第1章14 Operation Labyrinths Breakers Part.1
[6月15日 08:00時]
〈アメックス王国 フィールの街 フォート・ベアード〉
翌日、フォート・ベアードの格納庫の前に冒険者とフェンリルの兵士達が整列していた。
「注目!
諸君!我々はこれよりダンジョンに突入し冒険者達を救出し、これを攻略する!ダンジョン内は魔物に埋め尽くされているだろう!だが!その先には助けを必要としている仲間達がいる!ならば、喜んで火の中に飛び込もうじゃないか!」
「「「「「応!」」」」」
「私達は何だ!この道以外に生き方を知らない愚か者の集まりだ!勇気の無い奴はここに残れ!そして部屋で震えているのがお似合いだ!悔しいか!だったら喰らいつけ!しがみつけ!わかったな!よし!総員搭乗開始!Operation Labyrinths Breakersを開始する!この作戦は全員の帰還を持って成功とする!仲間の為に華々しく死ぬ英雄は物語の中だけで十分だ!格好悪かろうが惨めだろうが死体だろうが何だろうが必ずつれて帰ってこい!誰も残してくるなよ!」
「「「「「了解!」」」」」
私の激励を受け、兵士達が一斉に動き出し、それぞれ配置についた。
私はエイミーさん、シャル、有希とナイトストーカーズのUH-72に乗り込んだ。
[09:20時]
〈アメックス王国 マーシャントの森 ダンジョン入り口〉
フェンリル陸軍第4機甲師団第3戦車大隊大隊長 池田早苗大佐 コールサイン:アンヴィル・アクチュアル
私の10式戦車を先頭に施設科が整備したダンジョンへの道を進み、巨大な門の用な入り口にたどり着いた。
「フェアリー、目標に到着しました。これより突入します。」
《了解。気をつけて。》
「アンヴィル・アクチュアルより全隊へ、これよりアンヴィル隊は突入を開始する。レーナ、遅れるんじゃないわよ。」
《何言ってるのよ。そっちこそやられるんじゃないわよ。
ライノ・アクチュアルよりライノ全車、私達の運転技術を見せ付けるわよ!》
フェアリーに連絡した後、全員に突入開始を告げ、突入を開始した。
門に突っ込むと、一瞬の目眩の後、草原に出た。
「へぇ。これがダンジョン。今回のはイレギュラーらしいけど凄い物ね。」
ダンジョンの中には、草原、森、湖、山などの環境が出来ていた。
景色に感動していると、
「!早速来たわね。」
車長用のヘルメットに取り付けられたHUDのマップに魔物と思われる反応があった。
センサーや望遠装置で確認すると、30体程のオークが走ってきた。
「全車へ、オーク30体程が接近中。先制攻撃を仕掛ける。弾種榴弾。ラインフォーメーション。私に続いて攻撃を開始しろ。」
《アンヴィル2-1ラジャー。》
《アンヴィル3-1了解しました。》
無線から各中隊の指揮官からすぐに返事がきた。
「HE弾装填完了!」
砲手の宮川博継1等軍曹が伝えてきた。
「了解。エリナ!他の車両と歩幅を揃えて展開して。」
操縦手の坂本エリナ少尉に指示を出した。
「もうやってますよ。」
「了解。各車、敵中央に向けて効力射撃。撃てぇ!」
[ドドドドン!]
