第一話
「私、中本笑里。16歳! 高校一年生! 好きなものはウサギとアボカド、好きな人は現在、探しちゅう!
……あのぉ、自己紹介って、こんな感じでいいんでしょうかぁ?」
笑里がこわごわ見上げたのは、いかにも『仕事できます!』と言った感じのメガネ美女。書類から目を離しもせず冷淡に笑里がしゃべるのを聞いていた。
「はい、結構。中本笑里さん、あなたは3番のエスカレーターに進んでください」
「あのぉ……」
笑里がこわごわ話しかけると、メガネ美女はメガネを押し上げながら、手元の書類から目をあげた。
「なんですか? 中本さん」
「私、ほんとうに死んじゃったんですかぁ?」
メガネ美女の背中では、純白の翼が羽ばたいていた。
遡ること、一時間と三分。
笑里は通学鞄を、鼻歌にあわせて振りながら意気揚々と下校していた。
大きな国道を渡るため信号待ちしていたところへ、小学生が数人、ふざけながら歩いてきた。
「鼻血どばーん!」
最近はやりのお笑い芸人のギャグを真似ながら、ゲラゲラと笑っている。笑里はまことに微笑ましく見守っていたのだが、一人の少年が、
「おケツどーん!」
と隣を歩いていた少年をおケツで思いきり押した。
押された少年が国道に倒れこみそうになったところへ、大型トラックが走ってきた。
「危ない!」
笑里は思わず少年の手を掴み、グイと引き、
かわりにトラックの前に倒れこんでしまい。
けたたましいクラクションと、急ブレーキでタイヤがあげる悲鳴を聞きながら意識がなくなり。
次に気がついたのはふわふわした雲の上のような場所で、目の前には翼の生えたメガネ美女が立っており、突然に自己紹介を強要されたわけなのだった。
「私、ほんとうに死んじゃったんですかぁ?」
情けない声で繰り返す笑里に、メガネ美女は再び、メガネをクイっと上げて答えた。
「たしかに、あなたは死亡しました。しかし、すぐに転生していただきます」
「てんせい?」
「生まれ変わるのです。あなたが少年を助けた勇気はたいしたものです。死なせてしまうには惜しい」
「いやぁ、そんな誉められるほどでは……」
クネクネと身をよじる笑里には頓着せず、メガネ美女、改め天使は言葉を継いだ。
「あなたは魔法少女・スマイル・エイミーとして地球の危機を救うのです」
「……は?」
「初めてのことで不安もあるでしょう。お助け天使のテンテンを授けましょう」
「よ! おれ、テンテン! よろしくな!」
「……は?」
「それでは早速、3番のエスカレーターへ。あなたの新しい人生が待っています」
「ほら、さっさと行くぞ!」
テンテンと名乗った大型インコくらいの天使に手を引かれ、笑里はエスカレーターに乗せられた。
「転生って、魔法少女って……いったいなんなのぉ〜!?」
こうして魔法少女・スマイルエイミーは誕生した。