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検索魔法と分類魔法

 ふと、あることに気付く。

 カリンは少年が遊んでいるのだと思っていた。けれど、それは違う様なのだ。

 少年が手にしているのは、ラーチ豆。あれはこの辺りで生産されている食料品である。

 もちろんカリンも食べた事はある。というよりも、主食と言っていいかもしれない。

 あのラーチ豆はとても安く、いくら食べてもそれほど家計の負担になることはない。好む好まざるを関係なく、このラーストン王国では一番消費・生産されている食料でもあるのだ。


 その事から少年は家業――農家の仕事の手伝い、それも市場に流す分を選り分けているのだとカリンは推測した。

 事実それはその通りであったのだろう。

 少年は見た目が良くて粒が大きな物は丁寧に、割れてしまって小粒な物は無造作に、かごの中に適当に放り込んでいる。

 それを見るに明らかに分別している。ただ……ときおりしわが寄っている豆も混ざってはいたが。


(それにしてもすごいわね……)


 少年は迷うことなく、それぞれのかごへと分けていく。

 その様子から熟練の技のようにすら見えてしまう。けれど彼は少年。そんな事はあり得ない。

 なら何か秘密があるはず……。

 カリンはそう思って、それを確かめるべく自分だけ・・・・の魔法を使う。


 ――検索魔法

 それが彼女のみが使える魔法。

 この魔法は条件を指定すれば『その情報が脳裏に浮かび上がる』と言う魔法であった。

 そして今彼女が指定した条件は――。


(あの少年はどうやって迷いなく分ける事ができるの?)


 回答…………魔法を使って分けていた


(へぇ……。じゃあ、どういう魔法を使っているの?)


 回答…………現在魔法は使われていない


(む、そのくらいさかのぼって教えてくれてもいいじゃないのっ!)


 融通の利かない自分の魔法に思わず悪態を吐いてしまう。少年に聞こえてしまうので、もちろん心の中でだが……。


 そんなとき、少年が新しいかごを用意した。

 おそらくいっぱいになったのだろう。けれど、まだまだラーチ豆は残っている。だからかごを取り替えただけだとわかる。


(これはチャンスね……)


 カリンはいつの間にか、少年よりも彼が使う魔法に興味が移っていた。そして今度はその魔法をはっきりと捉えた。


 ――分類魔法――

 条件を指定することで、あらゆる『モノ』を区別し、分ける事ができる魔法

 正しく指定さえすれば、どのような事でも可能


 それが検索魔法が教えてくれた結果であった。

 カリンはそれを知り驚いてしまった。

 少年は実にもったいない使い方をしている、と言わざるを得なかった。この魔法は豆分け程度に使うようなものではない、とカリンは思う。

 魔法は使うと疲れてしまう。軽いだるさが生じる程度だが。

 だからあんな物を選別する事に使うよりも、もっと他に使うべき事があるのではないかと思ってしまう。


 カリンは無駄な事を止めさせたいと考える。けれど、相手は子供。しかりつけるように注意するのはよくない。

 そこでカリンは一芝居を打つことにした。


「あんた面白い魔法を使うのね」


 けれど、少年はボーッとしたまま動きを見せない。

 焦れたカリンは強硬手段に出る事にした。

 窓から中へ侵入を果たすため、よじ登ろうと足をあげる。

 その途中でカリンはある事に気が付いた。


(やだ……かわいいっ♪ あたしのパンツみて紅くなっている、ふふっ)


 それに気が付くと、わざとゆっくりと上る事にした。

 もちろん彼女は痴女というわけではない。恥ずかしいと言う気持ちは当然あった。

 しかし、恥ずかしがる少年の姿がとても愛らしく、もっと見てみたい、という感情に襲われた。

 加えて相手は少年。いやらしい目つきをする訳ないのだから、気にする必要もない。


 一通り少年の姿を堪能すると、カリンは迷うことなく彼の前まで歩んでいった。

 そしてより詳しく彼の魔法を調べるために強引に事を進める。


「ねえ、もう一回、今の使ってちょーだい!」

「え?」


 しかし少年は、カリンの言っている事を理解できていない様子であった。

 それに気付いたカリンは直接的な物言いに変えた。


「今の魔法よ、まほー!」


 不思議そうな顔をして見上げてくる少年に、カリンは思わずよだれを垂らしそうになる。

 このままではいけない!

 そう思ってカリンは事を進めようとした。


「ほらほら、早く早くっ!