私の命令に続いて第3戦車大隊の10式戦車30両が一斉に榴弾を発射した。
接近してきたオークの群れは30発の榴弾の爆発に飲み込まれ、跡形も無く消え去った。
「全車良くやった。このままラインを端まで広げて、ライノ隊の展開を待つ。その後一斉に前進だ。」
《《《《《了解!》》》》》
[45分後]
〈マーシャントの森上空 ナイトストーカー2-1〉
フェンリル軍GDU1stIB 七海優香 コールサイン:フェアリー
《フェアリー、アンヴィル大隊とライノ大隊が展開を完了し侵攻を開始し、転移門から2kmの範囲の敵は一掃されました。》
「了解。航空隊も順次突入開始。必要なら戦車隊にCASを提供して。」
《了解。》
「ノリス大尉!私達も突入しましょう!中に入ったら簡易発着場を作ります!」
機長のノリス・ギャレット大尉に突入を指示した。
「了解!行きます!」
UH-72が高度を下げ転移門に突っ込んだ。
「もう二度とやりたく無いわね。」
「同感です!たとえ大丈夫だとわかっていても壁に正面から突っ込むのは恐いものです!近くの草原にヘリを下ろします!」
UH-72はゆっくりと着陸し、私はメニューから前線基地と大量の武器庫を呼び出した。
「フェアリーより全隊へ。第1層前線基地の設営終了。補給が必要になったら戻ってきなさい。」
《《《《《了解。》》》》》
設営が終わって少しすると、大量のヘリとUAVが門を抜けてきた。
「きたわね。私達は出番を待ちましょう。」
第76強襲航空団『チェッカー隊』隊長 ジャニス・トレース少佐 コールサイン:チェッカー・リード
「チェッカー・リードよりチェッカー1-2、1-3、1-4へ。全機無事突入したな?」
《こちら1-2。酷い恐怖体験でしたが無事です。》
《1-3、同じく。》
《こちら1-4。さっさと行かないとアンヴィルとライノが全部踏み潰してしまいますよ。》
「その通りね。1-2あなた達は私達と一緒にライノ大隊のCASを担当よ。1-3と1-4はアンヴィル大隊にCASを提供して。」
《了解。1-2はリードに続きます。》
《1-3。1-4と共にアンヴィル大隊のCASに付きます。》
《こちら1-4。また後で会いましょう。》
1-3と1-4が編隊を離れ、アンヴィル大隊の上空に向かった。
《こちらFCO、トミーです。モニターにライノ大隊が映りました。》
「了解。ライノ・アクチュアルとコンタクトをとるわ。」
無線の周波数を合わせた。
「ライノ・アクチュアル、こちらチェッカー・リード。そちらの上空に到着した。索敵とCASは任せて。CASが必要な場合はスモークで目標を指示して。」
《こちらライノ・アクチュアル。早速だけどCASを要請するわ。目標は、[ポン!]今発射した、紫のスモークのポイントにいる魔物の群れよ。》
「FCO、目標は確認した?」
《トミー、目標確認。》
《スティーブも目標を捉えました。》
「了解。チェッカー・リードエンゲージ!吹き飛ばしてやりなさい。」
《了解!25mm掃射開始。》
《40mm発射!》
[グォーーーー!][ドンドンドンドン!]
AV-50の左側面から25mm弾と40mm弾が連続して発射され、地上にいた魔物の群れを吹き飛ばした。
《こちらライノ・アクチュアル。脅威は消え去った。感謝する。前進を再開する。》
地上の30両のレオパルト2A6が前進を再開した。
「了解した。上空で待機する。
FCO、良くやった。要請があるまで上空からの監視を行う。変化を見逃すな。」
《《了解。》》
私は機体を味方の上空で反時計回りに旋回させ待機した。
フェンリル陸軍第2機甲師団第24戦車大隊『ライノ隊』隊長 レーナ・バルクマン大佐 コールサイン:ライノ・アクチュアル
[ズドドドドン!]
上空から大量の弾が降り注ぎ、魔物の群れを吹き飛ばした。
「こちらライノ・アクチュアル。 脅威は消え去った。感謝する。前進を再開する。 」
《了解した。上空で待機する。》
「ライノ・アクチュアルよりライノ大隊各車へ!前進を再開しなさい!アンヴィル大隊に負けるんじゃないわよ!」
停車していた戦車大隊が前進を始めた。
「こちらライノ・アクチュアル。チェッカー・リード。前方に敵の反応は?」
《そちらから10時の方向170mの森に複数の小型の熱源、約200を確認した。》
「了解。
ライノ大隊各車。敵、10時方向、距離150mに複数確認。恐らくゴブリンと思われる。キャニスター弾を装填し、攻撃に備えろ。」
《《《《《了解!》》》》》
私達もキャニスター弾を装填し少し進むと、
[ゲァーーー!]
