第1章3 証拠確保と招待
〈軍事国家フェンリル 首都ロキ 総司令部 特殊作戦部〉
フェンリル軍 特殊作戦部司令 七海正弘 コールサイン:リーパー
各地に派遣した特殊部隊から報告を受けていると、優香からの緊急連絡が届いた。
「どうした優香?」
《父さん、今動ける特殊部隊はいる?》
「ちょっとまて。……フュージリア海兵コマンドの『ジャベール隊』と第15特殊作戦飛行隊が動けるな。それで派遣の理由は?」
《フィールの街の領主の息子に襲われたわ。王様の前に強制連行突き出したいから不正と犯罪の証拠集めを頼みたいの。それと気に入った女性を誘拐して奴隷にしているそうよ。彼女達の救出も頼める?ミハエル王子を通して王様から作戦行動を取る許可と領主とその息子の捕縛の許可も出てるわ。》
「わかった。それにしても信じられない程のゲス野郎だな。任せろ、明日には証拠を届ける。お前は基地で待っていてくれ。気をつけろよ。」
《頼むわね。そっちも気をつけて。じゃあ、明日ね。》
無線が切れたのですぐに行動に移した。
「ジャベールとスピアーにすぐに発進準備をさせろ!」
〈アメックス王国 フィールの街上空 『スピアー隊』 スピアー2-1 MC-130W〉
フェンリル海軍 フュージリア海兵コマンド『ジャベール隊』隊長:アベル・ギュスターヴ大尉 コールサイン:ダニー
総帥に狼藉を働き、多くの女性を誘拐し奴隷にしているクズを地獄に叩き落とす証拠を得るために、ジャベール隊の11人と正弘司令の12人は降下地点に着くの待っていた。
《降下2分前》
「よし。全員聞け。これから俺達はフィールの街の北に降下し領主館に潜入する。目的は不正の証拠の確保、捕らえている女性達の救出、そして領主とその息子の捕縛だ。侵入後デューク、ジャック、プリーチャー、ラビットは別館の資料室、財務官執務室、を確認しろ。ブードゥー、ヴェガス、デュース、タイガーは西館の資料室、内務官執務室、俺とリーパー、パンサー、ドラッカーは東館の資料室、地下牢、領主執務室だ。屋敷の人間の殺害は禁止する。無力化には麻酔弾を使え。また,今回は開発中の光学迷彩の使用が許可された。素早い動きをすると解除されるため使用時は注意しろ。目的達成後は北門に展開している特務派遣軍集団の車両に乗り撤収する。」
《降下1分前》
「それでは司令、お願いします。」
「今回の作戦は今後に与える影響から非常に重要な物となる。我々の娘を襲い、女性を奴隷にしているクズを地獄に叩き落とすぞ。」
「「「「「応!」」」」」
《降下30秒前カーゴベイのハッチを開きます。》
ハッチが開かれ、闇に包まれた空が広がった。
「俺達は名誉、祖国、勇気、規律の為に戦っている事を忘れるな!」
《降下地点に到着。降下開始。》
「いくぞ!女性達を無事助け出すぞ!」
12人の特殊部隊員は夜空に飛び出した。
〈アメックス王国 フィールの街 領主館東館〉
警備員:ニック
俺は相棒のビルといつもの警備ルートを歩いていた。
「おい、ニック。あの領主のバカ息子がまた女に手を出したらしいぞ。しかも今回はお供の男が全員伸されちまったらしい。」
「それまじかよ。あいつらこの街じゃ結構有名なチンピラだろ?どんな女だったんだ?」
「何でも、この街を救った緑の連中のリーダーらし、イッ!」
ドサッ
「おいどうし、ウッ!」
ビルが倒れたのを見て驚いた時首筋に痛みを感じるとすぐに強烈な眠気に襲われ、意識を失った。
フェンリル海軍 フュージリア海兵コマンド『ジャベール隊』隊長:アベル・ギュスターヴ大尉 コールサイン:ダニー
警備の男2名にサプレッサー付きHK416から麻酔弾を打ち込み、無力化されたのを確認し、1階の窓にとりついた。
「パンサー、窓を開けろ」
「了解」
「こちらダニー、窓にとりついた。現在開錠中。」
《こちらデューク、警備の無力化完了。これより別館への侵入を開始します。》
《こちらブードゥー、2手に別れ西館を捜索中。》
「ダニー、窓が開きました。」
