第1章5 会議と演習と沈黙
〈アメックス王国 フェンリル軍 フォート・ディール〉
フェンリル軍特務派遣軍集団 七海優香 コールサイン:フェアリー
査察団の護衛についているデルタフォースから1時間程で到着すると連絡を受け、この世界で助け出した29人と派遣軍集団の陸海空海兵隊の各司令官、陸軍第302保安警務中隊から選出された特別儀仗隊101人と共に東門で到着を待っていた。
「王様ですか。どんな人何ですか?」
クリス大将が気になったのか私に質問してきた。
「CIAからの報告によると、国民のことを第一に考えている善王のようね。政治能力も申し分ないようよ。
ただ、軍部の支持が得られていないそうよ。」
「と言いますと?」
「軍部は他国に侵攻して領土拡大を目指してるのだけど、王様は他国との宥和政策を執っていて、異種族に対して友好的な王様を嫌っているそうよ。軍部には異種族に対して差別的思考を持つ人も多いそうよ。色々な噂も上がってきてるわ。奴隷の話とかね。」
「まさか…異種族を?」
「今調査中よ。裏が取れ次第特殊部隊に救助してもらうわ。」
しばらくするとHMMWVのエンジン音が聞こえてきた。
「来たわね。」
音のしてきた方を見ると、3台の馬車が前後をHMMWVに挟まれてきた。
馬車はレッドカーペットの端にぴたりと止まり、中から煌びやかな服に身を包んだ50歳程の男性が降りてきた。続いて、ミハエル王子と兄と思しき青い鎧を着た男性と真紅の鎧を着た女性が降りてきた。
他の馬車からも鎧を着た軍人や文官が次々と降りてきた。
「総員!敬礼!」
レッドカーペットの脇に整列した特別儀仗隊の指揮官が号令を出すと101人全員が一糸乱れぬ動きで45度の最敬礼を行った。
王以外はその動きに驚いていたが、王は笑みを浮かべ、堂々と私達の所まで歩いてきた。
「歓迎感謝する。そなたが七海殿下かな?」
王は威厳のある口調でそう聞いた。
「はい。私がフェンリルの総帥の七海優香です。陛下。」
「若いな。わしはアメックス王国国王のフィリップ・モリス・アメックスだ。今日は基地の案内と、我が国と条約を結んでくれると聞いておる。そなた達の話はミハエルに聞いておる。期待しておるよ。」
「必ず期待に応えられるでしょう。それでは基地は広いので、乗り物に乗りましょう。」
「あの車とかいうやつか?あれでは全員乗れんが…」
王の疑問に私は笑みを浮かべて答えた。
「もっと凄い物ですよ。」
[中央区画 司令部 会議室]
初めて乗ったオスプレイに王と王子達を除く査察団の全員が放心状態となってしまった。
「いや、貴重な物を見れたな。ミハエルの言うとおりだったな。」
「そうですな。父上。まさか竜以外で人を乗せて空を飛べる物があるとは。」
「ええ、音はうるさかったけど、寒くないし乗り心地は最高でしたね。」
「これは何としても条約を結ばなければな。」
王と王子達は会議室にきても興奮気味に会話を続けていた。
全員が落ち着いた所で私は会議を始めた。
のだが……一体どうしてこうなったのだろう?
10分後には私は拳を机に叩きつけていた。
「貴様等、私を嘗めているのか?軍の指揮権、街の自治権、大量の税に技術もよこせだと?ここはガキのわがままを言っていい場所じゃないぞ!」
私の言葉に軍人達が怒鳴り始めた。
「無礼だぞ!最近出来た小国の分際で!大国である我々が条約を結んでやると言うのだ!この程度のんで当然だろう!今すぐ貴様の国に攻め込んでもいいんだぞ!」
「我々が小国だと?どこでそんなでまかせを聞いたんだ?」
「ふん!フェンリルなどという国はここ30年聞いたことも無いわ!どうせ少し前に出来た歴史も無い小国に決まっている!」
「……はぁ………ミハエル王子…私達のことを教えて無いのですか?」
「王族と文官には教えましたよ。彼等は私達に会おうとしませんし、信じませんから実際に見てもらおうと思ったのですが。まさかここまで馬鹿だとは思いませんでした。」
「次からは気をつけてください。
さて、本来なら会議の後にと思っていたんですが。皆さんには私達の実力を見てもらいましょうか。外の演習場に行きましょう。」
〈アメックス王国 フォート・ディール 総合演習場〉
会議室を出て武官に予定を前倒しにすると指示を出し、全員を引き連れて北部の演習場に向かった。
「我が国の軍人達が失礼したな。すまない。」
会議の間黙っていた王様が軍人達に聞こえないよう小さな声で謝罪してきた。
「大丈夫です。ただ、この後始末はしっかりとお願いします。」
「約束しよう。」
王様は深く頷き、確約してくれた。
演習場に着いたので私は全員の方に向き告げた。
「今から皆さんには、我が軍の演習を見てもらいます。ミハエル王子、お聞きしますが、この世界に置ける戦争はどのようなものですか?」
