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カリンとカオル




 ――カリン

 それがその少女の名前だった。

 今年で12歳になったばかりの女の子であったが、彼女にはある秘密があった。


 彼女にはもう一つの記憶がある。幼き頃から少しずつ思い出し、10歳になったときに全て思い出した。


 ――それはこことは違うどこかの物語。




 記憶の中の女性は今のカリンよりも年を重ねていた。20歳くらいであろうか……。

 自分とは違い黒髪であった。

 その女性はタカミチカオルと呼ばれており、学問を学んでいた。子供たちに勉強を教えるために、学んでいるという状態であった。

 理由としては単純だ。彼女は子供が好きだった。それ以外に理由は要らなかった。

 だから彼女はその職業に就くために、日々努力を重ねていたのだ。


 このときカリンは夢だと錯覚していた。だからこそ立派な人物だと感心していた。

 それもある場面を見るまでの事だった。


 彼女はある事を趣味としていた。


 ――ドウジンシ

 そう呼ばれる薄い本を蒐集することに命を賭けていた。

 それだけならばカリンも気にする事はなかっただろう。本を集めているのだな……としか思わなかったのだから。


 しかし、その本を読んでいる場面に入った事で、思いは変わった。


(お、お、男の子を……大人の女性が…………!)


 カリンには当時よくわからなかった。けれど、それはショタコンと呼ばれる者たちが好む本であるらしかったのだ。

 あまりにも刺激的だったため、目を背けたい思いだった。だが、自分はその人物カオルになって――重なっていたため、身体を自由に動かす事ができなかった。

 そのすべて見てしまった。子供の作り方などもわかってしまった……。


 カリンはその次の日に大声を上げ、歩き回っていたために親に心配されてしまった。

 そのことを反省したカリンは、夢の主に自己投影するのは止める事にした。

 とはいえ、その夢を見ないという選択肢を取る事ができない。

 強制なのだ。だからカリンには自分でどうする事もできなかった。

 そう何度もある事ではないと自分を励ました。


 けれど、その場面は何度も表れた。

 その本を読みあさることは、カオルに取って何よりも重要な事であったらしい……。


 何度も続けられたらさすがにカリンも慣れてしまう。むしろそれが当たり前なのでは……、と思うようになってしまう。

 カリンの両親も父親の方が年下だ。ならば、年下の男と結婚する事こそが常識なのではと思い込んでしまった。

 それはカオルが死ぬときまでずっと続いていた。


 結局カオルは、子供を教えるという仕事に就く事はできなかった。


 ――事故

 それが彼女の死因であった。

 カリンには当時よくわからなかった事だが、クルマという速く動ける物に衝突してしまったのだ。

 それはカオルの意識と一体化していたカリンにとっても、凄まじい衝撃であった。

 だが、その衝撃はどこか覚えのある物に感じたのだ。

 すると……今までの映像がどこか懐かしいような気分になってきた。


 やがて、カリンはある事を思い出す。

 これはカオルの知識にあったことだ。


 ――転生

 死した者が人生を送るという物。それに記憶を有したまま、生まれ変わると言う物もあったのだ。


 ようするに、カリンはカオルの生まれ変わりなのだ。

 そう理解すると、今まで不具合を生じていた物が正常になったかの様に、カリンとカオルの意識は統合される事になる。


 カリンは今までそれを追体験していたから、特に混乱する事はなかった。けれど、自分の好みの食事や服の趣味も、カオルに引きずられ大幅に変わってしまうことになる。

 性格も多少変わってしまったために、親からも当然心配をされてしまった。

 けれど、カオルと混じり合った事で頭がよくなったカリンは、それを適当に誤魔化す。その様な事は、カオルにとってはお手の物であったといえる。

 彼女はあまり周囲に言いふらせない趣味をしていた。だからその手の事は慣れていたのだ。



 カリンが全てを思い出した頃には10歳になっていた。

 それから一年と少しは平穏無事に過ごしていたといえる。

 しかし、カリンが12歳になるといった時期に、父親が突然変な事を言い出したのだ。


『なんか……今の仕事に疲れたよ……。

 どこか田舎にでも行って、自由気ままに暮らしたいなぁ……』


 カリンはその言葉を聞いて愕然とした。

 これはカオルの知識によると『脱サラ』という物であった。

 『ニホン』という文明を知って以来、どことなく不便さを感じてしまったカリンには、田舎に行く事など以ての外だと思っていたのだ。

 だから当然カリンは反対する。


 けれど、カリンには味方がいなかった。

 母は父の言う事は決して反対しない。兄のロビンはむしろ大賛成であった。


 彼は結婚していて、今両親世帯と同居している。

 だから両親の家族が田舎に引っ越せば、この家は自分たちが引き継ぐ事ができるのだ。

 兄はともかくとして、義理の姉は早く別居をしたいと常々カリンに愚痴を零していた。だからどこか嬉しそうな顔をして微笑んでいる。


 ――嫁姑問題

 カリンとしてはそれは特にないと思っていたが、目の見えないところで何か合ったのかもしれない。

 父が風呂を覗いていたなんてこともあり得ない。だから明確な理由などわからない。

 ただ一つはっきりしている事。それは、もはやこの家とはお別れするしかないということだけだった。




 そして何処に定住しようかと、近くの村を回っている時のことだった。

 窓が開いている家があったので、カリンはこっそり覗いてみたのだ。

 すると、そこにはカリンカオル好みの可愛い少年がいたのだ。その少年はちまちまと何かをやっている。

 気になったカリンは近づいて、その様子を見る事にした。


(可愛いなぁ……お持ち帰りしたいなぁ……)


 前世カオルに毒されているのがわかったが、カリンにはもはやどうすることもできない。

 一生懸命何かをしている少年に、胸がきゅんきゅんとしてしまう。


 もっと近くで見たい。

 その想いが身体を動かし、限界まで彼に近づいてしまう。

 もうこれ以上進めない所まで行くと、窓から身を乗り出し飽きることなく見つめ続けた。







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