「よし。これより東館に侵入する。中に入ったら、2手に別れるぞ。俺とパンサーは1階と地下、リーパーとドラッカーは2階を捜索してくれ。」
「「「了解」」」
物音をたてないようそっと室内に入り、手筈通り2手に別れた。
目的の資料室は最初の角を曲がって10m程進むと見つかった。
「カメラで中を確認する。カバーしてくれ。」
「了解。」
パンサーがカバーに入ったのを確認し、扉の隙間から録画中のスネークカメラを差し込み、室内に誰もいない事を確認した。
「室内はクリアだ、中に入るぞ。」
資料室はそれ程大きくなく、捜査にはそれ程時間はかからなそうだった。
「汚職、不正、誘拐、犯罪の揉み消し、それらの証拠になりそうな書類は片っ端から持って帰るぞ。」
「了解」
[20分後]
結論から言って、ここの領主は完全に真っ黒だった。脱税、予算の水増し請求、誘拐、息子の犯罪の揉み消し、殺人、などに関する書類が大量に保管されていた。
「こちらダニー、資料室の捜査を終了。完全に黒だ。これより地下牢への入り口の捜索に入る。」
《こちらリーパー了解。こちらは領主を確保し現在執務室を捜査中。》
《こちらデューク、資料室と内務官執務室の捜査終了。現在待機中。こちらでも同じような証拠を確保しました。》
《こちらブードゥー、こちらは目的を達成し、そちらに向かってます。》
「了解。デューク、門の確保を頼む。」
《了解。向かいます。》
部隊に報告を終えると、
コツコツコツコツ
向かいの曲がり角の先から誰かの足音が近づいてきた。
「光学迷彩を起動して、そこの物陰に隠れろ。奴から地下牢の場所を聞き出すぞ。」
俺達はすぐに光学迷彩を起動し近くにあった壺の陰に息を殺し隠れ、足音の主が来るのを待った。
コツコツコツコツ
足音の主は警備の男だった。男はこちらの存在には気付かず、通り過ぎようとしたところを後ろから拘束し首にナイフを突き付けた。
「1度しか聞かない。奴隷を捕らえている地下牢の入り口はどこだ。」
「た、頼む。命だけは助けてくれ!」
「それならさっさと質問に答えろ。」
「入り口は倉庫の中だ!話たぞもういいだろ!」
「案内しろ。パンサー抑えておくからこいつの腕を拘束しろ。」
パンサーがプラスチックの手錠で男を拘束したのを確認し、男に案内させて倉庫にはいった。
「どこだ。」
「中央の床にある扉の中に階段がある!」
中央の床を探すと男の言うとおり床に入り口があった。
「ちゃんとあっただろ!」
「ああ。お陰で助かった。後は寝てていいぞ。」
「どういうい[パシュ!]うぅ…」
俺は男に麻酔弾を打ち込み、意識を奪った。
「先行する。パンサー、リーパーとブードゥーに場所を連絡しろ。」
「了解。」
パンサーに連絡を頼み階段を降りていくと男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「あの女僕をバカにしやがって!お前も遭難だろ!何か言えよ!おらっ!」
そっと覗き見ると裸の太った男が16歳くらいの銀髪の少女にのしかかっているところだった。
「おい!クソ野郎!」
「誰だ!僕を誰だと[パシュパシュ!]おもっ、て…」
腹に麻酔弾を2発落ち込まれた男はすぐに眠った。俺は少女に近づき迷彩服の上着を着せた。
「遅れて済まなかった。君達を助けにきた。他の人はどこにいるかわかるかい?」
少女は黙ったまま奥の扉を指差した。
「あっちかい?ちょっと見てくるから少し待っていてくれるかい?」
コク と頷いたので扉に近づき、鍵を開け中に入った。
中には10人の10から20歳前半の女性と20人程の若い女性と少女の死体があった。
女性達は怯えた目で俺を見ていた。
「そんなに怯えないでくれ。君達を助けにきたんだ。領主を裁くために協力して欲しい。話を聞いた後帰る場所があれば責任をもって送り届ける。着いてきてくれないか?」
「ここから出られる!でも…」「あのブタを裁けるなら!」
女性達は出られると聞き喜んでいるようだが、どこか浮かない顔もしていた。