と叫び声をあげながらゴブリンの群れが飛び出してきた。
「来たぞ!全車撃ち方用意!撃てぇ!」
[ドドドドドン!]
レオパルト2A6が一斉にキャニスター弾を発射し、おびただしい数の金属矢がゴブリン達に降り注いだ。
[ギャーー!]
ゴブリン達は身体中を金属矢に貫かれ、のた打ちまわっていた。
「進路上に残っているわね。
ライノ・アクチュアルよりライノ大隊各車へ。構うことはないわ。進路上に立つ敵は全て踏み潰してしまいなさい!」
ライノ大隊は進路を変えずに突き進み、ゴブリン達を踏み潰した。
「このまま全速前進よ!一気に転移門まで突き進むわよ!」
戦車大隊は破竹の勢いで進撃を続けていった。
[2時間後]
フェンリル軍GDU1stIB 七海優香 コールサイン:フェアリー
「第3戦車大隊と第24戦車大隊から転移門に到達したとの報告です。」
「そう。それじゃあ今はボスと戦闘中かしら?」
「いえ。ボスらしき物はいなかったと報告しています。」
「?冒険者の報告ではボスが復活していると聞いたけど?」
「なんでも、他のより少しデカい色違いの赤いオーガがいたそうです。」
「いや、いるじゃない。それで、そいつは?」
「APFSDS弾を2発喰らって吹っ飛んだそうです。」
「………まぁいいわ。それじゃあ第2階層に行きましょう。」
私は再びUH-72に乗り込み、前線基地を飛び去った。
[30分後 第2階層]
転移門周辺の敵を一掃し、再び前線基地を作り、そこから第9偵察航空団のRQ-4A 4機と第3偵察ヘリコプター中隊のOH-1 6機が離陸し、冒険者達の捜索を行っていた。
私はすぐに出撃出来るようフル装備でUAV操作用の特殊車両の中にいた。
「全機展開完了。これより捜索を開始します。」
「帰還した冒険者は砦と言っていたわ。平原で周囲に大量の熱源のある場所を探すのよ。」
「了解。カメラをサーマルに切り替え、平原を中心に捜索します。」
《フェアリー、こちらスカウト・リード。我々は森と山岳地帯を中心に捜索する。》
「頼むわね。単独か少人数で行動している冒険者もいるかもしれないから慎重に探して。」
《了解。》
私はこれならすぐに見つけられると思い、結果はすぐに出た。
「ん?こいつは…………!フェアリー!見つけました!」
「本当に?!見せて!」
モニターを横から見ると大きな砦のような建物を少なく見積もっても3000の魔物が襲っていた。
建物は頑丈なようで、破壊されるような気配はないが、遅かれ早かれ門が突破されるのは間違いないだろう。
「!位置は?!」
「この基地から方位090、距離16400です!」
「あなたはそのまま監視を継続しなさい!
全隊!スクランブル!要救助者を方位090、距離16400に発見!彼等は3000以上の魔物による攻撃を受けている!早急に増援を送る!各員搭乗を急げ!」
私は車両を飛び出し、無線を基地のスピーカーに接続し、スクランブルを発令した。
エプロンに出ると、既にローターを回転させているヘリに1stIBの兵士が乗り込み始めていた。
「ノリス大尉!」
「あなたで最後です!何時でもどうぞ!」
「了解!
フェアリーより全隊!出撃!」
私はUH-72のベンチに座り、出撃の指示を出した。
第17戦闘飛行中隊のAH-64D4機を先頭に、第160特殊作戦航空連隊のMH-60 22機、UH-72 6機、MH-6J 10機、AH-6J 8機が後に続いた。
[10分後]
《こちらガンスリンガー・リード。目標まで後5分。》
「先ずガンスリンガー隊がロケットと機銃で周囲の魔物に攻撃を加えるわ!その後砦上空でホバリングして、ファストロープで降下するわ!降下地点は各自臨機応変に決めなさい!」
《《《《《了解!》》》》》
「降下要員が降下したら、ヘリから機銃と狙撃支援を提供して!」
《目標まで2分。》
「全員ここが正念場よ!必ず生還しなさい!それ以外は許可しないわ!」
《《《《《了解!》》》》》
「さぁ!行くわよ!」
ガンスリンガー隊がロケットと機銃掃射を開始し、突入を始めた。
[ポシュポシュポシュポシュ!][ガガガガガガ!]
