第三話
第三話
「…………なに、これ」
「なにって、カフェの店内なんだな」
「これじゃカフェじゃなくて、ホラーハウスじゃない!」
窓にかかるカーテンは引き裂かれたように千切れ、至るとこるに蜘蛛の巣が張っている。
テーブルや椅子は蹴散らされたかのごとく床にたおれ埃にまみれている。
あっけにとられている笑里に、テンテンがビシッと指を突きつけた。
「スマイルエイミー! 最初の指令をあたえる!」
「はぁ?」
笑里は半眼で眉をひそめる。
「そ、そんな怖い顔しちゃダメなんだな。テンテンはエイミーの指揮官なんだな」
「指揮官?」
「そうなんだな。マジカルランドには、今、悪の組織が蠢いているんだな。テンテンには、その動きがわかる。
だから、エイミーにおしえる。そしたら、エイミー出動なんだな!」
「人を巨大ロボットみたいに言わないでょ! だいたい、私の名前はエイミーじゃなくて、笑里!」
ふよふよと、そこらを漂っていたテンテンが、はたと手を打った。
「忘れてたな! 笑里にコレを渡さなきゃな! 笑里、手を出して」
そういうと笑里の両手の上でパタパタと羽ばたく。
するとどこから現れたのか、エイミーの手の上にボールペンのようなものが乗っていた。
それはキラキラと虹色に輝いている。
「っ! なにコレ!?」
「変身ステッキなんだな!」
「そうじゃなくて、どこから……。……変身?」
「ステッキを右手に持つんだな。それでマジカル、マジカル、マジカルスマイルって唱えるんだな」
「……なに、ソレ」
「そ、そんな怖い顔しちゃダメなんだな! とにかく、やってみるんだな!」
笑里は憮然とした表情で、さも嫌そうにステッキを右手に持つと、さも嫌そうにテンテンの台詞を復唱した。
「…………マジカル、マジカル、マジカルスマイル」
すると、ステッキから虹色の光が溢れだし、笑里の全身を包む。
「きゃ!」
笑里が小さく叫んだ、その一瞬あとには、笑里はまったく違う顔になっていた。
ふさふさしたまつ毛、大きな瞳、美しい鼻、ふっくらした唇。
平凡な顔立ちの笑里は、いわゆる美少女に変身していた。
しかし、鏡が目の前にない今、笑里は自分の顔面に起きた不可思議に気づいていない。
ただ、自分の服装が変化したことだけは見下ろすことができた。
「わ、私の制服は!? このヒラヒラのミニスカート、なに!?」
「それこそ、スマイルエイミーのマジカルスーツなんだな!それを身に付けていれば戦闘力は通常時の五百倍! 防御力は……」
「なんか、魔法少女というより、ナントカ戦隊みたいなんですけど」
「そ、そんなことないんだな! テンテンの趣味とか関係ないんだからね! それより!」
テンテンがビシッと指を突きつけた。
「スマイルエイミー! 最初の指令をあたえる!」
「はぁ?」
笑里は半眼で眉をひそめる。
「最初の指令は、ずばり!」
「ずばり?」
「このカフェの掃除なんだな!」
「…………変身、関係なーい!!」
笑里の叫びはカフェ全体を震わせた。