「あの…私達には、帰る場所が無いんです。誘拐されるときに家族を殺されて、家に、火をつけられたんです。」
さっきのデブはどうやら本気で俺達を怒らせたいようだな。
「それなら俺達の基地にくればいい。総帥なら快く受け入れてくれる。」
「基地?総帥?あなたはどこかの国の軍人さんなんですか?」
「ああ。もうじき仲間もここにくる。ここから出よう。」
「はい!」「ついて行きます!」
女性達を連れて部屋を出るとさっきの少女が待っていた。
「君も一緒にここを出よう。」
少女はまた コク と頷いた。
ブタを1人で運ぼうとしていると他の7人が降りてきたので協力してブタをなんとか屋敷から運び出し、門に着くと、デュークが3台の馬車を確保して待っていた。
「デューク、良くやった。全員乗れ。北門に行くぞ。君達も乗ってくれ。」
全員が馬車に乗ったのを確認し、馬車は出発した。
〈アメックス王国 フィールの街 北門〉
フェンリル軍 特務派遣軍集団 七海優香 コールサイン:フェアリー
「ダニーより報告。目標を確保し、馬車でこちらに向かっています。後3分で到着です。」
「基地に行く人数は?」
「隊員と救出した女性達を合わせて34人です。」
「34人…HMMWVVが6台あれば足りるか、でも流石に一気にそんなに減ったら怪しまれるわね。何人かはここに残ってもらう必要がありそうね。明後日の正午には王子が到着するから明日には証言をまとめないといけないし。しっかりと捕まってからの事を証言できる5人を選んでフュージリアと基地に行ってもらいましょう。その間残った女性達は私達で死守しましょう。」
「となると抜ける車両はHMMWVV3台ですか?」
「いえ。フュージリアの半分にここの護衛についてもらうわ。そうすれば基地に行くのは父さんとフュージリア5人と女性5人にブタ2匹の13人よ。HMMWVVは2台で大丈夫よ。」
「馬車はどうします?」
「そのままここで使っちゃいましょう。」
そうしているうちに馬の蹄の音が聞こえてきた。
「来たわね。それじゃあ皆手筈通りに!」
馬車が到着し、女性5人をHMMWVVに乗せ、父さんとフュージリアが基地に向かった後、私は残りの5人を私のテントに呼んだ。
5人は下で10歳上で14歳とまだ子供だった。しかも14歳の子は誘拐された時に乱暴されたせいか、ブタに襲われたせいかはわからないが失声症となってしまっていた。
「皆今まで良く頑張ったわね。もう大丈夫よ。今から私達は家族よ。もうあなた達に酷い事をした人は捕まえたからあなた達のやりたいように生きていいのよ。」
私は泣きながら彼女達を抱きしめてそう言った。
すると少女達も私につられて泣き出してしまい最後には泣き疲れて寝てしまった。
[翌日]
「うーん。熱い!」
寝苦しさに目を覚ますと、5人の少女に抱きつかれていた。
「そうか。昨日泣き疲れて寝ちゃったからベットに運んでそのまま私も寝ちゃったのか。皆起きて朝よ。」
少女達が目を覚ました所で私は大切なことに気がついた。
「そう言えばまだ自己紹介がまだだったね。私は七海優香。フェンリルって国の王様よ。ああ、王様だからって敬語は使わなくて良いわよ。お姉ちゃんでも七海さんでも好きなように呼んでね。」
最初に茶髪の子が自己紹介を始めた。
「私はマリアです。12歳です。趣味はお料理です。」
次に良く似た顔をした3人の黒髪の少女達が自己紹介を始めた。
「私達は吸血族と人種おハーフの3つ子で、私が長女のランです。右にいるのが「リンです。」そして左にいるのが「三女のレンです。」私達は15歳で、吸血族の力を引き継いでいたので冒険者をやってました。私が剣で、リンが槍、レンが弓を使ってました。お父さんは死んじゃいましたけどお母さんは今大陸の内側の方に行ってるんです。吸血族で昔は鮮血姫と呼ばれていてすごい強かったってお父さんが言ってました。」
物凄い人物の娘を引き受けちゃったわね。
最後に私に似た銀髪に赤い目の少女だった。彼女は
「自分の名前はわかる?」
少女は首を横に振った。
「昔の事は?お父さんとかお母さんとか。」