ハイドラ70ロケット弾と30mmチェーンガンの掃射により、門に詰め寄っていた魔物が殲滅された。
《攻撃成功。門周辺の敵は殲滅。》
「了解!
ナイトストーカー全機、突入!」
第160特殊作戦航空連隊のヘリが突入を開始し、砦の上空で大量のヘリがホバリングし、中から第1独立大隊とパラレスキューの兵士がロープで降下し始めた。
「ノリス大尉!北門の上に降りるわ!そこでホバリングして!」
「了解!」
ノリス大尉の操るUH-72は門の上でピタリと静止した。
「ロープ投下!」
『ロープ投下します!』「ロープ投下するの!」
有希とシャルがロープを落とし、私はロープを掴んだ。
「降下開始!」
「幸運を!」
ノリス大尉の応援を受け取り、私達はヘリからの降下を始めた。
降下用の分厚い手袋が摩擦ですり減っていくのを感じながら素早く降下した。
〈ダンジョン内 砦 西門〉
「あんた等一体何者だ?!」
「フェンリル軍よ!冒険者ギルドの依頼を受け、救助にきたわ!」
「救援?!」「やった!」
「それで、あなた達の指揮官はどこにいるの?」
「え?えーと。中央の部屋で会議中のはずだ。」
「案内しなさい!」
「は、はい!」
冒険者について行くと1つの部屋についた。
「ありがとう。戻って良いわよ。」
冒険者に礼を言い、私達は部屋に入った。
「ん?何だお前達は?」
「おい!会議中は立ち入り禁止だ!」
中には10人程の冒険者が集まっていた。
「フェンリル軍だ!救援に来た!ここにいるのが制圧隊の指揮官ですね?」
「ああ。後3人門で指揮をとっている。」
「まったく。俺達の指示に従えばいいのに。」
「そうですか。それでそちらで立てた今後の行動を聞かせてもらえますか?」
「良いだろう。」
冒険者の1人が説明を始めた。
「今この砦には330人程の冒険者がいる。その全員で一点突破をしようと思っている。」
「は?一点突破?」
「ああ。俺達とあんた等がいれば出来るだろう?」
あまりのアホさに呆れてしまった。
「他の人も同じ意見なの?」
冒険者達は自信があるのか、頷いた。
「………馬鹿じゃないの?
確かにこの砦には330人と私の部下約200人の合計500人以上いるが、冒険者の中でまともに戦えるのは、200人程と報告がきたわ。残りの100人はどうするの?」
「囮にでもなってもらうさ!多くが生き残るためには犠牲は付き物だろう?」
『「「「なっ!」」」』
あまりのデタラメさに頭が痛くなってきた。
「一度突破しても包囲される危険が高いです。外は平原。壁もない所で1000を超す魔物に取り囲まれたらどうする?」
「その時は。一部を足止めに残していく。」
「冒険者達は疲弊していて、食料も無くダンジョンの出口まで76km、森を抜けて街まで8km、合計84kmを戦いながら無事に抜けるのは不可能よ。」
「そんな事気合いでなんとかすればいい!」
「……………もう十分よ。あんた等とは話す価値も無いわ。後の事
は他の冒険者達に任せるわ。」
「何?どういう事だ?」
私は無線を指差し、告げた。
「ここでの話は途中から冒険者達に丸聞こえだったのよ。」
「なっ!」
男達は一瞬で真っ青になった。
「あなた達さっきなんて言ったかしら?怪我人は囮に、一部は足止めとして魔物の群れに残す、疲弊は完全無視。あなた達の素晴らしい作戦に意見のある冒険者達が押し寄せて来るでしょうね。」
「き、貴様!絶対に許さん!」
「あんたの許しを得られない変わりにここの冒険者達が1人でも多く生きられるなら、そんなゴミは豚に食わせて命を取るわ。
私は行くわ。くれぐれも邪魔はしないように。」
私達は部屋を出て、ヘリの外部スピーカーに繋がった無線に話し掛けた。
「冒険者の皆さん。聞いてもらった通り、私は皆さんを見捨てません。怪我人や腹の減った者は中央広場に連れてくるように。そこで炊き出しと治療を行います。