「そうだな。一般的には騎馬隊や鎧を着た兵士で隊伍を組み、広い場所で打ち合う物だな。」
「ありがとうございます。まず皆さんに取って衝撃的な事実を言わせてもらいます。私達はそのような軍が相手なら姿も見られずに無傷で殲滅出来ます。」
私の言葉に全員に衝撃が走ったが、軍人達がまた食ってかかってきた。
「そんなことは不可能だ!しかも貴様等のような出来たばかりの軍に出来るわけがない!」
「黙れ。その認識がまず間違っている。まあいい。それでは始めよう。全軍、状況開始!」
《《《《《了解。状況開始!》》》》》
「私達の戦争、特に侵略戦争の場合、歩兵部隊を送る前に洋上の軍艦、あるいは空からの攻撃から始まります。西側の沖合に微かに船が見えますか?」
全員が西を見ると、ずっと沖合に灰色の船が見えた。
「あれか?」「この距離であの大きさとは……」
「正面左側にあの船の様子を映し出しています。それでは攻撃を要請します。」
全員の視線がモニターに向いたのを確認し、無線に命令を出した。
「こちらフェアリー、”やまと”SMC(Ship's Mission Center)。トマホークによる火力支援を要請。目標、第4丘。」
《こちら”やまと”。了解。トマホークを発射する。弾着まで1分。》
モニターに映った”やまと”からトマホークが発射された。
「何だ!」「火を噴いて、何かが飛び出してきたぞ!?」「おい!何か光るものがこっちに飛んできてるぞ!」
「落ち着いてください。今発射されたのはミサイルと言う自ら目標に飛んでいく爆弾です。今回は1発ですが、必要であれば何百と撃ち込むことが出来ます。前方、奥の丘に後20秒で着弾します。…………弾着5秒前!4,…3 …2 だんちゃ~く、今!」
私の声と同時にミサイルが目標違わず着弾し、 丘の大部分を吹き飛ばした。
「続いて空からの攻撃を見てもらいます。まずは空軍からです。」
既に青くなっている人もいるが無視して進める。
「ウォーハンマー・リード、こちらフェアリー。CASを要請する。目標、第1平原並びに第4平原。クラスター爆弾を投下の後、機銃掃射せよ。」
《ウォーハンマー・リード了解。到着まで2分。》
「今こちらに向かっているのは空軍の主力攻撃機であるA-10Cです。攻撃機は空から地上への攻撃のための航空機です。モニターに飛行の様子が出ています。」
キィィィン
「来ましたね。皆さん、東からA-10Cが接近して来ました。第1目標は左手前方に並んだ馬車の車列です。」
A-10Cが馬車の上空を通過すると、2発のCBU-87/Bクラスター爆弾から1つあたり202個の小爆弾が投下され、馬車全てを吹き飛ばした。
「今投下されたのはクラスター爆弾と言う爆弾で、今のように航空機から投下されるか、先ほどのミサイルによって発射される、面を制圧するための兵器です。
おっと。A-10Cが戻って来ました。第2目標は右手前方の車列です。」
A-10Cが再び飛来し、
グヴォーーー
と、凄まじい音を放つと同時に馬車の群れが大量の30mm弾を受け、弾け飛んだ。
「ただいまの攻撃はGAU-8 30mm機関砲による機銃掃射です。銃については後程体験していただきます。」
最早声も出ないのか、全員がただ呆然と見ていた。
だがまだまだ見せる物があるので、無視して進めた。
「続いて陸軍航空隊による攻撃です。
ガンスリンガー・リード、1-2 こちらフェアリー。CASを要請。目標、第2、第3平原。」
《こちらガンスリンガーリード、了解。》
《ガンスリンガー1-2 、了解。》
30秒もせずに私達の頭上を2機のアパッチがフライパスし、前方に残った2つの車列に30mmチェーンガンとハイドラ70ロケット弾を発射し、車列を殲滅し、基地に戻っていった。
「たった今攻撃したのは、AH-64D アパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターです。
先制攻撃を行ったので地上部隊を派遣します。西の海岸をご覧ください。地上部隊を乗せたLCACと言う輸送船が上陸して来ました。」
地上部隊を満載した3隻のLCACは車両と歩兵を上陸させると海に戻っていった。
LCACから揚陸した10式戦車3両、LAV-25 3両、HMMWV 3両、歩兵20名、がすぐに私達の前に整列した。
「これより車両部隊による演習を開始します。まず、戦車部隊が前方の山に対し砲撃を行います。
アイアンフット2-3 2-4 2-5 、こちらフェアリー。敵集団を第2丘に確認、回避機動を取りつつ、前進し効力射を行え。」
《こちらアイアンフット2-3。了解。前進する。》
《2-4前進し効力射を実施する。》
《2-5前進。》
命令を受け、3両の10式戦車が前進しスラローム射撃を開始した。
ドドドン!
