少女との出会い
二話目までは文字数少なめです。
ミーニッツ村。
ここにある一人の少年がいた。
少年の名前はカイル。今年で9歳になる男の子だ。
このくらいの年齢であれば、外で元気に遊んでいるのが普通であった。けれどカイルは外で遊ぶような事はしない。
どこか陰気そうな表情を浮かべ、部屋にこもってある作業をしていた。
この幼い少年はある劣等感を抱えていた。
それは彼が扱う事ができる魔法。
何の役に立つのかわからない、そんな魔法が彼を内向的にしてしまっていた。
この世界の住人は一つだけ魔法を使う事ができる。それは誰しもが持っている力。それ以外使う事はできないが、間違いなく誰しもが特別な力を有していた。
同じ魔法は二つとしてない。似たような魔法はあるけれど、全く同じ物は一つもない。
だからカイルが魔法を持っているのは不思議な事ではなかった。
けれど、誰もが力を持っているというのは必ずしもいい事ではない。
なぜなら、魔法によっては役に立つ者と、立たない者が明白になってしまうからだ。そしてカイルが持っているのは使い物にならない魔法であった。
であるなら、カイルは周囲から冷たい目で見られてしまうのは当然であった。
大人であれば、『運が悪かったな』と理解してくれるだろう。しかし子供となるとそうもいかない。
この世界で魔法が使えるようになるのは8歳のとき。
その時期になると教会に赴くことになる。そして神の祝福を授けられ、魔法を取得する。それと同時に、神からどういう魔法なのか大まかにお告げがあるのだ。
この祝福は人が本来持ち得る力を覚醒してくれるもの。そう言い伝えられている。
であるなら、それを才能と捉えてしまう者が出てくる。もちろん、ちゃんとその本人自体の人柄や技能を見てくれる者もいる。
けれど、幼い考えしかできない少年や少女たちでは、どうしても色眼鏡で人を見てしまう。
カイルも何も最初から一人だったという事ではない。8歳の祝福まではたくさんの友達がいたのだ。
しかし次の日、友達と魔法の見せ合いをしたことが原因で一人になってしまう。彼だけがたいしたことのない魔法だったのだ。
相対的に見たらそれほど酷いという訳ではない。
けれどその年の少年、少女たちは当たり年とも言える状況だった。だから彼だけが浮いていたのだ。
当然幼子たちはカイルを馬鹿にする。以前は仲良くしていた友達も例外はなく……。
一人二人ならば問題ない。そのくらいなら無視すればいいだけのこと。
しかし、祝福を受けた子供たち全員が彼をけなせば、他の子供たちも真似をし始めてしまう。
やがて村中、すべての子供たちが彼を馬鹿にするようになる。
カイルはもはや彼らと仲良くしたい、という気持ちもわかなかった。だから一人閉じこもっている。
自分の魔法は役に立つんだと強がりをして家の手伝いをしていた。
そんなときだった。
開け放たれた窓の外から、女の子だとわかる声が入り込んできたのだ。
「あんた面白い魔法を使うのね」
少年は突如耳に入り込んだ声が気になり顔を上げる。すると、そこには紅い髪の少し勝ち気そうな女の子がいた。
その少女は窓に腕を乗せて、興味深そうにカイルがいる部屋の中をのぞき込んでいた。
カイルは少女の顔に目を奪われ、話しかける事ができない。
何か声を出そうとするも、それを言葉にすることができなかった。
そんな彼の事など放置して、少女は窓に足をかけ、ずかずかと中へと入り込んで来る。
カイルはその様子に驚き、口を開けたまま閉ざす事ができない。そして手に持っていた豆を落としてしまう。
コツンコツンコツン……
それは飛び跳ねてどこかへと行ってしまう。しかし、それを気にする余裕などカイルにはなかった。
――純白に輝くパンツ
それが彼の意識を奪っていた。少女の開いた足から覗く白い下着は彼の興味を引きつけてやまない。
幼いとはいえ彼も男。恥ずかしい気持ちはあったが、それ以上に気になってしまう。
加えて、見た事もないような形。カボチャのような下着とは違い、ぴっちりと肌に張り付いている。
それがその中にある物を想像させてしまう。
それを思い浮かべてしまったカイルは顔を赤らめ、そこから目を離し顔を下に背けてしまう。
そんなカイルのことなど気にしないとばかり、少女はずいずいっと近くまで歩み寄ってきた。
「ねえ、もう一回、今の使ってちょーだい!」
「え?」
何のことだかわからずカイルは首をかしげてしまう。
少女はカイルが理解していない事に気付いたのか、もう一度はっきりと告げた。
「今の魔法よ、まほー!」
目の前にまでやってきた少女は、カイルの身長よりも大きかった。おそらくカイルよりも年上なのだろう。
カイルもそれほど高いというわけではない。けれど、同じくらいの年ならば頭一つ分以上も違うという事はない。
したがって、彼女の顔を見るためには、どうしても見上げなければならなかった。
「ほらほら、早く早くっ!」
カイルは自分の魔法を彼女が見たがるのか、どうしてもわからなかった。
無能者と言われる原因となった魔法など、見ても面白いとは思えなかったのだ。
もしかして、自分の魔法がたいしたことがないと面白がっているのだろうか。
カイルはどうしても穿った考えを方をしてしまう。そうなってしまったのも無理はない事だろう。
だがそんなカイルの気持ちなどどうでもいいとばかり、机を叩いてカイルを急かしている。
「で、でもぉ……」
「でも……、じゃない! ほぉら、いいからさっさとしなさいっ!」
「う、うん」
勝ち気な顔の少女に睨まれ、反射的にそう答えてしまう。
『嘘をついてはいけない』
そう両親に言い聞かせられていたからこそ、彼は覚悟を決めた。
無能とされていた魔法。
――分類魔法を使う事を……。