それと、門で戦闘指揮中の冒険者パーティーのリーダーも中央広場に来てください。今後の事で話があります。」
続いてヘリ部隊と救援部隊に無線を切り替えた。
「ナイトストーカー隊、こちらフェアリー。積み込んでおいた武器弾薬、医薬品、食料、を砦の中央広場に投下して。
メタル、ファルケ、シルキーは冒険者達と協力して門を死守。
ガンスリンガー隊とスレイヤー隊[第174戦闘飛行隊]は彼等にCASを提供して。
ウミドリとバナード[パラレスキュー]は、負傷者の運搬と治療、炊き出しを手伝って。」
《《《《《了解!》》》》》
私は3人に向き直り、言った。
「聞いたわね?私達も中央広場に行くわよ。」
『「「はい!」」』
私達は無能な冒険者達を見限り、中央広場に向かった。
[30分後]
ヘリが物資を投下した後、バナードとウミドリが負傷者を運び込み、治療を始めた。
「おい!ここをしっかり押さえてくれ!」
「よし!持ち直したぞ!」
「くそ!おい!しっかりしろ!聞こえるか?!電気ショックを持って来い!」
治療現場は地獄というえる惨状だった。
私も治療を手伝っていると、
「お取り込み中失礼します!冒険者3名が来ました!」
「了解。すぐ行くわ。
後は頼むわね。」
「おまかせを。」
私はバナード隊の隊員に後を任せ、報告に来た隊員について行った。
「こちらです。」
「ええ。ありがとう。」
隊員について行くと水色のロングヘアーの女性と茶髪の男性と金髪の狼人族の男性の3人がいた。
「お待たせしました。この部隊の指揮官の七海優香です。」
私が自己紹介をすると3人も自己紹介を始めた。
「私はBランクパーティー『スノーマン』のリーダーのミカ・アールトネン。雪エルフ族で、私個人はBランクの冒険者よ。」
水色の髪の女性が自己紹介をした。
「俺はCランクパーティー『フラグメント』のリーダーのリオン・ガウマンだ。俺も個人としてはBランクの冒険者だ。」
茶髪の男性がミカさんに続いて自己紹介をした。
「最後は俺だな。俺はCランクパーティー『ハングリードッグス』のリーダーのルーカス・クラナッハだ。俺はCランクの冒険者だが、場数はそれなりに踏んでいるぞ。」
最後に金髪の狼人族の男性が自己紹介した。
「わかりました。
ここに来てもらったのは、今後の動きを伝えるためです。
私達は現在転移門から16.4kmの位置にいます。ここには戦闘可能な冒険者が169人と私の部下の合計約400人がいます。負傷者は200人程で、その中でも緊急性の高い者はヘリで運びます。ですが全員を運ぶ事は出来ませんので、これから救出部隊が来るまで、ここで籠城してもらいます。」
「まだこの状況が続くのね。」
「はい。順調にいけば3時間で救出部隊が到着します。東西南の門での戦闘は私達が受け持つので、皆さんには負傷者の治療と炊き出しと、救出部隊が来る事と、戦闘は私達が受け持つ事と戦える冒険者は全員北門を守るように冒険者達に伝えてください。」
「わかったわ。私のパーティーは人数は少ないけど治癒魔法が使えるから治療を手伝うわ。」
「それなら俺のパーティーに料理の出来る奴が多いから炊き出しをやろう。」
「と言うことは俺達は伝達だな。任せろ。」
「それではお願いします。私は1番の激戦になっている南門に行きます。」
「?!指揮官が現場に行くのか!?」
「当然です。指揮官自ら部下に範を示さなければついてきません。
ただ命令を出すだけの人間と、現場で共に戦う人間ではどちらが信用されるかは考えるまでも無いでしょう?」
「な、なるほど。確かに。」
「それでは後程。」
私は冒険者達に仕事の手伝いを任せ、南門に向かった。
〈南門〉
南門ではメタル隊とシルキー隊の隊員が戦闘をしていた。
