった。
《こちらアテナ。状況がおかしい。レーダーが故障した。EMP?違うわね。通信は通じてるし。》
《こちらウォーウルフ・リード、アテナ、敵艦隊との接触予想地域にはなにも存在しないぞ。どういうことだ?》
《不明だ。ウォーウルフ・リードひとまずジャベリン隊を護衛しつつ帰投しろ。》
《コピー。これより帰投する。》
「突然の地震、敵艦隊の消滅、一体何が起こっているの?」
その言葉は全員が思っていたことと同じだった。
《ん?おい、優香メニューを開いて見ろ!》
父さんの慌てたような声が無線から聞こえてきた。
「一体どうしたの?メニューには何も変化は…」
そこから先を言うことは出来なかった。あるはずのものが無くなっていたからだ。
「ない!?ログアウトの表示が消えてる!」
《それだけじゃない。カレンダーを出して見ろ。》
直ぐにカレンダーを表示すると再び私は愕然とした。
「父さん…。光歴872年ってどういうこと?もしかしてゲームの世界が私達の現実になった上に、異世界に転移したってこと?」
《わからん。取りあえず全員基地に帰投しよう。情報を集めなければならん。》
「…そうね。ひとまず帰りましょう。」
私達は訳の分からぬまま帰投する事にした。
用語解説
軍事国家『フェンリル』
七海優香とその両親の手によって作られた。北アメリカ大陸と同じかそれ以上の国土を持つ。石油や石炭などの鉱山資源に恵まれており、自給率はほぼ100%。また、ゲームシステムが残っているため、異常な生産能力を持つ。
キャラクター紹介
七海正弘 ななみまさひろ
性別:男性
年齢:42
髪:黒 クルーカット
眼:黒
身長:192cm
所属:軍事国家『フェンリル』特殊作戦部司令
コールサイン:リーパー
七海優香の父であり、射撃と格闘を優香に教えた。現役の『特殊作戦群』隊長であり、潜入と情報収集のエキスパート。一応司令だが、指揮は副官に任せ娘と共に自ら現場に出ることが多い。娘を溺愛している。
七海ヘレン ななみへれん
性別:女性
年齢:40
髪:金髪
眼:碧眼
身長:160cm
所属:軍事国家『フェンリル』統合参謀本部 本部長
コールサイン:アテナ
七海優香の母であり、アメリカ人と日本人のハーフ。現役空中管制官であり、作戦中は主に空中のAWACSにて指揮を取っている。数々の特殊作戦の指揮を行ってきたベテランであり、作戦立案、作戦指揮、情報解析のエキスパート。また、狙撃の腕も凄まじく、2km先の敵の頭を1発で打ち抜くほど。
捕虜の尋問も担当している。