一斉に発射された120mm榴弾は第2丘に突き刺さると同時に丘の表面をえぐり取り、攻撃を終えた戦車は素早く離脱した。
「続いて敵陣地制圧の為に歩兵部隊が車両の支援を受け前進します。
ワスプ(LAV-25) 、ジュリエット(HMMWV) 、こちらフェアリー。マコ(歩兵部隊)を敵陣地へ輸送し、支援しろ。敵の残存兵力は第3丘に集結中だ。」
《こちらワスプ、了解。前進し、マコ展開後第3丘に対し制圧射撃を行う。》
《こちらジュリエット、ワスプに続いて前進する。マコ展開後は第3丘に車載機銃を用い制圧射撃を行う。》
「マコ・アクチュアル、敵は屋内に立てこもり人質を取っている。突入し救出せよ。救出後は車両に乗り離脱しろ。」
《マコ了解。》
マコを乗せたLAV-25とHMMWVが猛スピードで前進し、キリングハウス付近に停車すると、車内から20名の兵士が素早く降車し、キリングハウスに入っていった。
《こちらワスプ、マコの展開完了。制圧射撃を開始する。》
《こちらジュリエット、制圧射撃を開始。》
しばらくするとマコから通信が入った。
《救出成功。これより車両に合流します。》
すぐにキリングハウスから人質役の隊員を抱えて出てくると互いにカバー仕合ながら車両に乗り込んでいった。
《こちらワスプ、マコの乗車を確認。ジュリエットの乗車が完了次第離脱する。》
《こちらジュリエット、マコの収容完了。離脱します。》
ワスプとジュリエットは乗車完了するとすぐに離脱した。
「こちらフェアリー。離脱を確認。状況終了。全員良くやった。ゆっくり休んでくれ。」
私は部隊に演習終了を告げ、青い顔をした査察団の面々に笑顔で振り向いた。
「これで演習は終了です。それでは会議室に戻りましょうか。」
〈アメックス王国 フォート・ディール 会議室〉
会議室は数時間前とは打って変わって静まり返っていた。
「さて、私達の実力は理解してもらえたと思うので、次は私達の正体について話ましょうか。
正面のモニターを見て下さい。」
モニターにはこの世界の地図と衛星写真が映されていた。
「そこの文官の方、これが何かは分かりますね?」
「…ああ。この世界の地図と空からの景色か?」
「その通りです。では西に動かしていきます。」
するとフェンリルの本土が見えてきた。
「?どういうことだ?あんな所に大陸は無いはずだ。」
文官や地理に詳しい人物は揃って首を傾げていた。
「あの大陸全てが軍事国家フェンリルの領地です。私達は1カ月前に異世界からこの世界に転移してきました。」
再び会議室が沈黙に包まれたが無視して本題を叩き込んだ。
「そこの軍人達に聞きますが、先程の発言は宣戦布告と受け取ってよろしいのですよね?」
「いや…それは……」
「違うとは言わせませんよ。他国の元首に対する侮辱、国家そのものへの侮辱、挙げ句の果てに攻撃宣言、これで宣戦布告ではないといえるのですか?」
「…………………」
「先程見ていただいた戦力は極々少数です。この基地だけでおよそ100倍。本国には先程の10万倍以上の戦力と一発で数万の人間を殺害出来る爆弾が100発以上あります。
そんな相手に喧嘩を売って勝てるとお思いで?
それと余談ですが、私の国は転移前の世界では、同じ技術レベルの国との戦争を何百と行い、その全てに勝利した世界最強の国でした。」
私の言葉に軍人達はどんどん顔を青くし、気絶寸前のようだった。
「…会議するような雰囲気ではなくなってしまいましたね。続きは明日にしますか。
軍人の皆さん。質問します。明日あなた達が取るべき最善策は何ですか?
明日の会議の時に答えを教えて下さい。
それでは解散です。明日の会議は午前10時開始です。皆さんの部屋へは外にいる部下が案内します。それと私の執務室はここの隣なので質問のある方は是非いらしてください。
それでは失礼します。」
私は凍りついたように動かない査察団を残し、執務室に向かった。
陸上自衛隊 第302保安警務中隊は海外の来賓を出迎えたりする部隊で、動きも身長も揃って敬礼している姿がとてもカッコイいです。
SMC はズムウォルト級ミサイル駆逐艦に搭載されている、CIC(戦闘指揮所) の発展型で、従来のCICの機能の他に主機操縦室と主に空母に搭載されているTFCC(群司令部指揮所)の機能も併せ持っています。
次回はCQC回になるかと思います。
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