「クソ!数が多すぎる!ミハエル!スラッガーにCASを要請しろ!」
「了解!スモークを投げます!」
ミハエルさんが紫のスモークを魔物の群れの中央に投げ込んだ。
「良くやった!スラッガー・リード!こちらサンドマン!CASを要請する!南門の紫のスモークだ!」
《了解。》
すぐに上空から40mmと25mmが降り注いだが、まだ大量にいた。
「まだいる!もう一度いけるか?!」
《残念だけど弾切れだ。補給に戻る。》
私は先程ヘリから投下された兵器を起動した。
「行け!」
私が呟くと、背後から、クアッドローターに機銃かグレネードを搭載した小型UAVが15機飛び去って行った。
「アリア!クアッドローターの操作は任せたわよ!」
『了解です!張り切って行きますよ!』
クアッドローターが魔物達の頭上に飛来し、銃撃を加え始めた。
「フェアリー!地獄の1丁目にようこそ!」
「状況は?!」
「負傷はありませんが数が多すぎます!CASはどうなってますか?!」
「ガンスリンガー隊は補給だ!復帰は15分後だ!ナイトストーカー隊のリトルバード、コールサインナイトストーカー3-3とブラックホーク、コールサインナイトストーカー3-1が直援につく!」
「了解!全員航空支援が来るぞ!」
リトルバードが飛来し、門に近付く魔物に機銃掃射とロケットで攻撃を始めた。
「敵が怯んでいる今のうちにリロードしろ!」
「サンドマン!下は任せるわ!私は上でレールガンでの狙撃をするわ!シャルはここでサンドマンをサポートして!有希はスポッターを!」
「了解!御武運を!」
下での戦闘の指揮をサンドマンに任せ、私と有希は門の上に駆け上がった。
「パティ[エマ中尉]!シンディ[ジェシカ中尉]!状況は?!」
門の上にはメタル隊の小隊長兼スナイパーのエマ中尉とジェシカ中尉がスポッターと狙撃をしていた。
「フェアリー!見ての通りです!これなら目をつぶって撃っても何かに当たりますよ!」
「こんな戦場は久々です!」
「バジャーは後3時間で到着する!それまで何としても死守よ!」
「「了解!」」
私は4人から少し離れた所で、バイポッドを立て、レールガンの電源を入れた。
「有希。高脅威目標をマーク!」
『了解!』
有希が多目的LAMでマークした敵がHUDに赤い枠で囲まれて表示された。
「棍棒に岩か。あんなので殴られたら木っ端みじんね。近付く前に消えてもらいましょう。」
私はレールガンをフルチャージにし、複数の魔物が重なった瞬間に引き金を引いた。
[プス!]
と、軽い音と共に放たれた非常に重い20mmの飛翔体が初速4500m/sで魔物の群れにぶつかり、30匹以上の魔物達を蒸発させながらダンジョンの奥に消えていった。
「流石ゲテモノレールガン。凄い威力ね。」
そのまま10分程狙撃をしているとブラックホークが飛来した。
《こちらナイトストーカー3-1。機銃掃射をする。》
[グォーーーー!]
ヘリが機銃掃射を開始した。
すると、
「!ナイトストーカー3-1!そちらから5時方向のオーガが投擲体制に入った!ブレイク!」
《何!?クッ!》
メタル隊の隊員の言った方向を見ると、
「なっ!死体を投げた!?」
オーガが死体をヘリのテイルローターに向かって投げた所だった。
投げられた死体はテイルローターに直撃し、破壊した。
《クソ!!メーデーメーデーメーデー!ナイトストーカー3-1テイルローターに被弾!コントロール不能!墜落する!》
ブラックホークはコマのように回転しながら高度を下げ、ローターで魔物をみじん切りにしながら南門から50mの位置に墜落した。
《ナイトストーカー3-1墜落!》
《あの高さならまだ生きているぞ!》
《だが、あの中に飛び込むのか?》
兵士達に動揺が走り、混乱しているのが無線からも伝わってきた。
「全員落ち着け!
