第五話
第五話
笑里とテンテンが向かったのは荒物屋。売っているのはホウキやザルやカナヅチやなんやかや。
「くーださーいなー」
店頭で笑里が叫ぶと、店の奥から裾の長いワンピースにエプロンをつけた、いかにも「おかみさん」という風情の女性が出てきた。
「はいはい、何をあげましょう?」
「え……っと。(テンテン、何を買うのょ?)」
「(掃除道具なんだな)」
「(なんでテンテンまで小声なのょ)」
「(笑里が小声だからなんだな)」
小声でボソボソやり取りしている二人を、おかみさんはクスクス笑いながら楽しそうに見ている。
結局、二人は小声のまま、買うものを決めて、笑里が注文することになった。
「はたきと、ほうきと、ちりとりください!」
「大掃除かい?」
「はい、そうです」
「なら、バケツとゾウキンなんかもいるんじゃないのかい?」
「あ、そっか!」
親切で商売上手なおかみさんに、あれこれアドバイスをもらいながら買い物を終えた二人は、両手に荷物を抱えて帰途についた。
「ヨーロッパぽいのに、ゾウキンとか売ってるんだね〜」
笑里の言葉に、テンテンが答える。
「そりゃそうなんだな。人間の生活はどこの国でも大して変わらないんだな」
「どこの国でも、だなんて見てきたみたいに言うのね」
「テンテンは天使なんだな。世界中の空を飛ぶのは当たり前なんだな〜」
「あ、そっか」
笑里は、身の丈の倍ほどの買い物袋をぶらさげて飛んでいるテンテンを、ちょっぴり見直した、というふうに眺めた。
「げぼっほ!!」
窓から顔を付きだし、笑里が咳き込む。
「ほら、だから言ったんだな。マスクしないとダメなんだな」
はたきを片手にふよふよ飛んでいるテンテンは三角に折った布で、顔の下半分を隠している。
荒物屋のおかみさんが勧めてくれたマスク(ただの布)を、笑里は「お金がもったいないから」という理由で買わなかったのだ。
「埃をあまく見てたわ。こんなにすさまじく汚れていたなんて……。信じられないょ」
「何せ、先代の魔法少女が活躍したのは、五十年前なんだな」
「五十年!? その間、いちども掃除してないの?」
「そうなんだな。それだけ長い間、マジカルランドが平和だったんだな」
「平和なことはいいことだけど、メンテナンスくらいさ……」
笑里はぶつくさいいながらも、ほうきを手に掃除にもどったのだった。