 (早くしないと自我が保てない……。だから早く魔法を使って!)」


 けれど、少年はどこか乗り気ではない様子。

 その事からカリンは、カオルの知識からある事を連想した。『間違った使い方』をして劣等感を抱いているのだろうと。

 それを感じ取ったカリンは渋る少年に発破を掛ける。


「で、でもぉ……」

「でも……、じゃない! ほぉら、いいからさっさとしなさいっ!」

「う、うん」


 そしてカリンは再び検索魔法を使う。

 少年がラーチ豆を選別するその様子を、目と魔法でつぶさに観察した。


 それによってわかった事がある。

 彼は条件の指定が曖昧なのだ。

 彼が指定した条件とは…………売れる物と、売れない物。

 あまりに曖昧な定義の仕方に、カリンはため息をつくしかない。おそらく、細かい指定をするという発想がないのだろう。

 子供の柔軟な思考能力ならば、考えついてもおかしくはない。けれど、それができていないということは、この考えは一般的ではないのだろう。


 もしカリンならば、つるつるな物とそうでない物で分ける。それから粒の大きさで分類していく。そうすることでしわが寄った豆も排除できるだろう。

 しかし、曖昧な条件でもそれが可能という事は、かなり柔軟な魔法であるとわかる。



 ここでカリンは先ほどの情報を思い出す。

 分類魔法には二つの項目があった。

 一つ目がこの魔法の本質。あらゆる物ということは、どんなものであろうと問題としないのだろう。有機物や無機物、動物や植物、そして生物や無生物などと言ったもの関係なしに。

 ――そして『選んで分ける』という効力を持つ。


 簡単な条件分け、もしくは見本となる物があれば魔法は作用するのはないかとカリンは考えた。

 少なくとも、少年が今行っているのは条件分けだ。もっともその条件指定すら甘いが……。


 次に条件の二つ目。

 『正しく指定する』事で、どこまでできるのかが決まるのだろう。

 とはいえ、『正しく』というのは実に広義的な意味をもつ。間違ってさえいなければいいのだから。

 だから少年は豆を分ける事ができたのだろう。もし間違った条件指定をしたのなら、魔法は発動しない可能性は高いだろう。

 しかし、それが本質とは思えない。『どのような事でも可能』とあったのだ。この程度の魔法ではないだろう。


 極端な話だが、分子から原子を選り分ける事すらできるかもしれない。検索魔法で調べた詳細の言葉通りならだが……。

 でも、それは叶わないだろう。人の身でそれを理解する事はできないはずだ。見る事ができないならば、理解を深めることなどできない。

 定義しているだけの物など条件が正しいとは言えず、あやふやすぎて魔法の干渉を弾いてしまう事になるだろう。本当の意味で、原子と原子がどうやって繋がってるかなど、知っている者などいないだろう。カオルの知識にも存在すらしていなかった。


 だけど検索魔法ならそれが調べられた。それを理解するという事はできなかったが……。

 まず前提となる言葉が理解できないのだ。そんな単語が羅列されてあるのを理解しろというのが無理がある。

 これは神の知識のような物だろう。だから人の身では理解が及ぶわけがないのだ。

 絶大な魔法であっても、所詮人間が使っているのだからできることは限定されてしまうはずだ。


 それはさておき。

 『正しく』という意味は1つだけに限定される事ではない。いや、確かに一つだけの物もあるかもしれない。しかし、複数個ある方が多い。

 ならばその全てを条件として指定することも可能なのだろう。

 たくさんある物の中から、最初から1つだけを取り出すか、少しずつ減らして残りの1つを選ぶかの違いに過ぎない。もちろん途中でやめてもいい訳だが……。


 一例から考えてみると、海水から直接塩――塩化ナトリウムとその他に分類する。もしくは水、マグネシウムなどの金属類……と言った感じにを少しずつ分けていき、最後に塩を取り出すかの違いに過ぎない。もちろん純水を作り出す事も可能だろう。

 けれど用途によっては使い分けるのが一番だとカリンは思う。


 ともあれ、他の物だとしてもいくらでも応用が利くはずだ。

 だから豆など分けている時間があれば、もっとお金になる事などいくらでもできるだろう。実に非効率的と言わざるを得ない。

 少年の魔法があれば、カリンが『したい!』と思っていた事もいくらでも可能になるのだから。だからそれだけに、あの使い方はもったいないのだ。


 そこでカリンは考えを改めた。


(この少年は、そう、あたしと出会うために生まれてきたのだわ。

 私の検索魔法と彼の分類魔法があれば、一攫千金も夢じゃないわっ!)


「あんた、凄い魔法を持っているのね!」

 カリンは興奮のあまり、少年の手を掴んでしまう。


 それに少年は驚き、戸惑っている。手をいきなり繋いだ事もあるだろうが、それ以上にその言葉を信じられないといった様子がうかがえる。

 でも、そんな事を気にしていられるほど、カリンにも余裕があったわけではなかった。


 ――自分の運命を見つけた。

 そう思った事でカリンは暴走を始める。


「喜びなさい! あたしがあんたをビッグにしてあげるわ!」

 指をビシッと突きつけ、高らかにそう宣言する。


 そして目を丸くしている少年を見て、やっぱり可愛いわね、と思うのだった。




 やがてカリンは村を見て回っていた両親と合流する。

 そして二人に会うなり、こう告げた。


「あたし、ここが良い! ここじゃなきゃ引っ越さない!」






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