私とシルキーが救出に行く!メタル隊はここから援護射撃を頼む!
シルキー隊は南門前に2分で集まれ!皆の好きな近接戦闘よ!
チェッカーとスレイヤーは上空から墜落現場に近付く魔物に機銃掃射をしろ!
それと作戦行動中のヘリは高度を上げて投擲に注意しろ!」
《《《《《り、了解!》》》》》
《チェッカー・リード了解。》
《スレイヤー了解。》
すぐに機銃掃射が降り注ぎ、墜落現場の周辺を攻撃し始めた。
南門前に行くとシルキーのメンバーである31人がいた。
「フェアリー!私達の出番ですね?!」
「ええ!魔物相手の近接戦闘はあなた達の方が強いわ!
魔物達を切って、撃って進んでヘリの乗員を助け出す!」
「こっちに来てからお世話になりっぱなしだったからな恩を返させてもらおう!」
「よし!行くぞ!互いにカバーしながら進め!」
私は背負っていた高周波ブレードの『草薙』を抜き、魔物の群れに駆け出した。
〔グェアーー!〕
と魔物達が雄叫びをあげて突っ込んで来る私を迎え撃とうとしたが、
「そこをどけぇーーー!」
私は走りながら草薙を横薙にふった。
[シュッ!]
と静かな音がすると、刀は何の抵抗も無くオークを通り抜け、オークの体が上半身と下半身に分かれた。
「1つ!」
次に近付いてきたコボルトの頭を走りながら切とばした。
「2つ!」
門から20m程進むとオーガが死体を投げてきたが、私は死体を切って道を作り、一気にオーガに近付いて股間から真上に切り上げた。
オーガは一刀両断され死んだ。
「3つ!」
ここで背後に視線を向けるとシルキー隊の面々も各々のやり方で魔物達を倒して進んでいた。
[ドチュ!]
と何かが潰れる音がすると、目の前で攻撃しようとしていたオーガの頭が弾け飛んでいた。
《集中してください!》
「パティ!ナイスアシスト!」
私は再び駆け出した。
走り出して少しするとオークが掴もうと手を伸ばしてきたので、素早く草薙を振るい、オークの手を切り裂き、怯んだ所にナイフホルダーから高周波ナイフを抜きオークの喉に投げた。
ナイフは吸い込まれるようにオークの喉に突き刺さり、オークは自らの血で窒息死した。
「4つ!」
次は3匹のオーガがまとめて襲いかかってきた。
「邪魔だって言ってんのよ!」
私はオーガの懐に飛び込み、1匹の両足を断ち切った後、倒れた1匹を踏み台に飛び上がり、2匹目の頭上から草薙を振り下ろし、真っ二つにした。そして動けない1匹目の頭を切り飛ばしてトドメを差し、3匹目のオーガを横薙に切り裂いた。
「7つ!」
後10mの所で黒い色違いの3m程のオーガが現れた。
「!変異種ね!」
オーガは他のオーガより素早い動きで襲いかかってきたが、
「まだ遅い!」
私に腕を切り飛ばされた。
オーガは少し距離をとると、腕が生え始めた。
「自己再生付きか。それなら!」
私は回復しきる前に詰め寄り、足と腕を切り刻み始めた。
オーガはすぐに回復出来ないのか為す術もなく切り刻まれ、最後には私に首を切り飛ばされ息絶えた。
「8つ!」
変異種のオーガを倒したところでやっとヘリに到着した。
「ジャクソン曹長!ステビンス軍曹!バスケス少尉!ジョニー少尉!」
ヘリのキャビンにメタル隊のスナイパーと、ナイトストーカー3-1のガンナーが倒れていた。
「うっ。フェアリー。皆は?」
バスケス少尉が意識を取り戻した。他の3人の脈をとると全員生きていた。
「ジャクソンとステビンスとジョニーは大丈夫よ。」
「レシュナー中尉とウォルコット大尉は?」
「見て来る。待っていて。」
コクピットを見ると、ヘルメットのバイザーが割れて頭から血を流して、足が折れているが2人共生きていた。
「大丈夫よ。2人共生きてるわ。」
「ああ。良かった…。」
「バスケス少尉!」
すぐに脈を調べたが気絶しただけだった。
《フェアリー!彼等の状況は?!》
「全員気を失っているけど無事生きてるわ。」
《《《《《よっしゃー!》》》》》
「気を抜くのはまだよ!これからそっちに運ぶわ。援護は任せたわよ!」
《《《《《了解!》》》》》
そこにシルキー隊のメンバーが次々と到着した。
「無線は聞いてたわね?彼等を背負って戻るわよ。私は援護するわ。」
『「「「「了解!」」」」』
2人1組で担架に載せ、残りの人間が近付いて来る魔物と戦いながら南門に後退を始めた。
「全員後退!南門に入るまで気を抜くんじゃないわよ!」
運搬中の12人を中心に、周りの人間が魔物達を切り飛ばし、蜂の巣にしながらゆっくりと進み無事に南門に後退する事が出来た。
「6人を中央広場のバナード隊の所にすぐに運んで!