また首を横に振った。
「私があなたに名前を付けていい?」
コク と頷いた。
「それじゃあ。……有希はどうかな?」
少女は コク と頷いた。
「よし!昨日も言ったけど、あなた達はもう私の家族よ。何か困った事があったら遠慮無く相談しなさい。」
「「「「はい!」」」」 コク
元気良く頷く彼女達を見て、私は笑顔を浮かべた。
「ちょっとギルドに行ってくるわね。後で一緒に私達の基地に行きましょう。」
少女達は再び元気良く頷いた。
フィールの街の冒険者ギルドは朝から騒がしかった。
「ニーナちゃんこの騒ぎは一体どうしたの?」
「ええ、領主のバークと息子のヨークが不正と誘拐の容疑で国王直々にある冒険者グループに依頼して捕縛されるとの伝令が届きました。真偽の確認にいったら既に捕縛されていました。」
王様伝令を出してくれたのね。
「伝令の人は?」
「夜通し走ってきたようでして今は眠ってます。」
「そう。悪いことしちゃったわね。」
「!と言うことはやっぱりあなた達が!?」
私の一言にニーナちゃんは目を見開いた。
「ええ、ミハエル王子を通して王様に許可を貰って、部下が捕縛したわ。明日王様が私達の基地に見学に来たときに引き渡すわ。それで、これから基地に帰るのだけど、一緒に来て見学でもしていく?」
「いいんですか!あっでも仕事が…」
ニーナちゃんが断ろうとしていると、
「その心配は無用だ!」
といいながらギルドマスターのガルドさんがやってきた。
「俺様も捕縛の件で国王様に呼ばれてな。七海殿の街に来るように言われたのである。そしてニーナは俺様が最も信頼している部下だからお前さんも連れて行くつもりだったのである。」
どうやらミハエルは私達をさらに利用して領主を追い込むつもりらしい。
ガルドさんの体格じゃ車には乗れないわね。基地に連絡してオスプレイを呼ぶか。
「そういうことなら。是非連れて行ってください!」
「それじゃあ正午に2時間後に北門に来てください。荷物は最小限でいいですよ。30分程で着くので。」
「はい!」「了解である。」
2人は勢い良く頷いた。
[2時間後]
冒険者ギルドの2人と5人の少女達は私と一緒に街から少し歩いたところにある平原にいた。
「あの”くるま”とかいう乗り物で行くんじゃ無いんですか?」
「今回は別のを呼んだわ。それに車じゃ基地まで5時間はかかりますよ。」
「5時間が30分になるんですか!?一体どうやって…。」
「空を飛ぶんですよ。」
「空を?まさか竜でも呼んだのであるか?」
「竜じゃないですね。あ。来ましたよ。」
オスプレイのローター音がし始め、姿が見えるようになってきた。
「なんか飛んで来てますけど、もしかしてあれですか!?」
「そうよ。ちょっと待ってて。」
オスプレイにLZを指示するため無線を手に取った。
「スラッガー1-3、こちらフェアリー、LZをレッドのスモークでマークする。」
《スラッガー1-3了解。》
赤のスモークを焚くとオスプレイはすぐに飛んで来た。
「何なんですかあれ!」
「だからうちの軍で使ってる乗り物だって!」
「七海姉ちゃん凄いうるさいよ!」
「中に入れば大丈夫よ!」
やはり皆始めて見るオスプレイにとても驚いていた。
オスプレイが着陸し、後部ハッチが開いた。
「皆!乗り込むわよ!」
私の言葉にびくつきながらも全員乗り込んだ。
「ホーキンス中尉全員乗り込みました!基地までお願いします!」
「了解。離陸します。」
オスプレイは地面を離れ、固定翼モードに変形し時速565kmで基地を目指して飛行を始めた。
フュージリア海兵コマンドはフランス海軍の特殊部隊でジャベール、ユベル、トレペル、ド・モンフォール、ド・ペンフェント、キエの6つの部隊に別れていて、それぞれ別々の役割を持っています。
名誉、祖国、勇気、規律 はフランス海軍のモットーです。
次回は基地の案内中心になります。
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