残りはここで戦闘を続けるわよ。」
「「「「「了解。」」」」」
私達は息つく暇も無く配置についた。
[2時間後]
私達が戦闘を続けていると、
《こちらバジャー・アクチュアル。待たせたな。ハンター[レンジャー]隊と火力を持ってきたぞ。
ストライカーMCが4両いるから位置情報を送ってくれ。》
「バジャー・アクチュアル!こちらフェアリー!南門から20mの位置に120mm迫撃砲を撃ち込んでくれ!」
《了解。》
遠くから砂煙とエンジン音が聞こえてくると、
[ヒュー]
と言う音が聞こえてきた。
「120mmが落ちてくるぞ!」
私が叫んだ直後、
[ドドドドン!]
と爆発が起こり、魔物を吹き飛ばした。
[ヒュー]
「また来るぞ!」
[ドドドドン!]
再び120mm迫撃砲による攻撃が行われ、最初の攻撃を生き延びた魔物に降り注いだ。
《こちらバジャー3-1。バジャー3を率いている。攻撃目標を指示してくれ。》
「バジャー3-1!目標をレーザーで指示する!」
銃に着けられた多目的LAMで魔物の群れをマークした。
《目標了解。バジャー3-3、3-4、TOWを発射しろ。
その後一気に突撃して魔物を殲滅する。》
無線が途切れ、すぐにTOW対戦車ミサイルがレーザーで示した地点に突き刺さり、大量の魔物が消し飛んだ。
「救援が到着したぞ!」「やった!」
仲間からも歓声があがり、バジャー3がストライカーMGSと機動戦闘車を先頭に突撃してきた。
バジャー3の各車両は105mm砲、Mk.19、M2、GAU-19B、M134で攻撃を始め、後部のランプドアが開き、ハンター隊の隊員が大量に降車し、戦闘を始めた。
「魔物達は怯んでいる!一気に押し込むぞ!出し惜しみはするな!撃てぇ!」
南門に展開している部隊とバジャー3、ハンター隊からの十字砲火を受け魔物達はあっという間に殲滅されていった。
[30分後]
救援にきたバジャー大隊と補給を終えた航空隊からの攻撃により砦周辺の魔物は完全に殲滅された。
「助かったわ。ナイスタイミングねダグザ中佐」
私はバジャー・アクチュアルのストライカーCVに近付き、バジャー大隊の指揮官のダグザ・リングストーン中佐に礼を言った。
「間に合って良かったです。冒険者達と負傷者の後送は我々が行います。」
「ええ。頼んだわ。私達はヘリで一旦前線基地に戻って装備を整えるわ。」
既に各門の前にはヘリが着陸していた。
「そうだ中佐。アンヴィル大隊とライノ大隊の状況は聞いてる?」
「現在10km地点だそうです。もうじきここにも来ます。」
「そう。ありがとう。また後で会いましょう。」
「ええ。お気をつけて。」
私はダグザ中佐と別れ、ノリス大尉のナイトストーカー2-1に乗り、前線基地に帰投した。
まずはパート1今回は戦闘メインです。
次回は3階層での話です。
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